付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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王都編

エピローグ

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 そうしてギルドに戻った彰達だったが、ティターンを倒したということでギルドではちょっとした騒ぎになってしまった。

 しかし、ティターンを倒したといっても一般の人には現実味がなく証拠も死体は消えてしまったので無い。

 まして倒したのがFランクの奴だということで眉唾だろうとそっちの騒ぎ話すぐに鎮静化した。

 むしろリンがエルフで、ベヒーモスを一撃で倒したということの方が騒ぎになったくらいだ。こちらの方がまだ信憑性があったのだろう。

 だが、ギルドは監督官や、帰還した冒険者達からの報告を重く受け止め、彰、ノエル、リンはランクが3つほどあげられることになった。

 しかし、ティターンやべヒモスは本来なら最低でも複数のランクBの者やAランク、場合によってはSランクに頼むこともあるような魔物だ。

 ではなぜ彰達のランクは3つしか上がらなかったのか?それは証拠が監督官たちの証言しかなかったことだ。

 だが、勘違いしないでほしい、ギルド側は監督官達の証言を信じているし、彰達をしっかりと評価している。

 問題なのは他の冒険者なのだ。彼らは証拠がないこととあまりの突拍子の無さに今回のことを信じていないものが多い。

 そんなもの達にとって、急激に彰達のランクがBなどになったらどうなるか? 当然不満が生まれ、彰達に何らかの被害が起こる可能性すら出て来るのだ。

 よって、その辺を考慮した結果、ギリギリの線をとり、Cランクにするということになったのだった。


「大量の強力な魔物、獣人の奴隷と名乗る少女、そして今度はティターンですか……ほんとにアキラさんは毎回毎回騒ぎを巻き込んできますね……」
「ハハハ……すんませんほんと……」
「……アキラに…悪気は…ない」
「……はぁ、とにかく、その分これからもギルドに貢献してくださいね」
「はい、ありがとうございました」


 そう告げるとギルドを後にしようとする。因みにこの時、リンとはギルドに帰って来た時のごたごた以来はぐれてしまっていた。

 そして彰は木製のドアを押し開け、外に出ると、ノエルと共に宿屋の方へ向かおうとする。


「―――ちょっと待ってよ」


 そう言って彰達を止めたのは目立たないよう、ローブのフードを深く被った怪しい人だった。そんな人を彰とノエルは一人しか知らない。


「どうしたんだ、リン? 見当たらなかったからてっきり先に帰ったんだと思ってたんだが……」
「……何か…用事…?」
「いや……その……あのね……」


 彰達が問い返すと何か気持ち悪くもじもじとしながらはっきりとした答えを返さないリン。


「……リン…気持ち悪い」
「ああ、確かにかなり気持ち悪いな……」
「二人して何さ! ボクは気持ち悪くなんかないよ!!」
「じゃあなんなんだ、リン。早く本題に入ってくれないか? 正直、今日は疲れたから早く寝たいんだ」
「うっ……それは……」


 そうして少しの間また気持ち悪くもじもじしていたリンだったが、やがて意を決したかのように顔を上げると、告げた。


「―――――ボクも……ボクもアキラ達と一緒に行動させて欲しいんだ」
「えっ……?」
「……リン…どういうこと…?」
「そのままの意味だよ、簡単にいえばこのまま3人パーティーを続けさせて欲しいんだよ」


 彰としてはリンの提案は寝耳に水だったので、ひとまず理由を聞いてみることにする。


「なんで突然意見が変わったんだ? リンはパーティーなんかいらないって言ってたじゃないか」
「ボクは魔法が使えなくなったら何もできない、それを今回の事件で痛感したんだ。
 魔力の無くなったボクはティターンに対して為す術がなかった。きっとアキラ達がいなかったら今頃死んでたよ」
「でもそれで何で俺達なんだ? リンほどの魔法使いならそれこそ引く手数多あまただろうに……」
「それは無理だよ、キミも気づいてるでしょ? この国では人間以外の種族が差別されていること」
「……まあな」


 ノエルと一緒にいるときの周りの反応やリンがエルフとばれたときの反応、王都に他種族がほとんどいないことから正直彰もそれには薄々気づいてはいた。

 そもそもそのせいで3人パーティ―も組めなかったのだ。思えばリンが監督官に抗議していたのも自分がエルフとばれる可能性を考慮してのことなのかもしれない。

 彰のその反応を見るとリンは話を進めた。


「でもキミ達は違った。ボクがエルフとわかっても軽蔑せず、むしろボクを庇ってくれた」
「それはあの状況が気にくわなかったからで……」
「―――それでもだよ! そもそもあれを気にくわないと思う人なんてめったにいないんだ。
 少なくともボクは初めて見たよ……お願い! だめ……かな…?」


 その必死に頼み込む姿を見て少し考える彰。


「……アキラ…私からも…お願いする…」


 そこで以外にもノエルがリンを援護した。彰はよくケンカしていたノエルは反対すると思っていたのだ。


「キミ…どうして……」
「……気持ち…わかる…一人は…寂しい」


 そう答えたノエルの声には実感がこもっていた。

 彼女も獣人の奴隷として心細い生活を送って来たのだ。何か感じるものがあったのだろう。

 彰としては心配なのはノエルがどう思うかだけだったので最早断る理由はなかった。


「―――わかった、これからよろしくな、リン」
「……よろしく」

「ほんとに…いいの? ボク、キミ達に酷い態度いっぱい……」
「リンから言ってきたんだろ? リンにはリンなりの事情もあったんだしお互いここは水に流そうぜ?」
「……気にしない…」
「…………ありがとう、改めて、これからよろしくね? アキラ、ノエルちゃん」
「おう、ところでなぜ俺だけ呼び捨てなんだ?」
「―――! そ、それは……なんとなくだよ! なんとなく!」
「……ん」


 しかし、ノエルはその反応に何かを感じ取ったのか突然彰の右手に抱き着いて言った。


「……アキラは…私のパートナー兼御主人様……欲しくても…あげない」


 そうリンに告げると抱きつく手に力を込める。


「な、何を言ってるのノエルちゃん! べ、別にボクはアキラなんて欲しくないもん!」
「……ウソ…その反応が物語ってる」
「そんなこと無いもん!」


 そうやって言い合いを始めるノエルとリン、そんな彼女たちを見ながら、


(ああ、どうでもいいけどそんなに締め付けられるとノエルの防具が押し付けられて痛いんだよな……いくら皮とはいえさ。
 そう思ってる間にもまた…って痛い! ノエルさんマジ痛い! 少し手を緩めて―――――)


 と、彰が苦しんでいることには誰も気づかなかった。

―――この日、彰達のパーティは二人から三人になった。


****



 その日の夜、正式に彰達のパーティーに加わることになったリンは彰達と同じ部屋に泊ることになった。
 最初は同じ宿屋の別部屋を借りようとしていたのだが、ノエルは彰と同室だと聞き、なんとなく仲間外れにされている気がしてしまい、思わず『同じ部屋がいい!!』と言ってしまったのだ。
 その結果、部屋を開いていた三人部屋に移し、一騒ぎした後、大人しくみんなそれぞれのベッドで寝入っているわけだ。
 正直、『同じ部屋がいい!!』などと言ってしまった直後は思わず自分の発言を後悔したものだったが、彰達と楽しく話をした後だと、素直にこれでよかったと思えた。
 薄暗い部屋の中、そっと上半身を起こすと、他のベッドで眠る二人を見つめる。
 あんなことがあったのだ。今日は相当疲れたのだろう。
 二人は静かにベッドで眠っているように見えた。
 リンは二人を起こさないようにそっとベッドから立つと、なんとなくベランダへと出る。
 外は結構寒く、夜風が肌に刺さるようであった。
 夜空にはとてもきれいな月が昇っていた。 


「今日は本当に……いろんな事があったな……」


 そうだ、今日は本当に激動の日だった。
 人間を嫌っていたはずの自分が人間の男の人と獣人の女の子とパーティーを組み、一緒に協力してティターンを倒すなどそうあることではない。
 だが、それよりも……


「まさかボクが人間の男と一緒の部屋で寝る時が来るなんて……思いもしなかったよ……。
 あんな人も人間には居るんだね……」


 そう、そのことが衝撃だった。
 リンは元々、エルフの隠れ里に住んでいたところを、ひょんなことから攫われ、奴隷として売られる寸前のところで逃げ出した逃亡者だったのだ。
 生きるため、走って、走って、走って。
 そうして走りぬいた先にたどり着いたのがこの王都だった。
 だけど、王都も決して優しい都市ではない。
 他種族差別は根深く、エルフは恐れられる。
 それでも、身を隠すには悪くなかった。
 何しろ人口が多い、他種族差別が根深いせいで顔を隠す者も少なくなく、フードを目深に被る不審な格好をしていても、さほど気にされない。
 正に絶好の確れ場所だ。
 しかし、反面エルフに対する風当りは当然きつく、自分の素性がばれたときには当然の如く酷い中傷を受けた。
 リンにとって、この王都に来てから出会った人たちは皆敵だった。
 それでも何かあれば見捨てられずに魔法を使い、その度にその場から逃げるように去り、また身を隠す。
 そんなことをずっと続けてきた。
 故郷に帰りたい。しかし、もしもまたあの時の奴らに見つかってしまえば?
 一人二人なら何とでもなる。だが、人数で囲まれてしまえばそれまでだ。
 その先に待っているのは本物の奴隷生活だろう。そして、今度は逃げられない。
 だから、もう半ば故郷に戻るのは諦めていたのだ。
 少なくとも、長い時が経たねば不可能だと、そう思っていた。

 だけど……もしも彼らとこの先を供に行けるのならば……目的を理解してもらえるのならば……。


「もう、こんな思いをする必要もないのかな……?」
「―――へぇ、そいつはどんな思いなんだ? リン」
「ふぇっ!? アキラ!? なんで起きて……」


 思わず背後からかけられた声に驚く。
 そこにはさっきまでぐっすりと寝ていたはずの彰の姿があった。
 リンがそのことを問うと、彰はバツの悪そうな顔で答える。


「あ~、いや、偶々意識が冴えたタイミングでリンがベランダに出るのが見えちゃってな。それでなんとなく……」
「そっか、起しちゃったのか。気をつけたつもりだったんだけど……なんかごめんね?」
「いいや、別に謝らなくてもいいよ。元から諸事情で睡眠中でも物音には敏感なんだ」
「そうなんだ、なんか不思議な体質だね? ふふ」
「うっせ、俺のせいじゃないやい。これも親父が散々無茶をするから……」
「ふふふ、アキラはお父さんに似たんだね」
「やめろ、あれとだけは一緒にすんな! おのれ、親父め、あいつにはいつかぎゃふんと言わせてやる!」


 そう言っている彰の姿はどこか子どもっぽくて、なんか可笑しかった。
 この人になら、聞いてもらいたいな。
 そう思った時、思わず言葉は口から出ていた。


「ねぇ、アキラ。聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「……聞いてほしいこと、か……良いぜ。なんでも聞いてやる」
「ふふ、頼もしいね、ありがとう」


 そうして、リンは彰に全てを話した。
 自分の過去、ここに来た経緯、そして今日に至るまでの生活がどのようなものであったか。
 全てを話したのだ。
 彰は……ただ黙って聞いていた。
 何を言うでもなく、リンの話す言葉をただ黙って受け止めてくれていた。


「アキラ、ボクはね。
 無謀なのも分かってる。無茶なのも分かってる。キミにこんなことを言うのがおかしいことも分かってる。それでもね、ボクは、ボクは―――故郷に帰りたいよ」


 そこまで告げて、ふと冷静になる。
 本当に、自分は何を話しているのだろう?
 こんな話をしたって仕方がない。 
 そうだろう、だってこれは彰には無関係な話だ。
 一から十まで自分の都合、どこまで言っても身勝手な自分の話だ。
 この話に、この言葉に、この想いに。
 彰が応える必要なんてどこにもない。
 だが―――


「いいじゃないか、帰ろうぜ、お前の故郷」
「……え?」
「帰りたいんだろ?」
「でも……これはボクの事情で、キミには……」


 そうだ。これは彰には関係の無い話だ。
 これはあくまでリン自身の問題。
 リンが自分で解決しなければならない問題だ。
 なれば当然、こんな話に意味はない。
 寧ろ黙って聞いていてくれただけでもありがいのだ。
 彰を巻き込むわけにはいかない。だが……


「いいや、関係あるね。だってお前は俺達のパーティーなんだろ?
 なら、リンはもう俺達の身内だ。身内の思いには応えなきゃな」
「アキラ……でも、でもッ」


 それでも納得なんてできない。
 そもそも、こんな話をした自分が卑怯すぎる。
 こんな話をして、自分は彰にどう何してほしかったのだ?
 こうなるように仕向けただけじゃないのか?
 そんな自己嫌悪が頭を駆け巡る。
 そうだ、そんな自分にこの彼の好意を受け入れる資格など無い。
 だから、訂正しなきゃいけないはずだ。
 断らなきゃいけないはずなのだ。
 そうしてリンは自分の言葉を取り消そうとし、

―――しかし、彰はそれを許してはくれなかった。


「わかった。ならこれは俺の我がままだ」
「え、いや、違うよ。これはボクの―――」
「リン、お前の故郷ってことは要するにエルフの村みたいなもんなんだろ?」
「そ、それはまぁ、そうだけど……それがいったい……」
「俺はそいつが見てみたくなった。
 リンの故郷が見てみたい。だから行く。直ぐとは言えない。寄り道も沢山する。
 だけど、いつか、いつか必ず、お前の故郷を見に行く。
 だから、その時はちゃんと案内しろよ、リン?」


 ふざけた話だった。
 なんて身勝手なんだろう。
 なんて我がまま何だろう。
 そして、なんて優しいんだろう。
 だってそうだろう。
 ボクの為にここまで言ってもらって、ここまで気を使ってもらって、


(―――断れるはず、無いじゃないか……)


 気がつけば、リンの瞳には涙があふれていた。


「う゛うん、そのとぎは、がならず、あんないずるねッ……」
「ああ、約束だ」
「うんやぐぞぐだよ……」



(……素直じゃない、ね)


 そうして、リンは背後で物陰にもう一人、獣耳の女の子がひっそりと話を聞いていたのにも気づかず、彰の隣で泣き続けていた。

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