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LGBTは親の罪なわけねえだろ

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「ちなみに謎の団体に入信誘われるとか、追加料金とか、そういうの絶対ないから、安心して聞いてて。なんかおかしな話になったら、ダンテが責任取って補償するからね!」

そう、冗談めかして、前置きをした。
あまりに浮世離れした話だ。強く押すよりは、多少、夢幻の話だと気楽に聞いてもらった方が気が楽だ。

少しミシェルは淡々と、今しがた見てきた映像を、できるだけ分かりやすいように話した。

ボルドー夫人は、うつむきながら話を聞いていたが、その瞳から流れていた涙は止まっていた。

「・・ミシェルさんのおっしゃる事、すぐには信じられないですが、どこかで納得している自分に、驚いています」

ミシェルの話を聞き終えると、かみしめるようにそう、しっかりとミシェルの目を見て言った。

「あの子が選んだ体で、あの子はこの人生で学ぶべき事を、学びに来たのですね」

ミシェルは、仕事は終わったとばかりに、座りながらうーん!と行儀悪く伸びをして、

「そうみたいね。あの体を通してでないと、学べない事があったみたいなのよね」

と微笑んでそう答えた。

「では、私の罪深さが。あの子を苦しめたわけではない、そうミシェルさんは、おっしゃるのですね」

また夫人は大粒の涙を一粒、ほとり、と落とした。
だがこの涙は、解放の涙だ。女を囲んでいた青い光のつぶが、霧散していくのがミシェルには見えた。

「ええ、ちがいます。絶対に。私が保証します」

ミシェルは、ぐっとボルドー夫人の目を見つめ返した。
保証なんか、何もミシェルにはできやしないが、この女は、だれかから、その言葉が聞きたかったのだろう。

なら、ミシェルが言ってあげる。
何の責任も取れないが、ミシェルが言ってあげる。

「ああ・・・・」

女の苦しみは、どれほど深いものだったのだろう。
ミシェルは、涙を落とすたびに、女の体を離れていく青い粒を、目で追っていた。
重い、冷たい青い粒は、温かさを取り戻して、やがて水色になり、そして黄色に変わって、そして蒸発していった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あの子に私がしてやれる事は、何もないんでしょうか」

女がミシェルの離れにやってきたのは、昼も早い時間だったのに、もう空は赤く染まってきている。
空には、月が二つ、仲良くならんでいるのが見える。

女は疲れ果ててはいたが、ずいぶん晴れた、すがすがしい顔をしていた。

女の後ろに見えていた、年を重ねた女の姿の光の粒が、深々とミシェルに頭を下げるのが見えた。

(ああ、この息子じゃなくて、ボルドー夫人の事が心配で、私の所まで夫人をつれてきたのね)

ミシェルは悟った。
ここの家族は愛の深い家族だ。
おそらくボルドー夫人の後ろの存在は、夫人の祖母だか、母だか、そういう存在なのだろう。
家族との縁の薄いミシェルはうらやましくなってしまう。

その後ろの存在は、パチン、と片目をつぶって、ミシェルに向かって風をおくって、そして消えていった。
風は渦巻いて、ミシェルの手元にあるカラオケの歌詞本をめくる。

ミシェルは歌詞に目を落とし、そして笑ってしまった。

その歌詞が、旅先の駅で出会った女性との恋のはじまりを描いた、実に初々しいしい青春の歌だったからだ。

(ああ、この息子さんの男性としての新しい人生を祝福しているのね。素敵な出会いも、あるのね)

肉体も魂もガッツリ女という、この彼に比べたらずいぶん便利な状態であるはずのミシェルに、さっぱり良い出会いがないというのに、良かったではないか。

きょとんとしている女に、ミシェルは言ってやった。

「息子さん、旅先で恋に落ちるみたいなので、旅費でも貸してあげたらいいと思いますよ!大丈夫、普通の親として、普通に見守ってあげるだけで大丈夫です!だって、それがあなたにしてやれる、最高の事なんですもの」

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