転生者は夢の続きを見たくない(連載版)

無花果

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十二日目 説得

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 ラウルが初めてセドリックと出会ったのは、彼の実母である前男爵夫人が亡くなるより少し前のこと。
 言語による意思疎通が満足でない幼少期特有の、超能力というに等しい感受性の鋭さを持ち得る年頃にあったラウル。当時の彼は、物言わぬ母の諦めや、邸内にそこはかとなく漂う蔑み、白々しい同情といった負の関心に、ささくれだった心を抱える非常に扱いづらい子供だった。
 端的に言って、盛大に拗ねていたのだ。まだ四つか五つの時分だったのだから、どうか大目に見てあげてほしい。
 その頃、身内には暴れん坊で知られたラウルの元へ、ある日突然やって来て、友達になろうと言ってくれた男の子がいる。同じ年の伯爵令息。セドリック・アドラムである。
 光を集めたような金の髪に、こぼれ落ちそうな青い瞳。幼児らしからぬ落ち着いた物腰に、花もはじらう天使の微笑み。セドリックは物語の世界から飛び出してきたような、輝かしい少年だった。
 その彼が自分を必要とする喜びに、ラウルは酔いしれた。それまで家人の手を煩わせてばかりいた態度を一変させ、その日を境にころりと良い子になってしまったくらいに。
 彼の鬱屈の大部分は侘しさに起因していたのだから、もっともな結果ではある。けれど実体験としてのその変化は、まるで魔法だった。周囲の人間も奇跡のようだとセドリックを称賛した。ラウルを含め、みんながハッピーで万々歳だった。
 その夏の魔法と幸福な思い出を、ラウルは決して忘れ得ない。
 二人で作った庭の隠れ家。水をかけ合って遊んだ小さな噴水。晴れた空の青さ。贈りあった野花のブーケの香り。ともに微睡んだ陽だまりの匂い。交わした約束。
 幼い日の宝物。夢にまで見る桃源郷。
 しかし無情にも夏が終わればセドリックは領地に戻り、ラウルの母は急速に衰えて帰らぬ人となった。
 それはまあ、仕方がない。彼らは幼い子供で、ラウルの母は多分いつ儚くなってもおかしくなかった。
 大事なのは、それからも夏が来るたびにセドリックがラウルの元を訪れたこと。約束通りに変わらず友達でいてくれたこと。
 それが長らくラウルの心の慰めだった。








 ***************

 さてさて!
 ここに取り出だしたりますは、人間の直腸を棲家とする生物。改良型寄生魔獣・通称「えろスライム」でございます。
 プルプルのピンク色でとっても可愛いでしょう?
 コチラの「えろスラ」。一般の方々におかれましは少々敷居が高くお感じかも知れません。しかし魔獣の扱いに慣れた騎士やハンターの皆様には日頃より広くご愛顧頂く隠れた人気商品!!
 何を隠そう、この「えろスラ」。直腸の内容物を餌に生きる魔獣でございまして。なんと宿主の排泄物を綺麗さっぱりお掃除して、無害な魔素に変換してくれるんです!
 しかもこの通り、大人しくってとってもいい子!
 遠征や野営につきもののトイレのお悩みとは、コレでもうおさらばです!この便利さを一度知ったら平時も手放せなくなること請け合い!
 え?どこが「えろ」なんだって?
 実はこの「えろスラ」、刺激を与えると保護液を分泌致します。ええ。ヌルヌルの。もちろん人体に無害である事は証明済みです。なんと口に入れても大丈夫。ほんのり甘いレモン味。想像してみてください。最高でしょう?
 コレ一匹で洗浄に拡張にローション代わりにと、三役こなす超有能生物です!
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 今日も今日とてベッドの上でセドリックにのし掛かられているラウルは、連日の快楽攻め効果で条件反射の半勃ちぎみ。セドリックの手の中には、悪名高き「えろスライム」が握られている。
 瓶詰めのピンクモンスターに目を奪われて、ラウルはゴクリと喉を鳴らした。

「正気になれセドリック!こんな事をしても何の得にもならないぞ!お前のために言ってるんだ!」

 背水の陣でキャンキャンと吠えるラウル。対するセドリックは、整った顔をおっとりと傾げた。

「え……?どうして?コレを使えば僕もラウルも、もっと気持ち良くなれるよ?昨日はあんなに素直に喜んでたじゃない。この子も寒いガラス瓶からラウルのナカに移してもらえたら、とっても喜ぶだろうし。ラウルだってお腹の中を綺麗にしてもらえるんだよ?ほらすごい。得する事ばっかりだね」
「よっ、喜んでない!こんなの若気の至りじゃ済まないだろ!お前はこんな無茶苦茶な奴じゃなかったはずだ。いい加減目を覚ませセドリック!」

 ムキになって抗うラウルにセドリックは失笑を漏らし、「なにそれ」と呆れたように言う。

「ラウルってば、この期に及んで僕を聖人君子とでも思ってるの?本気で?」
「ぐぬぬ……俺の知ってるセドリックは聖人君子なの!友達の尻にスライム入れたりしないの!!」

 ラウルに馬乗りになったセドリックは、手に持つ小瓶を眺めて「うーん」と考える。ちっちゃなピンクのモンスターは静かに揺れる。

「じゃあ友達じゃなければいいのかな」
「と、友達じゃなければ……?」
「ラウルは友達じゃない僕に興味はない?友達だからダメなんだったら、恋人になればいいと思わない?」

 良いこと思いついた!とばかりに目を輝かせるセドリック。マヌケに首を捻るラウル。

「誰と誰が……?」

 セドリックがフッと微笑む。
 顔面偏差値をこれでもかとひけらかしつつ、はにかんだ笑顔を振り撒いて。言外に、恋人に選ばれるべき男は自分以外にいないだろうと自負して。
 つまり?
 ラウルも例外なく?
 セドリックを望むが良かろうと?

「いや、ありえないでしょ」

 すん顔のラウルの言葉に、笑顔を貼り付けたセドリックの背後で「ビシリ」と家鳴りがした。

「ふうん、そう。あり得ないんだ」
「だって。お前と俺じゃ全然釣り合いが取れないし。未来もないし。メリットもないし。意味がないだろ……」

 無言の圧に、ラウルの語尾がミュートする。

「未来、ね……」

 出来れば信じたくなかったのだが。本当にセドリックは「みんなのヒーロー」という偽りを演じていたに過ぎないようだな。……あの目、見てよ。ちびりそう。確かに聖人君子とは程遠い。
 けど、それでもやっぱりセドリックは俺のヒーローなんだ。今の俺にとっては、妹のエステルよりもずっと敬愛する相手。
 そのセドリックが俺なんかに望むことがあるんだったら、もちろん何でも叶えてやりたい。女神にもセドリックの成長の糧になれと言われたし。
 どうせ悩んだって俺には何が必要で正しいことなのか判断がつかん。なら当たって砕けるしかないだろう。
 成せばなる、成さねばならぬ、何事も、だ。

 だけど。




 成すべきことを成したその後に。俺たちはまだ、友達でいられるかな……?







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