付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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闘技大会編

決着

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「はあああアアアぁぁああーーー!!」


 そんなフィールドを揺らすかの如き気合の声を上げながら、イーヴァルディは彰へと切りかかる。
 彼の魔剣による斬撃は一撃でもくらえば常人であれば致命傷。
 掠るだけでも無事では済まない。
 しかし、真に恐ろしいのはその担い手が彼、イーヴァルディであるということだ。
 彼の魔剣がその内に内包する力は凄まじいものがある。
 だが、それも十分に扱うことができなければその真価を発揮しないどころか、魔剣は未熟な所持者の自我を食らいつくしてしまうだろう。
 それを彼、イーヴァルディは十分どころか、本来彼の魔剣が持つ力以上のものを引き出しているのだ。
 結果、触れるだけでも勝負が決せられてしまいかねない斬撃が神速でもって繰り出されるという理不尽がここに起こっていた。
 それは、敵がいかなるものであろうとも圧倒的優位を保ったまま打倒できるほどの力。
 現に彼がこうして今切りかかっている彼も相応の苦戦を強いられていたのだ。

――――そう、つい先ほどまでは……

 彼の斬撃はまともに当たれば一撃必殺ともいえる威力を持っている、にもかかわらず、その斬撃を何度かまともにくらったにもかかわらず、今こうして目の前に立っている彼はいったい何だというのか?
 いや、もっとも大きな問題はそこではない。
 確かに、彼がいまだに立ち上がれるということに驚愕もしよう、尊敬もしよう。
 しかしそれだけ。
 そこまでの男であればイーヴァルディもここまで現状に焦り、必死になることはなかった。
 それよりも問題なのは、そんな彼が、ついさっきまでとどめを刺されるのも時間の問題であったはずの彼が――――今自身の目前でその彼の渾身の斬撃を軽々といなしているということだ。


「――――はッ!!」


 イーヴァルディは神速の斬撃を力強い踏み込みとともに彰へと繰り出す。
 彼の斬撃は大気も何もかも、その刀身に触れるものすべてを凌駕しながら彰の右方から迫ってくる。
 しかし、彰は焦らない。いや、その表情はむしろ落ち着いている。
 彼は右方から迫る暴虐に対し、何も握っていない無防備な右手を下から添わせるように動かす。
 だが、何も持たないはずの右手はしかし確かに彼の暴虐の力の方向をずらし、少し腰を沈めた彼のわずか上方へとそらした。
 何も握っていない? 否、それは見えなかっただけ。
 彼の手には確かに、肉眼では見ることのできない、不可視の空剣が握られている!

――――逸らされた!

 そうイーヴァルディが自覚した直後、圧倒的な悪寒が背筋を駆け巡った。


「空間特性付与―――“槍状化”」


 彰がそう唱えると、再び空気が彼の言葉に呼応するかのようにうねる。
 気が付けばまたも何も持たぬ彰の左手がまるで逆手で何かを持つかのように握られ、彼の右脇腹の辺りに構えられていた。


「――――ッ!!!」


 それを確認した瞬間、イーヴァルディは咄嗟に魔剣をふるった勢いのままそれに逆らわず、右方向へと転がる。
 その数舜あと、直前まで彼がいた場所を彰がその左手に握った何かが突き刺した。

――――避けた!

 そう確信し、一瞬気を緩めたイーヴァルディ。
 しかし、彰はそれを逃さない。


「――――逃がすかぁぁぁ!!」


 そう叫ぶと、彰は短い術の詠唱とともに、今度は振り切った右手の剣を破棄、再構築して不可視の槍を生成すると、彰は逆手に持ったそれを全力でイーヴァルディめがけて放った。
 一瞬とはいえ、死線を脱し、気を抜いてしまったイーヴァルディに、その一撃を避けられる道理はない。
 当然の結果として、不可視の槍はイーヴァルディの脇腹を貫いた。


「なっ!? くはッ―――!」


 痛みはない、しかし引き換えに尋常ではない精神ダメージがイーヴァルディを襲う。
 急激に体が重くなり、一瞬にして目の前が真っ暗になったかのような感覚に襲われる。
 体はまるで鉛のよう。睡魔が甘美な誘惑となって目前まで迫り、思わずその誘惑に体を預けてしまいたいとすら思ってしまう。
 それはこの闘技大会において、挑戦者を秒殺し続けていた彼が長らく忘れていたものであった。
 長らく忘れていた感覚を前に、膝を屈しそうになるイーヴァルディ。


「(このまま、私は負けるのか……? 久方ぶりの本物の強さを持つ挑戦者を前に、膝を屈し、敗北するのか……?)」


 しかし、この数年の間に培った彼の王者としてのプライドが彼をその場に踏みとどまらせた。


「(否、断じて否だ!! 私は誇りある王者として、そう安々と負けるわけにわいかない!!)」


 イーヴァルディはふらつく足取りはり手による一撃によって強制的に立ち上がらせ、ズキズキと痛み、今にも意識が飛んでしまいそうな頭に拳を叩き込み、何とか立ち直らせた。


「さすがだぜ王者チャンピオン、いや、むしろそのくらいでなきゃ困るか?
 これ一撃だけで倒れるような頂点じゃ張り合いがいがないからな」


 再び立ち上がったイーヴァルディの姿を前に、言外に“俺でも耐えきれたんだ、当然お前も耐えきれるだろ?”とでも言うかのように不敵に笑って告げる。


「ははは、まさか君がここまでやるなんてね、これでも私は君のことをかなり過大に評価していたんだがどうやらそれでもまだ足りなかったらしい……だが、私もそう安々と終ってやるわけにはいかないんだよ!!」


 決意を口にし、イーヴァルディは全身の魔力全てを魔剣へと込める。
 すると、魔剣の許容量を超えて注ぎ込まれた魔力はその刀身から溢れ出し彼の体全体を包み込む。
 彼を包み込んでいた魔力はやがて形を成し、その姿を魔剣士とでも言うかの如き様相へと変貌させていた。
 

「おいおい、ずるくないかっ!? そんな奥の手があるなんて聞いてないぞ?」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ、私も君にそんな魔法があるだなんて聞いていなかったし、知らなかったさ」
「かぁ~、それもそうか」
「そうそう、そういうことさ」


 そう言葉を交わすとどちらからともなく笑い始める二人。
 やがてひとしきり笑うと二人は再び向かい合った。
 頭の中を切り替え、尋常ではない気配を放つ二人。


「察するに……私の奥の手と同じように君のその魔法もそう長くは続かないのだろう?
 ならば、決着は早いほうが良い」
「ああ、違いないな」


 彰がそう答えた直後、ただでも凄まじかった二人の周囲の威圧感が、さらに巨大化する。
 近づくだけで意識を持っていかれそうな凶悪な威圧の中、どんどん二人の力は上がっていく。

 
「長かったあんたとの戦いもコイツで最後だ、終わる前に言っとくよなかなか楽しかったぜ?
 ありがとな」
「アキラ君、それは私のセリフだ、君のおかげで私は長年忘れていた戦いを楽しむという感覚、そして戦いに苦戦するという感覚を思い出すことができた。
 これで私はこれからもさらに強くなれる」
「そうかよ、なら―――」
「ああ、これで―――」
『――――終わりだッ!!』


 重なる両者の叫び。


「あがれ、あがれ、あがれ、あがれ、あがれ、あがれ、もっとあがれぇぇぇ―――!!」


 イーヴァルディは魔剣により増幅され、体内を循環する魔力を、限界まで練り上げると、刀身にへと注ぎ込んでいく。
 やがて魔剣、いや、彼の全身は禍々しいオーラを放ち始めた。
 対する彰はおもむろに両手を前に翳すと、術を詠唱、今の彼に作れる最強の一撃を作り上げていく。


「多重空間特性付与―――“弓状化”“矢状化”、続いて同時特性付与―――“巨大化”さらに肉体に特性付与―――“怪力化”」


 出現した不可視の巨大な弓を強化された腕力でもって引き絞り、構えると、彰は続ける。


「さらに空矢へ多重属性付与―――“炎”“雷”“風”“水”“土”……くッ!!」


 彰が詠唱を続ければ続けるほど見えないながら、しかし輝き放ち、それを増していく空矢に比例するように彰の額に流れる汗も増えていく。
 確かに今の彰に体力の限界は存在しない。
 しかし、無限に存在する力をノーリスクで自由自在に操れるのかと言われればそれも違うのだ。
 いかに力があろうとも、それをコントロールするのは彰自身。
 強大な事象を起こそうとすれば、当然、彰にもそれなりの集中力が要求されるのである。
 初撃として行った空槍の複数同時発射ですら、今の彰には立ち止まったまま出ないと発動できないほどの集中力を要するのだ。
 それが身体強化に武器生成、形状変化に属性付与などと、ここまで複数の事象を同時に行えば、彰の負担が想像を絶するものになるのも当然であった。
 しかし、それは彰に限ったことではない。
 自分の身に余るほどの凶悪な禍々しい魔力を己の意思一つでコントロールするイーヴァルディもすでに限界を超えている。
 故に、両者にこの次の一手は存在しない。だが、そんなことは関係ないのだ。
 これは二人の持つ全身全霊の一撃、言うなればそれは自身の全力の投影。
 これで勝てないのであれば、敗者にはすでに、目の前の敵を破る術は存在しない。
 問題は―――その敗者がどちらなのかということ、ただそれだけだ。



「はああァァァアぁぁ―――!!」
「うおォォォオオぉぉ―――!!」


 そして、遂に両者の技に込められた力は限界まで高まり、やがて―――


空間武装エアウェポン、奥義―――≪多重属性駆矢エレメントアロー≫」
「喰らい尽くせ! ダインスレイヴッ!! ―――≪根源喰らいオリジン・イーター狂乱バーサク≫ッ!!」


 放たれる両者の渾身の投影。
 片やその本体は見えず、しかし眩い輝きのみが見える矢。
 片や禍々しい魔力を纏い、触れるものすべてを食らい尽くす邪悪な剣閃。
 そして、両者の技は衝突し、ここに決着はついた。
 すさまじい攻撃の余波でまともな視界が確保できない状況の中、ようやく晴れてくる視界。
 そこには……








――――――自身の足でしっかりと立っている彰の姿があった。


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