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Menu 3『Dimbula』
『Dimbula』⑧
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あとになって気づいたのだが、オレは「明日の朝」と言っただけで時間の指定をしていなかった。相当テンパってたんだなと思いつつ、今更訂正なんて格好悪いこともできなくて、結局、翌朝に丘の上のカフェを訪れたのは午前六時だった。
ほどよく年季の入ったログハウス調の建物は朝日の下でいっそう垢抜けて見え、とても雰囲気を感じさせる。どうやら店名は『TEAS 4u』というらしく、開店時間は七時だそうだ。それすら調べずに一時間も早く来てしまったオレは、たぶん今日もテンパってる。
もう十月とはいえ、今年はまだいくらか暑かった。木陰を見つけて大人しく開店を待ち、一番客で恐る恐る扉を開ける。
すると意外にも店内にいたのは女の子一人だけで、黄色いスカーフの小動物めいたその子がトトッとこちらへ駆けてきた。大人びた店だと思っていたけど、まさかこんな若い女の子が店長? なんて疑問を一瞬浮かべ、いやたぶんウェイトレスだな、とすぐに思い直す。人を待ちたいという旨を伝えると一番奥のボックス席に通して、グラスに水を注いでくれた。
「では、ご注文はまたのちほどうかがいますね」
「あ、はい」
広めのソファで肩をすぼめつつ、水を飲んだりメニューを眺めたりしながら過ごす。さて、待つとして、オレはいったい何時まで待つことになるだろう。九時か、十時か。何しろ今日のはあくまで『お誘い』であって『約束』ではない。マリ姉が来ない可能性だってあるわけだ。あまり考えたくはないけど、もし十二時まで待って来なければ……。
と、そのとき、店の入口の方でウェイトレスの声がする。
「あれっ、麻理子先生!?」
聞こえた名前にオレの身体がガタッと跳ねた。席から身を乗り出して視線を向けると、そこには確かにマリ姉がいる。そしてマリ姉もマリ姉で、出迎えのウェイトレスを見て驚いていた。
「え、伏見さん!? ということは……あなたがバイトをしているカフェというのは、もしかしてここなのですか?」
「そうですけど……先生こそ、なんでここに?」
「いえ、あの、私はちょっと、待ち合わせで……」
そこまで言いかけてから、マリ姉は慌てて口を噤んだ。
けれど待ち合わせという言葉をしっかりと聞いてしまったウェイトレスは、ぐるりとオレの方へ首を捻る。その顔には、無邪気な好奇心が惜しみなく貼り付いていて。
「あっ! じゃあじゃあ、麻理子先生の待ち合わせって、もしかして!」
そしてオレは、今になってその弾んだ声に聞き覚えがあると気がついた。これはいつだか学校の屋上でマリ姉と話していた女子生徒の声だ。
ウェイトレスは戸惑うマリ姉の手を取ると、嬉しそうに目を輝かせて言った。
「なぁんだー! 彼氏じゃないって言ったのにー! デートですか? ってことは、あの人が例の、麻理子先生の好きなピアノを弾くっていう、想い人さんですね!」
一応は声を潜ませているつもりなのだろうが、思いっきり弾んだ高い声はどうしたってオレのほうまで聞こえてくる。そのまま手を引かれてきたマリ姉の、紅潮した顔をあからさまに背ける様子を目にするにつけ、もちろんオレも同じようにするしかなかった。
ウェイトレスに促されておずおずと向かいの席に座るマリ姉。
当然、この二人が顔見知りであろうことはオレからも既に察しがついているので、流れで互いの自己紹介となる。ウェイトレスは伏見菜乃花という同じ学校の三年生だそうだ。オレたちはどちらも相手の学年を聞いて「先輩!?」「後輩!?」と驚きの声を上げた。
「えー。君、二年生なんだ。すっごい背高いし、大学生かと思っちゃった」
そういう先輩はちょっと子供っぽいし中学生かと思いました、というオレの感想は思うだけにして愛想笑いを返しておく。
先輩はマリ姉の隣の席に滑り込みながら、またも全然忍んでいない忍び声で言った。
「ていうか、まさか麻理子先生の好きな人が年下だとは思いませんでしたよ! しかも高二って、結構離れてますよね。えっと、先生からだと……確か六つ? そう六つ下!」
「ち、ちょっと伏見さん! あの、歳を数えないでください! 私だって気にしているんですよ。こんなに離れた下の子相手に、自分が釣り合うのかどうか……」
端から順に指を折る先輩の手を、マリ姉は隠すようにぎゅっと握る。この会話がオレに丸聞こえなのをわかっているからか、目をぐるぐるさせながら「そうです水! 伏見さん、水をください。私の分の!」と先輩の離席を促した。
そしてようやく二人だけになってから、マリ姉は申し訳なさそうにこちらを向いて座り直す。
「……すみません。伏見さんは、決して悪い子ではないんですが」
「うん、まあわかるよ。別にマリ姉が謝るようなことじゃないって」
たぶんああいう真っ直ぐな子は、好きな人ができたらオレみたいに悩んだりせずすぐに言えるんだろう。そう思ってオレが笑うと、マリ姉の強張った顔も少しだけ和らぐ。
「それで、ですね。ユウくんは、今日のデートで決めてほしいと言いましたが……実は、私の答えはもう決まっているんです。さっきので……わかってしまったかと、思いますが」
「……うん」
「えっと……私も、ユウくんのことが……好きです」
その言葉を聞いた途端、身体の中に燻っていた不安が洗われるように溶け消えていくのを、オレは感じた。あんなにずっと遠かったマリ姉が今、やっと初めて、目の前にいる。届くほど、触れられるほど近くにいて、真っ直ぐにオレを見つめている。
「ひゅー!」
直後、まるでこのタイミングを見計らっていたかのように戻ってきた先輩が、席の横でオレたちを囃し立てた。水の入ったグラスを素早くテーブルに置くと、勢いよくマリ姉の首に抱きついて、この場の誰よりも嬉しそうに笑う。
「やったー先生、やったねー! おめでとー!」
「わ、伏見さん、あの……わぁ!」
頬を擦りつけられて髪が乱れるのを、マリ姉が少しくすぐったそうに気にしている。慣れない女子同士のやりとりにオレの身体は思わず遠ざかり……それと同時に、先輩の肩に無言で手を置く誰かの姿が見えた。
「おい菜乃花」
「ひ、ひゃい!」
いつの間に現れたのだろう、先輩の背後に立つその人はベストとエプロンをばっちり着こなした、一見してこの店のマスターとわかる風貌の男性だった。
「お前何してんだ」
「あ、えと……ちょっと知り合いがお店に来たから、お席にご案内して……」
「ほう……」呟くマスターはオレたちの方を丁寧に見遣って言う。
「菜乃花。カフェ店員の心得第七条、復唱!」
「え、あ……お、お客さんの事情には極力立ち入らない!」
「よし、ケーキができたからショーケースに並べて。あと皿を洗え」
「はいっ!」
迅速な業務命令によって先輩がカウンターへと強制送還。
残ったマスターは柔らかな笑みを浮かべながら、改めてオレたちを見て腰を折った。
「申し訳ありません、うちのバイトがご迷惑を。それと、僕も一部聞き及んでしまったのですが、もしお二人の間に何かありましたら、責任を取ってうちのバイトを辞めさせますので」
述べられた謝辞があまりにも爽やかで、オレとマリ姉はぽかんとした顔をするばかり。カウンターの向こうでせっせとケーキを運んでいる先輩だけが「えっ! やだやだ! 辞めさせないで!」と忙しなく喚いた。マスターがこれ以上ないくらい慣れた様子でそれをスルーし。
「とはいえ、他人の秘密を外でぽろっと喋ってしまうような店員は、うちのカフェにはおりません。ここはお客さんに気兼ねなく安らいで頂ける憩いの場。誓って、こんなにもお似合いのお二人に水を差すようなことは」
あまりにも自然に「お似合いのお二人」なんて言われ固まってしまったオレたちに、マスターはこれまた自然に話題を差し替え「ところで、ご注文はお決まりですか?」と尋ねた。
オレとマリ姉は慌ててメニューを取り出して広げる。そこに並んでいるたくさんのカタカナを見てもオレには何もわからないのだが、とりあえず、さっきから興奮してばかりなので。
「できれば、冷たいのがいいな」
「そう、ですね。私もちょっと、暑いですし」
だろうと思う。あれだけ何度も顔を赤くしていれば。
「マスターさん、アイスティーもあるみたいですけど……えっと、正直なところ、どうなんでしょう。こういう本格的なお店では、やはりアイスティーは勧められないものですか?」
するとその質問にマスターは、おや、という顔を見せた。
「よくご存知ですね。確かに紅茶の本場イギリスでは、紅茶はホットで飲むものとして主に認識されていますが……大丈夫ですよ。全ての銘柄ではありませんが、アイスティーに向いたものもございますので、それにてご提供させて頂きます」
答え、カウンターへ向かって「アイス二つ」とだけ告げたマスターは、先輩が棚の上にある金属の缶に手を伸ばすのを見届けると、もう一度こちらを振り返った。
「それから、もしよろしければ……席を移られるのはいかがでしょう?」
注文の品を待つ間、マスターの思いがけない提案で移った先は、この店の西側に位置する野外のバルコニー席だった。店内から扉をくぐると木製の階段が下に延びており、敷き詰められた白砂の上にこぢんまりとした丸テーブルと椅子が並べられている。正面には俯瞰の街が広く見渡せ、それ以外はわずかに色づき始めたカエデの葉に囲まれた、完全プライベート空間だ。
オレたちが席を立つのと入れ替わりで店を訪れる客も何人かいた。そろそろ混み始める時間帯だったようで、非常にありがたい提案だった。
「この席なら、誰かに見られることはまず、ありませんね」
木々の間から降る光をその白い?で明滅させ、穏やかな声でマリ姉が言う。
「私……ユウくんに好きって言ってもらえてすごく嬉しかったし、私のさっきの答えも、嘘偽りのない本心でした」
「うん」
「でも、私たちの関係を、周りはきっと、許してはくれないでしょうね」
「……うん」
異論は、唱えられなかった。正直、オレはマリ姉に告白することばかりを考えていて、そのあとのことなんて全然見えてなかったのだ。もちろん告白するからにはいい返事を聞きたかった。だけど実際に望む返事を聞いた今、オレたちはめでたく付き合えるだろうか?
いいや。だって今のオレたちは、同じ学校の生徒と教師。これってたぶん、典型的なアウトのやつ。しかもこの件でより大きなリスクを負うのは新任教師であるマリ姉のほうだ。
互いに好きだと知ることができた喜びは消えないまでも、オレとマリ姉は二人で少し浮かない顔になる。夏の名残を思わせる緑の匂いが、頬を撫でてか細く鼻に抜けていく。
「オレの告白は、ちょっと向こう見ずすぎたね」
「いいえ。さっきも言った通り、ユウくんの告白は純粋に嬉しかったんです。それに、本来なら年長者である私のほうが注意を促すべきだったと思いますが、つい舞い上がってしまって……今日もこうして、会いに来てしまいました」
「ううん……来てくれてオレ、嬉しかったよ。それを言うなら、家の外でこんな話しようとしたオレだって悪いしさ」
今にして思えば、格好つけてカフェなんかに呼び出すより、もっと考えるべきことはあった。
「じゃあ、お互い様でしょうか。偶然とはいえ、ここで伏見さんに会ったのは、よかったのかもしれませんね。自覚なしに危ないことをしている自分たちに気づけて」
「うん。そうかも」
「伏見さんなら、私たちのことを誰かに言ったりはしないでしょうし」
「まあここのマスターにも止められてたしね」
「ええ。それにもともと、信頼できる子です。誰か知らない人に見られるよりも、よっぽどよかったと思います」
「……そっか」
マリ姉は小さく頷いてから、おずおずと言いにくそうに先を続ける。
「ただ、そういうわけですので……今日のデートはやめておいたほうがいいかと」
ま……そりゃそうだ。けど、わかってはいても元気よく返事なんてできなくて、オレは鈍く、無言で首を縦に振ることしかできなかった。
ちょうどそのとき、階段の方で足音がする。お盆を片手に、現れたのはマスターだ。
「お待たせ致しました」
慣れた手つきで二つのコースターをテーブルに並べ、その上に長身のグラスをコトリと置く。
「こちら、アイスのディンブラでございます」
薄手で透明感のある円筒形のグラス。結露で霞んだ花柄の向こう側に、赤く生き生きとした紅茶が煌めいている。その中で崩れた氷が、鈴のように高く鳴った。
そうしてテーブルから一歩退いて立ち去ろうとしたマスターが、けれどそこでまた、おや、という顔を見せる。おそらく、二人して俯いているオレとマリ姉を見たからだろう。マスターはしばらくその場で立ったまま目を瞑って、やがて妙に明るい声を出した。
「せっかくですので、ご注文の際のお話の、続きをさせて頂いてもよろしいでしょうか」
よく通る、しかし和やかで耳に心地よいその声に、オレとマリ姉の顔が自然と上がる。
「こちらの『アイスティー』というものは、元来、イギリスの紅茶文化には存在しないものでした。それが生まれたのは一九〇四年のアメリカ、セントルイスの万博でのこと。会場で商人が『熱い紅茶は健康によい』と呼びかけていたのですが、あいにくと時期は七月の真夏で……当然、群衆は横目で通り過ぎるばかりでした。これに嘆いた商人がやがて、一つの案を思いつきます。いれたての紅茶に氷を落とし『冷たい紅茶はいかが』と呼び込んだのです。するとお店はたちどころに大繁盛! というのがきっかけだったらしいのですが、ご存知でしたか?」
いや……マリ姉ならともかく、オレはそんな話、知るわけない。ぽかんとしながらマリ姉の顔を見て、しかし向こうが首を緩く横に振るので、オレも同じようにしてみせた。
マスターはオレたちを交互に見て、そして続ける。
「それから約百年が経った今、アイスティーはこの通り、世界各国で受け入れられるようになりました。当初はアイスティーを邪道としていたイギリスでも、ここ数年で次第に広まり始めています。寒さを暖めてくれるホットティーは格別ですが、熱さを冷ましてくれるアイスティーもまた、素晴らしい。ですから僕は思います。よいものは消えません。よいものはたとえ時間がかかったとしても残り、広まり、受け入れられる。そしてそれは、お二人の関係も同じでしょう。それが残るべき素晴らしい関係なら、いずれは周りも認めることになる。きっと百年もかかりません。もっと早く、例えばそう、高校二年生の少年が卒業を迎える一年半後には――」
マスターがその言葉を、言い終えるか、終えないか。ほとんど同時にオレの視界に光が差した。天を覆って揺れる木々の、その隙間からまっすぐにこの場を照らす、太陽の光が。
「お二人は、今はまだ付き合うことができないかもしれませんが、好き合うことはできるはずです。想い合える相手がいるのは、とても幸せなことですよ。今から卒業までの間だけは、その想いを互いの胸の中でそっと、大切に育めばいい」
周囲の葉のさざめきを排していっそう、マスターの優しい声が耳に届く。
「そして、どうでしょう。もしお二人が関係を秘するのにお疲れになったそのときこそ、再び当店にお越しくださるというのは。うちのバイトが首を突っ込んでしまったお詫び、というわけではありませんが、いつでもこのバルコニー席をご提供させて頂きます」
まるで舞台の口上のように恭しくそう述べたマスターは、今一度、にこりと笑って礼をした。
やがて音もなく踵を返し、屋内へと戻っていく。そのマスターの後ろ姿とすれ違うように、大気に乗った湿気を払う心地よい秋の風が吹き抜けた。
ああ、今日は、まだ暑い。でも季節は確実に先へと進んでいる。そうだ。そうしてゆっくりでも時が経てば、オレとマリ姉はいずれ生徒と教師ではなくなる。オレは高校生という立場を終えて、マリ姉にとって子供じゃなくなって、そして二人は、ただの男と女になって――。
もしかしたら、マリ姉も同じようなことを、考えていたのかもしれない。風に流れた髪を整えながら、瞼を閉じてそっと言った。
「ここは、とてもいいお店ですね。あと、マスターさんも」
「うん。ただの蘊蓄とセールストークのような気もしたけど、なんだか励ましてもらったね」
「ええ」と答えるマリ姉は、オレの左手を包むように両手を重ねる。
「今思い出したんですけど、私、ずっと昔から、ユウくんと同じ学校に通ってみたいなと思っていたんですよね」
「いや、それ思い出したんじゃなくて今作ったでしょ」
オレの指摘に、マリ姉はくすぐったそうに「ふふっ」と微笑む。
「生徒同士じゃなくて生徒と教師ですけど、いつの間にか、もう希望は叶っていました。ねぇユウくん。それも残り、一年半……たった一年半ですよ? 限られたその時間を、私は楽しめるとすら思います。ですからユウくんも、ただ待つだけじゃなくて楽しみましょう。もちろんちゃんと、節度を持って」
「うん。そんで、どうしても我慢できなくなったら……また、ここに来たいな」
「そうですね。もう少しの間、私とユウくんはこの席に来たときだけの“お付き合い”です」
そう言って、マリ姉が紅茶に手を伸ばすので、オレも同じようにグラスを取った。煌めく水面が、薄いカーテンのように降り注ぐ光を集めて、赤く染める。
紅茶は見た目の印象そのままに透き通った口当たりで、適度に渋く、苦味もあった。けれど唇の熱を急速に奪われるきりっとした瑞々しさを感じながら飲み下すと、そのあとにははっきりとした甘味が残った。喉越しのよさに背中を押されて、グラスは徐々に傾いていく。
苦味と甘味。繰り返される。
うん、きっとこれは――オレたち二人の未来の味に、違いない。
ほどよく年季の入ったログハウス調の建物は朝日の下でいっそう垢抜けて見え、とても雰囲気を感じさせる。どうやら店名は『TEAS 4u』というらしく、開店時間は七時だそうだ。それすら調べずに一時間も早く来てしまったオレは、たぶん今日もテンパってる。
もう十月とはいえ、今年はまだいくらか暑かった。木陰を見つけて大人しく開店を待ち、一番客で恐る恐る扉を開ける。
すると意外にも店内にいたのは女の子一人だけで、黄色いスカーフの小動物めいたその子がトトッとこちらへ駆けてきた。大人びた店だと思っていたけど、まさかこんな若い女の子が店長? なんて疑問を一瞬浮かべ、いやたぶんウェイトレスだな、とすぐに思い直す。人を待ちたいという旨を伝えると一番奥のボックス席に通して、グラスに水を注いでくれた。
「では、ご注文はまたのちほどうかがいますね」
「あ、はい」
広めのソファで肩をすぼめつつ、水を飲んだりメニューを眺めたりしながら過ごす。さて、待つとして、オレはいったい何時まで待つことになるだろう。九時か、十時か。何しろ今日のはあくまで『お誘い』であって『約束』ではない。マリ姉が来ない可能性だってあるわけだ。あまり考えたくはないけど、もし十二時まで待って来なければ……。
と、そのとき、店の入口の方でウェイトレスの声がする。
「あれっ、麻理子先生!?」
聞こえた名前にオレの身体がガタッと跳ねた。席から身を乗り出して視線を向けると、そこには確かにマリ姉がいる。そしてマリ姉もマリ姉で、出迎えのウェイトレスを見て驚いていた。
「え、伏見さん!? ということは……あなたがバイトをしているカフェというのは、もしかしてここなのですか?」
「そうですけど……先生こそ、なんでここに?」
「いえ、あの、私はちょっと、待ち合わせで……」
そこまで言いかけてから、マリ姉は慌てて口を噤んだ。
けれど待ち合わせという言葉をしっかりと聞いてしまったウェイトレスは、ぐるりとオレの方へ首を捻る。その顔には、無邪気な好奇心が惜しみなく貼り付いていて。
「あっ! じゃあじゃあ、麻理子先生の待ち合わせって、もしかして!」
そしてオレは、今になってその弾んだ声に聞き覚えがあると気がついた。これはいつだか学校の屋上でマリ姉と話していた女子生徒の声だ。
ウェイトレスは戸惑うマリ姉の手を取ると、嬉しそうに目を輝かせて言った。
「なぁんだー! 彼氏じゃないって言ったのにー! デートですか? ってことは、あの人が例の、麻理子先生の好きなピアノを弾くっていう、想い人さんですね!」
一応は声を潜ませているつもりなのだろうが、思いっきり弾んだ高い声はどうしたってオレのほうまで聞こえてくる。そのまま手を引かれてきたマリ姉の、紅潮した顔をあからさまに背ける様子を目にするにつけ、もちろんオレも同じようにするしかなかった。
ウェイトレスに促されておずおずと向かいの席に座るマリ姉。
当然、この二人が顔見知りであろうことはオレからも既に察しがついているので、流れで互いの自己紹介となる。ウェイトレスは伏見菜乃花という同じ学校の三年生だそうだ。オレたちはどちらも相手の学年を聞いて「先輩!?」「後輩!?」と驚きの声を上げた。
「えー。君、二年生なんだ。すっごい背高いし、大学生かと思っちゃった」
そういう先輩はちょっと子供っぽいし中学生かと思いました、というオレの感想は思うだけにして愛想笑いを返しておく。
先輩はマリ姉の隣の席に滑り込みながら、またも全然忍んでいない忍び声で言った。
「ていうか、まさか麻理子先生の好きな人が年下だとは思いませんでしたよ! しかも高二って、結構離れてますよね。えっと、先生からだと……確か六つ? そう六つ下!」
「ち、ちょっと伏見さん! あの、歳を数えないでください! 私だって気にしているんですよ。こんなに離れた下の子相手に、自分が釣り合うのかどうか……」
端から順に指を折る先輩の手を、マリ姉は隠すようにぎゅっと握る。この会話がオレに丸聞こえなのをわかっているからか、目をぐるぐるさせながら「そうです水! 伏見さん、水をください。私の分の!」と先輩の離席を促した。
そしてようやく二人だけになってから、マリ姉は申し訳なさそうにこちらを向いて座り直す。
「……すみません。伏見さんは、決して悪い子ではないんですが」
「うん、まあわかるよ。別にマリ姉が謝るようなことじゃないって」
たぶんああいう真っ直ぐな子は、好きな人ができたらオレみたいに悩んだりせずすぐに言えるんだろう。そう思ってオレが笑うと、マリ姉の強張った顔も少しだけ和らぐ。
「それで、ですね。ユウくんは、今日のデートで決めてほしいと言いましたが……実は、私の答えはもう決まっているんです。さっきので……わかってしまったかと、思いますが」
「……うん」
「えっと……私も、ユウくんのことが……好きです」
その言葉を聞いた途端、身体の中に燻っていた不安が洗われるように溶け消えていくのを、オレは感じた。あんなにずっと遠かったマリ姉が今、やっと初めて、目の前にいる。届くほど、触れられるほど近くにいて、真っ直ぐにオレを見つめている。
「ひゅー!」
直後、まるでこのタイミングを見計らっていたかのように戻ってきた先輩が、席の横でオレたちを囃し立てた。水の入ったグラスを素早くテーブルに置くと、勢いよくマリ姉の首に抱きついて、この場の誰よりも嬉しそうに笑う。
「やったー先生、やったねー! おめでとー!」
「わ、伏見さん、あの……わぁ!」
頬を擦りつけられて髪が乱れるのを、マリ姉が少しくすぐったそうに気にしている。慣れない女子同士のやりとりにオレの身体は思わず遠ざかり……それと同時に、先輩の肩に無言で手を置く誰かの姿が見えた。
「おい菜乃花」
「ひ、ひゃい!」
いつの間に現れたのだろう、先輩の背後に立つその人はベストとエプロンをばっちり着こなした、一見してこの店のマスターとわかる風貌の男性だった。
「お前何してんだ」
「あ、えと……ちょっと知り合いがお店に来たから、お席にご案内して……」
「ほう……」呟くマスターはオレたちの方を丁寧に見遣って言う。
「菜乃花。カフェ店員の心得第七条、復唱!」
「え、あ……お、お客さんの事情には極力立ち入らない!」
「よし、ケーキができたからショーケースに並べて。あと皿を洗え」
「はいっ!」
迅速な業務命令によって先輩がカウンターへと強制送還。
残ったマスターは柔らかな笑みを浮かべながら、改めてオレたちを見て腰を折った。
「申し訳ありません、うちのバイトがご迷惑を。それと、僕も一部聞き及んでしまったのですが、もしお二人の間に何かありましたら、責任を取ってうちのバイトを辞めさせますので」
述べられた謝辞があまりにも爽やかで、オレとマリ姉はぽかんとした顔をするばかり。カウンターの向こうでせっせとケーキを運んでいる先輩だけが「えっ! やだやだ! 辞めさせないで!」と忙しなく喚いた。マスターがこれ以上ないくらい慣れた様子でそれをスルーし。
「とはいえ、他人の秘密を外でぽろっと喋ってしまうような店員は、うちのカフェにはおりません。ここはお客さんに気兼ねなく安らいで頂ける憩いの場。誓って、こんなにもお似合いのお二人に水を差すようなことは」
あまりにも自然に「お似合いのお二人」なんて言われ固まってしまったオレたちに、マスターはこれまた自然に話題を差し替え「ところで、ご注文はお決まりですか?」と尋ねた。
オレとマリ姉は慌ててメニューを取り出して広げる。そこに並んでいるたくさんのカタカナを見てもオレには何もわからないのだが、とりあえず、さっきから興奮してばかりなので。
「できれば、冷たいのがいいな」
「そう、ですね。私もちょっと、暑いですし」
だろうと思う。あれだけ何度も顔を赤くしていれば。
「マスターさん、アイスティーもあるみたいですけど……えっと、正直なところ、どうなんでしょう。こういう本格的なお店では、やはりアイスティーは勧められないものですか?」
するとその質問にマスターは、おや、という顔を見せた。
「よくご存知ですね。確かに紅茶の本場イギリスでは、紅茶はホットで飲むものとして主に認識されていますが……大丈夫ですよ。全ての銘柄ではありませんが、アイスティーに向いたものもございますので、それにてご提供させて頂きます」
答え、カウンターへ向かって「アイス二つ」とだけ告げたマスターは、先輩が棚の上にある金属の缶に手を伸ばすのを見届けると、もう一度こちらを振り返った。
「それから、もしよろしければ……席を移られるのはいかがでしょう?」
注文の品を待つ間、マスターの思いがけない提案で移った先は、この店の西側に位置する野外のバルコニー席だった。店内から扉をくぐると木製の階段が下に延びており、敷き詰められた白砂の上にこぢんまりとした丸テーブルと椅子が並べられている。正面には俯瞰の街が広く見渡せ、それ以外はわずかに色づき始めたカエデの葉に囲まれた、完全プライベート空間だ。
オレたちが席を立つのと入れ替わりで店を訪れる客も何人かいた。そろそろ混み始める時間帯だったようで、非常にありがたい提案だった。
「この席なら、誰かに見られることはまず、ありませんね」
木々の間から降る光をその白い?で明滅させ、穏やかな声でマリ姉が言う。
「私……ユウくんに好きって言ってもらえてすごく嬉しかったし、私のさっきの答えも、嘘偽りのない本心でした」
「うん」
「でも、私たちの関係を、周りはきっと、許してはくれないでしょうね」
「……うん」
異論は、唱えられなかった。正直、オレはマリ姉に告白することばかりを考えていて、そのあとのことなんて全然見えてなかったのだ。もちろん告白するからにはいい返事を聞きたかった。だけど実際に望む返事を聞いた今、オレたちはめでたく付き合えるだろうか?
いいや。だって今のオレたちは、同じ学校の生徒と教師。これってたぶん、典型的なアウトのやつ。しかもこの件でより大きなリスクを負うのは新任教師であるマリ姉のほうだ。
互いに好きだと知ることができた喜びは消えないまでも、オレとマリ姉は二人で少し浮かない顔になる。夏の名残を思わせる緑の匂いが、頬を撫でてか細く鼻に抜けていく。
「オレの告白は、ちょっと向こう見ずすぎたね」
「いいえ。さっきも言った通り、ユウくんの告白は純粋に嬉しかったんです。それに、本来なら年長者である私のほうが注意を促すべきだったと思いますが、つい舞い上がってしまって……今日もこうして、会いに来てしまいました」
「ううん……来てくれてオレ、嬉しかったよ。それを言うなら、家の外でこんな話しようとしたオレだって悪いしさ」
今にして思えば、格好つけてカフェなんかに呼び出すより、もっと考えるべきことはあった。
「じゃあ、お互い様でしょうか。偶然とはいえ、ここで伏見さんに会ったのは、よかったのかもしれませんね。自覚なしに危ないことをしている自分たちに気づけて」
「うん。そうかも」
「伏見さんなら、私たちのことを誰かに言ったりはしないでしょうし」
「まあここのマスターにも止められてたしね」
「ええ。それにもともと、信頼できる子です。誰か知らない人に見られるよりも、よっぽどよかったと思います」
「……そっか」
マリ姉は小さく頷いてから、おずおずと言いにくそうに先を続ける。
「ただ、そういうわけですので……今日のデートはやめておいたほうがいいかと」
ま……そりゃそうだ。けど、わかってはいても元気よく返事なんてできなくて、オレは鈍く、無言で首を縦に振ることしかできなかった。
ちょうどそのとき、階段の方で足音がする。お盆を片手に、現れたのはマスターだ。
「お待たせ致しました」
慣れた手つきで二つのコースターをテーブルに並べ、その上に長身のグラスをコトリと置く。
「こちら、アイスのディンブラでございます」
薄手で透明感のある円筒形のグラス。結露で霞んだ花柄の向こう側に、赤く生き生きとした紅茶が煌めいている。その中で崩れた氷が、鈴のように高く鳴った。
そうしてテーブルから一歩退いて立ち去ろうとしたマスターが、けれどそこでまた、おや、という顔を見せる。おそらく、二人して俯いているオレとマリ姉を見たからだろう。マスターはしばらくその場で立ったまま目を瞑って、やがて妙に明るい声を出した。
「せっかくですので、ご注文の際のお話の、続きをさせて頂いてもよろしいでしょうか」
よく通る、しかし和やかで耳に心地よいその声に、オレとマリ姉の顔が自然と上がる。
「こちらの『アイスティー』というものは、元来、イギリスの紅茶文化には存在しないものでした。それが生まれたのは一九〇四年のアメリカ、セントルイスの万博でのこと。会場で商人が『熱い紅茶は健康によい』と呼びかけていたのですが、あいにくと時期は七月の真夏で……当然、群衆は横目で通り過ぎるばかりでした。これに嘆いた商人がやがて、一つの案を思いつきます。いれたての紅茶に氷を落とし『冷たい紅茶はいかが』と呼び込んだのです。するとお店はたちどころに大繁盛! というのがきっかけだったらしいのですが、ご存知でしたか?」
いや……マリ姉ならともかく、オレはそんな話、知るわけない。ぽかんとしながらマリ姉の顔を見て、しかし向こうが首を緩く横に振るので、オレも同じようにしてみせた。
マスターはオレたちを交互に見て、そして続ける。
「それから約百年が経った今、アイスティーはこの通り、世界各国で受け入れられるようになりました。当初はアイスティーを邪道としていたイギリスでも、ここ数年で次第に広まり始めています。寒さを暖めてくれるホットティーは格別ですが、熱さを冷ましてくれるアイスティーもまた、素晴らしい。ですから僕は思います。よいものは消えません。よいものはたとえ時間がかかったとしても残り、広まり、受け入れられる。そしてそれは、お二人の関係も同じでしょう。それが残るべき素晴らしい関係なら、いずれは周りも認めることになる。きっと百年もかかりません。もっと早く、例えばそう、高校二年生の少年が卒業を迎える一年半後には――」
マスターがその言葉を、言い終えるか、終えないか。ほとんど同時にオレの視界に光が差した。天を覆って揺れる木々の、その隙間からまっすぐにこの場を照らす、太陽の光が。
「お二人は、今はまだ付き合うことができないかもしれませんが、好き合うことはできるはずです。想い合える相手がいるのは、とても幸せなことですよ。今から卒業までの間だけは、その想いを互いの胸の中でそっと、大切に育めばいい」
周囲の葉のさざめきを排していっそう、マスターの優しい声が耳に届く。
「そして、どうでしょう。もしお二人が関係を秘するのにお疲れになったそのときこそ、再び当店にお越しくださるというのは。うちのバイトが首を突っ込んでしまったお詫び、というわけではありませんが、いつでもこのバルコニー席をご提供させて頂きます」
まるで舞台の口上のように恭しくそう述べたマスターは、今一度、にこりと笑って礼をした。
やがて音もなく踵を返し、屋内へと戻っていく。そのマスターの後ろ姿とすれ違うように、大気に乗った湿気を払う心地よい秋の風が吹き抜けた。
ああ、今日は、まだ暑い。でも季節は確実に先へと進んでいる。そうだ。そうしてゆっくりでも時が経てば、オレとマリ姉はいずれ生徒と教師ではなくなる。オレは高校生という立場を終えて、マリ姉にとって子供じゃなくなって、そして二人は、ただの男と女になって――。
もしかしたら、マリ姉も同じようなことを、考えていたのかもしれない。風に流れた髪を整えながら、瞼を閉じてそっと言った。
「ここは、とてもいいお店ですね。あと、マスターさんも」
「うん。ただの蘊蓄とセールストークのような気もしたけど、なんだか励ましてもらったね」
「ええ」と答えるマリ姉は、オレの左手を包むように両手を重ねる。
「今思い出したんですけど、私、ずっと昔から、ユウくんと同じ学校に通ってみたいなと思っていたんですよね」
「いや、それ思い出したんじゃなくて今作ったでしょ」
オレの指摘に、マリ姉はくすぐったそうに「ふふっ」と微笑む。
「生徒同士じゃなくて生徒と教師ですけど、いつの間にか、もう希望は叶っていました。ねぇユウくん。それも残り、一年半……たった一年半ですよ? 限られたその時間を、私は楽しめるとすら思います。ですからユウくんも、ただ待つだけじゃなくて楽しみましょう。もちろんちゃんと、節度を持って」
「うん。そんで、どうしても我慢できなくなったら……また、ここに来たいな」
「そうですね。もう少しの間、私とユウくんはこの席に来たときだけの“お付き合い”です」
そう言って、マリ姉が紅茶に手を伸ばすので、オレも同じようにグラスを取った。煌めく水面が、薄いカーテンのように降り注ぐ光を集めて、赤く染める。
紅茶は見た目の印象そのままに透き通った口当たりで、適度に渋く、苦味もあった。けれど唇の熱を急速に奪われるきりっとした瑞々しさを感じながら飲み下すと、そのあとにははっきりとした甘味が残った。喉越しのよさに背中を押されて、グラスは徐々に傾いていく。
苦味と甘味。繰り返される。
うん、きっとこれは――オレたち二人の未来の味に、違いない。
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