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2.王太子のご乱心
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あの後、会場は最悪のカオスになった。
俺の手を握りしめて「やっべ実物のレニたんめちゃくちゃカワユす、かおちっちゃ、手ェすべすべ」と大興奮のマシンガントークをかます王太子。
そんな王太子に縋り付いて、こっちがヒィッてなるぐらいの勢いで腕振られてブン投げられたマリク。
マリクは火が点いたように泣き、アーネストは未だ何が起こっているかも分からず固まっている俺に頬ずりし、周囲はドン引き。
「レニたん、レニたん。もう大丈夫。かわいいレニたんを絶対に離さないからね!」
何が大丈夫なんだ。全然大丈夫じゃねえよ。俺の計画滅茶苦茶だよ。
言ってやりたいことは喉の奥でぐるぐるしていたが、何一つ言葉に出来ず、俺はただ、されるがままになっているしかなかった。
というのも、俺はこいつが怖かった。わけのわからん言動もそうだが、そんなことよりもっと怖かったのは、こいつの眼だ。
絶対に離さないからね、と断言したその眼差しにははっきりとした執着と底知れない闇が渦巻いており、冗談でも婚約破棄を提案するなんてできなかった。
(なんだこれ。なんなんだよ、まじで)
頭の中でそう叫びつつも、俺はただ頷いて。
「ワ、ワー……うれしいなー……アハ、アハハ……」
そう呟くことしかできなかった。
***********
それからどうやって屋敷まで帰って来たのか、俺は良く覚えてない。
だが、屋敷に帰って一人きりになってようやく、ポツリと「なんなんだ」と呟いた。そうしたら止まらなくなって、混乱、悪態、嘆き、全てが口を衝いて雪崩出る。
「あり得ないあり得ないあり得ない!!!!!!マジなんなんだよあれ!!!!!!話が違うだろ!オマエ俺のことレニたんなんて呼んだことねえだろ!お前が好きなのマリクだろ!婚約してこのかた、可愛いとかいっぺんも言ったことねえだろ!きもちわるいきもちわるい、頭おかしい、俺の苦労どうすんだよ、婚約破棄できねえじゃん、うっ、う……」
うわーん、と子供のように泣きじゃくった。別人になったとしか思えないアーネストが心から恐ろしく、そんな恐ろしい存在から『絶対に離さない』と言われたことがショックだった。
何かの間違いであってほしい。明日になったら正気に戻って、俺を『不器量で愛想が悪く出来損ない』と罵って、やっぱりマリクがいいと思ってほしい。
俺は心配する世話役の声も耳に入らず、そのままベッドに突っ伏して泣き続けた。
翌朝、俺のそんな願いを朝笑うかのように、事件は起きた。
ヤツが来たのだ。俺の婚約者様、アーネスト王太子が。
両親や使用人は、今までにない婚約者の訪問を大喜びで歓迎したが、俺は真っ青になった。
何を暢気に喜んでるのか、意味が解らない。アポなし訪問なんて身分ある人間がすることじゃないし、婚約してこのかた、訪問どころか花の一つだって贈られたことがない。
それなのに、目の前にいるアーネストは別人のように朝っぱらから晴れやかな顔でニコニコと満面の笑みを浮かべ、クソデカ花束を抱えて俺の家にやってきたのだ。
「ゆ、夢だ。これは夢だ。なにかの間違いなんだ……」
ガタガタ震えながら呟く俺に、何も知らないばあやは涙ぐみながら「夢じゃありませんよ。良かったですね、坊ちゃま」とハンカチなんか目に当てている。
俺は恐怖を堪えてそっとアーネストを見た。目が合う。
「ヒッ」
こわい。こわい。めっちゃガン見されてる。しかもなんか興奮してる。やっぱりこいつやばいよ。
「おはよう、レニたん」
「お、おはようございます。アーネスト様」
「『おはよう』いただきました!!!!」
唐突に叫ばれ、俺は全身をビクッと震わせた。アーネストは身を捩らせながら悶えている。
「ああ……レニたんにおはようって言って貰えるなんて、夢のようだ……最推しのおはよう、沁みまくる。マジ元気でる」
「は、はあ……」
やべー。やべーよまじ。こいつ頭おかしくなっちゃったんだ。どうしよう。これ、俺のせい?能力だけは優秀だった王太子をポンコツにした罪に問われちゃう?ほんと勘弁してくれよ。
あっけにとられている俺の両親に気付き、流石のアーネストもゴホンと咳払いをして気を取り直した。
「朝から騒がせてすまないね、俺の可愛いアイリスにどうしても会いたくなったものだから」
そう言って完璧な笑顔を向けるアーネストに、両親もホッとした表情になる。
ちなみにコイツが言うアイリスというのは、俺のこと。多分。今まで一度も言われたことないから知らんけど。俺の目が紫がかった青だからそう言ったんだろう。ちなみに髪はちょっとくすんだ金髪で、この国ではめちゃくちゃ平凡だ。多分国民の8割くらい同じ色。
「光栄でございます。すぐにお茶の用意をさせますので、よろしければ庭園へどうぞ」
えっマジで、と思わず思ったけど、この国でヒエラルキー頂点の王族を門前で追い返すことはできない。当然のことだ。
アーネストは鷹揚に頷き、当然のように俺の腰を抱いて案内を促す。
「ヒィッ」
全身ぞわぞわっと鳥肌が立ったけれど、見下ろしてくる全く感情の読めない笑顔が恐ろしすぎて、逆らう勇気はなかった。俺は弱い。
「レニたんのお家初訪問で、お茶デートキタコレ」
ボソッと呟かれた言葉は、聞こえない。聞いてないったら、聞いてない!
俺の手を握りしめて「やっべ実物のレニたんめちゃくちゃカワユす、かおちっちゃ、手ェすべすべ」と大興奮のマシンガントークをかます王太子。
そんな王太子に縋り付いて、こっちがヒィッてなるぐらいの勢いで腕振られてブン投げられたマリク。
マリクは火が点いたように泣き、アーネストは未だ何が起こっているかも分からず固まっている俺に頬ずりし、周囲はドン引き。
「レニたん、レニたん。もう大丈夫。かわいいレニたんを絶対に離さないからね!」
何が大丈夫なんだ。全然大丈夫じゃねえよ。俺の計画滅茶苦茶だよ。
言ってやりたいことは喉の奥でぐるぐるしていたが、何一つ言葉に出来ず、俺はただ、されるがままになっているしかなかった。
というのも、俺はこいつが怖かった。わけのわからん言動もそうだが、そんなことよりもっと怖かったのは、こいつの眼だ。
絶対に離さないからね、と断言したその眼差しにははっきりとした執着と底知れない闇が渦巻いており、冗談でも婚約破棄を提案するなんてできなかった。
(なんだこれ。なんなんだよ、まじで)
頭の中でそう叫びつつも、俺はただ頷いて。
「ワ、ワー……うれしいなー……アハ、アハハ……」
そう呟くことしかできなかった。
***********
それからどうやって屋敷まで帰って来たのか、俺は良く覚えてない。
だが、屋敷に帰って一人きりになってようやく、ポツリと「なんなんだ」と呟いた。そうしたら止まらなくなって、混乱、悪態、嘆き、全てが口を衝いて雪崩出る。
「あり得ないあり得ないあり得ない!!!!!!マジなんなんだよあれ!!!!!!話が違うだろ!オマエ俺のことレニたんなんて呼んだことねえだろ!お前が好きなのマリクだろ!婚約してこのかた、可愛いとかいっぺんも言ったことねえだろ!きもちわるいきもちわるい、頭おかしい、俺の苦労どうすんだよ、婚約破棄できねえじゃん、うっ、う……」
うわーん、と子供のように泣きじゃくった。別人になったとしか思えないアーネストが心から恐ろしく、そんな恐ろしい存在から『絶対に離さない』と言われたことがショックだった。
何かの間違いであってほしい。明日になったら正気に戻って、俺を『不器量で愛想が悪く出来損ない』と罵って、やっぱりマリクがいいと思ってほしい。
俺は心配する世話役の声も耳に入らず、そのままベッドに突っ伏して泣き続けた。
翌朝、俺のそんな願いを朝笑うかのように、事件は起きた。
ヤツが来たのだ。俺の婚約者様、アーネスト王太子が。
両親や使用人は、今までにない婚約者の訪問を大喜びで歓迎したが、俺は真っ青になった。
何を暢気に喜んでるのか、意味が解らない。アポなし訪問なんて身分ある人間がすることじゃないし、婚約してこのかた、訪問どころか花の一つだって贈られたことがない。
それなのに、目の前にいるアーネストは別人のように朝っぱらから晴れやかな顔でニコニコと満面の笑みを浮かべ、クソデカ花束を抱えて俺の家にやってきたのだ。
「ゆ、夢だ。これは夢だ。なにかの間違いなんだ……」
ガタガタ震えながら呟く俺に、何も知らないばあやは涙ぐみながら「夢じゃありませんよ。良かったですね、坊ちゃま」とハンカチなんか目に当てている。
俺は恐怖を堪えてそっとアーネストを見た。目が合う。
「ヒッ」
こわい。こわい。めっちゃガン見されてる。しかもなんか興奮してる。やっぱりこいつやばいよ。
「おはよう、レニたん」
「お、おはようございます。アーネスト様」
「『おはよう』いただきました!!!!」
唐突に叫ばれ、俺は全身をビクッと震わせた。アーネストは身を捩らせながら悶えている。
「ああ……レニたんにおはようって言って貰えるなんて、夢のようだ……最推しのおはよう、沁みまくる。マジ元気でる」
「は、はあ……」
やべー。やべーよまじ。こいつ頭おかしくなっちゃったんだ。どうしよう。これ、俺のせい?能力だけは優秀だった王太子をポンコツにした罪に問われちゃう?ほんと勘弁してくれよ。
あっけにとられている俺の両親に気付き、流石のアーネストもゴホンと咳払いをして気を取り直した。
「朝から騒がせてすまないね、俺の可愛いアイリスにどうしても会いたくなったものだから」
そう言って完璧な笑顔を向けるアーネストに、両親もホッとした表情になる。
ちなみにコイツが言うアイリスというのは、俺のこと。多分。今まで一度も言われたことないから知らんけど。俺の目が紫がかった青だからそう言ったんだろう。ちなみに髪はちょっとくすんだ金髪で、この国ではめちゃくちゃ平凡だ。多分国民の8割くらい同じ色。
「光栄でございます。すぐにお茶の用意をさせますので、よろしければ庭園へどうぞ」
えっマジで、と思わず思ったけど、この国でヒエラルキー頂点の王族を門前で追い返すことはできない。当然のことだ。
アーネストは鷹揚に頷き、当然のように俺の腰を抱いて案内を促す。
「ヒィッ」
全身ぞわぞわっと鳥肌が立ったけれど、見下ろしてくる全く感情の読めない笑顔が恐ろしすぎて、逆らう勇気はなかった。俺は弱い。
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