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1.家出させていただきます
その日、俺の怒りは頂点に達した。
番であるジークハルトの浮気現場を目撃し、あまつさえそれを問い詰められたジークハルトは追求する俺から逃げて執務室に篭ってしまったからだ。これが怒らずにいられるか。
執務室まで押しかけて更に締め上げることは可能だが、臣下の前で醜態を晒したくはない。
何より、どうして被害者である俺がそんな真似をしないとならないのだ。跪いて許しを乞うのはアイツのほうである。
「リ、リディエール様ぁ………これにはきっと何かわけが……」
侍従のアダムが滝のような汗を流しながら宥めてくる。
主人が青筋を立てて般若の如く怒りを露わにしているのだから当然のことだ。
可哀想だとは思うが、だからといって腹の底から沸々と煮えたぎるような怒りはちっとも治まらない。
「――――出てってやる」
「えっ」
勢いのまま呟くと、驚くほど意志が固まった。
俺は据わった目のまま自室に戻ると、すぐさま荷物を纏め始めた。
纏めると言っても、着やすそうな普段着とお気に入りの品をポイポイと異空間の中に投げ込むだけである。
アダムは飛び上がって何とか俺を止めようとしたが、無駄なことだ。
宥めすかすアダムを振り切って、俺はバルコニーの柵に足をかける。
「じゃあな、アダム。今まで世話になったな!」
俺はいつになく開放感に包まれながら、そのままバルコニーから飛び降りた。
バルコニーの下は雲に覆われる空。
竜人の棲むアルディオンは空に浮かぶ天空の国だ。その城は、その更に上空に位置している。
「ま、待ってください、リディエール様ああああああああ!!!!!!」
悲鳴を上げるアダムの声を聞きながら、俺は空へとその身を任せたのだった。
※※※
さて、最初に俺の話をしよう。
俺はリディエール。竜人の番となり血の婚礼を交わした竜王ジークハルトの番だ。
アイツと出会ったのは俺が22の頃。番を探して旅をしていたジークハルトに見初められて求愛されたことがきっかけで付き合うようになり、番になってから次期竜王であると身分を明かされた。
正直ぶっ殺してやろうかと思ったが、そこは番の情である。
身分を明かして拒絶されたらと思うと言い出せなかったと許しを請うジークハルトに言葉と体で三日三晩愛されて、うっかり絆されてしまったというわけだ。俺も若かったな……。
そこからはもう、怒涛の展開だった。
竜人は番ができれば一人前と認められるらしく、王太子だったジークハルトはあっさり前王から王位を譲られ、即位が決定。当然俺はその伴侶として竜王妃の座に座らざるを得なくなり、あれよあれよという間に王族の仲間入りしてしまったというわけだ。
ほぼ騙し討ちの成り行きで座らされた椅子ではあるが、座ったからには責任がある。
元々の責任感と負けん気の強さも手伝って、俺はできる限りの努力をするよう手を尽くした。
ジークハルトは俺を選んだのだから自己責任だが、国民に恥をかかせたり迷惑をかけるのは可哀想だと思ったからだ。
竜人は愛国心が強く、アルディオンの民であることに誇りを持っている。そんな彼らが、他国の人間から笑い者にされるようなことがあってはいけない。
俺は血の滲むような努力を重ねて竜王妃教育を死ぬ気でこなし、教育係が勘弁してくれと泣くまでレッスンをやめなかった。元々第一線の冒険者だった俺は、体力だけはある。当時は若かったから4日ぐらいは寝なくても大丈夫だった。
体幹は出来上がっていたからダンスはすぐにマスターできたが、頭の方はそうはいかない。外交で恥をかかないために、俺は文字通り寝ないで勉強した。少しは寝てくれと言い募るジークハルトを『時間がねぇんだよ!』と足蹴にして泣かれたのはよく覚えている。
粗暴な態度も、マナーを学んで少しずつ改めた。
改めたといっても猫を被る術を覚えただけなんだが、王族や貴族なんてみんな同じようなものだ。美しくたおやかな見た目は鉄の装甲であって、中には腹黒く駆け引きに長けたドラゴンやヘルハウンドを飼っている。騙されてはいけない。
幸い、俺には身近にいい見本がたくさんあった。
長年冒険者時代にパーティーを組んでいたエルフのソーニャは綺麗な顔してニコニコと遠回しな毒を吐く奴だったし、前王妃であるダナエ様も大変参考になった。
俺は髪を伸ばし、磨き上げられた笑顔の仮面を被ってキャラ作りに励んだ。お陰で、お披露目会では慎ましくてたおやかな竜王の白百合という鳥肌が立ちそうな二つ名まで頂き、ちょっとやりすぎたかと後悔したほどだ。
子供が生まれてからは、教育のために徹底して白百合の仮面を被り、粗暴でキレやすい本性は隠し通した。王族として生きる子どもたちには、母親に夢を見させてやりたかったからな。
ここまで話しておわかりの通り、俺は人からコケにされるのが我慢ならないプライドの持ち主なのである。
そんな俺が、浮気などされたらどうなるか。
150年で番の本質を忘れてしまったと言うなら、とくと思い出してもらおうじゃないか。
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