練習なんかじゃ終われない!

リツカ

文字の大きさ
1 / 40

1

しおりを挟む

秋也しゅうや、あんた今年のお正月はルートくんと一緒だったの?」

 一月某日。
 斜め向かいの席に座る母の言葉に、無関係なはずの光秋みつあきの肩はぴくりとした。
 光秋それに気付かれぬよう、冷静を装いながら味噌汁を啜る。久しぶりに口にした母の味噌汁はナスがたっぷり入っていて、どこか懐かしい味がした。

「まあ」
「ふーん。うちに連れて来れば良かったのに」
「なんでだよ。嫌に決まってんだろ」
「いいじゃない、お祝い事は人数が多い方が楽しいんだから。来年は連れてきなさいね」
「勘弁してくれよ……」

 右隣で交わされる母と双子の弟の会話を尻目に、光秋は黙々と食事を続ける。早く食事を終えて席を立たなければ、なんとなく嫌なことが起きる予感がしたのだ。
 ……しかし、息子のそんな考えなど母はとうにお見通しらしい。光秋が夕食を食べ終わるよりも早く、その視線がスッと光秋へと向けられる。

「で、光秋は?」
「……なにが?」
「なにがって、お正月よ。どこで、誰と、どう過ごしてたの?」

 父、母、双子の弟の秋也──家族三人の視線が光秋へと集まる。
 光秋はぎくりと体を縮こまらせた。そして、あらぬ方向を見つめながらぼそぼそと答える。

「……いや……普通に、家で……ひとりで過ごしてたけど……」
「普通に、家で、?」

 はあー……と母は大袈裟に大きなため息をついた。かと思うと、箸置きに箸を置き、しくしくとわかりやすい泣き真似をはじめる。

「お母さん悲しいわ……二十六にもなった息子がクリスマスもお正月も家でひとり寂しく過ごしてるなんて……」
「べ、別にいいだろ……」

 クリスマスもひとりだったことを見透かされて、少しばかり声が上擦る。
 なにも悪いことはしていないはずなのにばつが悪く思えてしまうのは、相手が母親だからか、それとも自分自身がそれを気にしているからか……

 息子ふたりがゲイだとわかってからも変わらぬ態度で接してくれる両親には感謝している。それが当たり前のことではないこともわかっている。
 ただ、母のこの過干渉ばかりはどうにかならないものか。とっくに成人した息子としては、本当にそっとしておいてほしい。

 その後、嘘泣きに飽きたらしい母は顔をあげ、食卓に頬杖をつきながら再びため息をつく。

「同じ顔した秋也は男を切らしたことないのに、どうして光秋には彼氏ができないのかしら……」
「できないんじゃなくて作る気ないんだよ、こいつは」
「そ、そんなことはないけど……」

 どこか剣のある秋也の言葉に反論するも、その声は弱々しかった。
 昔は秋也も光秋を庇ってくれていた。母が恋人はできたのかと光秋に尋ねるたびに、「光秋には光秋のペースがあるんだからほっといてやれよ」と気の弱い光秋の代わりに母を窘めてくれていた。
 けれど、最近の秋也は完全に母寄りだ。
 口数の少ない父も光秋の味方とはいえず、光秋はその後も針の筵のような状態で久々の帰省を終えた。




「……で、実際のところどう思ってんだよ」

 帰りの車に乗り込むやいなや、突然秋也がそう話しかけてきた。エンジンはかけたが出発する気はないようで、腕を組んで光秋のほうをじとりと睨んでいる。
 光秋は秋也をきょとんと見つめ返し、小首を傾げた。

「……なにが?」
「しらばっくれてんじゃねぇよ。さっきお袋に言われたことだよ。『恋人いない歴=年齢』の現状をどう思ってんのかって聞いてんの」
「ど、どうって言われても……そりゃ、俺だってそういうチャンスがあったら……」
「お前さぁ、そう言って何年経ってんだよ。俺らもう二十六だろ? 同級生には結婚して子どもがいる奴らもいるんだぞ」

 言葉の刃がグサグサと光秋の胸に刺さった。ほぼ同じ顔をした双子の弟に言われると、なんだかいっそう自分が情けなくなってくる。
 運転席の秋也は呆れたように小さくため息をついた。

「俺だって、お前がひとりが好きで、一生ひとりでも平気って言うんなら別に良いんだよ。でも、そういうわけじゃないんだろ?」
「うん……」

 そうなのだ。光秋は恋愛に興味がないとか、おひとり様を満喫しているとか、決してそういうわけでもない。
 むしろ、彼氏が欲しいなぁ……とは毎日のように思っているし、イケメンとのドラマのような恋にいまだに憧れている。もちろん、ドラマのような恋なんて無理なのはわかっているが。

「なら、ちょっとは行動してみようとか思わねぇの? お袋も言ってたけど、顔は俺と同じなんだから、作ろうと思えば相手なんてすぐ見つかるだろ」
「そんなこと言われたってさ……」

 一卵性の双子であるふたりは、確かに顔も体つきもよく似ている。頭の出来も運動神経も同じくらいで、好きになる相手が同性なことも同じだった。
 しかし、そんなふたりの性格は昔から正反対だ。
 兄の光秋は引っ込み思案で消極的なタイプだが、弟の秋也は何事にも物怖じしない気の強い男で、昔から友達も多かった。
 言うなれば、教室の端っこの席で本を読んでいるのが光秋で、教室の真ん中にいる一番影響力のある目立つグループに属しているのが秋也だ。というか、学生時代は実際そうだった。

 ゆえに、同じ顔をしていてもふたりの恋愛遍歴はまったく異なっている。
 先ほど秋也が言った通り、光秋は恋人いない歴=年齢の男だが、対する秋也は十五のときから男を切らしたことがない。さすがに恋人がいない時期くらいはあったようだが、その間にもセフレのような存在がしっかりいたらしい。

 光秋はバックミラーに映る自分をちらりと見る。
 顔は悪くない……と思う。同じ顔の秋也のことはかっこいいと思うし、実際子どもの頃から秋也はモテ続けている。秋也の今の彼氏であるルートもかなりのイケメンだ。
 ……けれども、どうにも光秋は自分の顔が野暮ったく見えた。いや、顔というか存在そのものが、だろうか。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...