男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

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第29話「約束」

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「すみません。私、兄のことで頭がいっぱいで、クルクスさんが何を考えているのかとか、そういうの全く気にしてませんでした」
「いや……魔女の動向を気にしているのは俺ら側の都合だからお前のせいではない。まぁいくら倒れていたとはいえ見知らぬ人間を家に入れるのはどうかと思うが……」
「女性でしたし、うちには盗むものもないので平気かなぁと……放ってもおけないし、兄から連絡もなくて寂しかった、というのもあって……」

 アンジュは両手の人差し指をくっ付けながら、ちょっと拗ねたようにぼそぼそと言った。
 そう言われて彼女を責めることは出来ない。唯一の肉親である兄から連絡が途絶え、誰も近寄ることのない山のふもとで一人。寂しいと思わない方が無理だろう。

「……まぁいい。とりあえず、今後の動き次第では本当にお前を囮役をしてもらうこともあるかもしれない。勿論、そのときは全力でお前を守る」
「……本当、ですか?」
「ああ。その代わり、お前の兄のことも調べる。というか、元々行方不明者のことは調べていたんだが……何か分かったら報告をする」
「わかりました、約束ですよ」

 そう言ってアンジュは右手の小指を差し出した。
 一瞬、フローガは何をしているのか理解できなかった。まさか指切りを求められるとは思っていなかったからだ。だがアンジュは幼い頃から両親と何か約束をするときはこうしていた。
 ここで拒否をするのは彼女の信用を損ねるかもしれない。フローガは左手の小指をアンジュの指に絡めた。

「約束です。私の命、預けますよ」
「ああ。この問題が解決するまで、お前の兄のことが分かるまで、お前を守ってやる」

 ぎゅっと力を込めてから、指を離した。
 本当は他者を巻き込むつもりはなかった。狼族の問題は狼族だけで解決したかったが、そうも言っていられなくなった。
 オメガの聖女が現れてしまった。一瞬だが自分の傷を治すのに治癒の力を使わせてしまった。今日も本で指先を切ってしまった。血が出ていないとはいえ、ほんの僅かでも何か付着していたら、そこから特別な力を感じ取られてしまったら。
 グラウンドに残った魔法の痕跡はすぐに消し去り、誰かが調べに来た様子もなかったが、それで安心できるわけでもない。
 それに、魔女クルクスの思惑がまだ何も分かっていない。今は魔女の施した魔法のおかげでアンジュが女であることや聖女の力を持っていることも隠せているが、もしクルクスがアンジュを利用して何か企んでいるなら、急にネックレスの効果が消えてしまう可能性だってある。
 アンジュは特にクルクスのことに関しては深く考えていないが、フローガは魔女に信用を置いていない。何かあっても対応できるように最悪の事態も想定しておかなければいけない。

「……これ、持ってろ」
「え?」

 フローガは右耳についていたピアスを外して手渡した。先端に一つ、赤い宝石の付いた銀色のスティックピアス。
 ずっと髪で隠れていたのでピアスを付けていたことにアンジュは今気づいた。

「これは……?」
「お守りみたいなもんだ。それがあれば俺もお前がどこにいても分かるし、駆け付けることが出来る。勿論危ない目にあわせなようにはするが、万が一のことがあるだろう。そのときは、それに魔力を込めろ」
「魔力を?」
「ああ。そうすればこっちのピアスに反応がある」

 そう言ってフローガは左耳を見せた。そこには同じピアスが揺れている。

「でも私、耳……」
「耳に付けなくても、ただ持ってるだけでいい」
「あ、そっか。じゃあ、大事にしますね」
「ああ」

 アンジュは受け取ったピアスを両手で包み込むように持った。
 まだフローガのことを全て受け入れることが出来たわけじゃない。だけど彼は自分を守ると言った。その言葉に嘘はないと感じ取れた。
 ただ目的のために自分を生贄にしたいのであれば、わざわざこんな約束をする必要はない。フローガが追っている誰かに襲われるのを待っていればいいだけの話なのだから。
 だけど彼は約束をした。アンジュの差し出した小指を、受け入れた。
 ただそれだけのことではあったが、アンジュの子供じみた行為を何の文句も言わずに受け入れてくれた彼を信じたいと、そう思えた。

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