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第一話 異世界

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取り敢えず、あの女子が言っていた不死という言葉が気になった私は、もしやと思い、帯刀してある大和で左手を切り落としてみる。
激痛こそ走るが、連合軍と戦闘した時と比べればマシな方だ。
切り落とした左手を見てみると、本来ならば止血が必要になるほどの量の血が出るはずなのだが、切り口からは一滴も血が出てこない。
不思議に思っていると、煙とともに失ったはずの左手が再生され、一方の切り落とした左手は跡形もなく消え去っていた。
これのことから、最悪のことが起きたと分かった。
あの女子、私の本望である戦場での死を叶わぬ夢になるよう、私を不死身にしたのだ。
あのような者が神とは、あの世は相当腐っているようだな…臣民に寄り添ってくださる天皇陛下とは雲泥の差…否、あの者と天皇陛下を比べること自体おこがましい。
不死となってしまった私だが、今は不死ではなくなる方法を考えるよりもこれからの方針を決める方が大切だろう。
あの女子の言葉を信じたくは無いが、恐らくここは私がいた世界とはまた別の世界だろう。つまり、大日本帝國が存在していない可能性がある。

「………そう言えば、武器に細工をしたと言っておったな…」

女子が武器に細工をしたことを思い出した私は、何をしたのか確認をするため、まずは大和を確認してみることにした。
大和の刀身はまるで新品のように綺麗になっている上、何やら薄い膜のような物が刀身を覆っていた。
試しに目の間に生えてある木に向かって、大和を一振する。
すると、木はまるで紙を切るかのように容易く輪切りにすることが出来た。
刃こぼれをしている様子がないため、大和に施された細工は切れ味と耐久性の向上だろう。
では、次は十四年式拳銃だな。
十四年式拳銃に施された細工を調べようと、残弾数を知っておくために弾倉を出そうとするが、何故か出てこない。
もしやと思い、1発木に向かって発砲してみた。
乾いた銃声と共に銃弾は放たれ、木を貫通したのだが、空薬莢が出てこない。連続で何発も撃ってみたのだが、空薬莢が出てこない所か、弾切れにすらならない。
以上のことから、十四年式拳銃に施された細工は弾丸の威力向上と弾丸の無限なのだろう。
武器の確認が出来た私は、改めて周りを見渡した。
周りの雰囲気は至って普通で、日本の森とさほど変わらない。そのため、ここが異世界と呼ばれる場所なのかどうか怪しくなってくる。一先ずは、人里を探すためにも歩き始めることにした。

「キャァーーーーー!!!」

宛もなく辺りを見渡しながら歩いていると、誰かの悲鳴が聞こえたため、私は急いで声がした方に走って向かった。
羽織っているコートのせいで少し動きづらかったが、私は少し整備がされた道に出ることが出来た。
目を瞑り耳を澄ませていると、何やら争っているような声が聞こえ、そちらに向かってみる。
声がした方へ向かうと、賊らしき者達が高貴な場所を襲っているのが見えた。
護衛らしき兵は既に殺され、数名の侍女とお嬢様らしき女子を身を呈して守っているようだ。

「へへっ、そう心配しなくても、1人1人ちゃ~んっと売りさばいてやるからよ」
「なぁ少しつまみ食いしてもバレねぇよな?」
「それもそうだな、頭、どうし致します?」
「なら、頂くとするか!」

少し耳をすませば汚らわしい会話が聞こえてくる。
これは帝國軍人として見逃すことが出来ぬ鬼畜の所業、1歩1歩と十四年式拳銃の射程内に入るまで歩みを賊にバレぬよう歩む。
目測で50mに入った辺りで、賊の1人に向けて発砲。
乾いた銃声音が辺りに鳴り響いた後、脳天を貫かれた男はその場に倒れ伏した。

「なっ、なんっ!」
「おい!どうし」

賊共が混乱しているうちに、次々と弾を発砲し確実に数を減らす。

「あ、アイツだ!野郎共、かかれーー!!」

賊を4人倒したところで、賊の首領らしき男が私のことを見つけ、部下に命令をした。
こちらに向かってくる賊を十四年式拳銃で、脳や心臓を的確に撃ち抜きながら、私は首領に向かって歩き続ける。

「なっ、ななななんだよお前!!く、来るな!こっちに来るなぁ!!! 」

部下を全員始末された首領は、私に対して恐怖を感じたのか、転びながらも必死に逃げようとする。

「か弱い女子に恐怖心を植え付けたというのに、自身が恐怖を感じれば敵前逃亡を図ろうとするとは…笑止千万。来世は真面目に生きることだな」

逃げようとする首領に、私は容赦なく十四年式拳銃の引き金を引き、頭を撃ち抜いて絶命させた。

「あ、ありがとうございます…」

十四年式拳銃を懐にしまっていると、襲われていた侍女の1人が私の元まで駆けつけ、礼を述べた。

「帝國軍人としてなすべきことをしたまでだ、礼には及ばぬ…」

他に賊の生き残りが居ないか辺りを見ていると、賊が乗ってきたであろう馬に目が止まった。
折角だ、戦利品として貰って行くか。

「つかぬ事をお伺いするが、ここの近くに町はあるか?」
「えっ?あっ、はい!ここから北の方に向かえば、バルカルト公国の首都であるベラルカがあります。案内したい所ですが、我々は反対方向に行く必要があるため…申し訳ございません」

私の問に侍女は素直に答えてくれる。
いくら足があったとしても、街などの場所が分からなければ体力を無駄に消費してしまうからな。
しかし、バルカルト公国か……聞いたことがないな。やはり、ここは私が暮らしていた世界とはまた別の世界で間違いないのか…
侍女達が貴族らしき女子の怪我や馬車の痛み具合を確認しているのを尻目に、私は賊の遺体を道端に寄せ、馬に跨った。

「さてと、出るとするか…」

手綱を持ち、貴族らしき女子達に対して少し一礼した後、馬で颯爽と去ろうとしたのだが、

「お、お待ちください!」

貴族らしき女子に止められた。

「去る前に貴方様の名を教えては下さらないでしょうか?」
「私の名は大日本帝こ………いや、遠い国の元軍人、八雲 勇一だ…では、私はこれで…」

名を聞かれた私は、大日本帝國の軍人ということを隠し、元軍人の八雲勇一と名乗った後、ベラルカと呼ばれる場所へ向けて馬を走らせた。
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