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しおりを挟む「秋也、あんた今年のお正月はルートくんと一緒だったの?」
一月某日。
斜め向かいの席に座る母の言葉に、無関係なはずの光秋の肩はぴくりとした。
光秋それに気付かれぬよう、冷静を装いながら味噌汁を啜る。久しぶりに口にした母の味噌汁はナスがたっぷり入っていて、どこか懐かしい味がした。
「まあ」
「ふーん。うちに連れて来れば良かったのに」
「なんでだよ。嫌に決まってんだろ」
「いいじゃない、お祝い事は人数が多い方が楽しいんだから。来年は連れてきなさいね」
「勘弁してくれよ……」
右隣で交わされる母と双子の弟の会話を尻目に、光秋は黙々と食事を続ける。早く食事を終えて席を立たなければ、なんとなく嫌なことが起きる予感がしたのだ。
……しかし、息子のそんな考えなど母はとうにお見通しらしい。光秋が夕食を食べ終わるよりも早く、その視線がスッと光秋へと向けられる。
「で、光秋は?」
「……なにが?」
「なにがって、お正月よ。どこで、誰と、どう過ごしてたの?」
父、母、双子の弟の秋也──家族三人の視線が光秋へと集まる。
光秋はぎくりと体を縮こまらせた。そして、あらぬ方向を見つめながらぼそぼそと答える。
「……いや……普通に、家で……ひとりで過ごしてたけど……」
「普通に、家で、ひとりで?」
はあー……と母は大袈裟に大きなため息をついた。かと思うと、箸置きに箸を置き、しくしくとわかりやすい泣き真似をはじめる。
「お母さん悲しいわ……二十六にもなった息子がクリスマスもお正月も家でひとり寂しく過ごしてるなんて……」
「べ、別にいいだろ……」
クリスマスもひとりだったことを見透かされて、少しばかり声が上擦る。
なにも悪いことはしていないはずなのにばつが悪く思えてしまうのは、相手が母親だからか、それとも自分自身がそれを気にしているからか……
息子ふたりがゲイだとわかってからも変わらぬ態度で接してくれる両親には感謝している。それが当たり前のことではないこともわかっている。
ただ、母のこの過干渉ばかりはどうにかならないものか。とっくに成人した息子としては、本当にそっとしておいてほしい。
その後、嘘泣きに飽きたらしい母は顔をあげ、食卓に頬杖をつきながら再びため息をつく。
「同じ顔した秋也は男を切らしたことないのに、どうして光秋には彼氏ができないのかしら……」
「できないんじゃなくて作る気ないんだよ、こいつは」
「そ、そんなことはないけど……」
どこか剣のある秋也の言葉に反論するも、その声は弱々しかった。
昔は秋也も光秋を庇ってくれていた。母が恋人はできたのかと光秋に尋ねるたびに、「光秋には光秋のペースがあるんだからほっといてやれよ」と気の弱い光秋の代わりに母を窘めてくれていた。
けれど、最近の秋也は完全に母寄りだ。
口数の少ない父も光秋の味方とはいえず、光秋はその後も針の筵のような状態で久々の帰省を終えた。
「……で、実際のところどう思ってんだよ」
帰りの車に乗り込むやいなや、突然秋也がそう話しかけてきた。エンジンはかけたが出発する気はないようで、腕を組んで光秋のほうをじとりと睨んでいる。
光秋は秋也をきょとんと見つめ返し、小首を傾げた。
「……なにが?」
「しらばっくれてんじゃねぇよ。さっきお袋に言われたことだよ。『恋人いない歴=年齢』の現状をどう思ってんのかって聞いてんの」
「ど、どうって言われても……そりゃ、俺だってそういうチャンスがあったら……」
「お前さぁ、そう言って何年経ってんだよ。俺らもう二十六だろ? 同級生には結婚して子どもがいる奴らもいるんだぞ」
言葉の刃がグサグサと光秋の胸に刺さった。ほぼ同じ顔をした双子の弟に言われると、なんだかいっそう自分が情けなくなってくる。
運転席の秋也は呆れたように小さくため息をついた。
「俺だって、お前がひとりが好きで、一生ひとりでも平気って言うんなら別に良いんだよ。でも、そういうわけじゃないんだろ?」
「うん……」
そうなのだ。光秋は恋愛に興味がないとか、おひとり様を満喫しているとか、決してそういうわけでもない。
むしろ、彼氏が欲しいなぁ……とは毎日のように思っているし、イケメンとのドラマのような恋にいまだに憧れている。もちろん、ドラマのような恋なんて無理なのはわかっているが。
「なら、ちょっとは行動してみようとか思わねぇの? お袋も言ってたけど、顔は俺と同じなんだから、作ろうと思えば相手なんてすぐ見つかるだろ」
「そんなこと言われたってさ……」
一卵性の双子であるふたりは、確かに顔も体つきもよく似ている。頭の出来も運動神経も同じくらいで、好きになる相手が同性なことも同じだった。
しかし、そんなふたりの性格は昔から正反対だ。
兄の光秋は引っ込み思案で消極的なタイプだが、弟の秋也は何事にも物怖じしない気の強い男で、昔から友達も多かった。
言うなれば、教室の端っこの席で本を読んでいるのが光秋で、教室の真ん中にいる一番影響力のある目立つグループに属しているのが秋也だ。というか、学生時代は実際そうだった。
ゆえに、同じ顔をしていてもふたりの恋愛遍歴はまったく異なっている。
先ほど秋也が言った通り、光秋は恋人いない歴=年齢の男だが、対する秋也は十五のときから男を切らしたことがない。さすがに恋人がいない時期くらいはあったようだが、その間にもセフレのような存在がしっかりいたらしい。
光秋はバックミラーに映る自分をちらりと見る。
顔は悪くない……と思う。同じ顔の秋也のことはかっこいいと思うし、実際子どもの頃から秋也はモテ続けている。秋也の今の彼氏であるルートもかなりのイケメンだ。
……けれども、どうにも光秋は自分の顔が野暮ったく見えた。いや、顔というか存在そのものが、だろうか。
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