転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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四日目 サンドイッチ

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 初めましての天井を、飽き飽きるほど眺めて過ごした三日間。
 いや……もう四日か?
 煤けた木目に浮かび上がる顔のような模様。
 その虚ろな目(節穴)や、ぽっかりと空いた口(節穴)を、ぼんやりと見上げて抱く……親近感。
 今、何時だろ……?

「お腹減ったよ~!!」

 寝床に倒れるラウルの横で、わっと叫んだセドリックが参考書から顔を上げた。
 引き締まった腹をグーと鳴らす。
 拘束されている俺とは違って行き来自由な身のくせに。セドリックは1日のほとんどの時間を俺と共に過ごすのだ。見張ってなくても逃げられないが?

「ねぇラウル。もしここにラウルの侍女が来て、僕たちの世話を焼きたがったら、どうする?」
「つ、連れて、きた……のか?」

 変に緊張した声が出ちっまて情けなくなる。ただちょっと、侍女って、どの侍女かな??なんて……。ははは……脱出の助けになり得る第三者ご登場の予感にも、希望より不安が上回るとかね。
 苦虫を噛み潰したようなラウルに、セドリックは猫撫で声で微笑む。

「違う違う、もしもの話。でもやっぱり二人きりの方が良いよね……?」
「あ、いや」
「僕も二人きりで居たい。けど、食べるものを作る人がいないんだよね」

 二人の時間を邪魔されたくないとか、そういう事ではないんだ。ただ、実家の人間に対して苦手意識が抜けないだけで。決して、なんのかんの言ってこの状況を心のどこかで歓迎してるとかでは無い。断じてない。無いったら無い。
 セドリックは悩ましげな様子で「サンドイッチにはもう飽きたし……」などと呟く。
 おっと?もしかして俺が作ると言えば部屋の外に出られる展開か?料理……できるか、俺?
 いや、出来るかどうかではない。やるんだ!やると言え!

「お、俺が「そうだ!いっそ食べ物を必要としない体にしてもらおうか!」
「は?」
「え?」

 なんそれ。もう人間辞めてるじゃん。……できるの?

「ね、名案だよね!」
「いやダメだろ」

 分からんけど。なんかダメだろ。……ダメですよね?

「いいでしょいいでしょ便利でしょ」
「いいや……!俺はサンドイッチで充分だ」
「ええ~そう?」
「一緒にサンドイッチを食べよう。そうしよう」
「うーん。まぁサンドイッチなら、二人で一月食べるに困らないだけ有るよ」
「素晴らしいぞセドリック!」
「あは。もっと褒めて~」
「セドリックは最高だ。よ!国の宝!」

 なにせ未来の国王だしな!

「は?……僕、国とかどーでもいいんだけど」

 地雷だった。セドリックの無表情こわい。

「ち、違う。俺の、宝だ……」
「本当に?僕が大切?監禁魔でも?」

 ぐっ。ぶっ込んできたな。
 どこか人形めいた顔のセドリックがじっとラウルを見つめる。心の深淵を覗き込む。
 そうだ、お前は下劣な監禁魔だ!
 俺たちは対等でなく、俺はお前に支配されている!俺はお前に逆らうことができず、お前は俺の意思を無視できる。俺の身は危険に晒されている……!!
 けど。
 あんまり不快じゃないんだよな……。親切な嘘で包み隠された悪意より、剥き出しの害意の方が余程優しいと知っているからかな。
 姉とも母とも慕っていた侍女が、金のために嫌々と役割を演じているだけだったと知ったあの時の気持ちは、言葉では言い尽くせない。分かりやすく冷遇してくる義母の態度が親切に思えてくるくらいだ。
 初めっから信じてければ裏切りなんて成立しない。期待したせいで失望するわけで。敵対者なんかより味方の裏切りのが全然怖いんだわ。
 ……おや?味方の裏切り?
 なんだか胸が痛いワード。それってアレだね。まるっきりゲーム内のラウルの所業。
 居心地が悪くてみじろいだ足元から、ジャラリと耳障りな音がした。さっきまで存在を忘れていた足輪の感触がやけに気にかかる。
 俺の体温を奪い、人肌にまで温まって、身震いするような違和感を無くしたそれ。
 すっかりと気を許してしまえば、途端に牙を剥いて硬い床に俺を引き倒し、足首の肉を刮ぎ取って赤血に染まるのだろう。
 なるほど。
 セドリックは俺の宝だったとして?
 俺はセドリックにとって心に絡み付く枷のようなものかもしれない。セドリックが言う処の前回の俺の裏切りが、トラウマとなってセドリックの心を囚え、苛んでいるのなら。
 完全無欠の主人公様が、なんで俺なんかにこだわるのかが不思議だったが、謎が少し解けた気分だ。俺がそうだっように、今のセドリックは傷ついて少しばかり荒んでるんだろう。その傷を乗り越えようともがいてるんだろう。闇に刺す光を求めてるんだろう。
 助けになるなら力を貸したい。
 心底絆されちゃてる俺。
 は~ぁ。
 仕方がないな。セドリックが満足するまでもう少しだけ付き合ってやろう。
 だって結局のところ。

「俺は、セドリックが大切だ」

 自分自身よりもずっと。それが紛れもない本心。
 ラウルの言葉に、セドリックの青い目が見開かれる。

「本当……?僕が妹をいじめても?妹が僕らに近づいて来たら穴に落としてやってもいい?」

 え?な、な、な、な、なんて?

「ラウルが大事にしまってる妹からの手紙を残らず燃やしても?」

 もや、燃やすのか?エステルからの手紙を後生大事に保管してるって、知られてること自体が驚愕なのに?いつ俺の机の引き出しを開けた?

「ラウルに話しかけるクラスメイトに、呪いの手紙を送りつけても僕が大切?ラウルが十歳でおねしょした話を学校で言いふらしても?」

 え?学校で俺を孤立させたいってこと?既に孤立気味だけど?できることなら方法は「おねしょの話」以外にして?

「ラウルが嫌がっても、ぜーんぶ僕の思う通りにしちゃってもいい?」

 ダメだそろそろ受け止めきれない……!

「今度はラウルの大事なものを壊した女と結婚しても許してくれるの?」

 いやそれな!
 前回の俺というのは俺であって俺で無いからね?許さなかった覚えも無ければ、許してやる義理もないのよ?あとね、許して欲しいの?欲しく無いの?どっちなの?

「鎖で繋いでサンドイッチばっかり食べさせても?」

 それは割と平気なのよね!

「四六時中ラウルを観察してても?」

 それもね!!

「それでも僕を許してくれる?」

 あーー……。
 これは試し行為というやつか?
 だとしたら、全てを受け入れるのが正解か?
 え、……全てを?
 えーーーー……

 ーーと?



     「ぐ~~~~~~~ぅ」



 ……今の俺じゃないよ?

 




 あ、うん。
 お腹減ったって言ってたもんね。
 笑っちゃいそうだから「おすまし顔」やめて?

 一旦仕切り直そう。そうしよう。

「まず。サンドイッチ、食おうぜ……」





 ほら、まあ。冬休みはまだまだ長いのだし。
 たぶん、きっと、そのうち何とかなるだろう……?



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