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○屋上(夕方)
 未來は屋上に寝っ転がる美月を見つける。
未來「なにやってんだよ。」
美月「うん?」
  未來のほうに目をやる美月。
未來「ここは俺の場所だぞ」
美月「おっ未來か?」
  あくびをしながら起き上がる美月。
未來「おう」
美月「今日も良い天気だな」
未來「うん」
美月「風も気持ちいいし、サイコーだな」
未來「うん」
  風で髪がなびく美月。
未來「美月っ」
美月「んっ?」
未來「さっきはありがと、ピアノ弾いてくれて」
美月「そんな事、お安い御用だ」
未來「あとさ……」
美月「なんだ」
未來「歌、歌ってる時さ、歌いはじめは怖くて会場が見えなくて」
美月「そうだったのか?」
未來「そう。だけど最後の方で目を開けて観客のほうを見たんだ。」
美月「どうだった?」
未來「俺だけじゃなかった、ひとりじゃなかったよ」
  ニコリ嬉そうに未來を見る美月。
未來「俺の歌を聴いてさ、泣いてる人たちがいた」
美月「そうか」
未來「自分でもびっくりした。」
美月「そうか、そうか……俺の言った通りだっただろ」
未來「うん。」
  うなずく未來。
美月「お前がひとりを感じてるって事はさ、ずっと、ずーっと俺はお前の傍にいても透明人間だったって事だろ」
  フェンス越しにグランドを見下ろす美月。
未來「そんなこと……」
美月「正直、ずっと悲しかったぞ」
未來「ごめん……」
美月「どうして、謝る」
未來「だって……」
  未來の方を見る美月。
美月「謝らなければならないのは俺の方だ。やっぱり、俺は未來本人じゃないからすべてをわかってあげられない。」
未來「そんなこと……」
美月「お前の事、誰かになにを言われても信じ抜きたい。味方でいてやりたい。そう決めたはずなのに『またアイツは……』って心のどこかでお前を疑っていた。ずっと、ひとりを感じさせてしまっていたのは、俺の弱さのせいだ。すまない。」
未來「もういいよ。」
  右手で目を伏せ、頭を下げる美月。
未來「俺だってほんとは、参観日も運動会もぜんぶ美月が来てくれたから寂しくなんかなかったし悲しくもなかった。それなのに素直にありがとって言えない自分がいた。素直に喜べよな、メチャクチャ失礼な奴だよ、俺は。」
美月「それは違う。」
未來「えっ?」
美月「そう思う事は仕方ない事だ。俺はお前の本当の父親でもなければ母親でもない……ただの叔父さんだからな。どう足掻いたところで二人には敵わない。だけどな、未來」
 突然、グランドに叫び出す美月。
美月「俺は未來が大好きだー」
未來「なに言ってんだよ」
美月「この気持ちだけは、これからも変わらない。」
未來「バッカじゃねーの」
美月「その事だけは忘れないでいてくれ。」
未來「……わかった、……ありがと。」
美月「おうっ」
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