練習なんかじゃ終われない!

リツカ

文字の大きさ
16 / 40

16

しおりを挟む

「…………好き、だけど……好きじゃない」
「あ?」
「かっこいいし、一緒にいると楽しくて、幸せだけど……でも、あっちは仕事だってちゃんとわかってるつもり。一緒にいるときどれだけ好きって言われてもそんなのサービストークだし、リョクくんと付き合えることなんて絶対にないし……」

 ──自分で言ってて悲しくなってきた……

 光秋はしゅんと俯く。
 自分とリョクの関係は客とキャストで、それ以上になることなんて絶対にない──そう頭でわかっていても、あの夢のような時間をまた過ごしたいと思ってしまう。リョクに恋人扱いされて、優しくされたいと思ってしまう。
 かといって、優しくされて勘違いしているわけでも、このままリョクと関係を続ければ本物の恋人になれると思っているわけでもない。
 ただリョクに会って、幸せなひと時を過ごしたい。
 それが間違っていると光秋も頭ではわかってはいるが、今の光秋にとってリョクとの逢瀬は日常の唯一の楽しみになっていた。

「いや、ガチでそこそこ惚れてんじゃねぇか。……まあでも、のめり込んでる割に付き合えることはないってちゃんと理解してるだけまだましか……」

 秋也はため息をついて頭を掻く。

「つうか、そいつとしか経験がないからそいつに執着しちゃってる部分もあると思うんだよなぁ。お前、他のキャストとデートする気はないの?」
「ほ、他のキャスト?」
「別に最初指名した男以外のキャストを指名しても、システム的には問題ないはずだろ? というか、色んな男指名した方がお前にとってはいい練習になるんじゃねぇの」
「んー……確かに」

 とはいえ、リョク以外のキャストとデートするなんて気が乗らない。
 また初めましてからなんて疲れそうだし、お金と時間の無駄のようにさえ思えた。

 ──でも、このままリョク君だけ指名しててもなんも変われないよな……

 秋也の言うことはいつも大体正しい。
 練習なのにキャストのリョクに執着するなんて馬鹿げているし、どうせなら色んな相手と経験を積むべきだ。
 そう、目的を見誤ってはならない。
 たとえどんなに楽しくても、リョクとの逢瀬は光秋にとって『恋人を作るための練習』なのだ。
 むしろ、これ以上リョクに執着して身動きが取れなくなる前に、彼以外と軽いデートくらいは経験しておいたほうがいいのかもしれない。

「……俺、次はリョク君以外のひとを指名してみるよ」
「おっ、めずらしくやる気じゃん」
「うん……お前のおかげでせっかく一歩踏み出せたわけだし、それに、ずっとリョク君を俺の練習に付き合わせるのも悪いかなって」
「ふーん」

 光秋はスマートフォンを手に持ち、空いている手で秋也の服の袖をくいくいと引っ張る。

「なあ、次にデートするひと一緒に選んで」
「仕方ねぇなぁ。お前の好みってアイドルみたいな顔した綺麗系の巨根だっけ?」
「きょっ……!? そんなこと言ったことないだろっ!!」

 ああだこうだと口喧嘩を交えながらホームページ上のレンタル彼氏のプロフィールをふたりで吟味して、そこからひとりに絞るまでなんだかんだ一時間近くかかった。

 選んだのは、コウという名前の青年だ。
 どことなくリョクと雰囲気が似ていて、プロフィール写真の穏やかな笑顔に惹かれて指名することにした。
 いや、惹かれたというより、リョク以外で一番人当たりの良さそうなキャストを選んだだけのような気もする。

「ほら、決心が鈍らないうちに予約しとけよ」
「う、うん」

 光秋はおずおずと画面上の予約確定ボタンに手を伸ばした。
 けれど、ふいに『みっちゃん、大好き』と笑うリョクの顔が頭に浮かんで、光秋の指がぴたりと動きを止める。
 妄想の中のリョクは優しく光秋に微笑んでいるはずなのに、その弧を描いた瞳はやけに冷ややかだ。それこそ、まるで光秋の行動を咎めているかのように。
 固まって動かなくなった光秋を見て、秋也は眉をひそめる。

「光秋、どうした?」
「…………」
「やっぱやめんの?」
「……ううん、やめない」

 ──ばかだな……俺が誰を指名したって、リョク君が気にするはずないのに。

 緩くかぶりを振って、微かに震える指先で予約確定ボタンをタップする。
 予約完了画面が表示されたのを見て、光秋はフーッと大きく息を吐いて肩の力を抜いた。

 初めてリョクの予約をしたときに経験した達成感など、今はない。
 不安と、憂鬱と、謎の罪悪感──胸の中で渦巻くそれらから目を逸らし、光秋は再び吐き出しそうになったため息を飲み込んだ。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...