十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

運命じゃなくても 5



 ◇◇◇

「──んッ、う……ッあ、ああぁッ!」

 まるで電流のような快感が肢体を駆けぬけた瞬間、遠のきかけていた雅臣の意識は半ば強引に現実へと引き戻された。
 雅臣は目を白黒とさせながら、シーツに額を押し付ける。

 いつからこうしているのか、いったい今何時なのか……はっきりとはわからない。
 わかるのは、総真から告げられた『とびっきり優しくしてやる』という言葉が嘘だったということだけだ。
 
 雅臣は朦朧としながらも、手元の白いシーツを手繰り寄せるようにぎゅっと掴んだ。背後から腹の奥を押しあげてくる熱の塊から逃げたくて、のろのろと前方へ這いずる。
 ところがその直後、逃げようとしたのを咎めるように、ガンッと一際強く最奥を穿たれた。
 目の前でバチッと光が散って、雅臣は声にならない嬌声をあげる。

「ッ~~~~!!」
「こら、逃げちゃダメだろ」

 耳慣れた声が、からかうような声色で雅臣をたしなめた。
 くたりとベッドに体を預けた雅臣は、熱を逃すように深い呼吸を繰り返す。

「お前、さっきちょっと飛んでただろ」
「は、ぁ……ンッ、あっ!」

 項の消えない噛み跡に、ゆっくりと総真の舌が這っていく。
 たったそれだけのことでぞくぞくとした快感が生まれて、雅臣の思考はどろりととろけた。

「ひ、あっ……ンッ、あッ、やっ……!」
「ン……発情期でもねぇのに、こんな奥まで咥え込んで……」

 浅く腰を引いたかと思うと、また最奥にぐぷりと突き入れられた。すっかり綻んだ結腸口の窄まりはもはやなんの意味もなく、むしろ自身を犯す雄を歓迎するように総真の怒張にしゃぶりついている。

「あ、あんッ、アッ……ひぅ、あ……おく、あっ、あつい……っ」
「気持ちいいだろ?」
「んっう……や、だめ……やだっ、きもちいいのもうやだ……っ」

 何度イかされたのか定かではないが、もう雅臣は限界だった。
 ずっと甘イキを繰り返しているのか、腹の奥がきゅんと疼くのもつらい。視界は涙でぼやけて、目の前のシーツの皺さえ朧げだ。

「むり、むりっ……もうやだぁ……!」
「酷くしてって言ったくせに」
「ッあ、ン……や、やさしくするって、いってたのに……」
「だから、優しくしてるだろ?」

 どこがッ! と雅臣が叫ぶ前に、再び最奥の肉壁に先端がグリッと押し付けられた。
 雅臣は一瞬目を剥いて、唇をはくはくと震わせる。

「っ……ふ……は、ぁ、ああ……」
「あー、ナカとろとろですっげぇ気持ちいい……こうやって結腸まで挿れてると、ふわふわの壁がぎゅうって吸い付いてきて最高なんだよな……」
「ひ、ぁッ……だ、だめ……っ」

 総真の亀頭が、雅臣の結腸口を悠々と行き来する。
 すっかり緩みきったそこには、もう最初の頃のような壁はない。先端が入る瞬間は歓迎するように綻んで、結腸まで迎え入れたあとはきゅうきゅうと健気に吸い付く。
 総真が雅臣の後孔のことを『名器だ』と時々口にするのも、あながち間違いではないのかもしれない。

「あっ、あ……やだ、くる……っ、来ちゃうッ……イッちゃう……っ」
「ああ、好きなだけイけよ」

 そう言った総真は、雅臣の背中からゆったり体を起こした。
 かと思うと、雅臣の両手首を掴み、そのまま雅臣の腕を後ろへと引っ張る。

「んっ……ッ! あンッ、あ、やっ、これダメ……あ、ああぁッ!」

 両腕を引かれたまま、膝立ちになった総真に後ろから激しく突き上げられた。最奥を穿たれるたび、パンッと肌を打ち付ける音が室内に響く。
 まるで、手綱を握られた馬にでもなったような気分だった。
 過ぎる快感から逃げようと雅臣が前のめりになると、それを咎めるように総真はさらにグッと雅臣の腕を引く。
 ベッドに伏していた雅臣の上半身が、軽く宙に浮いた。震える膝が懸命に体を支えているが、今にも崩れ落ちそうだ。

「あっ、あっ、ン、アッ、ああッ……!」
 
 ナカで律動する総真の性器は雅臣の良いところを満遍なく擦り、突いてくる。
 つらくて、苦しくて、狂おしいくらいに気持ち良い。
 雅臣は突き上げられながら、ただただ甘い喘ぎ声をあげ続けることしかできなかった。

「はっ、アッんぅ……あ、ひっ、ああッ!」
「雅臣……っ」
「ッ、ン────!!」

 項に噛み付かれた瞬間、雅臣の脳内でなにかがバチりと弾けた。頭の中が真っ白になって、全身がガクガクと震える。
 肢体を駆け巡る快感と、牙を突き立てられた項の痛みと、最奥に注がれる白濁の熱さ──それらすべてに満たされた気分になって、雅臣は涙で濡れた瞳をとろんとさせる。

「ふっ、う……は、あ、あぁ……」
「いつの間にか発情期以外でもこんな簡単に中イキできる体になっちゃって……かわいいやつ」
「ん、ンゥ……ッあ、そこだめっ……もうでないから……っ」

 雅臣の両腕を解放した総真の手は、次の標的を雅臣の性器に移した。くたりとした雅臣の性器をやわやわと揉み、先端に指を滑らせる。

「ひっ……もうむり、もうイけないから……やだ、やだっ……!」

 雅臣の性器を弄ぶ手とは逆の腕が、雅臣を背後から強く抱き寄せた。
 それにより雅臣の体は強引に起こされ、雅臣は総真に背中を預けるような体勢でぺたんとベッドに尻餅をつく。

「はっ、う……ほ、ほんとにやだ、むり……」

 空っぽの性器をそれでも執拗に愛撫されると、腹の奥がぞわぞわしてくる。
 雅臣は半泣きで首を振った。

「やだ、やだっ……ゆるして、おねがい、おねがい……っ」
「そんなこと言うなよ。お前のこと、もっと気持ちよくしてやりたいだけなのに」
「やだっ、いらない……そうまのばかッ、きらいっ……~~~~ッ!!」

 悪態を吐いた直後、総真の指先が雅臣の鈴口を穿るように擦った。
 雅臣の体がびくりと大きく跳ねる。弓なりに反った上半身は、総真の腕の中で痙攣するように震えた。

「あ、アッ……は、あっ……ぅン……」
「はぁ……潮吹きえっろ……」

 雅臣の肩口から顔を覗かせた総真が、ひどくうっとりとした声で呟く。
 見ると、雅臣の性器が震えるたび、鈴口からプシャッと透明な液体が吹き出していた。
 シーツに広がるシミを、雅臣は放心状態で見つめる。

 ──あたま、おかしくなりそう……

 羞恥を掻き消すほどの強い官能に、雅臣のまつ毛がピクピクと震えた。
 脳みそがとろけてしまったみたいに思考がぼやけて、今はなにも考えられない。

「はっ、あ……ん、ぅ……」
「雅臣、いい子だな。かわいい」
「ん……」

 甘い声で囁かれ、雅臣は自身の肩に顔を乗せる総真に頬擦りをした。そうして、惚けながらもキスをねだるよう総真に顔を寄せる。
 だが、途端に総真はひょいっと身を引いて、雅臣を避けた。
 雅臣はムッと眉をひそめ、少し舌足らずな声でせがむ。

「きすして……」
「いいのか? 俺のこと嫌いなんだろ?」
「……きらいじゃない……すき」

 からかうように尋ねられ、ばつの悪い雅臣はもごもごと答えた。
 総真は小さく吹き出すように笑う。
 そして、愛おしそうに目を細めながら、雅臣の顔を覗き込んで言った。

「──俺も、お前が好き。泣き虫でも、面倒くさくても、運命じゃなくても……卯月雅臣を愛してる」

 雅臣は思わず息を呑んだ。
 丸くなった瞳でしばし食い入るように総真を見つめたあと、雅臣の顔はくしゃりと歪む。

「…………う、うぅ……っ」
「泣くな泣くな。かわいいな」
「ふ、ぅ……もし、うわきして、おれのことすてたらっ……ころすから……っ」

 突拍子もない雅臣の発言に、総真は目を見開いた。
 雅臣はまた総真が吹き出すように笑いだすかと思ったが、予想に反して総真はとろけるように目を細める。
 総真は至極うっとりと微笑みながら、艶を帯びた甘い声で囁いた。

「──いいな、それ。そしたら俺は一生お前のものでいられるわけだ」

 心底うれしそうに言う総真に、今度は雅臣の方が面食らった。
 しかし、思えば卯月総真という男はずっと昔からこうだ。馬鹿みたいに雅臣のことが好きで、雅臣を手に入れるためなら手段を選ばない。
 総真は少し怖いくらいにすごく雅臣のことが好きで、でも雅臣はその重苦しい愛が不思議なほど心地いいのだ。

「ハハッ、浮気したら殺す、か……俺はもしお前が浮気したら、相手の方を殺すかな。そんで、お前と外国のどっかの山奥あたりで暮らす。もう他のやつに目移りしないよう毎日愛してやって、死ぬまでお前の傍にいるよ」
「…………」

 とんでもないことを嬉々として話す総真から目を逸らし、雅臣は遠い目をする。

 ……もしかすると、『少し怖い』どころの話ではないのかもしれない。
 けれど、普通の人間なら裸足で逃げ出しそうなその重過ぎる愛も、臆病で後ろ向きな雅臣にはちょうどよかった。
 事実、今の雅臣の胸を満たすのは果てのない多幸感だ。呆れや恐怖なんてものは、微かなスパイス程度に過ぎない。
 そんなふうに思ってしまう自分に、雅臣は小さく苦笑した。そして、自分の肩口に頭を預けたままの総真と視線を交わす。
 
「……なぁ、キスして」

 雅臣が掠れた声で再度ねだると、今度は総真も素直に雅臣の唇にキスをしてくれた。
 さっきまでの責苦からは想像もできない優しいキスに、雅臣はうっとりと目を閉じる。
 あれだけ恐れていた総真の運命の番のことが、不思議と今は怖くなかった。
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