男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
19 / 78

第19話「面影」

しおりを挟む



 朝食を済ませ、アンジュは一人で寮を出た。
 フローガに声を掛けたが、先に行けと言われたので大人しく部屋を出た。

「よ、おはよー」
「おはようございます」

 寮を出ると、今日も門のところでイディックが待っていた。
 約束を交わしたわけでもないのに、こうして面倒を見てくれる彼に、アンジュはどうしたって気が緩んでしまう。

「昨日、結構疲れてたけど大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「そうか? 無理はするなよ」

 そう言ってイディックはアンジュの頭を撫でた。
 優しく触れるその手に、遠い昔を思い出す。

「あ、ごめん。急に。なんか弟相手にしてる気分になっちゃって」
「いえ……全然、大丈夫です」

 黙ってしまったアンジュに、イディックは慌てて手を離した。
 少し驚いただけで、嫌な思いはしていない。そう告げると、イディックはホッとしたように笑った。

「悪いな、クロードって小柄なせいか、ちょっと弟と似てて世話焼きたくなるんだよな」
「ご兄弟がいらっしゃるんですね」
「そう。俺が学校に入学した後に生まれたから、会える数も少ないんだけどさ。休みに帰るとメッチャ甘えてきて可愛いんだよ」

 弟を思い出しているのか、デレっとした顔を浮かべるイディックにアンジュはキュッと胸が痛んだ。
 自分も、兄が長期休みで帰ってきたときはずっと引っ付いて甘えていたことを思い出す。アンジュは、いつ兄に会うことが出来るんだろうかと、悲しくなって顔を伏せる。

「クロード?」
「……いい、ですね。弟さん……お兄さんが大好きなんですね」
「うん……会えない時間の方が多いけど、それでもちゃんと俺のこと覚えててくれてるし、兄ちゃん兄ちゃんって言ってくれるの、すげー嬉しい」

 イディックは俯いたままのアンジュの頭をポンポンと子供をあやすように撫でた。
 何かあるのだろうと察したうえで、事情を聞かずにいてくれる彼の優しさに、兄の影を重ねてしまう。彼に気を許してしまいそうになるのも、無意識に兄と似た雰囲気を感じ取っていたからかもしれない。

「……わた……僕も、兄がいるんですよ」
「そうなのか」
「少し、イクさんに似てるかもしれないです」
「そっか、じゃあ俺のこともお兄さんだと思ってくれてもいいぞー」
「あはは、同い年なのに?」
「確かにそうだな」
「お兄さん取ったら弟さんに怒られちゃうので、ここは遠慮しておきます」

 アンジュは顔を上げ、ニコッと笑顔を浮かべた。
 どんなに似ていても、彼は兄じゃない。目的を忘れてはいけない。
 それでも少しだけ、兄に会えたような気がして嬉しかった。アンジュは一層兄に会いたい気持ちが強くなり、一歩前に踏み出す勇気を貰えたような気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】イケオジ王様の頭上の猫耳が私にだけ見えている

植野あい
恋愛
長年の敵対国に輿入れしたセヴィッツ国の王女、リミュア。 政略結婚の相手は遥かに年上ながら、輝く銀髪に金色の瞳を持つ渋さのある美貌の国王マディウス。だが、どう見ても頭に猫耳が生えていた。 三角の耳はとてもかわいらしかった。嫌なことがあるときはへにょりと後ろ向きになり、嬉しいときはピクッと相手に向いている。 (獣人って絶滅したんじゃなかった?というか、おとぎ話だと思ってた) 侍女や専属騎士に聞いてみても、やはり猫耳に気づいていない。肖像画にも描かれていない。誰にも見えないものが、リュミアにだけ見えていた。 頭がおかしいと思われないよう口をつぐむリュミアだが、触れば確かめられるのではと初夜を楽しみにしてしまう。 無事に婚儀を済ませたあとは、ついに二人っきりの夜が訪れて……?!

私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

処理中です...