付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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勇者編

訓練、そして……

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「はぁ、はぁ、何で…当たらない…のさ!」
「……リン…しっかりして…」
「ボクのせいなの!?」
「……何か…反論が…あるの……?」
「……ないです……」


 ということで、いくらやっても彰に攻撃が当てられない二人は絶賛仲間割れ中だった。リンに至っては疲れて座り込んでしまっている。


「お前ら……何で仲間割れしてんだよ……」
「うぅ~もとはといえばアキラのせいだよ!? というか、獣人のノエルちゃんはともかく、なんでアキラはそんな元気なのさ!?」
「なんでって言われてもな……鍛えかたが違うんだよ、鍛え方が」
「もう結構な時間、ボクたちの攻撃を避け続けているのに息を一切切らさないだなんて鍛え方が違うってレベルじゃないよっ!」
「……リン…なさけない…まだ始まったばかり……」
「おかしいよ! キミ達絶対おかしいよ!」


 実際、リンも魔法使いとはいえ、冒険者、体力はある方である。そのリンですらかなり息切れしている状態なのだ。
 よって数時間近く避け続けたり、攻撃し続けたりしているのに息がまったく切れない彰とノエルがおかしいという意見は何も間違っていないのだが……残念ながらそれを指摘してくれる常識人はここにはいなかった。


「ほらほら、リン、嘆いたって攻撃が当たるわけじゃ無いぞ?」
「……リン…サボらないで……」
「も~う! わかったよっ! こうなったら意地でも当てるからね!」


 そう彰に告げるとリンは再び立ち上がって、彰に向かって行き、短剣をふるい始める。
 がむしゃらに短剣を振るうリン、その一振り一振りを彰は最小限の動きでスラスラと避けていく。
 リンの振るう短剣は彰に当たらず、どれも彼に当たるすれすれを通り過ぎていく。


「それっ それっ うう~避けないでよ!」
「避けなきゃ訓練にならないだろーが!」


 と、そこで彰がリンの攻撃を避けながらそんな会話をしている間にノエルは息を殺して彼の背後に回り、素早い動きで斬りかかる。
 彰の死角から一気に迫り、絶妙のタイミングで繰り出された一撃。
 しかし、彰はそれを背中に目でもついているかのように軽々と躱した。


「おっと危ねっ! 今の攻撃はなかなかだったぞ、ノエル」
「……ありがとう…でも…次は当てる」


 そう言って素早い動きで短剣をあらゆる方向から振るうノエル、しかし、こちらはリンとは違い、剣筋を描いている。やはり獣人だからだろうか? ノエルは何をやっても呑み込みがいい。
 だが、それも彰には当たらない、彼はその鋭い剣線それを完全に見切り、リンの時より余裕はないものの、それでもあっさりと躱している。


「むぅ~ボクも負けないよ!」
「……アキラに…先に当てるのは…私」


 そう言いながら彼女たちは二方向から短剣を振り続ける。
 それを彰は時には身を捻り、時には体を反らし、時には飛び上がったりしながら躱していく。
 しかし、幾ら彰といえ、果たしてそんなことが軽々とできる物なのだろうか? いや、確かに彰ならやってのけてしまいそうなものだが、今回は実は少しズルをしているのだ。


(いや~リンはともかくノエルの上達速度は予想外だな、こりゃあ”五感強化”使ってなかったら少し危なかったかも……念のため使っといてよかったわ)


 そう、今彰は付与術により五感を強化している。
 これは聴覚などの一点に絞っていないため、広範囲の探知はできないものの、彰は目をつぶっていても、自分の周囲の状況なら手に取るようにわかるのである。
 先程のノエルの奇襲を避けられたのもこのためだ。
 しかし、この状態でも、彰には特に目に見える変化はないので、リンとノエルは気づけない。
 そんなことを知らない二人は彰に向かって短剣を振り続ける。
 だが、それらは当たらないどころか、彰は宣言通り、しっかりと偶にデコピンを挟んだりしながら鼻歌交じりに余裕をもって避けていく。
 そのまま二人のどちらも彰に一撃を当てられないまま、時間は過ぎて行った。


◆◆◆◆


「むぅ~結局一発も当てられなかったぁ~」
「……くやしい」
「ハハハ、まぁ、おぬし等がまだまだ未熟だということだよ! また次回頑張りたまえ!」
「そうだね……え…?―――これ、次回あるの?」
「……初耳」
「当然、というか、明日から依頼受けるの一旦休んでこっちな? 今のままだと連携が酷過ぎてどっかで痛い目見るのが目に見えてるしな……」
「うそっ!? これを毎日なんてやったらボク死んじゃうよ!!」
「……むぼう」
「大丈夫! なにせ、そう言ってても実際に死んだやつはいないからな……いや、マジで……」


 彰達は少し暗くなってきたので森での訓練を切り上げると、そんな会話をしながら王都に向かっていた。因みに、彰の最後の発言は彼の父である厳の受け売りである。当然の如く、それを言われたのは修業中の彰に対してだったので、彼のこの発言には妙な実感が籠っていた。
 彰が一体何をされたのかはあえて語るまい……。
 二人もそんな彰の様子を察したのか、それ以上そこに言及はしなかった。


「それにしても、一体アキラって何者なの?」
「何者って言われてもな……俺は普通の一般人だし、あえて言うなら……秀才…?」
「そんな冗談で誤魔化せると思ったら大間違いなんだからね!」
「……アキラ、面白くない」
「俺、冗談言ったつもり一切ないんだが……。っていうかノエル、結構傷つくからジト目でこっち見ながらそう言うこと言うのはやめてくれ……」
「ほら、そう言うのはいいから早く本題に入ってよ!」
「リン、お前はもう少し俺のメンタル的な方面のダメージを気遣ってくれてもいいんじゃないかと思う……」
「ティターン相手に接近戦できる人がなにを言ってるのさ?」
「うっ……まぁ、それもそうか……別に隠す必要もないしな、リン俺はな―――ッ!」


 彰が諦めて自身のことを話そうとした時だった。彰は近くに誰かの気配を感じ取った。


「―――――誰だ、出てこい」
「お~お~、怖い怖い、そんなに睨まないでくれよ」


 そう言いながら物陰から姿を現したのは、荘厳な装備を見に纏う、異世界より召喚された勇者―――藤堂とうどう 結城ゆうきだった。
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