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第48話
しおりを挟むツヴェルはまだ開店前のカフェに入り、個室を使わせてほしいと店員に声を掛けた。
こちらがお願いせずとも個室を選んでくれたし、試作品も用意してくれた。
「では、こちらへ」
奥の個室に通され、促されるままにソファに腰を下ろした。
肌触りの良いソファにシンプルだけど細かな装飾のされた室内。窓からは広場がよく見える。
「こちらをどうぞ。アイスコーヒーと牛の乳を氷と一緒にクラッシュしてみたのです」
「わぁ、美味しそう!」
「色々と試作して、これが一番飲みやすいと思いまして」
「うんうん。レベッカも飲んでみて」
「え、ええ。では、いただきます」
私たちはグラスに用意された新作のコーヒーを口にした。
ああ、まさにこれよ。シャリシャリとした触感とコーヒーの味が喉を通っていく。多少の違いはあるけど、昔飲んだフラペチーノとほぼ一緒だわ。
「美味しい! 私、コーヒーって苦くて苦手だったのですが、これは甘くてデザートのようです」
「でしょ! 絶対に美味しいと思ったの!」
「お二人に喜んでいただけて何よりです。では、こちらをメニューに加えましょう」
「上に生クリームを乗せても美味しいと思うわ」
「それ素敵ですわ!」
「貴女は色んなアイデアが出てきますね。参考になります」
私のアイデアっていうか、異世界の情報なんだけど。
でもまたこの味に出会えたんだからいっか。
「……っと、これで満足しちゃうところだった。ツヴェル王子、お話を始めてもいいかしら?」
「勿論ですよ、いつでもどうぞ」
ツヴェルはテーブルの上に手を置いて、そっと微笑んだ。
私はレベッカの方をチラッと見る。彼女も大丈夫だと言うように小さく頷いた。
「……まず、私のことを貴方に打ち明けたいの」
「はい」
「貴方はハドレー国の第一王女のことはご存じ?」
「ええ。十年くらい前に行方不明になったという……」
「そう。それが、私なのです。私の本当の名前はヴァネッサベル。理由あってスカーレットという偽名を使わせていただきました。リカリット国の王子に身を偽るようなことをして申し訳ありません」
「い、いえ。でも驚きました。亡くなったという噂も聞いていましたので……」
「まぁ十二年も隠れていますからね。そう思われても無理はありません」
「……それで、その行方不明のお姫様が、なぜ今になって出てくるようになったのです?」
私は家出をすることになった経緯から説明した。
さすがに転生して、前世のゲームでの知識で自分が悪女になる未来を回避したいからとは言えなかったので、その辺は誤魔化したけど。
その辺はレベッカにも話していなかった。レベッカは初めて聞く話に、驚いて目をまん丸とさせている。
「……つまり、貴女は自分が王位を継ぐと国を亡ぼすという未来を予知して、その未来を変えるために五歳で家出をしたと?」
「そんなところですね。予知なんて不確かなもの、信じられないかもしれませんが」
「いえ。未来を予言できるものは、確かに存在します。それについては疑いませんが……」
予言できる人がいたことを初めて知った。魔法特性って本当に色んなものがあるわね。さすがに把握しきれないわ。
「でも、お姉様がシャル様を殺す未来なんて信じられません。お姉様はこんなにお優しいのに……」
「ん、んー。そうね。まぁ、その予知というか予言というか、それがあったおかげかな? そういう未来にしたくないと思った結果というか」
間違いじゃないはず。私というこの世界の未来を知った存在がベルの体に転生したからこそ、悪役令嬢ルートを回避しているんだもの。
「それで、これはあくまで私の予想の範疇でしかないんだけど……私が回避しようとした未来に修正しようとしている奴があるみたいなの。だからシャルの命は狙われているし、私が知っている未来の通りにレベッカを騙そうとしたやつが出てきた」
「それが例の魔術師、ですか。なるほど……確かにスカーレット、いえベル様の予想は外れてはいなさそうですね」
「ベルで構いませんよ。私はもう家出をした身ですし、王位には興味ありませんし。この事が解決しても国に帰るつもりはありませんから」
「そうですか。では、ベル。私にその話をしたのは、今日のパーティーで何かがあると予想してのことですか?」
「王子は話が早くて助かりますね」
私はニコっと微笑んでコホンと軽く咳払いをした。
「このパーティーには私が見た未来での重要な人物が揃います。まずはシャル、そしてキアノ王子にレベッカ、ロッシュ王子とツヴェル王子。最悪の未来へ軌道修正するのなら、ここで何もしないはずがない」
「……それで、襲撃が起こると? シャル様のお誕生日のパーティーのように」
「あり得ない話ではないでしょう? だから私は、シャルを守るために影から見守りたい。その為に王宮へ入れるようにレベッカに友人のスカーレットとして招待してもらったのです」
「確かにシャルロット姫が命を狙われているというのはこのリカリットでも噂になっています。ロッシュもそれを心配するようなことを言っていました」
「王子には魔法による襲撃を警戒していただきたいのです。それから、レベッカにも言いましたら私のことは見かけても知らぬ人として対処してください」
「スカーレットと貴女を結びつけないように、ですか。分かりました」
「ありがとうございます」
それから王宮の内部の構造などを教えてもらった。
パーティー会場のこと、兵士の持ち場など。
あとは、パーティーが始まるのを待つだけ。
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