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番外編

ひめごとびより 10日目

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 レニたんが。
 レニたんがレニたんがレニたんが!!!!!

 祝☆懐妊!!!!
 俺との愛の結晶ベイビーを身籠ってくれました!!

 もうね、神に感謝。聞いた瞬間は真っ白になったけど、認識した途端、天使のラッパの声が聞こえてきたもん。
 こっそり打ち明けてくれたレニたんのはにかむ表情の可愛かったこと!
 あれが妊婦さんなんて、いっそギャップ過ぎてえっちだよ!いや、俺がエッチなことして孕ませたんだけどさあ!

 嬉しくて嬉しくて、とにかくじっとしてられない。
 レニたんには2人の赤ちゃんをお腹で育てて、大変な思いで産んでもらうんだし、そこに関しては何も出来ない俺が、その他のことを全部やるのは当たり前だよね。でないと、偉そうに『俺の子』とか言えない。おこがまし過ぎる。

 こっちの世界のイクメン事情がどうだか知らないけど、俺は愛する人との子の育児には断然参加する派。
 確かに大変だけど、だからこそ共に乗り越えて絆を強めることができると思うし、 密度高く接してないとわからない些細なベイビーの変化や成長を見れるのが、子育ての醍醐味ってやつでしょ。
 

 何より。俺が!レニたんと!赤ちゃんと!一緒にいたい!!!
 多分学生じゃなくなって、おまけに2人目になったら、今ほどはベッタリ側にいられなくなる。今がチャンスです!


 
 いやいや、ちょっと気が早かったね。まだ生まれてもいないのに、育児の話しちゃった。これだから男親ってやつは。
 とにかく、レニたんは現在進行形で頑張ってくれてるんだからね。俺も少しでも負担が軽くなるようできる限りのことをしなきゃ。

 諜報と影たちに、アセロラの絵と特徴を描いた紙を持たせて、商人や輸入商、旅芸人などに情報収集させてるけど、有益な話がなかったら船を出さないとだなぁ。
 間に合えばいいけど、見つかっても出産後っていうのは充分あり得る。
 まあ、子供は一人で終わらないし、産後の回復にも役立つだろうから無駄にはならないでしょ。

 とりあえずは温室でイチゴの苗を育てさせて、ハウス栽培始めよう。季節外れだから肥料を工夫するか……思い切って品種改良もありかな。
 イチゴは生命力強くて育てやすいから、入門編には丁度よさそう。

 あと、豆腐と納豆。納豆は作ってみたことはあるけど、菌だからなぁ。大事を取って食べないように先生に言われちゃったんだよな。
 でも、これも先駆者の宿命だよ。最初の一歩を踏み出さないと、その後の検証と安全は得られない。問題なかった経験の積み重ねが信用だもんね。




 俺は侍従に藁と水に浸けてから煮たものを用意させ、藁をしっかり煮沸して豆を包み、発酵させた。
 数日後、見た目だけはバッチリな納豆が完成し、意気揚々と食べようとしたら、侍従が悲鳴を上げ、俺はその場にいた全員に取り押さえられる。
 HA NA SE! せっかくできた納豆だぞ~!
 
 侍従には泣いて止められ、『こんな腐った得体の知れないものを召し上がって、もしも殿下に何かあったら、お子様を宿されたレニオール様はどうすればいいのですか!』と説得されて諦めた。
 そりゃそうだ。俺はレニたんとベイビーのために長生きしなきゃ。納豆は最初はマウスとかに食べさせよう。それから死刑の決まった囚人に毎日食べさせ、段階を踏んでいくしかないなぁ。

 それを話したらマリクは『ヤバい、バカじゃん!』って指差して涙流しながら笑って、その後東洋で作られてる納豆を買ってきてくれた。あったんだ……!(白目)
 レニたんは残念ながらお口に合わなかったみたいで、一口で悶絶してたけど、無理もないかぁ。
 とりあえずこのままは無理なのは確定だから、加工して誤魔化せないか研究だな。

 この感じだと、豆腐も自作しなくても済みそうな予感。納豆があって豆腐がないとは考えにくい。
 そうなると、味噌と醤油も……。
 純粋に俺が食べたいのもあるけど、脂質を摂りすぎちゃいけない妊婦さんには、和食は打ってつけだからね。
 あんまり料理は作ったことないから、こっちはマリクに頼んだ方が良さそうだ。
 ちゃっかり納豆をゲットしていたことからして、既にいくつか日本食のレパートリーを持っている可能性大だな。

 あとは、リラックスミュージックと、胎教の本と…マッサージも必要。この辺りは公爵家にもありそうだから、俺が出しゃばらずにご実家を頼るか。
 あとは……。




「陛下、お話があります」

 俺は父親である国王の執務室に足を向けた。
 親父は相変わらず書類に埋もれ、辛うじて隙間から顔が伺える程度。これが未来の自分の姿かと思ったら嫌気がさす。
 絶対俺が継ぐまでにもっと効率的でシステマチックな環境にするぞ。でないとレニたんと過ごす時間がなくなって死ぬ。

「何だ、アーネスト。手短に頼む」

 ほらね、これだよ。久しぶりに息子が訪ねて来てるってのに、書類から目も上げやしない。
 俺はレニたんとの間にできた子供たちとは、もっとアットホームで円満な関係を築きたいんだよ。
 
 まあ、あっちも手短にという希望だし、用件だけ行くとしよう。

「俺はこれから10ヶ月、ノクティス公爵家で生活します。ご報告だけさせて頂きました。では」

 俺はそれだけ言って、さっさと帰ろうとする。侍従に荷物は纏めさせているから、公爵家に行くだけだ。
 身籠ってるレニたんを付きっきりで支えるつもりだからね。

「ま、まてまて待て――――――――い!」

 親父がバッタみたいにビヨーンと飛び上がって、俺の前に回り込んでくる。
 凄い動きするなぁ、ちょっと面白い。

「なんですか」

「なんですか、じゃあない!なんでいきなり公爵家に厄介になろうとしてるんだ!」

「えー、説明要ります?手短にって言ったのはそっちですよ」

「やかましい!そもそも何平然と我儘が通ると思ってるんだ」

 我儘とは聞き捨てならない。これから子供が生まれてるって言うのに、母親とその実家任せにしてるなんてそっちのがよっぽど無責任でしょ。
 これだから育児に理解のない前時代的な男はイヤなんだ。仕事人間とか言って、逃げてるだけだろ。

「レニたんが妊娠したから、生まれるまで傍に居たいんです」

「………………は?」

 親父はハトが豆鉄砲くらったみたいな顔をして、ポカンと口を開けてる。国王陛下、威厳とかどうしたよ。

「まさか生まれるまで別居とかないですよね?レニたんを城に連れてくるのも、公爵が頷くとはとても思えませんし、レニたんにとっても気心の知れた者がいない王宮は精神的に負担が大きすぎます。レニたんはノクティス公爵家とリンドン公爵家、ひいてはファンネ王室の掌中の珠ですからね。そのレニたんを孕ませておいて、実家任せで放置していては問題になりますよ」

 ただでさえ長年の冷遇で此方は快く思われていないんだ。婚前にヤるだけヤって、孕んだら知らんぷりみたいに思われるのは、親父としても思わしくないはず。
 今度こそ『喧嘩売ってんの?』っていう内容が物凄く丁寧に書かれたお手紙がファンネから届いてもおかしくないからね。

「ム、ムググ……」

「ご理解いただけたようで何よりです。俺の仕事はどうしても俺じゃなきゃダメなやつは公爵家に届けてもらっても構いませんが、あとは弟でも文官にでも、適当に投げといてください」

「そんな無責任な……」

「お言葉ですけど、俺が文句言わないのをいいことに、今まで過剰にこき使っていましたよね?元々俺がやらなければそいつらがやっていた案件だったのでは?おまけに、わざわざ公爵家に滞在させてもらっておいて、レニたんに構う暇もなしに仕事では、馬鹿にしているとかえって怒りを買いますよ」

「ムグゥ」

 今度こそ親父は完全に言葉を失った。ま、当然でしょ。
 遅れ馳せながら人生の休暇、きっちり取らせてもらうからね。

「では父上、お元気で!」

 俺は意気揚々と親父に手を振ると、レニたんの元に戻るべく歩き出したのだった。




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