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しおりを挟む九月中旬。
リョクへの誕生日プレゼントを探すため、光秋は街へと繰り出した。
しかし──……
「んー……なに買ったらいいのか全然わかんないな……」
光秋はショーウィンドウの前で、ぼそぼそとひとり呟く。
花、キーケース、帽子、ネクタイ、ハンカチ……事前にネットでいろいろと下調べはしてきたものの、どれもピンとこない。というか、なにを贈ったらリョクが喜んでくれるのか、光秋には皆目見当がつかないのだ。
リョクの服装や持ち物はいつもおしゃれで、そのどれもが彼に似合っている。
そんな相手になにか贈ろうだなんて、光秋にはそもそも荷が重すぎたのかもしれない。光秋は大手アパレルチェーン店の服を適当に買って着るだけの、ファッションには無頓着なセンスのない男だ。
──やばい……結局なにも買えないままリョク君の誕生日が来たらどうしよ……
光秋は遠い目をして立ち尽くす。
もう一ヶ月近くリョクと会えていない。それもこれもリョクの誕生日をふたりで過ごすためなのに、肝心のプレゼントが用意できないなんて最悪だ。
──プレゼントを渡して、もし勇気が出たら告白してみようと思ってるのに……
ほんのりと頬を赤くして、光秋は俯く。
迷いに迷った末、光秋はリョクの誕生日にリョクへ告白しようと考えていた。
もちろん、意味なんてないことはわかっている。リョクの返事がどんなものであっても、光秋とリョクはタイマーが鳴るまでの制限時間付きの恋人でしかない。
ただの自己満足。
それでも伝えてみたいと思ったのは、スッキリしたいからなのか、それとも──
「……いや、今そんなこと考えている場合じゃないって。とにかくプレゼントの候補だけでも探さなきゃ……」
周りに誰もいないのを良いことに独り言を呟いて、街中を歩き回る。
時折店の中に入っていろいろと手に取ってはみるものの、やはりこれというものはなかった。
──ど、どうしよう……
光秋は顔を青ざめる。
三時間街を歩き回って、なんの成果も得られていなかった。
もうこの際、秋也の助けを借りた方がいいのかもしれない。リョクへのプレゼントなんてきっと秋也は探したくないだろうが、光秋が緊急時に頼れるのなんて秋也くらいしかいなかった。
光秋がスマートフォンを手に取って秋也に連絡しようとした、そのとき──
「あれ、光秋さん?」
◇◇◇
「リョク、お誕生日おめでとう!」
「ありがと~」
「これプレゼント! 開けて!」
常連客のショウに促され、リョクはプレゼントの包装を解いた。
中から現れたのは、リョクもたまに使っている有名ブランドのキャップだ。
そのキャップを見た瞬間、リョクはくすりと小さく笑った。
特別うれしかったわけでも、センスが悪いと馬鹿にしているわけでもない。
ただ、同じブランドのキャップを被ってみっちゃんに会ったときのおかしな思い出が、ふとリョクの脳裏によみがえったのだ。
その日のみっちゃんは、駅前で会ったときから挙動不審だった。リョクに会えてうれしそうなのに、やたらチラチラとリョクの頭上を気にしているようだった。
なのでリョクはすぐに『どうかした?』とみっちゃんに尋ねた。
するとみっちゃんは気まずそうな顔でリョクの耳元に唇を寄せ、周りに聞こえないひそひそ声でこう言った。
『リョク君、帽子にシールついたままだよ』
みっちゃんの真面目な表情に一瞬面食らったあと、リョクはにっこりと微笑んで頷いた。
『あー、うん。このブランドの帽子、こうやってシール付けたまま被るのが人気なんだよね。かっこいいでしょ?』
『えっ……!?』
そのときのみっちゃんの恥ずかしがりようといったらなかった。顔を真っ赤にして、体を小さくして『そ、そうなんだ……』と声を震わせていた。
そのブランドに興味がなかったら、知らなくてもおかしくはない。
しかし、みっちゃんはそれが恥ずかしくて仕方なかったらしい。
きっとみっちゃんからしたらタグが付けっぱなしなのを教えてあげたくらいの気持ちで、まさかそれがおしゃれだなんて思いもしなかったのだろう。
──あのときのみっちゃん、かわいかったな。
真っ赤になっているときのみっちゃんはすごくかわいい。恥ずかしがっているときも、照れているときも、快感で乱れているときも──
「……リョク?」
「ありがと! これ欲しかったやつだからマジでうれしい!」
「よかった~!」
ショウはにこにことうれしそうに笑う。
ちょっと危なかったな、と思いながらリョクは目の前のショウとの会話に集中することにした。
最近、他の客と会っている間もみっちゃんのことを思い出してしまうことが増えていた。
いや、それだけならまだいい。問題は、他の客とみっちゃんを比べて、『みっちゃんと一緒だったら楽しいのに』と気持ちが白けてしまうことだ。
実際、ここ一ヶ月は仕事に身が入らない。みっちゃんの予約がないから、流れ作業のように仕事をこなす日々だ。
そのせいか、『前より冷たい』だとか『対応が雑』だとか、そんなクレームがちらほら増えてきている。店長からは再三注意されているが、リョク自身どうすればいいのかわからなかった。
「ねぇ、このあと買い物付き合って。新しい靴見たいんだよね」
「もちろん」
待ち合わせ場所だったカフェを出て、リョクとショウは街を歩く。
歩きながら、リョクは何気なくあたりに視線をやった。意味などない。ただ、休日にしては人通りが少ないなと、車道の向こうを歩くひとを眺めただけだ。
「……は?」
そのとき、見慣れた顔を歩道沿いに建つコーヒーショップの中に見つけて、リョクは思わず足を止める。
それがみっちゃんでなければ──みっちゃんの隣に見知らぬ若い男を認めなければ、リョクも仕事中に足を止めたりはしなかっただろう。
しかし、ガラス張りの店で窓際の席に腰掛けるみっちゃんの隣には、やたらと距離の近い整った顔の男がいた。しかも、ふたりは楽しげに言葉を交わしているようだ。
みっちゃんが頬を赤く染めながら微笑んでいるのを目にしたリョクは、頭が真っ白になる。
隣のショウが「どうしたの?」と訝しげに問いかけてくる声は確かに耳に届いているのに、それを気に留める余裕など今のリョクにはなかった。
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