その悪役令嬢、復讐を愛す~悪魔を愛する少女は不幸と言う名の幸福に溺れる~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
37 / 54
第三章

第32話 実は似ていたのかもしれない

しおりを挟む



 ようやく見えてきた彼の心の闇。
 もう正気を保てないファルトは、腹の底に溜まったドロドロの感情の塊を吐き出していく。

「む、かし……おや、親が、妹を、虐待して……元々体が弱かったのに、そのせいで……病気になって……薬を買うために僕が頑張って働いても、お金を取られて、酒代にされて……」

 そう言いながら、ファルトは光の失った瞳から涙を零す。
 何となく、彼の生い立ちは理解出来た。ディゼルは向かい側の椅子に座り、頬杖をつく。

 彼の親は妹に虐待をしていた。妹のために必死に働いてきたのに、そのお金を奪われ、薬も買うことが出来なかった。そして積もりに積もった怒りが爆発し、彼は両親を殺したのだろう。
 親を殺す前か後かは分からないが、妹も死んだ。
 そんな自分を正当化するため、己の罪から逃げるためにファルトは人を憎むことはしないと言い続けてる。話し合えば分かるなんて綺麗事を言い続けてる。親を殺した事実を頭の中から消そうとしている。

 そんなことを一体どれくらい続けてきたのだろう。いつしか記憶までも綺麗事で隠してしまった。何重にも何重にも蓋をして、人を殺した事実を封じ込めてしまった。
 だから人を殺したら駄目なんて言えるのだ。自分が犯した罪を忘れて、妹がまだ生きてると思い込んでる。

 なるほど。ディゼルは心の中で納得した。
 悪魔が言っていた彼の心の闇。確かにこれは、とてつもなく根深い。

「貴方は、本当はどう思っているの?」
「……にく、い……妹を助けられなかった、自分も、親も、助けてくれなかった大人も、全部……」
「だったら、殺してしまえばいいのに」
「……いや、だ……いやだ……僕は、僕は、悪く、ないんだ……」
「まだ認めたくないの? 貴方は親を殺したのよ。妹のためなら許されるとでも? 子供のしたことだから許されるとでも? そうね、貴方は親から虐げられていた。正当防衛とでも言えば、貴方は許させるかもしれないわね」
「殺しちゃ、いけないって……フルールが、言ったんだ……」

 フルール。きっと妹の名前だろう。
 彼の感情の引き金を引くのは妹の存在だ。ファルトが声を荒らげたのも妹の死に触れたから。
 ディゼルはニヤッと口角を上げて笑みを浮かべた。まだきっと彼の心にはドス黒いものがあるはず。それはきっと、悪魔が喜ぶ感情。引き出してやれば、愛する方が喜ぶだろう。ディゼルは香りを強めようと、花で作ったアロマキャンドルに火を付けた。

「妹が、殺しは良くないと言ったの?」
「……親を殺した僕に、言ったんだ……こんなの、嬉しくないって……僕、僕は……フルールのために、やったのに……」
「それで?」
「カッとなって、家を飛び出して……暫くして帰ったら、妹は、死んでた……自分で、ナイフを……刺して……」
「へぇ……貴方が親を殺したショックで、妹は自ら死を選んだのね」
「ぼ……ぼく、ぼくの、せいじゃ……ない……」

 ファルトは頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。
 目に見えるほどの深い闇。泣きじゃくる青年の姿にディゼルは静かに微笑む。

 妹を大事に思うあまり、彼はこうなってしまった。
 自分とは正反対だけど、妹がキッカケで狂ってしまったところは似ている。
 家族に狂わされた人生。少しだけディゼルは彼に同情した。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...