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しおりを挟む王都行きの馬車に乗って、数日かけて三人は王都へと向かった。
その間もノアは何度かめまいを起こして倒れることもあったが、両親に支えられながらなんとか生きたまま王都にたどり着くことができた。
「こういうのって、普通魔族だったら魔法とかでビューン!……って、一瞬でテレポートできたりするもんなんじゃないの?」
「魔族だからってなんでもできると思われちゃ困るな。俺はただの淫魔だから、ただ絶倫でセックスしたらめちゃくちゃ気持ちいいくらいしか取り得がないんだよな。あ、あと顔も良い」
「しっ。変な話を街中でするな」
父──いや、母のゼノに叱られ、ノアはアルバとともにしゅんとする。
だが、ゼノの叱咤ももっともだ。
この世界において、魔族の存在は脅威である。現状、獣人と魔族は敵対関係にはないが、その力の差は歴然で、獣人は当然のように魔族を恐れている。
ただ、獣人の住むこの国──世界地図で見れば小さな島国は、元は魔族の領地だった。海を渡った獣人たちがそこに勝手に住み着いているという経緯もあり、時折島にやってくる魔族を獣人たちは邪険にもできない。
それでも、怖いものは怖いだろう。
実際、鼻の利く獣人たちはアルバの正体に気づいているようで、わかりやすく距離をとっている。当のアルバは慣れているのか、特に気にしている様子もないが。
「それで、ロウの家は?」
「えっと……ここからは少し離れたところにあるみたい」
以前ロウから送られた手紙の住所を見ながら、ノアは両親とともに街を歩く。
さすが王都なだけあって、賑わっている。建物も店も故郷の田舎町とはなにもかもが違って見えて、ノアは少し新鮮な気分だった。
ロウの家は街中から少し離れた閑静な場所にあった。住宅街なのか、同じような家がいくつも建ち並んでいる。一頭分の小さな馬小屋がある家が多いから、もしかすると騎士が多く住んでいる地域なのかもしれない。
「この家か?」
「うん、たぶんそうだと思う」
別に表札なんてないが、きちんと整えられた庭を見てそんな気がした。ガサツそうに見えて、案外ロウは綺麗好きなのだ。
「じゃ、行ってこい。お前が家の中に入れたら、俺たち街に戻るから」
「えっ?」
さらりと告げられた言葉に、ノアは目を丸くした。
「ま、街に戻るって……一緒にいてくれないの?」
「そりゃ、なあ……?」
アルバとゼノは顔を見合わせてから、再びノアを見下ろす。そして、ゼノが困ったような表情で言った。
「むしろ、お前は傍にいてほしいのか? 俺は息子がセックスするとこなんてあまり見たくないが……」
そういえばそうである。
ノアだって、セックスしているところを両親に見られたくなんてない。
ただ、ひとりになるのは不安だった。
「いや、そりゃそんなとこ見られたくはないけどさ……でも、ちょっと離れたとこで待っててくれるとか、いろいろあるでしょ?」
「でも、下手したら何日も待つことになるかもしれないし、俺らも王都で観光とかしたいし……」
アルバとゼノは顔を見合わせて「なぁ?」などと言い合っている。
それを見たノアは、じとっとした目で両親を睨んだ。
「ちょっと……まさか観光目的で王都に来たんじゃないよね? 息子が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ?」
「な、なに言ってんだよっ。観光目的なんて、そ、そんなはずないだろ?」
「お前の食事が目的で、観光はおまけだ……」
「結局観光したいんじゃん!」
ノアが大きく叫んだ瞬間、どこからかガチャっと扉が開く音がした。
ノアと両親が弾かれたように音のした方を振り返ると、大きく開かれたドアの向こうに訝しげな顔をした大男が立っている。
ノアの片思いの相手──幼馴染のロウそのひとだ。
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