転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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二日目 ふたり

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 目が覚めると朝だった。
 気がかりな、夢の残滓は忽ち失せる。物悲しい思いで深呼吸をひとつ。
 俺が十二歳から入寮した王立学園寄宿舎では、誰だろうと分け隔てなく二人部屋での共同生活を送る。寮ではいつもどこかしらに人の気配が有るし、寝ぼけたルームメイトが布団に入ってくるなんて事も一度や二度は経験するものだ。
 もしいつもより狭い布団がやたらと温いと感じたのなら、自分以外の熱源の存在を覚悟した方がいい。

「おはようラウル」

 眼前には俺の寝顔を笑顔で眺めるヒーローさまの尊い寝起きスチル。BGMは小鳥の囀り。
 俺の覚悟は出来ていたとも。
 だがそれは、モテ男のトロ甘♡朝チュンビジュを拝む覚悟とは違った。だのに容赦なく、セドリックは新妻でも愛でるようにじっとこちらを見つめていくる。
 ぐう。

「えっ、かわいい。ラウルが赤くなってる」

 カワイイは正義……!!
 て、いうのは一つの価値観ではあるけれども!
 押し付けは頂けない。俺の正義はかわいさとは無関係。俺のメタ認知をバグらせてどうするつもりだ!手管か!手管なのか!?これだからモテる陽キャは!!
 ハゲろ!
 憤死しそうな俺は、布団を被り直して不貞寝からの二度寝にもつれ込む体制。
 落ち着くんだ俺よ。布団はこの世の天国だ。疲れた肉体だけでなく、寂しさも悩みも羞恥も後悔も、夢に救いを求める浅ましささえ。全部まとめて受け止めて、まるっとふわっと癒してくれる。
 まるで、聖母の胸のよう。あったか。ふわふわ。いい匂い……。
 至福……。



 ………次に目が覚めると昼だった。

「ねぇラウル~?お昼ごはんだよ~。僕のかわいい芋虫ちゃーん。いつになったら蝶になって僕の心を惑わしてくれるの~?」
「……お前は既に、これ以上なく惑ってる」
「あ、おはようラウル!」

 金髪碧眼、麗しき十八歳の笑顔が眩しい。
 どうも前世の記憶が蘇ってから、灰色だった世界が色付いて見える。今までよりも一層輝いて見えるセドリックのご尊顔に目が潰れそうで、両手で顔を覆った。

「ラウル?喉乾いたでしょ?はい、お水」

 セドリックの声がなんだか甘い。おかしいだろ。
 俺たちは仲の良い幼馴染ではあるが。この歳になっても同じ布団で寝る程ではないし、ましてや恋人のような扱いを受ける仲でもない。
 昨夜セドリックは俺を抱きしめて(なんでだ)眠ったのだが、そのままの意味で寝ただけである。
 相手は俺ぞ?
 この理解し難い状況の出口が見えない。
 観念した俺は、身を預け切っていたマットレスに両手を突いて起き上がる。無茶苦茶だるい。
 シーツを被ったまま座り込む俺は白い小山と化し、差し出されたコップを受け取ると一気に煽った。

「実はサンドイッチもあるんだけど」
「………食べる」

 続けて差し出されたサンドイッチを頬張る。
 美味い……。パンは焼きたてか?ってくらいふっくらしてるし、レタスもシャキシャキ。この世界、ラップなんて便利なアイテムはないのにね。お約束のチートな亜空間収納でも持ってんのか?
 なんてな……ハハ。

「美味しいでしょ?ラウルに出来立てを食べさせたくて、女神に固有スキル授けてもらったんだ~」

 そうか~。狩にクラフトにお役立ちな必須能力だもんな~。最高だな~亜空間収納~。
 なんてな!!?
 うおぃ女神さまぁ!!!!貴女、とことん甘やかすタイプだね!ここはストーリー重視のRPGゲームの世界だよ?自由度高いクラフトゲームの世界じゃねぇよ??
 セドリックが俺TUEEE系ラノベ主人公みたいになってるじゃねぇかよ……。俺、砂になりそう。

「ラウル?どうしたの?おいしくなかった?」
「……いや、美味い。セドリックも食べるか」

 気まずくて逸らしていた目と目が合って、セドリックが笑顔になる。

「ありがとう。僕もお腹減ってたんだ」

 よく知った幼馴染の顔のセドリックがサンドイッチに齧り付く。貴族の子息のくせに、一口が大きくて豪快に食べる。昔からセドリックが一緒なら、不味いものでも何故か美味しく、美味しいものはもっと美味しく感じてしまうのだ。
 周囲を明るく照らす太陽みたいにキラキラした、物語の主人公に相応しい男。俺なんかに構って世話を焼くたった一人の友。
 しかし、それもどうやら学生で居られる間までのようだ。あと何年か先には主従の関係性が強くなり、妹をめぐる確執を抱え、最期には俺を殺す。それが定めであるらしい。
 急に味がしなくなったサンドイッチを嚥下する。
 ここが学園の寮部屋であったら良かったのに。セドリックはみんなの憧れの優等生で、俺はしがない腰巾着。それ以上でも以下でもない。
 いずれ忘れられる幼馴染だけど、今はまだ、やがて幸福な思い出となる美しい子供時代。約束された聖域と言って良いだろう?
 だけど、それなのに。左足に絡みついてジャラジャラいってる硬い鎖が、俺に現実を突きつける。

 重くて冷たい感触で。












 
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