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番外編
ひめごとびより 8日目
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迷った末、俺はアーネストにこっそり話しちゃおうかな、と思った。
だってさー、学校行きたいじゃん?多分ほんとに妊娠確定したら、父上は家にいなさいって言うと思うんだよ。学園は中退になって、アーネストとの結婚がめちゃくちゃ早まるやつ。
でも、俺はそんなのイヤだ。お腹の子もめちゃくちゃ大事にするけど、学園はちゃんと卒業したい。
後になってから思い返して、やっぱり卒業したかったな……なんて思うのはごめんだし。
そうなると、アーネストを先に説得して味方につけるしかない。アーネストもお腹の子を心配して渋るかもしれないけど、それでも父上よりはまだ勝算はあるはず。
だから、まずは妊娠の可能性が高いことと学園を卒業したいってことを同時に打ち明けて、言質を取っておくんだ。
「あのな、アーネスト」
「なあに?レニたん♡」
うーん、めちゃくちゃ期待されている。これを打ち砕くのは可哀想だが、致し方ないよなぁ。
ぶんぶんと振られるアーネストの尻尾が見えた気がするが、心を鬼にする。ゆるせー。
「その編んでるやつは、お前のじゃないんだ」
そう打ち明けた時のアーネストの表情を、一体何に例えよう。
言うなれば、無。完全に言葉の意味の理解を拒まれてる感じ。
実際アーネストは『えっ?』と訊きかえしすらした。ううう、良心が痛むぅ。そんな顔するなよ。
「だから、編み物はお前のためにしてるんじゃないんだよ」
「じゃあ、誰にあげるつもり?」
一転、アーネストの纏う雰囲気がめちゃくちゃ冷たくなった。冷気すら漂ってくるこの感じ、本当に久々だなあ。
でも、何度見ても怖いものはこわい。こいつ、ほんとなんなの?兄上達といい、人間ってそんな簡単に周囲の温度を上げ下げできるようなものではないはず。どういう原理でそうなるんだよ。
そうは思うけど、今俺がコイツの威圧に寒気を感じているのも事実なわけで。
俺は何だか気分が悪くなって、ふらっと体をよろめかせた。
「レニたん!?」
すかさずアーネストが怒りを引っ込めて俺の体を支える。俺は何だか体に力が入らなくて、そのまま体重を預けた。俺、どうしたんだろう。
「ごめんねレニたん、病み上がりなのに怒ったりして。こわかったよね。もう怒ってないから」
俺は一転して尻尾を下げたアーネストに、首だけ頷いて応える。なんか眩暈がして、うまく言葉が出てこない。
アーネストは俺を抱っこして、寝室に連れて行った。俺を優しい手つきでベッドに横たえ、部屋の外に控えさせていたメイドを呼ぶ。
「レニオールの気分が優れない。医者の手配を」
それを聞いて、メイドは仰天し、大慌てて母上のところへ走っていく。止めたいけど、今の俺にはどうすることもできない。
メイドたちは俺が妊娠してるかもって知っているから、尚更一大事と思って動転しているんだろう。
「アーネスト……」
「大丈夫、レニたん。今日はここにいるから。気分悪い?今お医者様来るからね」
俺が心細くなってアーネストを呼ぶと、アーネストは俺の手を取って励ました。まだ子供がいるって言ってないのに、もうそんな状態なのかと思うとちょっとおかしくて、俺は笑う。
「ちょっと立ちくらみしただけだから、少し休んだら良くなるよ」
「うん。レニたんが目を覚ますまでここにいるから。ゆっくり眠って」
俺はその言葉に甘えてしまいたくなったけど、何とかそれをとどめて唇を開いた。
このままじゃ、母上が乱入してきて何も知らないアーネストに洗いざらいぶちまけて怒ってしまう。
そんな形で妊娠の可能性を知らせたくないと俺は思った。せっかくの嬉しい報せなのに、台無しになってしまうなんて悲しい。
「あのな……アーネスト」
「うん、なぁに?レニたん」
「おれ……お前に言わなきゃいけないことがあって」
「うん」
アーネストは頭がなかなか回らない俺に、優しく相槌を打った。だから俺は、迷いながらも一生懸命言葉を続けようとする。
「あの編み物は、俺の大切な人のために編んでたんだ……何かしてあげたくて。喜ぶかなって思いながら……」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をする。こんな時でも嫉妬を隠せないなんて、ほんとに子供だな。大丈夫か?おまえ、きっと父親になるんだよ。
「大切な人って、だれ?」
アーネストが尋ねる。俺はアーネストを手招きすると、内緒話をするみたいに耳元に顔を近付けて、こっそり打ち明けた。
「お前と、俺の……赤ちゃん」
だってさー、学校行きたいじゃん?多分ほんとに妊娠確定したら、父上は家にいなさいって言うと思うんだよ。学園は中退になって、アーネストとの結婚がめちゃくちゃ早まるやつ。
でも、俺はそんなのイヤだ。お腹の子もめちゃくちゃ大事にするけど、学園はちゃんと卒業したい。
後になってから思い返して、やっぱり卒業したかったな……なんて思うのはごめんだし。
そうなると、アーネストを先に説得して味方につけるしかない。アーネストもお腹の子を心配して渋るかもしれないけど、それでも父上よりはまだ勝算はあるはず。
だから、まずは妊娠の可能性が高いことと学園を卒業したいってことを同時に打ち明けて、言質を取っておくんだ。
「あのな、アーネスト」
「なあに?レニたん♡」
うーん、めちゃくちゃ期待されている。これを打ち砕くのは可哀想だが、致し方ないよなぁ。
ぶんぶんと振られるアーネストの尻尾が見えた気がするが、心を鬼にする。ゆるせー。
「その編んでるやつは、お前のじゃないんだ」
そう打ち明けた時のアーネストの表情を、一体何に例えよう。
言うなれば、無。完全に言葉の意味の理解を拒まれてる感じ。
実際アーネストは『えっ?』と訊きかえしすらした。ううう、良心が痛むぅ。そんな顔するなよ。
「だから、編み物はお前のためにしてるんじゃないんだよ」
「じゃあ、誰にあげるつもり?」
一転、アーネストの纏う雰囲気がめちゃくちゃ冷たくなった。冷気すら漂ってくるこの感じ、本当に久々だなあ。
でも、何度見ても怖いものはこわい。こいつ、ほんとなんなの?兄上達といい、人間ってそんな簡単に周囲の温度を上げ下げできるようなものではないはず。どういう原理でそうなるんだよ。
そうは思うけど、今俺がコイツの威圧に寒気を感じているのも事実なわけで。
俺は何だか気分が悪くなって、ふらっと体をよろめかせた。
「レニたん!?」
すかさずアーネストが怒りを引っ込めて俺の体を支える。俺は何だか体に力が入らなくて、そのまま体重を預けた。俺、どうしたんだろう。
「ごめんねレニたん、病み上がりなのに怒ったりして。こわかったよね。もう怒ってないから」
俺は一転して尻尾を下げたアーネストに、首だけ頷いて応える。なんか眩暈がして、うまく言葉が出てこない。
アーネストは俺を抱っこして、寝室に連れて行った。俺を優しい手つきでベッドに横たえ、部屋の外に控えさせていたメイドを呼ぶ。
「レニオールの気分が優れない。医者の手配を」
それを聞いて、メイドは仰天し、大慌てて母上のところへ走っていく。止めたいけど、今の俺にはどうすることもできない。
メイドたちは俺が妊娠してるかもって知っているから、尚更一大事と思って動転しているんだろう。
「アーネスト……」
「大丈夫、レニたん。今日はここにいるから。気分悪い?今お医者様来るからね」
俺が心細くなってアーネストを呼ぶと、アーネストは俺の手を取って励ました。まだ子供がいるって言ってないのに、もうそんな状態なのかと思うとちょっとおかしくて、俺は笑う。
「ちょっと立ちくらみしただけだから、少し休んだら良くなるよ」
「うん。レニたんが目を覚ますまでここにいるから。ゆっくり眠って」
俺はその言葉に甘えてしまいたくなったけど、何とかそれをとどめて唇を開いた。
このままじゃ、母上が乱入してきて何も知らないアーネストに洗いざらいぶちまけて怒ってしまう。
そんな形で妊娠の可能性を知らせたくないと俺は思った。せっかくの嬉しい報せなのに、台無しになってしまうなんて悲しい。
「あのな……アーネスト」
「うん、なぁに?レニたん」
「おれ……お前に言わなきゃいけないことがあって」
「うん」
アーネストは頭がなかなか回らない俺に、優しく相槌を打った。だから俺は、迷いながらも一生懸命言葉を続けようとする。
「あの編み物は、俺の大切な人のために編んでたんだ……何かしてあげたくて。喜ぶかなって思いながら……」
アーネストはめちゃくちゃ複雑そうな顔をする。こんな時でも嫉妬を隠せないなんて、ほんとに子供だな。大丈夫か?おまえ、きっと父親になるんだよ。
「大切な人って、だれ?」
アーネストが尋ねる。俺はアーネストを手招きすると、内緒話をするみたいに耳元に顔を近付けて、こっそり打ち明けた。
「お前と、俺の……赤ちゃん」
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