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故郷の祠を破壊してふたりで器物破損罪よりすごいことしちゃおっか?4
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社が燃えている。
この離れた場所からも、黒い煙がほとんど真っ直ぐ昇っていくのが見える。風がない日だったのが幸いで、このままどこかへ燃え移ることなく鎮火させられそうだ。
ナノカくんは社に火を着けた後、僕から《黒いもの》を剥がして飲み込んだ。そうしてやることがあると言って、一人の高齢男性を連れて山へ入ろうとしていた。
嫌な予感がしたのでついて行って手伝おうとしたが拒否をされたので、せめてもの気持ちで高齢男性を結束バンドで拘束させて貰った。男は元々抵抗する気も失っているようだったが、ナノカくんにはちょっとウケた。
しばらくすると木々の向こうから、男性の悲鳴が何度か聞こえた。
ミニバンに寄りかかって待機していた僕は、そちらの様子を窺う。
「お待たせ~。それじゃ行こっか」
木々の間から、ナノカくんがふらふらとした足取りで姿を現した。
悲鳴の主がどうなったのかを、直接訊ねることはできなかった。だが僕が明らかに気にしていることを察したのか、ナノカくんがひらひらと手を振る。
「殺してないよ~。でも、そのうち死ぬと思う」
そうなっても、もう寿命なのか祟りなのか分かんなそーだけど。そう呟く顔は、すっきりしたというより疲労感や虚脱感が大きいようだった。
「村に残ってる関係者自体、元々けっこー減ってたしね。死んだり、入院したり」
手間が減って助かったけどぉ~と言って、自分の髪をがしがしと掻き回す。
「……お疲れ様」
何と言っていいのか分からず、それだけを口にした。慰めや励ましの言葉をかけたほうがいいのか、黙っていたほうがいいのか、僕には少し難しい問題だった。
二人で黙って、車に乗り込む。当然ナノカくんが運転席だ。
聞いたところによると彼も東京に拠点があるそうで、事が終わったらありがたく同乗させてもらうことになっていた。
二人で結構とんでもないことをしたはずなのに、達成感も罪悪感も、どちらもあまり実感がない。これから僕たちはどうなるんだろうか。
トンネルを抜けて県道に出た頃になると、ようやくあの場所から帰れるのだという気持ちがじわじわと湧いてきた。
「──もしかして、おれが最後のごほうざい様だったのかも」
ナノカくんがぽつりと呟く。
「《ごほうざい様》の祟りは、おれが逃げる前と変わりなくて……強くも弱くもなってなかった。だから多分おれがいない間に、犠牲になって怨みを重ねた奴もいなかったんだと思う」
「よかった。……いや、君は大変だったのに、よかったって言うのもアレだな!? 不幸中の幸いというか、何だ!? こういう時なんて言うんだ!?」
僕はさっきから、自分の言葉の下手さに呆れてばかりいる。
「よかった、でいーよ。これで《ごほうざい様》の新しい犠牲者も出なくなるし。おれも安心して夜眠れそうだし。よかったよかった」
「そうか。うん、よかった」
ナノカくんがよかったと思うのなら、それでよかったのだろう。僕もそう思いたい。
「あー……でも、ごめんナノカくん」
僕はうまい言葉を言えるわけではない。だからこれから言うのは、ただ自分がどうしても言いたかっただけのことだ。
「君があの村にいた頃に僕が来られたら、もっとよかったと思ってる」
そしたらきっと、もっと早くに全部ムチャクチャにできたかも知れないのに。
「もっと、早くに来たかったよ」
「……そんなん、いま言ってもしゃーないでしょ!」
ナノカくんが心底困ったように、顔をくしゃくしゃにする。
「悪い。何だか悔しくて」
「でも、まあ、ありがとね」
ナノカくんのその声はこれまで聞いたことのない優しいもので、お礼を言われるのは最初に会ったとき以来だなと思った。
「あ、そうだナノカくん。ほら」
初対面の時のことを思い出した僕は、ポケットから平たい木の棒を取り出して見せる。
「何そのゴミ」
「君がくれたんだろ!? 当たりのアイスの棒!」
よく見ると噛み跡もあり確かにゴミのようではあるが、はっきりと「当たり」の文字が入っている。
「へー。それ、当たってたんだ」
ナノカくんは棒を一瞥しただけで、想像以上に素っ気ない反応だった。
「待ってくれ、もしかしてゴミのつもりで渡したのか?」
「素直に受け取ったから、コイツ面白~て思ってた」
「……まあいい。これをどこかで交換して、一緒にアイスでも食べよう」
場を盛り上げるつもりだった僕の言葉に、ナノカくんが首を傾げる。
「えー、アイスの当たり交換って、買ったとこじゃないと駄目なんじゃね? 買ったのあの村なんだけど」
「そうなのか!? あっ本当だ、書いてある……」
木の棒の小さい文字を読み、思わず肩を落とす。
「やっぱゴミじゃん!」
ナノカくんが、膝を叩いてゲタゲタと笑う。何もそこまで笑わなくてもいいと思う。笑ってくれてよかったとも思う。
「かわいそーだから、後でおれがサービスエリアでアイスでも奢ったげよっかな!」
僕たちがどうなるかはまだ分からないが、ひとまずサービスエリアでアイスを食べることだけは決まったようだった。
今はそれでもいいと思った。
この離れた場所からも、黒い煙がほとんど真っ直ぐ昇っていくのが見える。風がない日だったのが幸いで、このままどこかへ燃え移ることなく鎮火させられそうだ。
ナノカくんは社に火を着けた後、僕から《黒いもの》を剥がして飲み込んだ。そうしてやることがあると言って、一人の高齢男性を連れて山へ入ろうとしていた。
嫌な予感がしたのでついて行って手伝おうとしたが拒否をされたので、せめてもの気持ちで高齢男性を結束バンドで拘束させて貰った。男は元々抵抗する気も失っているようだったが、ナノカくんにはちょっとウケた。
しばらくすると木々の向こうから、男性の悲鳴が何度か聞こえた。
ミニバンに寄りかかって待機していた僕は、そちらの様子を窺う。
「お待たせ~。それじゃ行こっか」
木々の間から、ナノカくんがふらふらとした足取りで姿を現した。
悲鳴の主がどうなったのかを、直接訊ねることはできなかった。だが僕が明らかに気にしていることを察したのか、ナノカくんがひらひらと手を振る。
「殺してないよ~。でも、そのうち死ぬと思う」
そうなっても、もう寿命なのか祟りなのか分かんなそーだけど。そう呟く顔は、すっきりしたというより疲労感や虚脱感が大きいようだった。
「村に残ってる関係者自体、元々けっこー減ってたしね。死んだり、入院したり」
手間が減って助かったけどぉ~と言って、自分の髪をがしがしと掻き回す。
「……お疲れ様」
何と言っていいのか分からず、それだけを口にした。慰めや励ましの言葉をかけたほうがいいのか、黙っていたほうがいいのか、僕には少し難しい問題だった。
二人で黙って、車に乗り込む。当然ナノカくんが運転席だ。
聞いたところによると彼も東京に拠点があるそうで、事が終わったらありがたく同乗させてもらうことになっていた。
二人で結構とんでもないことをしたはずなのに、達成感も罪悪感も、どちらもあまり実感がない。これから僕たちはどうなるんだろうか。
トンネルを抜けて県道に出た頃になると、ようやくあの場所から帰れるのだという気持ちがじわじわと湧いてきた。
「──もしかして、おれが最後のごほうざい様だったのかも」
ナノカくんがぽつりと呟く。
「《ごほうざい様》の祟りは、おれが逃げる前と変わりなくて……強くも弱くもなってなかった。だから多分おれがいない間に、犠牲になって怨みを重ねた奴もいなかったんだと思う」
「よかった。……いや、君は大変だったのに、よかったって言うのもアレだな!? 不幸中の幸いというか、何だ!? こういう時なんて言うんだ!?」
僕はさっきから、自分の言葉の下手さに呆れてばかりいる。
「よかった、でいーよ。これで《ごほうざい様》の新しい犠牲者も出なくなるし。おれも安心して夜眠れそうだし。よかったよかった」
「そうか。うん、よかった」
ナノカくんがよかったと思うのなら、それでよかったのだろう。僕もそう思いたい。
「あー……でも、ごめんナノカくん」
僕はうまい言葉を言えるわけではない。だからこれから言うのは、ただ自分がどうしても言いたかっただけのことだ。
「君があの村にいた頃に僕が来られたら、もっとよかったと思ってる」
そしたらきっと、もっと早くに全部ムチャクチャにできたかも知れないのに。
「もっと、早くに来たかったよ」
「……そんなん、いま言ってもしゃーないでしょ!」
ナノカくんが心底困ったように、顔をくしゃくしゃにする。
「悪い。何だか悔しくて」
「でも、まあ、ありがとね」
ナノカくんのその声はこれまで聞いたことのない優しいもので、お礼を言われるのは最初に会ったとき以来だなと思った。
「あ、そうだナノカくん。ほら」
初対面の時のことを思い出した僕は、ポケットから平たい木の棒を取り出して見せる。
「何そのゴミ」
「君がくれたんだろ!? 当たりのアイスの棒!」
よく見ると噛み跡もあり確かにゴミのようではあるが、はっきりと「当たり」の文字が入っている。
「へー。それ、当たってたんだ」
ナノカくんは棒を一瞥しただけで、想像以上に素っ気ない反応だった。
「待ってくれ、もしかしてゴミのつもりで渡したのか?」
「素直に受け取ったから、コイツ面白~て思ってた」
「……まあいい。これをどこかで交換して、一緒にアイスでも食べよう」
場を盛り上げるつもりだった僕の言葉に、ナノカくんが首を傾げる。
「えー、アイスの当たり交換って、買ったとこじゃないと駄目なんじゃね? 買ったのあの村なんだけど」
「そうなのか!? あっ本当だ、書いてある……」
木の棒の小さい文字を読み、思わず肩を落とす。
「やっぱゴミじゃん!」
ナノカくんが、膝を叩いてゲタゲタと笑う。何もそこまで笑わなくてもいいと思う。笑ってくれてよかったとも思う。
「かわいそーだから、後でおれがサービスエリアでアイスでも奢ったげよっかな!」
僕たちがどうなるかはまだ分からないが、ひとまずサービスエリアでアイスを食べることだけは決まったようだった。
今はそれでもいいと思った。
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