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第75話「共に」
しおりを挟む諸々の説明を終え、家に帰るのは明日の早朝ということになった。
まだ意識が戻らないイデアは一旦医務室に預け、フローガとアンジュは寮の部屋へ戻ってきた。
クルクスは穴を塞いだり、バレックのことや洗脳されていたことを誤魔化すために教師たちの記憶を少し弄ったらしい。全てを説明するとなると面倒だし、アルクス国のことや聖女のことを話すのは避けたいから適当に記憶をでっち上げておくと言っていた。
そのせいで魔力を消耗し、回復薬もフローガに渡した分しか持ってきていないということで、アンジュを家まで魔法で帰すのは明日にしろと言われた。
「イデアは、お前の力では治せないのか?」
「そうみたいですね。クルクスさんが、精神的なものだからそう簡単には治せないと……聖女の力は傷を治したり、悪いものを祓ったりすることはできるけど、心の傷はまた別だと」
「……そうか」
「でも、ゆっくり時間をかけていけば、いつか正気を戻すはずだって。あの方の洗脳も解けているし、強い暗示による脳へのダメージも癒えているはずだから、あとは兄自身も問題だって……ショックで心を閉ざしているのかもしれないからって……」
「……早く起きるといいな」
「はい」
ベッドに腰を下ろし、フローガは隣に座るアンジュの頭をそっと撫でる。
アンジュも甘えるように、フローガの肩にコツンと頭を寄せた。
暫くはこういう時間も取れなくなる。お互いに帰るべき場所があり、やらなければならないこともある。
しかし、そのまま離ればなれになるつもりはない。フローガは少し考えて、言葉を選ぶように話し始めた。
「……アンジュさえ良ければ、イデアは俺の里で預かろうか」
「え?」
「お前の実家は雪国だろう? まぁ慣れ親しんだ場所の方がいいかもしれないから一概には言えないが……狼族の里は気候も安定していて、自然の中にあるから療養には向いていると思うんだ」
「それは、確かにそうですね。今の時期は特に寒いですし、食べ物も少ないですし……」
「……じゃあ、お前も一緒に来るか?」
「……いいのでしょうか?」
「今すぐに、とはいかないが、そうなれたら俺は嬉しい。それに、お前の実家には両親も眠っている。そう簡単に移れはしないだろう……」
「あ……その辺はクルクスさんに相談してみます。まずは兄のことだけ、お願いしてもいいですか?」
「勿論」
フローガはふわりと微笑み、アンジュの額にキスをした。
この一件が終わったあとのことを、ずっと考えていた。フローガは狼族の長で、同族の中から結婚相手を選び、世継ぎを作る必要がある。
だけど、フローガはもう運命の番と出会った。もうアンジュ以外を抱くなんて出来ないし、したくはない。
「色んなことが全部落ち着いたら……お前の全てを、俺にくれるか?」
「フローガさん……」
「俺も、狼族のこととか、これから色々と体制を変えていかなきゃいけない。だから、そう直ぐにとはいかないけど……待っててくれるか?」
「勿論ですよ。私はずっと、貴方だけのものです」
「アンジュ……ありがとう」
フローガはアンジュをきつく抱きしめた。
もう離さない。離したくない。そんな思いを込めて、強く。
アンジュも、フローガの背中に腕を回して、彼の服をギュッと掴んだ。
本当は一秒だって離れたくない。それでも互いに大切なものを守るために、やらなければいけないことがある。それを投げ出すことはできない。
「……愛してる、アンジュ」
「私も、愛してます。フローガさん……」
二人は唇を重ね、ゆっくりとベッドへ沈んでいった。
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