転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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五日目 夢

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「お兄ちゃん」

 ふっと視界が開ける。
 辺り一面の花畑。草の上に座り込む俺。尻の下に生えているのは野生の草花だ。踏み付けにして悪い事をしたと思う。
 立ち上がる俺の体は明らかに子供のもの。フラフラと頼りない。痩せた小さな胸にはオモチャのナイフが突き刺さっている。
 ラウルが動くたび、ナイフの根本からピューと赤い血潮が噴出した。

「ねぇお兄ちゃん。エステル、お花の冠がほしいの」

 視線は迸る血飛沫から声の主へ移ろう。
 優しい紅茶色の髪に、希望を閉じ込めた琥珀の瞳。愛らしい声は転がる鈴の音。
 好感を詰め込んだその姿に俺は感嘆する。エステルだ。砂糖菓子のような、俺の妹。
 甘い花の香りが広がっていく。
 大事な妹のために野花を摘んで、心を込めた花冠作りをはじめよう。多くを持たない俺にできる、限られた贈り物だから、お花の冠は作りは大得意だ。
 だけど体を屈めた拍子に、手を伸ばしたそのはずみに、胸から噴き出す鮮血で、真白の花がみるみる赤に汚れていく。
 エステルには白い花びらが似合うのに。とめられない。
 シロツメクサの花言葉は「復讐」だとか。

「できた?」

 不細工な贈り物を抱えて俯く俺の視界に、エステルの指が入り込む。白く細い指だ。血染めの花冠は、エステルが触れると七色に光り輝いた。血に塗れているのを忘れるくらいに。
 これならばと安心して、俺はエステルの頭に冠を載せる。春の女神のようなエステル。
 だけど花冠はまた光を失い、うねうねと蠢き出す。
 触手だ。エロ漫画御用達の……!
 エロ触手はみるみるエステルの肢体に絡み付き、娘らしく柔らかな凹凸を強調して視姦を促す。
 おい止めろ!エステルは清純の象徴だぞ!そういうのはどっちかっつーと、王女の役目だろうが!
(王女だって?)
 悍ましい触手はぴたりと動きが止める。それから突然感電したみたいにブルブルしたと思ったら、ゾロリと崩れて溶け落ちる。
 一緒にエステルの表面もペロリと捲れて剥がれ、ボトボトと地面を叩いた。
 エステルの中からは銀髪の女が現れる。王女だ。頭に金の王冠を戴いている。
 俺の拙い花冠とは違う。貴石の散りばめられた、本物の王の冠。
 王女は手を差し出し、俺にエスコートを許す。俺は握りしめていたゲームのコントローラーを、Gパンのポケットに捩じ込んで、王女の手を取る栄誉に浴す。
 満足そうに微笑んだ王女は、Gパンの男と手に手をとって扉の向こうへと、ゆっくりゆっくり歩いていく。
 勇壮な終曲の演奏がはじまる。
 エンドロールだ。

「お兄ちゃん」

 エステルの声がする。
 ちっちゃな妹が心配そうに俺を見上げて手を引く。幼児の手は温かく柔らかだ。俺はほっとする。
 良かったエステルが死んでしまったのかと思った。
 俺の安堵が伝わったのか、笑顔になったエステルがナイフの柄に触れる。
 俺の胸にはやっぱりオモチャのナイフが刺さっていて、時々ピューと血を噴き出す。それがエステルの興味をそそるらしく、悪戯に傷に触れて痛みを生んだ。
 俺は止めさせようとする。無駄なんだ。エステルではこのナイフをどうすることもできない。
 痛い。痛い。痛い。

「ほら、お前の妹は全然相応しくない」

 胸が苦しくなる様な懐かしい声。
 見上げるとエステルはいつの間にかセドリックになっている。
 俺を見下ろすセドリックが右肩を掴む。万力のような締め付けに骨が軋んだ。
 ひ、あ"ああぁ !
 俺の悲鳴を正面から浴びるセドリックは、立て付けの悪いドアでも開けるみたいに、胸のナイフを握り込む。蒼白になる俺に一瞥もくれず、そのまま一気に引き抜いた。

 いやああああああああああああああああああああああああああああああああああぉああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 胸の穴から怒涛となって溢れ出る血と臓腑。怨嗟と叫喚。嫉妬、渇望、怨念。
 滔々と湧き出でて果てしなく思われた心の澱は、しかし次第に勢いを弱め、最後にはプスンと音を立てて涸れる。
 全てを出し切ると、何だかとってもスッキリした。死んでしまうかと思ったのに。
 ポイとオモチャのナイフを投げ捨てたセドリックが俺を見る。怯える俺に暴虐を施したした男は、何でもない顔で笑った。






 目が覚めると。
 子供みたいな寝顔で、隣に眠るセドリックが見えた。


 こんな顔だっただろうかと、まじまじ眺める。






 

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