竜王妃は家出中につき

ゴルゴンゾーラ安井

文字の大きさ
5 / 38

5.冒険者リディ

 
 ソーニャの提示した条件。
 それは、一ヶ月以内にこの街のダンジョンを30階層まで踏破し、探索マップと報告書を提出すること。
 もちろん収集したドロップアイテムは色を付けて買い取るし、モンスターに関するデータや提出したマップにも報酬は支払われる。

 なんだ、そんなことでいいのかと俺は拍子抜けした。
 条件なんていうから、一体どんな凄いことを要求されるのかと思ったら、全然普通で逆にびっくりする。

「そんなんでいいの……??そんなら勿論オッケーだ!元々ダンジョンに行きたくてこの街に来たんだし」

 俺があっさり快諾すると、ソーニャは機嫌よく頷いた。

「そうですか?それなら交渉成立です。ご褒美にこれをあげましょう」

 ソーニャが俺の冒険者カードを手のひらでサラサラっと撫でると、あっという間にカードの内容が書き換わる。
 名前はただの『リディ』になったし、ランクもBまで下がり、レベルも半分くらいになった。
 何よりうれしいのは、『ソードマスター』と『白銀の狂犬』以外の称号が消えたこと。これで少なくともカードを見られて城に連行されることはなくなる。

「この白銀の狂犬もいらないんだけど、なんとかなんないの?」

「それは無理です。一番最初についた称号を消すと、その後で取得したソードマスターも消えますよ。ソードマスターが消えると、専用武器の使用が認められなくなりますが」

「うへぇ……それはヤダ」

 俺の愛剣『流星剣』はオリハルコン製で切れ味抜群なのだ。鍛冶屋の親父のセンスがアレだからちょっと名前は恥ずかしいけど、敵を一刀に付す時、その刀身は星のように美しく輝く。
 鉄でも豆腐のように滑らかに両断するのだから、まさに名剣というほかない。ちなみに、ソードマスター専用だ。
 …………べ、別にジークハルトに貰った対の一振りだからとか、そんなのは関係ないんだけど!剣がいいから!!!しょうがないから!!!!

 俺は妙に熱くなる頬を左右に振って、ソーニャから冒険者カードを受け取った。色々紆余曲折あったが、当初の目的は達成だ。
 おまけに思いがけなくにソーニャに再会できたのだから、まさに幸運としか言いようがない。

 その日は仕事終わりのソーニャと夜更けまで飲み明かし、溜まりに溜まった鬱憤とジークハルトへの愚痴を吐き散らかし、しまいに胃の中のものまで盛大に吐いて気絶した。
 翌日ソーニャにめちゃくちゃ怒られたけど、これは申し開きのしようもないわ……。



 さらに翌日の昼、二日酔いも抜けた頃に俺はようやく宿のベッドを抜け出し、ダンジョンへ向かった。
 半端な時間のせいか、入り口はそこそこ空いている。観光しに来た一般人が売店で土産物を見ていたりするのを見ると、やっぱりダンジョンっていい収入源になるんだなぁと思う。

「ああ、あなたがリディさんですか。ギルド長からお話は伺ってます」

 受付の警備員にカードを見せると、にこやかに挨拶して門を開けてくれた。
 どうやらソーニャが話を通してくれているらしい。勿論、俺が竜王妃だというのは伏せているだろうが、話が早いのは助かる。

「ギルド長からリディさんにお手紙を預かってます」

 渡された手紙に目を通して、俺は固まった。
 
『おはようリディ。依頼の内容、ちゃんとわかっているよね?今踏破されてる10階層まではいいけど、それ以降はちゃんとマップを提出してもらうよ。間違っても面倒くさがってダンジョンに穴を開けたり、サボって一気に駆け抜けたりしないように』

「うげ……」

 ものすごく久しぶりだから忘れていたが、俺は大雑把な性格上、細かいマッピングが大の苦手なのだ。冒険者時代は力に任せてダンジョンの床をブチ破って階層を移動していたことを、パーティーを組んでいたソーニャはよく知っている。


(これは……思ったより面倒なことになったかもしれない)


 俺はちょっぴりしょんぼりしながら、ほとんど雑魚の狩り尽くされた低階層を降りて行った。



 ※※※



 一方その頃、リディエールが居なくなったアルディオンの王宮には、通夜のような空気が漂っていた。
 まさに水を打ったような静けさというやつだが、それでいて声を出すのも躊躇われるような息苦しいオーラが城中に充満している。
 オーラの主は、言うまでもなく竜王ジークハルトだ。

「リディ……俺のリディ……俺を置いて、一体どこに行っちまったんだ……?」

 リディエールが城を飛び出したことを知り、ジークハルトはすぐに後を追いかけたが、血眼になって探してもリディエールは見つけられなかった。
 それはリディエールが匂い消しで後を追えないようにしていたことに加えて、ジークハルトの匂いが近づいてきたのを感じ取ると、すぐに自分の開いた異空間の中に身を隠してしまっていたことが原因だ。
 本来、生あるものは異空間の中にはいられないのだが、自分で制御している異空間であれば、少しの間なら問題ないことをリディエールは知っていた。
 冒険者時代にストーカーのようにどこにでもついてくるジークハルトを撒くため、身につけた知恵である。

 ジークハルトはリディエールが見つかるまで帰らないと言い張ったが、ラインハルトに「母上が帰ってきた時、仕事が山になっていたらどうなりますかね」と言われて凍りついた。
 リディエールは理想的な竜王妃と言われるだけあって、もの凄く真面目で民思いなのだ。風邪を引いたリディエールの看病で3日仕事をサボったら、ボコられて一週間口を利いてもらえなかったこともある。
 これ以上リディエールを怒らせて、完全に三行半を突きつけられたら死ぬしかない。
 ジークハルトは断腸の思いで城に連れ戻されることになった。

「戻ってきてくれ、リディ……あと3日リディが足りなくなったら俺は死ぬ………!!!!」

 2メートル近い頑強な体を重厚な王座に沈め、ジークハルトは嘆いていた。
 何が悲しくてここでこんなことをしなけれはならないのか。愛する番が誤解の末自分から離れて行ってしまったというのに。

「父上の自業自得ですよ。浮気なんかするからこんな目に遭うんです」

 チクチクと指すような口調で責められ、ジークハルトは牙を剥く。

「俺が浮気なんかするわけ無いだろうが!!!リディ以外の存在なんて、虫かそこらへんの草みたいなモンだ!……元はと言えば、お前のせいなんだぞ………!!!!!」

「は?何故父上がウェニタス伯爵令息と不適切な接触をしていたことが私のせいになるんです?」

 見た目は自分の赤髪金眼を受け継いだはずの息子が、愛する番そっくりの口調で言い放つ。
 母親を誰より尊敬しているラインハルトは中身は竜王妃としてのリディエールの性格を受け継いでおり、その影を見つけるとどうしてもジークハルトは強く出られない。

「そ……それはだな……その……」

 ジークハルトは視線を泳がせ、ゴニョゴニョと口を濁しながら事の顛末をボソボソと話し始めた。


 

あなたにおすすめの小説

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。