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第30話「理由」
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明かりの付いていない、深夜の図書室。
フローガは神経を研ぎ澄まし、部屋全体の気配を探った。
「…………血の匂いは、確かにないな……」
アンジュの残した気配などがないか、確認をするためにやってきた。彼女は血が出なかったと言うが、万が一と言うこともある。だが特に変な魔力も感じない。
「若、ここでしたか」
「ああ」
背後に現れたザジは、跪きながら報告を続ける。
「あの女の生家に関しては今も監視中ですが、今のところ変化はありません」
「そうか」
「それと、イデア・ウェンスタに関してですが、一つだけ分かったことがあります」
「何……?」
アンジュの兄、イデアの名前が出たことに驚き、フローガは振り返ってザジのことを見た。
つい先ほどアンジュと約束を交わしたばかりで、もう動きがあるとは思いもしなかった。これも聖女様の力なのか、なんて柄にもないことを考えてしまうタイミングの良さだ。
そもそも聖女の力は天使から貰い受けたものだと言われている。天使は神の御使い。つまり聖女は神からの加護を受けていると言っても過言ではない。
「行方不明になる前日、学園の外に出ています。街の方で目撃者がいました。若から聞いていたアンジュ・ウェンスタの外見とよく似ていて、綺麗な人だったから印象に残っていたそうです」
「そういえば兄の方も白髪の青い眼だったか……それで?」
「それが誰かと会っていたようです。人気のない路地裏の方で見かけたらしいのですが、そこまで詳しくは覚えていないようでそれ以上のことは分かりませんでした」
「いや、十分だ。だが学園の方に外出申請は残っていなかったよな」
「ええ。おそらく処分されたか、そもそも申請をしていないか……」
「外で誰と会っていたのか……それとも一人で抜け出して、その誰かに見つかったのか……両方の線で調べる必要があるな」
「はい」
イデアの見た目は双子なだけあってアンジュとよく似ている。色素の薄い白髪に青い瞳、そして白磁の肌は相当人目を引くことだろう。それで目撃者が一人しか見つからなかったということは、よほど見つかりたくなかったのだろう。
その誰かと密会していたのか、それとも別の目的があって街に来たのか。彼の行動の理由を知る必要がある。
「そういえば、若……ピアスはどうなされたのですか」
「あの女に渡した。勝手なことをして申し訳ないが、協力関係になったからな」
「協力、ですか?」
「ああ。アイツは確実にあの女を狙う。だから、囮になってもらう代わりに、俺はあの女を守る」
「……そこまでする必要がありますか?」
「これは狼族の問題だ。巻き込んで死なれたら、俺の責任にもなる。それに、聖女の力をアイツに奪われたら、厄介だろう」
「それは、確かにそうですが……あのピアスは……」
「今だけだ。事が済めば返してもらう」
「……わかりました」
ザジはまだ何か言いたそうにしていたが、フローガの決めたことに口を出すことは出来ない。
これ以上は何も言わず、頭を下げてその場を去った。
「……あれは、奪われちゃ困る力だ……ただ、それだけ。それだけだ……」
アンジュを守らなきゃいけない理由。それは奪われるとこちらが不利になるから。ただそれだけのこと。フローガは自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
そこに個人的な理由なんてない。あってはいけない。
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