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第74話「握手」
しおりを挟む「……このまま上に戻ってもいいけど、多分気を失ってた生徒たちが起きてるかもしれないよ」
「……あ、じゃあ私……」
「別にあんたらの部屋に直接手にしても良いけど? イデアもいるし、説明とか面倒でしょ」
アンジュはネックレスをジッと見つめ、少し考える。
確かに今自分達が穴の中から急に現れたら余計に混乱させるはず。それでなくても講堂に集まった皆が倒れていて、床には大穴が空いているのだ。
冷静に考えれば、自分たちは彼らの前に出ない方が良いのだろう。だけど、アンジュはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、上に戻りましょう」
これが最後なのだから、ちゃんと挨拶をしないと。アンジュの笑顔に、クルクスは仕方ないなと言う表情を浮かべ、浮遊魔法で講堂へと戻った。
講堂へ戻ると、予想通り生徒たちが大混乱していた。
教師たちが状況を確認しながら、まだ目を覚ましていない生徒を介抱したりしている中、穴から現れた女性二人とフローガに、周囲は驚いている。
「とりあえず私は穴を塞ぐけど、説明は狼に任せていい?」
「…………いや、部下にやらせる。ザジ」
フローガが名前を呼ぶと、背後にザジが現れた。アンジュはあまりの速さに驚いて目を丸くする。一体どこにいたんだろうか、アンジュは周りをキョロキョロと見渡した。
「…………イデア?」
後ろから声を掛けられ、アンジュは振り返った。この場で自分達以外にイデアの名前を知っているはずがない。
そう思い後ろを見ると、驚いた顔を浮かべているイディックがいた。
「あ、いや……え、あれ? 女の子!? なんで!?」
ここにいるはずのない女子に、イディックは慌てふためいている。
バレックがいなくなったことで、彼らに掛けられた暗示が消えたのだと気付く。
ここでイデアは普通の学園生活を送れていたのだろう。そして、イディックとも友人だったことに、嬉しく思った。
「…………私は、イデアの双子の妹でアンジュと申します。その……色々と理由があって、兄を探すためにこの学園に男と偽ってきました。皆さんを騙すような真似をしてごめんなさい、イクさん……」
「え……え、あ、もしかしてクロード……?」
「はい」
自分をさん付けで呼ぶ相手は一人しかいない。それに、声が全然違うのに話し方が全く同じで、何故か自然と受け入れている自分がいた。
「……そう、か。そうなんだな。それで、イデアは?」
「無事です。今は、えっと、ちょっと、気を失っていますが……いずれ目を覚ますはずです」
「なら、良かった。なんでイデアのこと忘れていたのか分かんないけど……でも、じゃあ、君はもうこの学園を出て行くんだね?」
兄を探しに、男としてこの学園に来たアンジュが、こうして本来の姿でこの場にいるということは、もう目的を果たしたということ。
ここは男子校で、このまま残ることはできない。
「……イクさんには、本当にお世話になりました」
「いや、オレは特別なことはしてないよ。そうだ、イデアが元気になったらオレんちに遊びに来なよ。あー、その、フローガ、も一緒にさ」
イディックはアンジュの後ろでジッとこっちを見ているフローガをちらっと見ながら、いつもの笑顔を浮かべた。
心配そうにこっちを見るフローガを見て、イディックは二人の関係を察したのだろう。これ以上引き止めると本気で噛みつかれるかもしれない、なんて思いながら、アンジュに手を差し出した。
「それじゃあ、一応……さようなら、アンジュ」
「ええ、さようなら……イクくん」
アンジュはイディックの手を握り、握手をした。
この学園で出来た初めての友達に、本当の姿で会えて本当に良かった。アンジュは感謝の気持ちを込めながら、彼の目を見つめた。
きっと、また会える日を願って。
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