付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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勇者編

デートその二

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 服屋に向かって歩いていた彰達は、途中の広場に数十人位だろうか? とにかくかなりの人が集まっているのを発見した。


「なんだ……あれ?」
「何かやってるのかな?」
「……気になる…」


 意見の一致した三人はそろってその理由を確かめるために、騒ぎの場へと近づいて行った。

 彰達が近づいていくと、そこでは集まっている人達が『王様だ!』『一体どうしたんだ』などと騒ぐ声が聞こえる。

 それを聞いた彰が前を覗いてみるとそこには護衛だろうか? 騎士二人に挟まれ、即席で作られたステージのような高台に立つ、王冠を被り、白色の髭を生やした、いかにも王様という感じのおじさんがいた。


「え、うそ、あれ、この都の王様だよ!? 何でこんなとこに……」
「え、あれやっぱ王様なのか? 初めて見たわ」
「……おヒゲ…」


 と彰達が話していると遂に王様が大声で何かを叫び始めた。


「諸君、吾輩がこの都の王、アルバート=エドワード二四世である! 本日この場に現れたのは他でもない! 勇者を皆に紹介するためだ!」


 大げさな動きをしながら王様がそう叫ぶとその場の人が『勇者だと?』『ってことはあの噂は本当だったのか……』という声が聞こえ始めた。


「諸君の中にも噂で知っているものがいるとは思うが、遂に魔王が復活した! その影響で起こったのが先日の強力な魔物の大量発生や大型魔物の出現なのだ!」


 王様が公式に魔王の復活を宣言したことにより、その場にいる人たちは騒然となったが、それを王様が『静まれッ!!』と一言かけると静かになった。


「確かに魔王は脅威である! しかし、案ずるな、我々はこの事態に対し、異世界から魔王に対抗しうる勇者を異世界から召喚した! それでは早速紹介しよう。勇者ユウキだ!」


 その言葉と共に壇上に白い騎士甲冑を着て、腰に黄金の剣を携えた青年が上がって来た。

 しかし、その姿はとても屈強な戦士には見えず、魔王を打倒できるような存在には見えない。

 当然、その場の者は『この男で大丈夫なのか?』と心配になる。

 だが、彰は一人、違うところが気になっていた。


(異世界……まさか日本からか!? 確かに名前からすると日本人みたいだけど……いったい…… )


 そう考える彰を尻目に、王様は話を続ける。


「今、この者で本当に大丈夫なのかと思った者も少なくないだろう。しかし、安心して欲しい。この者はすでにあの騎士団の隊長を打倒するほどの実力の持ち主だ!
 故にこの者の力はこの我が保障しよう!」


 王のその言葉にその場の者達は歓喜し、勇者コールが巻き起こった。


(あのジャックを倒した、ね……とてもそうは見えないけど……何かあるのか?)


「ええ、ただいま紹介に預かりました。藤堂とうどう 結城ゆうきです。私がいる限り皆さんが心配することはありません、魔王は私が倒します!!」


 そう勇者ユウキがその場の者に語りかけると勇者コールは一層大きくなった。


(もし、あいつが本当に召喚されたんだとしたら……もしかすると帰る方法も―――)


「……アキラ…行こう……」
「―――え、ああ、そうだな、俺達には特に関係ないしな……」


 と、珍しく戦闘以外のことで頭が回っていた彰だったが、彼の袖を軽く引っ張りながらそう言ったノエルに思考を止められてしまった。

 結局、彰達はそこで広場から離れてそのまま服屋へと向かった。


「……………」


 その彰達の姿を勇者ユウキの視線が追いかけていることに気づくものは誰もいなかった。




◆◆◆◆




 それから少しして、服屋に着くとリンは早速真剣な顔で中の服を見て回り始めた。

 対して、彰とノエルは服屋にあまり用事はなかったので、そのままリンを少し離れて見ていた。


「あいつ、あんなに服買ってどうする気なんだろな?」
「……アキラ…鈍感……」
「え、何が鈍感なんだよ?」
「……ばか…」


 ノエルは少し顔を赤くしてそう答えると、そそくさと服を見に行ってしまった。


「はぁ、女の子は難しいな……」
「ア、アキラ! ちょっと来てくれないかな!」



 彰がため息をついてその場で困り果てていると突然リンに呼ばれたので彼女のもとへ向かった。


「なんだ? 俺になんか用か? ―――まさか奢れとか言うんじゃ……」
「―――言わないよ! ボクはそんなに図々しくないもん!」
「はいはい、で、なんだ? 何か用があるから呼んだんだろ?」
「むぅ……聞き流された……まぁいいや、ねぇ、アキラ、どっちの方が似合うかな?」


 リンがそう言って彰に見せたのは白を基調として、程よくレースなどの飾りつけがされたワンピースのような服と、緑を基調として、特に目立った装飾がないながらも、シンプルで落ち着いていて、動きやすそうな服の二つだった。


「どっちでもいいだろ……どうせ普段は防具に隠れてほとんど見えないんだし……」
「いいから選んでよ!」
「はいはい、ん~じゃあ、そっちの緑の方で」
「え~なんか適当だよ、理由を聞かせて」


 なんとなく不満げに彰に理由を問うリン。その質問に対し、彰はそっけない顔で即答した。


「単純に動きやすそうだったから」
「もう! そんなことだろうと思ったよ! ちゃんと選んで!!」
「ええー、どっちでも変わんねぇだろ、元が良いんだし」


 彰がぶっきらぼうにそう答えると、リンが少し驚いた顔をして停止した。よく見るとその頬はほんのりと赤く染まっている。


「どうしたんだ、リン?」
「―――ねぇ、元が良いって……本当?」
「え、ああ、リンくらい可愛いければ何着ても似合うだろ」
「……そっか……可愛いか……えへへ」
「おい、大丈夫か? 顔真っ赤だぞ?」
「え……ああ、大丈夫大丈夫、もういいよ、ありがとね」


 そう言うとリンは彰が選んだ緑の方を持ってレジへと向かって行った。


「ほんと何なんだ? 全く……」


 呆れながらつぶやく彰。その後ろでノエルがひっそり、


「……リン…恐ろしい子……」


 と、言いながらリンに対する警戒を強めていた。


 こうして、この日は勇者の発表があったこと以外、特に何もなく、過ぎて行った。


◆◆◆◆◆

 そしてその翌日、魔王復活に対し勇者が召喚されたという知らせはあっという間に王都中に広まった。

 今ではどこもかしこもその話題で持ちきりであった。 

 さて、王都が勇者の話題で盛り上がる中、彰達はというと……。





「さぁ、ノエル、リン、いつでもいいぜ?」
「―――行くよ!」
「……ん…」



 特に構えをとるわけでもなくそう告げた彰に少しむかつきながらリンとノエルは木製の訓練用短剣を手に彰へと向かって行く。

 対する彰は無手、そんな無防備な彼に獣人特有の身体能力でリンよりも先に彰を自身の間合いに入れたノエルは袈裟懸けに短剣を振り下ろした。

 短剣が鋭く空気を切り裂き、彰へと振るわれる。

 しかし、対する彰はその素早い攻撃を最小限のバックステップで易々と回避して見せた。

 初撃をあっさりと回避され、たたらを踏むノエル。

 だが、その間に追いついていたリンがノエルの後ろから飛び出し、バックステップ直後の隙を狙って短剣を突き出した。

 しかし、彰はそれを即座に半身になって回避するとそのまま反撃はせず、距離をとった。


「ほらほら、これで終わりか?」
「むぅ~アキラのくせに生意気だよ!!」
「……まだまだ…」


 余裕の彰にそう言い返すとノエルとリンはまた彼に向かって行く。




 ここまで見てもらって分かる通り、彰達は勇者のことなどアウト・オブ・眼中で東の森で修業をしていた。

 どうしてこうなったのか、話は少し前にさかのぼる。






「―――――なあリン、俺達に魔法を教えてくれないか?」


 朝、彰は朝食を食べながらリンに懇願した。


「魔法を教えて欲しいって言っても、ノエルちゃんはともかくアキラは使えるでしょ? どうして……」
「いや、俺のは厳密にいうと魔法とはちょっと違うんだよ、まぁ似たようなことができることはできるけど……」
「……アキラは…特別」
「それにノエルは俺より魔力量高いから魔法が使えるとお得だろ? 俺に教えるっていうより、ノエルに教えるって感じでさ、だめか?」
「……ア、アキラがそこまで言うなら仕方ないなぁ~! この魔力1万の炎と水の二系統の使い手たるボクが直々に教えてあげるよ! えへへ……」


 どこか嬉しそうに、かつ自慢げに語るリン。

 しかし、彰はそこで出て来た聞きなれない単語に顔をしかめる。


「なあ、リン、その……系統? ってなんなんだ? 初めて聞いたんだが……」


 彰のこの反応にリンは頭を抱える。対してノエルはそんなことは今更といった感じで平然としていた。


「呆れた……アキラってばそんなことも知らないなんて……キミ、本当にエンチャンター?」
「う~ん、まぁ一応……?」
「まぁいいや、なんかアキラってば魔法についてよくわかってなさそうだから簡単に説明するね?」
「……なんかすまん……」
「別に今更だからいいよ。アキラにはその……いろいろ借りもあるしね」
「……そっか、ありがとう」
「うん、じゃあ始めるよ?」


 そう言うとリンは彰でも理解しやすいように魔法について簡単に説明を始めた。

 その内容は、魔法には炎、水、雷、土、風、無、の六系統に付与魔法を加えた7つの種類があること。

 魔法使いとは、それらの中から一つ以上の種類の魔法を使える者のことを言い、基本的に一人の魔法使いが使える系統は1つ、また、稀にいくつかの系統が使える者もいるが、どんなに才能あるものでも3つが限界ということ。

 また、使える者のうち、炎、雷の属性の者が多く、次に土、水、風と続き、無と付与魔法は使える者が圧倒的に少ないということなどだ。

 で、その説明を受けている当の彰はというと……。


「ふ~ん、なるほどな~うん、うん……」
「ねぇ、アキラ、ボクが折角できるだけ簡単に説明してあげたのに全然理解してないでしょ?」
「……あ、ばれた?」
「『あ、ばれた?』―――じゃないよ!! はぁ~、まぁアキラにこれを理解しろっていうのが土台無理な話だったかな……」
「……しょうがない…アキラは基本…バカ…だから」


 リンどころかノエルにまでバカ呼ばわりされたことに少しムッときた彰は不満を露わにして反論する。


「む? 心外な!! 俺はこれでも頭は悪くないんだぞ? 高校でも真ん中ぐらいだったし……」
「―――へ? こうこう?」
「……?」


 初めて聞く名称に疑問を呈すリンとノエル。

 ぽろっとこの世界にない単語を使ってしまうあたりに言い訳のしようのない彰のバカさ加減がうかがえる。


「あっ……あー、とにかく、そうと決まれば今日は依頼受けないで魔法の修業をしよう! そうだな……東の森なんかどうだ? あそこあの大量発生以来、人少ないし」
「……まあ、そうだね、そうしようか」
「……問題ない…」


 少し焦った彰はちょっと、というかかなり無理やりに話を進めて、自身の失言をうやむやにした。

 とにかく、過程はアレだったが、何とかこの日することを決めた彰達は朝食を済ませ、それぞれ軽く身支度を終えると早速、東の森へと向かったのだった。



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