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二章 同魂の双子
4 二〇二四 葉月―中
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あの日から、僕の頭は靄がかったように冴えないでいた。最低限の日常生活をこなしはするものの、まるでそれはテレビ画面の向こう側の出来事のようで、不思議なくらい現実味がなかった。
唯花にも灯華さんにも呼び出されることもなかったため、ここ数日は落ち着いている。事務所や唯花の部屋に行くことがなければ二人と会うこともないわけだが、夏休みになってから三日と空けずに顔を合わせていたからか、それには少しだけ違和感を覚える。そうやって唯花と話さないでいると、唯花の明るい声を聞かないでいると、少し前に僕を惑わせていた、あの空白の気持ちが広がるのだ。
空っぽで虚無感のたちこめる、あの気持ち。まるで伽藍堂の中心に一人で立ち尽くしているような、どうしようもなくやるせないあの気持ち。一度それに捕まると、たちどころに日々が色褪せていってしまう。ただ不安も恐怖もなく、無色に染まっていってしまう。
そんな無味乾燥の世界の中、僕が唯一していたことは、病院で聞いた悠那ちゃんの言葉を考えることだった。深く鋭く僕の心に突き刺さったあの言葉たち。そればかりを頭に浮かべ、ほとんど惚けたように数日を過ごした。
そしていよいよ考え事が気にかかって仕方なくなると、僕は一人で彼女のところを訪れた。唯花に断りを入れずに勝手なことをしたら怒られるかとも思ったけれど、前回のあの様子を思うと、唯花を誘えばまた議論の平行線に陥りかねないように感じたのだ。だから今回は一人で出向いた。
昼時を少し過ぎてから、院内のロビーや廊下を素通りし、棟の端にある個室の扉を叩く。その人気の少ない広めの部屋の前で深呼吸をしながら、僕は居住まいを正した。
「はーい、どなたですか?」
扉越しに、声が聞こえる。
「川澄詞です。こんにちは、悠那ちゃん」
僕がそれに答えたあと、なぜだろうか、数秒の間が空いた。特に室内で何かをするような物音はないけれど、ただ沈黙が流れる。
そののちに、また、声が聞こえた。
「今日は、一人みたいね。どうぞ」
足音でも聞こえていたのだろうか。今日は唯花と一緒でないことが、既に彼女にもわかったみたいだ。
僕は「お邪魔します」と言って病室の引き戸を開く。中に入ると、いつもと違った光景に、少し驚いた。
「あれ、何をしているの、悠那ちゃん」
「見てわかるでしょう? 鉢に水をあげているのよ」
彼女は振り向かず、窓際の鉢植えに視線を向けたままだった。そんな彼女は、自分の足で立っていたのだ。二本の足に均等に荷重を分け、銅像のように姿勢を良くして、花に水を与えていた。
「そっか。その花は……誰かのお見舞いの品、とか?」
「いいえ、ずっと前からここにあったものよ。気づかなかった? 最近になって、緑色だった蕾が、開き始めたの」
「へえ。うん、気づかなかったな。ちゃんと世話をしていて、偉いね」
「たまに水をあげるくらいよ。世話なんてほどじゃないわ。それに、咲いた花が私の部屋ですぐに枯れでもしたら、寝覚めが悪いでしょう」
僕と会話をする間、悠那ちゃんは一度もこちらを見ることはなかった。あの明るくて無邪気な丸い瞳を、今日はまだ一度も見ていない。
「まあ、確かにそうかもしれないね。でも偉いよ。しっかり水をあげていたから、綺麗な赤色の花が咲いたんだね」
鉢に咲く花はハンディサイズのジョウロから注がれる水滴をよく弾き、小さな花弁の上に踊らせている。そして瑞々しく張りのある、濃い紅を呈していた。
「………………」
ジョウロの水が切れてからも、彼女はずっと手元の花を見つめている。水の降るわずかな音さえもなくなって、室内は、澄んだ空気と沈黙だけに満たされる。
「ところで今日は……何だか少し、様子が違うね」
答えない彼女に対して、僕は再び会話を投げかけた。すると、いつもよりもゆっくりとしたテンポで、声が伸びてくる。
「そう……? どんな風に?」
「大人しいというか、元気がないというか……とにかく、とても静かだね」
「お兄さんは、賑やかな方が好き?」
「いや、決してそんなことはないけれど……まるで、別人みたいだなと思って」
そこまで言葉を交わしてやっと、悠那ちゃんは緩慢な動作で踵を返し、僕の方をまっすぐ向いた。そこには普段の快活な印象はまったくなく、代わりに深く幽玄な雰囲気を感じた。
「あら……だって、別人だもの」
ポツリと彼女は、短く零す。
僕はその発言の意図を、すぐには理解できなかった。
「……えっと……え?」
目の前の女の子は、いつも始終笑顔をくれていたはずの女の子は、今は無表情で氷のような視線を向けてくる。それは怒っているわけでも、喜んでいるわけでもない。ただただ、感情が見えないのだ。
「べつ、じん……? 君は……悠那ちゃんじゃ、ないってこと? もしかして、二重人格、とか?」
僕がそう聞くと、彼女の無表情な顔がほんのわずかだけ綻び、束ねられていない長くてまっすぐな髪がさらりと揺れた。
「ふふっ、お兄さんって、本当に面白いわね。よく言われない? 変わってるって」
「いや、そうかな。僕は、至って平凡な男子高校生のつもりだけど」
「いいえ。ユーモアがあって、好きよ。そういうの。でも、ごめんなさい。私はそんな大そうなものじゃないの。ただ、猫被ってるだけよ」
かなり意外な言葉だった。瞬間、僕は驚いて息を飲む。僕のしてしまった突飛な想像よりはよほど現実的だけれど、あれほど純粋に見えた悠那ちゃんの口からそんな言葉を聞くと、よりいっそうの非現実性を思わせる。
「だからね、むしろ逆なのよ。今の私が本当の織戸悠那で、これまでお兄さんと接してきた私が、私じゃないの」
「へ、へえ……そ、そっか……」
驚きは態度だけでなく、僕の声にも表れてしまうほどだった。そしてそこには、彼女に見つめられているがゆえの緊張も、混じっていたのだろうと思う。
年下の女の子になんて、見えるはずがなかった。僕に向けられる、冷たくも魅力的な彼女の視線。それは、彼女と接した僕の記憶の中で、たった一度だけの邂逅を思い起こさせる。
「まあ、一番最初だけは、例外だったけどね」
そう。あの、淡い月の光に包まれた夜――彼女と初めて話した夜のことだ。
「一番最初……公園で、初めて会ったとき……」
「そうよ。まさかあのときは、こうやって見舞いにきてもらうような間柄になるとは、思わなかったからね」
確かに今の悠那ちゃんからは、あのときと同じ空気を感じる。儚げで美しく、虚無感を伴う冷めた声音。
僕は、その凛とした透明な姿に引き込まれないよう、気を張った。今日僕が一人でここを訪れたのは、どうしても気になったことを確かめるためだ。僕自身の意見を固め、伝えるためだ。だから、ああ、しっかりしなくては。
そして今日は、僕の単身の訪問が功を奏したといっても良かった。今僕の目の前にいる彼女は、紛れもなく確実に“本当”のようだから。
「そっか……なるほど。でもあるいは、今日の話は本音の方が都合がいいから、僕としては歓迎かもしれないよ。君が裏の……いや、本当の悠那ちゃんなら」
「裏だなんて、人聞き悪いわ。いくら事実でもね。いったいどんな話? と言ってもまあ、だいたいの察しはつくけれど」
溜息混じりで、彼女は言った。
僕は一呼吸置き、これからする話が少しでも彼女の気を惹くであろうことを願い、口を開く。
「続きだよ。初めて会ったときにした話の、その続き」
すると、それを境に彼女の声は抑揚を帯び、口元はわずかに引き上がった。笑顔というよりは、妖艶にほくそ笑むような感じだった。
「へえ……てっきり、私を説得でもするのかと思ったわ。でも、案外楽しそうな話じゃない」
説得、か。それに関しては、あまり否定もできないところだけれど。
「まあ、そうじゃないと言えば、嘘になるかもしれない。でも……聞いて、欲しいな」
返事は返ってこなかった。ただ目の前では、悠那ちゃんが僕を見て、やはり淡い笑みを浮かべる。どうぞ、と僕に先を促すようだった。
「僕は……悠那ちゃんの意見に、反対しないよ」
「……私を、止めないの?」
「うん。前に唯花が、ここで声を強めて主張をしたとき、それを見ていて思ったんだ。唯花の考え方は、僕とは少し違った。でも君は、僕と似た思考を持つ。だから、止められない。否定、できないんだ」
思えば唯花はあのとき、死というものを完全に否定し、拒絶していた。それについて考えることさえ、認める様子はなかった。
それが僕とは違う。それが悠那ちゃんとは違う。
僕は、悠那ちゃんと同じように、自分の死について考えたことがあるのだ。何度も、何度も、出るはずのない答えを探して。それが自分の生に意味を与えると信じて。
そんな僕だからこそ、わかることもある。きっと僕は、唯花よりも悠那ちゃんに近いはずだ。
「もし君が……諦めではなく、確かな想いと意志の下に死の道を選ぶというのなら、それを止めることは、できないと思う」
僕が言うと、彼女の髪がさらりと鳴り、透明な音を奏でた。それはまるで、彼女の心の音のようだ。緩やかに弾む心の、嬉しがっている音に聞こえる。
「本当に面白いわ。今まで誰一人として、私にそんな言葉をくれた人はいなかった。怒りや諦念からではなく、優しさと誠意を持ってそんな言葉をくれた人は、いなかった」
「うん、これに関しては、少し僕も異常みたいなんだ。君の言うことには、わからない部分がとても多いけれど、でも同時に、とてもわかってしまう部分もある。生きて死の意味を考えること、その価値を見出すこと。とても、大切なことだよね」
彼女の心と僕の心は、きっと同調を難としない。ある意味ではきっと、同類なのだ。
そうしてやっと、僕は今、彼女の想いの深淵に触れ始める。
「そうね。本当にそう思う。そして、だから私は見つけたのよ。自分の生の証、死の意味を、織戸悠斗という存在の中に」
きっとここまでは、僕の気持ちがよくよく彼女のそれと重なることで可能となったアプローチだ。ここまでは僕が、彼女に快く受け入れられていると分かる。
しかし、本当の話し合いはここからだ。彼女の思想に、それと相反する僕の意思を伝えるための、そのための主張。今から放つ僕の声は、目の前の彼女に届くだろうか。
「けど、でもね。やっぱり待ってほしいんだ。僕は君に反対できない。でも、賛成することもできないよ。考え直してほしいって、言いにきたんだ。君をこのまま、黙って見送るわけにはいかない。君がいってしまうことを……君が、悠斗くんを連れていくことを……僕は見過ごすことはできないんだ。君は、悠斗くんと一緒になりたいんでしょう? それが望みなら、きっと選択肢は他にもある。この世界の中でも、十分に。だから……」
僕が初めてここを訪れたとき、桂祐くんに促されて、悠那ちゃんと悠斗くんの関係を見た。二人の逢瀬を。そして、その抑えきれないほどの想いを。
けれど、だとしても、二人の思い通りにはさせられない。
僕はできるだけ優しく、ゆっくりと訴えた。
すると彼女は、嬉々とした表情をフッっと消した。面白くなさそうに窓の外へと視線を流す。前髪の影が落ちる冷めた瞳で、陽の当たる明るい外界を見ながら、ただぼんやりと答えた。
「随分と、無責任なことを言うじゃない。気休めって言うのよ。そういうの」
「気休めのつもりはないよ。簡単だなんて思わないけど、それでも、不可能じゃない。方法は他にもある」
「他にも……ねえ。そう……お兄さんの言いたいことは分かった。それが冗談半分じゃないってことも。でもね。そもそもお兄さんは、きっと何か勘違いをしているわ。私の望みは、悠斗と一緒になることじゃないの。別に私は、あの子と末長く幸せになりたいなんて、そんなことは思っていないのよ」
そして彼女は、さらに少しの間をおいてから、何かを読み上げるように平坦な語調で言ったのだった。
「私の望みは、悠斗と一緒に死ぬことだもの。言ったでしょう? 悠斗と一緒に、この世界を出ていくんだって。それは妥協でも苦肉の策でも、何でもない。それこそがまさしく、私の率直な望みなの」
思考が揺らいだ。彼女との会話では、これは何度目のことだろうか。僕はそのとき、自分の理解の範疇を超えた異常性に、また思考を阻まれそうになったのだ。
彼女の言葉にはもしかしたら、何かしらの感情が、溢れるほどに含まれているのかもしれない。けれどもその感情は、僕には理解できなかった。認識すらできない、未知種の感情。彼女が何を思うのか、その言葉からは到底わからない。
「何を言っているの……? 彼と死ぬことそのものが、君の望み……?」
僕の声は震えていた。困惑がありありと表れていた。
彼女は僕を見て、ふわりと柔和に、また微笑む。まるで友達との他愛のない会話の中で、当たり前の同意を求めるときのように。
「っふふ。だって、一人で死んでしまうのは、寂しいじゃない? ねえ?」
明るい声が恐怖を煽る。
「……それが君の、死の理由だと、そう言うの?」
妖艶な笑みと氷の無表情を幾度となく繰り返し、何度目かすらわからない彼女の笑顔は、あまりにも落ち着いていて、悟り切っていて、凄絶なほどに清らかで、僕の目と意識は少しチカチカした。
ただ恐ろしかった。その恐怖に加え、焦りや、わずかに怒りまでも感じる。そういった想いが、ミキサーでかき回されたみたいに混ざり合って、急に心臓がざわついた。
陽は高く外界を照らすが、室内は影になって薄暗い。そこに生まれそうになった闇が僕の不安を絶妙に掻き立て、胸にこびりつかせてゆく。
「そ、そんなの身勝手だよ! 君はそれでもいいかもしれないけれど……彼は、悠斗くんはどうなるのさ!」
「どうなるも何も、あの子もそれを望んでいるのよ。まるで砂漠の真ん中でオアシスの水を求めるかのように、心の底から、その願望を抱き続けている」
「でもそれは、たとえそうだとしてもそれは……彼のためにはならないはずだ! 彼の人生を、死の理由を、君が奪ってはいけないんだ! 君は、君だからこそ、よくそれをわかってくれるはずじゃないか!」
悠斗くんはきっと、悠那ちゃんと一緒にいたい一心で、ついていくと言ったのだと思う。錯乱したような思考の中で、心までなくしていて……死ぬということがどういうことか、そんなことを考える余裕なんてないだろう。
まだ残されているはずの時間を捨て、その命の答えも見つからぬまま死ぬなんて、そんなの絶対、間違っているはずなのに。
「死の理由は、人間の死は、とてもとても大事なことだと思う。それを見つけるために、人は生きると言ってもいいくらいに。それこそが人の生に意味を与える。でもだからこそ、簡単に見つけられるようなものじゃない。年端もいかない僕らには、まだ到底手の届かない真理のはずだ。それは、自分がそのために生まれてきたんだって感じられて、そのために死ぬのなら満足できて……生きて、生き抜いてよかったって思えるような、そんなこと。ちゃんと自分の人生を全うして、長い時間を生きた果てに、見つけなければいけないものなんだ。かくいう僕も、だから……こうして生きている」
「そう、そうよね。まさにそう。お兄さんの言っていることは、きっと正しいわ。でもね、その簡単には見つからないものを、私は見つけてしまったの。そして悠斗も、見つけたの。この世界での生に、最高の意味を与える、その理由。二人で共にくぐる、この世界からの旅立ちの門を」
「そんなはずない。君たちは一時の感情に流されているだけだよ。君も悠斗くんも、まだ幼いじゃないか。考え直そう。それに、百歩譲って君はいいとしても、今の悠斗くんは普通じゃない。そんな状態で、いったい何を見つけるって言うんだ。君たちは最後の最後まで、生きて考え抜くべきだ。勝手に自分で幕を下ろしていいはずがない」
「ねえ、お兄さん。生きる理由、死ぬ理由。それは全部、自分で決めるの。誰も見つけてなんてくれない。誰も教えてなんてくれないわ。正しいかどうかさえも自分次第。だから、私が幼いからとか、悠斗が普通じゃないとか、そんなことは関係ないのよ」
僕は無意識に声を張っていた。もちろん自制はしたが、とても冷静ではいられなかった。お腹の下の方がキッと痛んで、胸に何かがせり上がってくる。
目の前の、穏やかで長い睫毛のかかった瞳も、上品で優しい清楚な声も、氷のように冷えた鋭い針となって僕に刺さった。
「決めるのは、自分……。そりゃあ……そうかも、しれないけど。いや、でも……」
でも、何なのだろう。この先に紡ぐ言葉を、僕は用意できる気がしなかった。何か言わなくてはと思うのに、喉を搾っても何も出てきやしないのだ。
彼女との会話には、何か得体のしれないタイムリミットが設けられているように感じる。早急に答えて返さなければ、手遅れになるという焦燥を感じる。
では、手遅れになると、いったいどうなるのか。
きっと、辛うじて届きそうな僕の言葉は、ついに彼女には届かなくなってしまうのだろうと思った。
そうして悩みながら立っていると、目の前では「ふう」と溜息が聞こえ、彼女がさらに口を開いた。
「悠斗が、あの子自身が、望むことなのよ。自分のために生きるよりも、私のために死ぬことを、あの子は望むの。だったら、そうすればいいじゃない。止める必要なんてまったくないわ。そう、悠斗は……私のために死ねばいいんだから」
愛しい人に、死ねばいいなんて、そうは言えない。正直、気が触れているとさえ思う。そんな常軌を逸した憎悪のような愛情が、悠那ちゃんを、そして悠斗くんを包み込んでいるのだ。
わからない。追いつかない。僕の脳では、とてもではないが理解不可能だ。二人はもう、生きて得られる愛の形には、到底満足できないのだろうか。世界で最高の愛の形は、一緒に命を終えること。そういう風に、考えているのだろうか。
「頼むよ、考え直してほしい。そして彼にも、考え直させて。そんな思想、あまりにもめちゃくちゃだ……」
「残念だけれど、そんな時間は残っていないわ。もうすぐなのよ。運命は、もう変わらないわ」
話す彼女は、必要以上の動きは全く見せず、まるで人形から音が出ているだけのようにすら感じた。
対する僕は僕で、身体の動きに割くだけの神経の余裕がなく、働くのは頭と口だけだ。
怖いくらいに静かな室内で、僕と彼女の声以外の音は、存在しきれないようだった。
「お兄さんこそ、もう一度よく考えて。もうすぐ私は、完成されるのよ。魂は、欠陥ばかりのこの身体から解放されて、その生を終え、自由になる。それってすごく、素敵なことだと思わない? 何ならお兄さんも連れて行ってあげたって、いいんだよ?」
「いや、駄目だ。僕は……認められない。君が……だって、彼を連れていくなんて……駄目だよ……」
「……そう……駄目なの。私と同じお兄さんなら、わかってくれると思ったのに。そのお兄さんに否定されちゃうと、ちょっと……残念ね」
混乱は、もうとっくに頂点だった。何度も頭打ちを繰り返し、それでもまだ収まる気配を見せない動悸と不安に潰されそうになりながら、僕は必死で両の足を折らずに保っている。こんな状態で、悠那ちゃんと対話をするのは苦しい。彼女は、眉一つ動かさずに平気そうな顔で話すのに。それなのに、僕の方は内心すぐにでも逃げ出したい衝動に襲われ続けて、なのにそれすらも適わずに釘づけでいた。
彼女がそっと表情を崩す。悲しそうに視線を落とし、焦点を合わせる先も見つけられないまま、目尻と眉を少しだけ下げて小さく呟く。
「ええ……実に、残念だわ」
今日僕と顔を合わせてからずっと帯びていた冷たさはそのままにしながら、今はそこに寂しさを重ねて纏い、その姿は言うなれば、究極的なまでに儚げで繊細なガラス細工のようだった。透き通った美しい存在は何者をも魅了し、先端に触れれば少々危なく、しかし実はとてつもなく脆い。そんな印象を、このときの彼女は僕に与えた。
「あの花――」
ああ、彼女の消え入りそうな細い声は、こんなにも恐ろしく、そして甘い。甘美な毒が心をかき乱す。これほどに甘い声を紡げる人に、僕はこれまで出会ったことがない。
「あの小さな花、思ったよりも、綺麗に咲いたわ。何ていう、花なのかしら」
僕は大きく唾を飲み込み、掠れないように注意深く答える。
「……僕も、わからないな。植物には詳しくなくて。でも、白い部屋だから、濃い赤が、よく映えるね」
「そうなのよ。蕾のまま萎れてしまわないで、よかったと思う。せめて、時がきて枯れてゆくまでくらいは、面倒を見てあげたい気になるわ。光をあげて、水を注いで……ね」
透き通るほどに、そして雪のように純白の指で、真紅の花弁をさらりと撫でる。翠緑の葉をパッと弾く。触れる手先からは愛しさが溢れていて、すぐにでも吸い込まれそうだ。
「永遠咲きの花なんて、この世にはないわ。そんなまがい物、花とは呼べないもの。花である限り、散り時は必ず訪れる。だったらその、美しい最後まで、私が隣にいてあげよう。そう思うの」
美しい最後……。それはきっと、彼女が望む終わりそのものだ。辿り着けば、自由と完成が手に入る。そう言って。
僕は、何かを言おうと思った。言わなければならないと思った。強い焦燥にかられながら、それに加えて、悲しそうな彼女の表情に耐えられなくなって。
でも、それでも僕は何も言えずにただ立ち尽くすだけで、自分がとても情けなかった。僕の口は、一ミリたりとも動かなかったのだ。
「ごめんね、お兄さん。今日は、ここまでみたい」
彼女は話を打ち切る。反応のない僕にとうとう飽きてしまったのか、気分がすぐれなくなったのか、理由は様々思いつくところだけれど、とにかく唐突だった。
「その……つまらなかった、かな」
「いいえ、そんなことない。興味深い意見だったわ。そうじゃないの」
ゆっくりと目を瞑りながら、一つだけ深く呼吸をして、纏う空気をフッと変えた。
次の瞬間、リズムの良い軽い音が二回、コンコンと部屋に響く。
「悠那、邪魔するよ」
ガラリと鳴って扉は開き、声の主は現れた。
すぐに悠那ちゃんは明るい挨拶を返す。
「いらっしゃい、桂兄」
僕が振り返った先にいたのは、彼女の兄であり僕の級友でもある、織戸桂祐くんであった。
「ん、詞くんか。度々見舞いにきてくれているそうだね。ありがとう、感謝するよ」
淡々と、しかしながらとても丁寧に、清潔な声で彼は話す。
「悠那、着替えを持ってきた。どこに置こうか?」
「うん、いつもありがとうね。部屋の隅にでも、置いておいてくれればいいよ」
桂祐くんは、小さめのボストンバッグを片手で持ち、軽々と指示通りに部屋の隅に置いた。手慣れた様子といった感じだ。僕はこの光景を初めて見るが、きっといつもこうやって、桂祐くんは悠那ちゃんの身の回りの世話をしているのだろう。
荷物を置いて手ぶらになってから、彼は両手を腰に当てつつ振り返り、僕に言う。
「もしかして、話の途中だったかな。悪かったよ」
まっすぐに僕を見ていて、その表情からは、ひたすらに誠実さが感じられた。
「いや、そんなことないよ。僕の方こそ、もうだいぶ長居しているんだ」
「そうか。ただ、俺はすぐ戻るから、まだまだ長居してもらって構わないが」
その様子からは、彼が僕の訪問を快く思っていてくれることがよくわかった。悠那ちゃんの話し相手になってほしいと言っていた彼は、僕を歓迎してくれている。
ただ、半ば打ち切りだったとはいえ、僕と悠那ちゃんの会話はもう既に終わっていた。僕の困惑という形で、停滞を見せていたのだ。
今日僕は、僕なりの考えを彼女に伝えた。しかし彼女にも彼女なりの考えがあり、互いの思考は納得がいくほど合致したとは言えない。
今の段階では、これ以上僕がここに残っても、おそらく沈黙しかできないだろうと思った。
「あるいは帰るのなら、途中まで一緒に行かないか」
「えっと……うん。そう、しようかな」
桂祐くんの提案に対し、僕は悠那ちゃんの顔色を気にしつつ同意をした。
「いいよ。送ってあげて」
彼女は嫌な顔一つせず、明朗に微笑む。
「お兄さん、とっても楽しい時間だったよ。ありがとう」
彼女にとっては、あの会話は不完全燃焼ではなかったのだろうか。僕はそれを気にしていたのだが、しかし楽しい時間だったと、彼女は言う。その真意はわからないけれども、彼女が僕の話したことを、少しでも真剣に考えてくれれば嬉しいと思った。
隣では桂祐くんが、部屋の備品などを確認し、次にくるときには何を持ってきたら良いかなどを整理していた。それを見る悠那ちゃんは、終始明るい声で答えつつ、彼とも少しだけ他愛のない会話をする。
そして、最後にこんなことを言うのだった。
「あのね……突然で悪いんだけど、これから少しの間、一人にしてほしいんだ」
ゆっくりと、刻むように一言一言、告げた。
「ああ、俺も詞くんももう帰るから、問題ないだろう?」
「ううん、違うの。少しっていうのは、数日間くらい。その……考える時間が、ほしくて」
「……何か、あったのか?」
桂祐くんはわずかに不安そうな顔をした。病人である妹が、しばらく見舞いにこないでくれと言うのだから、当然だろう。
けれども僕はそれを見て、彼女が今日の話をしっかり受け止めてくれたのかと思った。それについての思考をするために、時間がほしいと言っているのだと思った。
「ちょっとね。だから桂兄、悠斗にもここにはしばらくこないように言っておいて」
悠那ちゃんは、桂祐くんと話すときは相変わらず明るい。その屈託のない笑顔のためか、桂祐くんも必要以上に心配することはなく、そのまま話を進めていく。
「悠斗にもか。あいつは……素直に聞くか、わからないものだが」
「私が言ったって伝えれば、大丈夫だよ。だから、よろしくね」
「ふむ……。わかった。だが、あまりにも長くはいけないぞ。みんなが心配するからな」
「もちろん。気が済んだら、そのときにまた知らせるから。お兄さんもね。お姉さんに、また伝えておいて」
彼女は僕の方にも同様に笑いかけ、伝言を用意した。
先ほどまでとのギャップに若干戸惑いは隠せないが、僕は当たり触りのない同意を返す。
「……うん。けど、無理はしないでね」
こうして僕は病室を後にすることとなる。
去り際、悠那ちゃんははっきりと意志のこもった表情をして、こちらを向きつつ言葉を紡いだ。それは僕と桂祐くんの二人というよりも、明確に僕の方へ向かっての行為だったように感じた。
「ありがとう。私の答えが出る頃に、またきて頂戴ね」
目尻は穏やかに下がり、口元は品良く閉じられている。そこにはやはり、少女とは思えない大人っぽさ、艶やかさがあった。放つ雰囲気で伝わってくる。この言葉は、間違いなく“本当”だと。彼女は、いずれまた僕が、ここへくることを望んでいる。
もちろん僕だって、呼ばれれば飛んでやってくるつもりだ。もう僕は、彼女が死んでしまえば十分引きずる。それくらいの関係になってしまったし、だからこそ彼女の力になりたいとも思う。
唯花にも灯華さんにも呼び出されることもなかったため、ここ数日は落ち着いている。事務所や唯花の部屋に行くことがなければ二人と会うこともないわけだが、夏休みになってから三日と空けずに顔を合わせていたからか、それには少しだけ違和感を覚える。そうやって唯花と話さないでいると、唯花の明るい声を聞かないでいると、少し前に僕を惑わせていた、あの空白の気持ちが広がるのだ。
空っぽで虚無感のたちこめる、あの気持ち。まるで伽藍堂の中心に一人で立ち尽くしているような、どうしようもなくやるせないあの気持ち。一度それに捕まると、たちどころに日々が色褪せていってしまう。ただ不安も恐怖もなく、無色に染まっていってしまう。
そんな無味乾燥の世界の中、僕が唯一していたことは、病院で聞いた悠那ちゃんの言葉を考えることだった。深く鋭く僕の心に突き刺さったあの言葉たち。そればかりを頭に浮かべ、ほとんど惚けたように数日を過ごした。
そしていよいよ考え事が気にかかって仕方なくなると、僕は一人で彼女のところを訪れた。唯花に断りを入れずに勝手なことをしたら怒られるかとも思ったけれど、前回のあの様子を思うと、唯花を誘えばまた議論の平行線に陥りかねないように感じたのだ。だから今回は一人で出向いた。
昼時を少し過ぎてから、院内のロビーや廊下を素通りし、棟の端にある個室の扉を叩く。その人気の少ない広めの部屋の前で深呼吸をしながら、僕は居住まいを正した。
「はーい、どなたですか?」
扉越しに、声が聞こえる。
「川澄詞です。こんにちは、悠那ちゃん」
僕がそれに答えたあと、なぜだろうか、数秒の間が空いた。特に室内で何かをするような物音はないけれど、ただ沈黙が流れる。
そののちに、また、声が聞こえた。
「今日は、一人みたいね。どうぞ」
足音でも聞こえていたのだろうか。今日は唯花と一緒でないことが、既に彼女にもわかったみたいだ。
僕は「お邪魔します」と言って病室の引き戸を開く。中に入ると、いつもと違った光景に、少し驚いた。
「あれ、何をしているの、悠那ちゃん」
「見てわかるでしょう? 鉢に水をあげているのよ」
彼女は振り向かず、窓際の鉢植えに視線を向けたままだった。そんな彼女は、自分の足で立っていたのだ。二本の足に均等に荷重を分け、銅像のように姿勢を良くして、花に水を与えていた。
「そっか。その花は……誰かのお見舞いの品、とか?」
「いいえ、ずっと前からここにあったものよ。気づかなかった? 最近になって、緑色だった蕾が、開き始めたの」
「へえ。うん、気づかなかったな。ちゃんと世話をしていて、偉いね」
「たまに水をあげるくらいよ。世話なんてほどじゃないわ。それに、咲いた花が私の部屋ですぐに枯れでもしたら、寝覚めが悪いでしょう」
僕と会話をする間、悠那ちゃんは一度もこちらを見ることはなかった。あの明るくて無邪気な丸い瞳を、今日はまだ一度も見ていない。
「まあ、確かにそうかもしれないね。でも偉いよ。しっかり水をあげていたから、綺麗な赤色の花が咲いたんだね」
鉢に咲く花はハンディサイズのジョウロから注がれる水滴をよく弾き、小さな花弁の上に踊らせている。そして瑞々しく張りのある、濃い紅を呈していた。
「………………」
ジョウロの水が切れてからも、彼女はずっと手元の花を見つめている。水の降るわずかな音さえもなくなって、室内は、澄んだ空気と沈黙だけに満たされる。
「ところで今日は……何だか少し、様子が違うね」
答えない彼女に対して、僕は再び会話を投げかけた。すると、いつもよりもゆっくりとしたテンポで、声が伸びてくる。
「そう……? どんな風に?」
「大人しいというか、元気がないというか……とにかく、とても静かだね」
「お兄さんは、賑やかな方が好き?」
「いや、決してそんなことはないけれど……まるで、別人みたいだなと思って」
そこまで言葉を交わしてやっと、悠那ちゃんは緩慢な動作で踵を返し、僕の方をまっすぐ向いた。そこには普段の快活な印象はまったくなく、代わりに深く幽玄な雰囲気を感じた。
「あら……だって、別人だもの」
ポツリと彼女は、短く零す。
僕はその発言の意図を、すぐには理解できなかった。
「……えっと……え?」
目の前の女の子は、いつも始終笑顔をくれていたはずの女の子は、今は無表情で氷のような視線を向けてくる。それは怒っているわけでも、喜んでいるわけでもない。ただただ、感情が見えないのだ。
「べつ、じん……? 君は……悠那ちゃんじゃ、ないってこと? もしかして、二重人格、とか?」
僕がそう聞くと、彼女の無表情な顔がほんのわずかだけ綻び、束ねられていない長くてまっすぐな髪がさらりと揺れた。
「ふふっ、お兄さんって、本当に面白いわね。よく言われない? 変わってるって」
「いや、そうかな。僕は、至って平凡な男子高校生のつもりだけど」
「いいえ。ユーモアがあって、好きよ。そういうの。でも、ごめんなさい。私はそんな大そうなものじゃないの。ただ、猫被ってるだけよ」
かなり意外な言葉だった。瞬間、僕は驚いて息を飲む。僕のしてしまった突飛な想像よりはよほど現実的だけれど、あれほど純粋に見えた悠那ちゃんの口からそんな言葉を聞くと、よりいっそうの非現実性を思わせる。
「だからね、むしろ逆なのよ。今の私が本当の織戸悠那で、これまでお兄さんと接してきた私が、私じゃないの」
「へ、へえ……そ、そっか……」
驚きは態度だけでなく、僕の声にも表れてしまうほどだった。そしてそこには、彼女に見つめられているがゆえの緊張も、混じっていたのだろうと思う。
年下の女の子になんて、見えるはずがなかった。僕に向けられる、冷たくも魅力的な彼女の視線。それは、彼女と接した僕の記憶の中で、たった一度だけの邂逅を思い起こさせる。
「まあ、一番最初だけは、例外だったけどね」
そう。あの、淡い月の光に包まれた夜――彼女と初めて話した夜のことだ。
「一番最初……公園で、初めて会ったとき……」
「そうよ。まさかあのときは、こうやって見舞いにきてもらうような間柄になるとは、思わなかったからね」
確かに今の悠那ちゃんからは、あのときと同じ空気を感じる。儚げで美しく、虚無感を伴う冷めた声音。
僕は、その凛とした透明な姿に引き込まれないよう、気を張った。今日僕が一人でここを訪れたのは、どうしても気になったことを確かめるためだ。僕自身の意見を固め、伝えるためだ。だから、ああ、しっかりしなくては。
そして今日は、僕の単身の訪問が功を奏したといっても良かった。今僕の目の前にいる彼女は、紛れもなく確実に“本当”のようだから。
「そっか……なるほど。でもあるいは、今日の話は本音の方が都合がいいから、僕としては歓迎かもしれないよ。君が裏の……いや、本当の悠那ちゃんなら」
「裏だなんて、人聞き悪いわ。いくら事実でもね。いったいどんな話? と言ってもまあ、だいたいの察しはつくけれど」
溜息混じりで、彼女は言った。
僕は一呼吸置き、これからする話が少しでも彼女の気を惹くであろうことを願い、口を開く。
「続きだよ。初めて会ったときにした話の、その続き」
すると、それを境に彼女の声は抑揚を帯び、口元はわずかに引き上がった。笑顔というよりは、妖艶にほくそ笑むような感じだった。
「へえ……てっきり、私を説得でもするのかと思ったわ。でも、案外楽しそうな話じゃない」
説得、か。それに関しては、あまり否定もできないところだけれど。
「まあ、そうじゃないと言えば、嘘になるかもしれない。でも……聞いて、欲しいな」
返事は返ってこなかった。ただ目の前では、悠那ちゃんが僕を見て、やはり淡い笑みを浮かべる。どうぞ、と僕に先を促すようだった。
「僕は……悠那ちゃんの意見に、反対しないよ」
「……私を、止めないの?」
「うん。前に唯花が、ここで声を強めて主張をしたとき、それを見ていて思ったんだ。唯花の考え方は、僕とは少し違った。でも君は、僕と似た思考を持つ。だから、止められない。否定、できないんだ」
思えば唯花はあのとき、死というものを完全に否定し、拒絶していた。それについて考えることさえ、認める様子はなかった。
それが僕とは違う。それが悠那ちゃんとは違う。
僕は、悠那ちゃんと同じように、自分の死について考えたことがあるのだ。何度も、何度も、出るはずのない答えを探して。それが自分の生に意味を与えると信じて。
そんな僕だからこそ、わかることもある。きっと僕は、唯花よりも悠那ちゃんに近いはずだ。
「もし君が……諦めではなく、確かな想いと意志の下に死の道を選ぶというのなら、それを止めることは、できないと思う」
僕が言うと、彼女の髪がさらりと鳴り、透明な音を奏でた。それはまるで、彼女の心の音のようだ。緩やかに弾む心の、嬉しがっている音に聞こえる。
「本当に面白いわ。今まで誰一人として、私にそんな言葉をくれた人はいなかった。怒りや諦念からではなく、優しさと誠意を持ってそんな言葉をくれた人は、いなかった」
「うん、これに関しては、少し僕も異常みたいなんだ。君の言うことには、わからない部分がとても多いけれど、でも同時に、とてもわかってしまう部分もある。生きて死の意味を考えること、その価値を見出すこと。とても、大切なことだよね」
彼女の心と僕の心は、きっと同調を難としない。ある意味ではきっと、同類なのだ。
そうしてやっと、僕は今、彼女の想いの深淵に触れ始める。
「そうね。本当にそう思う。そして、だから私は見つけたのよ。自分の生の証、死の意味を、織戸悠斗という存在の中に」
きっとここまでは、僕の気持ちがよくよく彼女のそれと重なることで可能となったアプローチだ。ここまでは僕が、彼女に快く受け入れられていると分かる。
しかし、本当の話し合いはここからだ。彼女の思想に、それと相反する僕の意思を伝えるための、そのための主張。今から放つ僕の声は、目の前の彼女に届くだろうか。
「けど、でもね。やっぱり待ってほしいんだ。僕は君に反対できない。でも、賛成することもできないよ。考え直してほしいって、言いにきたんだ。君をこのまま、黙って見送るわけにはいかない。君がいってしまうことを……君が、悠斗くんを連れていくことを……僕は見過ごすことはできないんだ。君は、悠斗くんと一緒になりたいんでしょう? それが望みなら、きっと選択肢は他にもある。この世界の中でも、十分に。だから……」
僕が初めてここを訪れたとき、桂祐くんに促されて、悠那ちゃんと悠斗くんの関係を見た。二人の逢瀬を。そして、その抑えきれないほどの想いを。
けれど、だとしても、二人の思い通りにはさせられない。
僕はできるだけ優しく、ゆっくりと訴えた。
すると彼女は、嬉々とした表情をフッっと消した。面白くなさそうに窓の外へと視線を流す。前髪の影が落ちる冷めた瞳で、陽の当たる明るい外界を見ながら、ただぼんやりと答えた。
「随分と、無責任なことを言うじゃない。気休めって言うのよ。そういうの」
「気休めのつもりはないよ。簡単だなんて思わないけど、それでも、不可能じゃない。方法は他にもある」
「他にも……ねえ。そう……お兄さんの言いたいことは分かった。それが冗談半分じゃないってことも。でもね。そもそもお兄さんは、きっと何か勘違いをしているわ。私の望みは、悠斗と一緒になることじゃないの。別に私は、あの子と末長く幸せになりたいなんて、そんなことは思っていないのよ」
そして彼女は、さらに少しの間をおいてから、何かを読み上げるように平坦な語調で言ったのだった。
「私の望みは、悠斗と一緒に死ぬことだもの。言ったでしょう? 悠斗と一緒に、この世界を出ていくんだって。それは妥協でも苦肉の策でも、何でもない。それこそがまさしく、私の率直な望みなの」
思考が揺らいだ。彼女との会話では、これは何度目のことだろうか。僕はそのとき、自分の理解の範疇を超えた異常性に、また思考を阻まれそうになったのだ。
彼女の言葉にはもしかしたら、何かしらの感情が、溢れるほどに含まれているのかもしれない。けれどもその感情は、僕には理解できなかった。認識すらできない、未知種の感情。彼女が何を思うのか、その言葉からは到底わからない。
「何を言っているの……? 彼と死ぬことそのものが、君の望み……?」
僕の声は震えていた。困惑がありありと表れていた。
彼女は僕を見て、ふわりと柔和に、また微笑む。まるで友達との他愛のない会話の中で、当たり前の同意を求めるときのように。
「っふふ。だって、一人で死んでしまうのは、寂しいじゃない? ねえ?」
明るい声が恐怖を煽る。
「……それが君の、死の理由だと、そう言うの?」
妖艶な笑みと氷の無表情を幾度となく繰り返し、何度目かすらわからない彼女の笑顔は、あまりにも落ち着いていて、悟り切っていて、凄絶なほどに清らかで、僕の目と意識は少しチカチカした。
ただ恐ろしかった。その恐怖に加え、焦りや、わずかに怒りまでも感じる。そういった想いが、ミキサーでかき回されたみたいに混ざり合って、急に心臓がざわついた。
陽は高く外界を照らすが、室内は影になって薄暗い。そこに生まれそうになった闇が僕の不安を絶妙に掻き立て、胸にこびりつかせてゆく。
「そ、そんなの身勝手だよ! 君はそれでもいいかもしれないけれど……彼は、悠斗くんはどうなるのさ!」
「どうなるも何も、あの子もそれを望んでいるのよ。まるで砂漠の真ん中でオアシスの水を求めるかのように、心の底から、その願望を抱き続けている」
「でもそれは、たとえそうだとしてもそれは……彼のためにはならないはずだ! 彼の人生を、死の理由を、君が奪ってはいけないんだ! 君は、君だからこそ、よくそれをわかってくれるはずじゃないか!」
悠斗くんはきっと、悠那ちゃんと一緒にいたい一心で、ついていくと言ったのだと思う。錯乱したような思考の中で、心までなくしていて……死ぬということがどういうことか、そんなことを考える余裕なんてないだろう。
まだ残されているはずの時間を捨て、その命の答えも見つからぬまま死ぬなんて、そんなの絶対、間違っているはずなのに。
「死の理由は、人間の死は、とてもとても大事なことだと思う。それを見つけるために、人は生きると言ってもいいくらいに。それこそが人の生に意味を与える。でもだからこそ、簡単に見つけられるようなものじゃない。年端もいかない僕らには、まだ到底手の届かない真理のはずだ。それは、自分がそのために生まれてきたんだって感じられて、そのために死ぬのなら満足できて……生きて、生き抜いてよかったって思えるような、そんなこと。ちゃんと自分の人生を全うして、長い時間を生きた果てに、見つけなければいけないものなんだ。かくいう僕も、だから……こうして生きている」
「そう、そうよね。まさにそう。お兄さんの言っていることは、きっと正しいわ。でもね、その簡単には見つからないものを、私は見つけてしまったの。そして悠斗も、見つけたの。この世界での生に、最高の意味を与える、その理由。二人で共にくぐる、この世界からの旅立ちの門を」
「そんなはずない。君たちは一時の感情に流されているだけだよ。君も悠斗くんも、まだ幼いじゃないか。考え直そう。それに、百歩譲って君はいいとしても、今の悠斗くんは普通じゃない。そんな状態で、いったい何を見つけるって言うんだ。君たちは最後の最後まで、生きて考え抜くべきだ。勝手に自分で幕を下ろしていいはずがない」
「ねえ、お兄さん。生きる理由、死ぬ理由。それは全部、自分で決めるの。誰も見つけてなんてくれない。誰も教えてなんてくれないわ。正しいかどうかさえも自分次第。だから、私が幼いからとか、悠斗が普通じゃないとか、そんなことは関係ないのよ」
僕は無意識に声を張っていた。もちろん自制はしたが、とても冷静ではいられなかった。お腹の下の方がキッと痛んで、胸に何かがせり上がってくる。
目の前の、穏やかで長い睫毛のかかった瞳も、上品で優しい清楚な声も、氷のように冷えた鋭い針となって僕に刺さった。
「決めるのは、自分……。そりゃあ……そうかも、しれないけど。いや、でも……」
でも、何なのだろう。この先に紡ぐ言葉を、僕は用意できる気がしなかった。何か言わなくてはと思うのに、喉を搾っても何も出てきやしないのだ。
彼女との会話には、何か得体のしれないタイムリミットが設けられているように感じる。早急に答えて返さなければ、手遅れになるという焦燥を感じる。
では、手遅れになると、いったいどうなるのか。
きっと、辛うじて届きそうな僕の言葉は、ついに彼女には届かなくなってしまうのだろうと思った。
そうして悩みながら立っていると、目の前では「ふう」と溜息が聞こえ、彼女がさらに口を開いた。
「悠斗が、あの子自身が、望むことなのよ。自分のために生きるよりも、私のために死ぬことを、あの子は望むの。だったら、そうすればいいじゃない。止める必要なんてまったくないわ。そう、悠斗は……私のために死ねばいいんだから」
愛しい人に、死ねばいいなんて、そうは言えない。正直、気が触れているとさえ思う。そんな常軌を逸した憎悪のような愛情が、悠那ちゃんを、そして悠斗くんを包み込んでいるのだ。
わからない。追いつかない。僕の脳では、とてもではないが理解不可能だ。二人はもう、生きて得られる愛の形には、到底満足できないのだろうか。世界で最高の愛の形は、一緒に命を終えること。そういう風に、考えているのだろうか。
「頼むよ、考え直してほしい。そして彼にも、考え直させて。そんな思想、あまりにもめちゃくちゃだ……」
「残念だけれど、そんな時間は残っていないわ。もうすぐなのよ。運命は、もう変わらないわ」
話す彼女は、必要以上の動きは全く見せず、まるで人形から音が出ているだけのようにすら感じた。
対する僕は僕で、身体の動きに割くだけの神経の余裕がなく、働くのは頭と口だけだ。
怖いくらいに静かな室内で、僕と彼女の声以外の音は、存在しきれないようだった。
「お兄さんこそ、もう一度よく考えて。もうすぐ私は、完成されるのよ。魂は、欠陥ばかりのこの身体から解放されて、その生を終え、自由になる。それってすごく、素敵なことだと思わない? 何ならお兄さんも連れて行ってあげたって、いいんだよ?」
「いや、駄目だ。僕は……認められない。君が……だって、彼を連れていくなんて……駄目だよ……」
「……そう……駄目なの。私と同じお兄さんなら、わかってくれると思ったのに。そのお兄さんに否定されちゃうと、ちょっと……残念ね」
混乱は、もうとっくに頂点だった。何度も頭打ちを繰り返し、それでもまだ収まる気配を見せない動悸と不安に潰されそうになりながら、僕は必死で両の足を折らずに保っている。こんな状態で、悠那ちゃんと対話をするのは苦しい。彼女は、眉一つ動かさずに平気そうな顔で話すのに。それなのに、僕の方は内心すぐにでも逃げ出したい衝動に襲われ続けて、なのにそれすらも適わずに釘づけでいた。
彼女がそっと表情を崩す。悲しそうに視線を落とし、焦点を合わせる先も見つけられないまま、目尻と眉を少しだけ下げて小さく呟く。
「ええ……実に、残念だわ」
今日僕と顔を合わせてからずっと帯びていた冷たさはそのままにしながら、今はそこに寂しさを重ねて纏い、その姿は言うなれば、究極的なまでに儚げで繊細なガラス細工のようだった。透き通った美しい存在は何者をも魅了し、先端に触れれば少々危なく、しかし実はとてつもなく脆い。そんな印象を、このときの彼女は僕に与えた。
「あの花――」
ああ、彼女の消え入りそうな細い声は、こんなにも恐ろしく、そして甘い。甘美な毒が心をかき乱す。これほどに甘い声を紡げる人に、僕はこれまで出会ったことがない。
「あの小さな花、思ったよりも、綺麗に咲いたわ。何ていう、花なのかしら」
僕は大きく唾を飲み込み、掠れないように注意深く答える。
「……僕も、わからないな。植物には詳しくなくて。でも、白い部屋だから、濃い赤が、よく映えるね」
「そうなのよ。蕾のまま萎れてしまわないで、よかったと思う。せめて、時がきて枯れてゆくまでくらいは、面倒を見てあげたい気になるわ。光をあげて、水を注いで……ね」
透き通るほどに、そして雪のように純白の指で、真紅の花弁をさらりと撫でる。翠緑の葉をパッと弾く。触れる手先からは愛しさが溢れていて、すぐにでも吸い込まれそうだ。
「永遠咲きの花なんて、この世にはないわ。そんなまがい物、花とは呼べないもの。花である限り、散り時は必ず訪れる。だったらその、美しい最後まで、私が隣にいてあげよう。そう思うの」
美しい最後……。それはきっと、彼女が望む終わりそのものだ。辿り着けば、自由と完成が手に入る。そう言って。
僕は、何かを言おうと思った。言わなければならないと思った。強い焦燥にかられながら、それに加えて、悲しそうな彼女の表情に耐えられなくなって。
でも、それでも僕は何も言えずにただ立ち尽くすだけで、自分がとても情けなかった。僕の口は、一ミリたりとも動かなかったのだ。
「ごめんね、お兄さん。今日は、ここまでみたい」
彼女は話を打ち切る。反応のない僕にとうとう飽きてしまったのか、気分がすぐれなくなったのか、理由は様々思いつくところだけれど、とにかく唐突だった。
「その……つまらなかった、かな」
「いいえ、そんなことない。興味深い意見だったわ。そうじゃないの」
ゆっくりと目を瞑りながら、一つだけ深く呼吸をして、纏う空気をフッと変えた。
次の瞬間、リズムの良い軽い音が二回、コンコンと部屋に響く。
「悠那、邪魔するよ」
ガラリと鳴って扉は開き、声の主は現れた。
すぐに悠那ちゃんは明るい挨拶を返す。
「いらっしゃい、桂兄」
僕が振り返った先にいたのは、彼女の兄であり僕の級友でもある、織戸桂祐くんであった。
「ん、詞くんか。度々見舞いにきてくれているそうだね。ありがとう、感謝するよ」
淡々と、しかしながらとても丁寧に、清潔な声で彼は話す。
「悠那、着替えを持ってきた。どこに置こうか?」
「うん、いつもありがとうね。部屋の隅にでも、置いておいてくれればいいよ」
桂祐くんは、小さめのボストンバッグを片手で持ち、軽々と指示通りに部屋の隅に置いた。手慣れた様子といった感じだ。僕はこの光景を初めて見るが、きっといつもこうやって、桂祐くんは悠那ちゃんの身の回りの世話をしているのだろう。
荷物を置いて手ぶらになってから、彼は両手を腰に当てつつ振り返り、僕に言う。
「もしかして、話の途中だったかな。悪かったよ」
まっすぐに僕を見ていて、その表情からは、ひたすらに誠実さが感じられた。
「いや、そんなことないよ。僕の方こそ、もうだいぶ長居しているんだ」
「そうか。ただ、俺はすぐ戻るから、まだまだ長居してもらって構わないが」
その様子からは、彼が僕の訪問を快く思っていてくれることがよくわかった。悠那ちゃんの話し相手になってほしいと言っていた彼は、僕を歓迎してくれている。
ただ、半ば打ち切りだったとはいえ、僕と悠那ちゃんの会話はもう既に終わっていた。僕の困惑という形で、停滞を見せていたのだ。
今日僕は、僕なりの考えを彼女に伝えた。しかし彼女にも彼女なりの考えがあり、互いの思考は納得がいくほど合致したとは言えない。
今の段階では、これ以上僕がここに残っても、おそらく沈黙しかできないだろうと思った。
「あるいは帰るのなら、途中まで一緒に行かないか」
「えっと……うん。そう、しようかな」
桂祐くんの提案に対し、僕は悠那ちゃんの顔色を気にしつつ同意をした。
「いいよ。送ってあげて」
彼女は嫌な顔一つせず、明朗に微笑む。
「お兄さん、とっても楽しい時間だったよ。ありがとう」
彼女にとっては、あの会話は不完全燃焼ではなかったのだろうか。僕はそれを気にしていたのだが、しかし楽しい時間だったと、彼女は言う。その真意はわからないけれども、彼女が僕の話したことを、少しでも真剣に考えてくれれば嬉しいと思った。
隣では桂祐くんが、部屋の備品などを確認し、次にくるときには何を持ってきたら良いかなどを整理していた。それを見る悠那ちゃんは、終始明るい声で答えつつ、彼とも少しだけ他愛のない会話をする。
そして、最後にこんなことを言うのだった。
「あのね……突然で悪いんだけど、これから少しの間、一人にしてほしいんだ」
ゆっくりと、刻むように一言一言、告げた。
「ああ、俺も詞くんももう帰るから、問題ないだろう?」
「ううん、違うの。少しっていうのは、数日間くらい。その……考える時間が、ほしくて」
「……何か、あったのか?」
桂祐くんはわずかに不安そうな顔をした。病人である妹が、しばらく見舞いにこないでくれと言うのだから、当然だろう。
けれども僕はそれを見て、彼女が今日の話をしっかり受け止めてくれたのかと思った。それについての思考をするために、時間がほしいと言っているのだと思った。
「ちょっとね。だから桂兄、悠斗にもここにはしばらくこないように言っておいて」
悠那ちゃんは、桂祐くんと話すときは相変わらず明るい。その屈託のない笑顔のためか、桂祐くんも必要以上に心配することはなく、そのまま話を進めていく。
「悠斗にもか。あいつは……素直に聞くか、わからないものだが」
「私が言ったって伝えれば、大丈夫だよ。だから、よろしくね」
「ふむ……。わかった。だが、あまりにも長くはいけないぞ。みんなが心配するからな」
「もちろん。気が済んだら、そのときにまた知らせるから。お兄さんもね。お姉さんに、また伝えておいて」
彼女は僕の方にも同様に笑いかけ、伝言を用意した。
先ほどまでとのギャップに若干戸惑いは隠せないが、僕は当たり触りのない同意を返す。
「……うん。けど、無理はしないでね」
こうして僕は病室を後にすることとなる。
去り際、悠那ちゃんははっきりと意志のこもった表情をして、こちらを向きつつ言葉を紡いだ。それは僕と桂祐くんの二人というよりも、明確に僕の方へ向かっての行為だったように感じた。
「ありがとう。私の答えが出る頃に、またきて頂戴ね」
目尻は穏やかに下がり、口元は品良く閉じられている。そこにはやはり、少女とは思えない大人っぽさ、艶やかさがあった。放つ雰囲気で伝わってくる。この言葉は、間違いなく“本当”だと。彼女は、いずれまた僕が、ここへくることを望んでいる。
もちろん僕だって、呼ばれれば飛んでやってくるつもりだ。もう僕は、彼女が死んでしまえば十分引きずる。それくらいの関係になってしまったし、だからこそ彼女の力になりたいとも思う。
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