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番外編
ひめごとびより 9日目
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俺がひっそり打ち明けると、アーネストは目を丸くして、『それって』と呟いた。
何か言ってやりたかったけど、俺はもう限界で、意識が闇の中に沈んでいく。
起きたら、もうちょっと詳しく話すから……。
「ちょっと待って、レニたん!もうちょっとだけkwsk!」
「レニオール!アーネスト王太子、あなたという人は……!」
「お義母さん!違うんですこれは」
「貴方にお義母さんと呼ばれる覚えはありません!レイチェル!槍を!」
「はい、奥様!」
「槍⁉︎」
ギャーギャーと騒がしくなる周囲の声に包まれながら、俺はそっと意識を失った。
目を覚ますと、横にはアーネストと母上がいた。
アーネストは微妙に制服がボロボロになっていて、俺の部屋も奇妙にカーペットが剥げていたり、あったはずの調度がなくなったりしている。一体、俺が寝ている間に何が?
「あっ、目が覚めたんだレニたん。気分はどう?」
アーネストがぱっと顔を輝かせ、すぐに心配そうな顔になる。一度休んだせいか、今は大分調子がよくなっていた。
「うん、だいぶいいよ。ごめんな、心配かけて」
「ほんとだよ……びっくりさせないで。もうどうしようかと思った。俺、レニたんなしじゃ生きてけない。レニたんのいない世界なんてなくていい」
だから、物騒なことを言うんじゃないよ……なんでこう、すぐに世界を壊したがるんだ。コイツの本質がもうヤバいやつなんだな、ほんと。
コイツをモンスターキングにしないためにも、俺は長生きしなきゃいけないわけか。はぁ。
まあこれも、こんな狂犬を飼うことにしてしまった飼い主の責任ってやつなのかなあ。
「わかったわかった。悪かったよ。……お前のガッカリする顔、みたくなかったからさ。怒ってるか?」
うるうるっ、とわざと上目遣いで伺うと、アーネストは狙い通り顔を紅潮させて鼻のあたりを抑えている。よし、威力はあったっぽい!
「ず、ずるいよレニたん!この小悪魔!ツンデレ!きゃわたん!子猫ちゃん!俺がそういうことすれば喜ぶと思って!」
「ダメか?」
「ダメじゃないです!!!ありがとうございます!!!!」
よしよし、機嫌が直ったようで何よりだ。母上にはちょっと呆れた顔で見られている気がするけど、母上も特に怒ってはいなさそうでよかった。
「母上、俺が倒れたのはやっぱり……」
「お医者様は、恐らく貧血だろうって仰っていたわ。きっと赤子に栄養を取られているんでしょう」
なるほど、そういうこともあるのか。確かに、人一人お腹で作られてるんだから、普通に食べてるだけじゃ足りないよな。でも、俺はそんなにたくさんは食べられない方だ。普通の女性よりは食べるけど、アーネストや兄上たちなんかには全然敵わない。
そもそも、何を食べたら子供にいいのかよくわかんないな。でも母上が身籠っていた時のメニューを料理長がきっと知ってるだろうから、つくってもらおうかな。
「レニたん、俺に任せて!レニたんと俺の愛の結晶のために、俺がレニたんの口に入るものを完全管理するから。明日までに献立リスト持ってくるね」
「えっ」
いやいや、待てよ。お前妊婦のことなんかわかんないだろ。献立リストって、どうやって?っていうか、完全管理っていう言葉の響きがもう何か怖い。俺、何されるんだ。
「レニたんはなんにも心配しなくていいからね。まだガッツリしたもの食べられそうだから、今のうちに口に合いそうなやついこう。夕飯はとりあえずホウレンソウとベーコンのビスマルク、牡蠣とブロッコリーのガーリックソテー、レバーパテ、イチゴあたりにしておいて、暫くは増血重視でチーズと魚介系攻めよう。納豆と豆腐は作ってみるから、食べられそうなら組み込んでいこうか」
「お、おう……」
めちゃくちゃ圧倒されて、俺は生返事をしながら頷くことしかできない。
多分アーネストが言ったことの半分も理解してないけど、とりあえずビスマルクと牡蠣のソテーはたべたい。お腹すいた。でもイチゴは季節終わってると思うけど、どこから手に入れてくるつもりなんだ?
「王家の威信にかけて、アセロラ絶対探させるから。赤ちゃんのためにレニたんに辛い思いなんて絶対させない……って言いたくても、悔しいけど不可能だろうから、最小限になるように頑張る!大好きレニたんありがとう、俺の子妊娠してくれて、ありがとうございます。ほんとにうれしい」
アーネストはガバッと俺に抱きついて、頬をすり寄せながら精一杯の感謝を告げてくる。
めちゃくちゃ喜んでくれてるのがわかって、俺はなんだかほっこりした。妊娠してよかったな、って改めてそう思う。
(お前、パパにも愛されてるんだぞ。めちゃくちゃ大切にするから、早くおっきくなって、元気で出てきてくれよな)
まだ何も変化がないように見えるお腹を撫でながら心の中で話し掛けると、何かがお腹の中でピクンと動いた気がした。まさか、これって。
「……今、もしかしたら反応したかも」
「ええっ!?赤ちゃんが!?」
「わかんない。多分……???なんか、ピクンって動いたみたいな気が」
アーネストは俺のお腹に耳を当てて、自分にもその脈動が感じられないかと真剣な顔をしてる。
俺がちょっと困って母上を見上げると、母上も苦笑いをしてた。多分父上も同じようなことをしてたに違いない。
なんだか、すっごく幸せ。俺はお腹に張り付いたまま離れないアーネストの頭を撫でながら、もの凄く満たされていた。
後日、アーネストが城で稲を煮沸消毒して糸を引いた大豆を作り、率先して食べようとして家臣全員に取り押さえられた話を聞かされてドン引きした。
それを聞いたマリクが腹を抱えて大爆笑した上に、ちゃんと東洋で売られているという『ナットウ』なる食べ物をくれて、一口で噴き出したのは許してほしい。
何か言ってやりたかったけど、俺はもう限界で、意識が闇の中に沈んでいく。
起きたら、もうちょっと詳しく話すから……。
「ちょっと待って、レニたん!もうちょっとだけkwsk!」
「レニオール!アーネスト王太子、あなたという人は……!」
「お義母さん!違うんですこれは」
「貴方にお義母さんと呼ばれる覚えはありません!レイチェル!槍を!」
「はい、奥様!」
「槍⁉︎」
ギャーギャーと騒がしくなる周囲の声に包まれながら、俺はそっと意識を失った。
目を覚ますと、横にはアーネストと母上がいた。
アーネストは微妙に制服がボロボロになっていて、俺の部屋も奇妙にカーペットが剥げていたり、あったはずの調度がなくなったりしている。一体、俺が寝ている間に何が?
「あっ、目が覚めたんだレニたん。気分はどう?」
アーネストがぱっと顔を輝かせ、すぐに心配そうな顔になる。一度休んだせいか、今は大分調子がよくなっていた。
「うん、だいぶいいよ。ごめんな、心配かけて」
「ほんとだよ……びっくりさせないで。もうどうしようかと思った。俺、レニたんなしじゃ生きてけない。レニたんのいない世界なんてなくていい」
だから、物騒なことを言うんじゃないよ……なんでこう、すぐに世界を壊したがるんだ。コイツの本質がもうヤバいやつなんだな、ほんと。
コイツをモンスターキングにしないためにも、俺は長生きしなきゃいけないわけか。はぁ。
まあこれも、こんな狂犬を飼うことにしてしまった飼い主の責任ってやつなのかなあ。
「わかったわかった。悪かったよ。……お前のガッカリする顔、みたくなかったからさ。怒ってるか?」
うるうるっ、とわざと上目遣いで伺うと、アーネストは狙い通り顔を紅潮させて鼻のあたりを抑えている。よし、威力はあったっぽい!
「ず、ずるいよレニたん!この小悪魔!ツンデレ!きゃわたん!子猫ちゃん!俺がそういうことすれば喜ぶと思って!」
「ダメか?」
「ダメじゃないです!!!ありがとうございます!!!!」
よしよし、機嫌が直ったようで何よりだ。母上にはちょっと呆れた顔で見られている気がするけど、母上も特に怒ってはいなさそうでよかった。
「母上、俺が倒れたのはやっぱり……」
「お医者様は、恐らく貧血だろうって仰っていたわ。きっと赤子に栄養を取られているんでしょう」
なるほど、そういうこともあるのか。確かに、人一人お腹で作られてるんだから、普通に食べてるだけじゃ足りないよな。でも、俺はそんなにたくさんは食べられない方だ。普通の女性よりは食べるけど、アーネストや兄上たちなんかには全然敵わない。
そもそも、何を食べたら子供にいいのかよくわかんないな。でも母上が身籠っていた時のメニューを料理長がきっと知ってるだろうから、つくってもらおうかな。
「レニたん、俺に任せて!レニたんと俺の愛の結晶のために、俺がレニたんの口に入るものを完全管理するから。明日までに献立リスト持ってくるね」
「えっ」
いやいや、待てよ。お前妊婦のことなんかわかんないだろ。献立リストって、どうやって?っていうか、完全管理っていう言葉の響きがもう何か怖い。俺、何されるんだ。
「レニたんはなんにも心配しなくていいからね。まだガッツリしたもの食べられそうだから、今のうちに口に合いそうなやついこう。夕飯はとりあえずホウレンソウとベーコンのビスマルク、牡蠣とブロッコリーのガーリックソテー、レバーパテ、イチゴあたりにしておいて、暫くは増血重視でチーズと魚介系攻めよう。納豆と豆腐は作ってみるから、食べられそうなら組み込んでいこうか」
「お、おう……」
めちゃくちゃ圧倒されて、俺は生返事をしながら頷くことしかできない。
多分アーネストが言ったことの半分も理解してないけど、とりあえずビスマルクと牡蠣のソテーはたべたい。お腹すいた。でもイチゴは季節終わってると思うけど、どこから手に入れてくるつもりなんだ?
「王家の威信にかけて、アセロラ絶対探させるから。赤ちゃんのためにレニたんに辛い思いなんて絶対させない……って言いたくても、悔しいけど不可能だろうから、最小限になるように頑張る!大好きレニたんありがとう、俺の子妊娠してくれて、ありがとうございます。ほんとにうれしい」
アーネストはガバッと俺に抱きついて、頬をすり寄せながら精一杯の感謝を告げてくる。
めちゃくちゃ喜んでくれてるのがわかって、俺はなんだかほっこりした。妊娠してよかったな、って改めてそう思う。
(お前、パパにも愛されてるんだぞ。めちゃくちゃ大切にするから、早くおっきくなって、元気で出てきてくれよな)
まだ何も変化がないように見えるお腹を撫でながら心の中で話し掛けると、何かがお腹の中でピクンと動いた気がした。まさか、これって。
「……今、もしかしたら反応したかも」
「ええっ!?赤ちゃんが!?」
「わかんない。多分……???なんか、ピクンって動いたみたいな気が」
アーネストは俺のお腹に耳を当てて、自分にもその脈動が感じられないかと真剣な顔をしてる。
俺がちょっと困って母上を見上げると、母上も苦笑いをしてた。多分父上も同じようなことをしてたに違いない。
なんだか、すっごく幸せ。俺はお腹に張り付いたまま離れないアーネストの頭を撫でながら、もの凄く満たされていた。
後日、アーネストが城で稲を煮沸消毒して糸を引いた大豆を作り、率先して食べようとして家臣全員に取り押さえられた話を聞かされてドン引きした。
それを聞いたマリクが腹を抱えて大爆笑した上に、ちゃんと東洋で売られているという『ナットウ』なる食べ物をくれて、一口で噴き出したのは許してほしい。
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