転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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     拒絶と反発

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 いつだって世界はセドリックを中心に回っていた。

「だって。お前と俺じゃ全然釣り合いが取れないし。未来もないし。メリットもないし。意味がないだろ……」

 未熟な精神が抱きがちな間抜けな思い込み?そんな幻想などとは一線を画す、神の手でそのように仕組まれたシステムの話である。

「未来、ね……」

 理想的な環境、理想的な身体、理想的な交友関係、理想的な進路、それらが織りなす完全無欠で理想的な人生。
 彼に干渉し得る全ての要素がそう在るようにと定められていて、挫折さえもが完璧に構築されたプログラム。セドリックは只黙って担がれているだけで、ゴールにまで容易く辿り着く事が出来る。それが理。
 セドリックにとっての世界は遊戯盤のようなもので、人間はその盤上で神の配剤のままに生かされ、死ぬ。
 彼らは余りに無力で、終局までの必死の足掻きも全ては神の掌の上。セドリックは自分を中心にグルグル回る世界で、規定された振る舞いを繰り返す駒たちの奮闘を見守るだけ。
 やがてこの世界ゲームの理解に至るまで。

「なあ、俺たちずっと友達だって約束したの、覚えてるか?」

 ベッドの上でセドリックに跨がられるラウルは、一縷の望みにすがるように聞いた。
 随分と昔のことを持ち出すものだ。過去の話なんてしたくないセドリックは「そうだっけ?」と適当にはぐらかす。

「俺たちも、大人になったら少しは関係が変わるかもしれないけど。俺は、この先もずっと。ジジィになっても友達でいたいと思ってる」
「へぇ……」

 未来の話もしたくない。未来にあるかもしれない幸福なんて、セドリックにとっては都合の良い夢でしかない。
 全ては神の手でそのように仕組まれた退屈なシステムだから。
 ———なのに。

「俺たち、たとえ離れ離れになっても友達だよな……?」

 セドリックの腹の底で、ぐわりと魔力が揺らぐ。
 この、ぬるま湯のような世界で。何故か彼だけが、セドリックを沸騰させる異分子。



 

 あれは七歳の誕生会の事だ。
 伝統に則って盛大に催される披露目の席。お祝いそっちのけで有益な人物との顔繋ぎが行われる社交界プレデビュー。次々に挨拶にやって来る有象無象。

「はじめまして。デイト男爵家ラウルと申します」

 おどおどした態度でなんとか口上を述べた少年。「飢えた目をした子供だな」というのが第一印象。伏目がちで口数も少なく、拒絶のシグナルを発しながら、直ぐそばで繰り広げられる団欒を物欲しそうに盗み見る。その様子がどうにも滑稽だった。
 その他大勢との邂逅に埋もれてしまいそうなそれが、ラウルとの一度目の出会い。
 セドリックは、有象無象に対してそうであるのと同じように、ラウルへも特段の興味を抱かなかった。ただ、学友として共にする時間が長くなるに従って、彼の行動を歯痒く感じたりはしたけれど、助けが必要とも思わなかった。
 欲すれば与えられるのが世界のあり方と信じて疑わないセドリックは、口を閉ざして飢えに耐えるラウルを「飢えているなら欲しがればいいのに。おかしな奴」だ、などと評していた訳だ。
 あまりに見当違い。ありえない無理解。
 「食べる・食べない」の選択肢を持つ人間は、基本的に飢えたりしないものだ。「飢え」とは満たされないために生まれる「苦しみ」そのもの。「飢え」と「空腹」は、似て非なるもの。
 セドリックがそれを理解した時には、ラウルは全てを拒絶し、死に救いを求めるばかりとなっていた。差し伸べようとした手は見事に叩き落とされた。
 愛に見放され、満たされない苦しみに囚われた人間が、気まぐれに差し出された手を素直に信じられるはずもない。
 振り返れば、セドリックもまた彼を見放した者の内の一人。
 初めての拒絶。
 神に翻弄される屈辱。
 怒りと悲しみ。
 そして敗北感。
 やがてセドリックの前に侵略者の手先として現れたラウルは、復讐も果たさぬままに死んだ。
 死んでしまった。
 はたから見れば、敗北者は復讐に敗れたラウルだったろう。しかしセドリックにとってはラウルこそが勝者だった。何故ならセドリックは、ラウルが企てた壮大な自殺計画の手助けをさせられたに過ぎなかったからだ。
 ある意味冷静に、運命の導くままに、この手で刈り取った命の尽きる瞬間。こちらを見ていたラウルの満ち足りた目を、忘れられない。

 違うだろう。
 お前が得るべきは、こんなモノじゃ無かったはずだ。

 そう罵ってやりたくても、ラウルの魂は既にセドリックの手から逃れ、抜け殻になった肉体が力無く横たわるばかり。セドリックは愕然とした。

 嗚呼、彼ほど心を揺さぶる人間は他にいないのと言うのに。その彼が、もういないのか。

 決定的な失敗だ。
 いくら後悔しても全てが手遅れだった。
 何が、挫折すら成長を助ける完璧なプログラムだ。
 何もかもがどうでも良くなって、その後は女神からの干渉も全て突っぱね、自分の殻に閉じこもって過ごした。それで、困った女神が世界を巻き戻した。セドリックが生きる気力を取り戻すように。
 流石は神、癪に障るが正解だ。
 セドリックはやり直す事にした。
 そうして、二度目の人生を送るにあたって。セドリックは真っ先に、ラウルを手に入れる計画を立てた。そのために、今世はラウルと妹が出会うより早くラウルの元に身を運んだ。
 ラウルが求める、惜しみない愛を与える存在として。
 ラウルを確実に手に入れるため。
 仕組まれた二度目の出会い。
 目論見は概ね成功した。ラウルはセドリックにすっかり心を開き、喜んでセドリックに従った。セドリックに依存して、セドリックに幸せを見出すようになった。
 この冬休みが始まるまでは。
 それがどうだ。「離れ離れに」だって?
 結局また女神の干渉のせいで、これまでの積み重ねの全てが危うく水泡に帰すところだ。
 
 冷静でなど、いられるわけがない。

 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
 
 不快感が渦を巻いて唸りを上げる。
 漏れ出た魔力がスパークしてプラズを放つ。
 大地が怒りに震える。

「過去も未来も知ったことか……」

 閉じ込めてしまわなきゃ。
 再び僕を裏切らないように。
 自らの死がもたらす結末なんかに、胸を焦がさないように。
 過去も未来も捨てて。今、セドリックだけを見るように。

 



 

 
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