傭兵魔術師は異世界で英雄を目指す

畑の神様

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1章

戦闘開始

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「―――母さん、弟子達を頼んだ」
「ちょっと待ちなさいッ!! ヴァンッ まって―――」


 母さんの静止の声を振り切って、俺は強化された脚力により地を蹴り抜き、駆け出す。
 この絶望的な状況、その根源となっているのはあの悪鬼だ。
 殺戮鬼デス・オーグ、奴という存在そのものがこの絶望を生み出している。
 なら、話は簡単だ。奴を排除する。ただそれだけでこの絶望は霧散する。
 そうなってしまえば、この場にいるメンバーでこの状況を切り抜けるのはそう難しい事ではない。
 故に、俺の目標は殺戮鬼デス・オーグ。あの悪鬼に他ならない。
 だが、その行く手に壁の如き魔狼の群れが立ちはだかる。


「―――邪魔だ」


 あの程度の魔物であれば、俺にとっては取るに足らぬ程度の敵。されど、問題なのはその数だ。
 地を埋め尽くすが如きその数に対し、は右手に握られた一刀のみでは対処が間に合わない。


「貴様ら程度の存在で、俺の理想ゆめを阻めると思うな」


―――故に、今必要なのは手数だ。

 眼前に迫る魔狼の群れ、それを振り払えるだけの手数。
 それを求めるならば今の倍の手数は必要。だから、


「―――Access」
≪―――接続≫


 自身の記憶の坩堝、数多の記憶が眠るその奥底に回路を繋ぎ、接続。求める記憶を検索。………見つけた。
 ならば、あとは容易い。探り出したその記憶を魔力を用いて、寸分の違いなく現出させるだけ。


「―――White-gladius,Generate」
≪―――白剣、生成≫


 その言が紡がれた時、俺の左手には既に右手の黒剣とは対象的な、白色に煌めく剣が握られていた。


『武器を……生み出した……!?』
『あ、あれが師匠の魔法なのか……?』
『ヴァン先生の武器、森で拾ってきたんじゃなかったんだね』
『そうね、拾ってきたにしては良い武器を持ちすぎてるとは思ってたけどこういうからくりだったのなら納得だわ』


 母さんと弟子達が背後で俺の魔術に驚いているのがわかる。
 そういえば、今までは術を見せないように隠してきたのだったか。
 だが、今はそんなことに構っている余裕はない。そもそも、母さんへの隠蔽と、前世の慣習が故になんとなく秘匿していただけのものだ。魔法が当たり前に使われるこの世界ならば、もはや無理に隠す必要もあるまい。

 俺は生み出した二刀を手に、眼前の魔狼を見据える。
 黒剣は本来、白剣と揃って一対の二刀剣だ。
 その銘は≪陰陽剣≫、前世にて師匠サーシャから授けられた類なき名剣。
 それ以来幾度となく俺の命を救ってきた俺の愛剣だ。
 つまり、一対揃った今の姿こそがこの剣の本来の姿。
 これなら、あの数多の魔狼にも対応出来るッ!!


「―――はぁぁあああああッ!!」


 砲声と共に俺は魔狼の大群、その中央へと飛び込む。


『ヴァンッ!! そんな、無茶よッ!!』


 母さんの我が子の無謀を嘆く声が聞こえる。
 瞬間、その言葉を証明するかのように前後左右、あらゆる方向から俺の肉体を食いちぎらんと魔狼の爪牙が襲い掛かってきた。
 それら一撃々の全てが致命。
 中身はともかく、肉体そのものは所詮少し力のある七歳児のものである以上、どれか一つでもまともに食らえば、俺の命はそこで終わる。
 だから、母さんの忠告に間違いはない。
 母さんに間違いがあるとすれば、それはただ一つ。

―――俺の深淵を知りえないというただその一点に他ならないッ!!


「―――阻むな駄犬」


 俺は知覚する。
 前後左右、襲い来る爪牙の数。目的。そしてその軌道。
 その全てを知覚し、そして、


―――二刀を以てその全てを凌駕する。


 直後、鮮血が舞った。
 しかしそれは齢七歳の俺のものでは無く、その全てが自らの攻撃を見抜かれた上で軽々とそれらを凌駕され、切り裂かれた魔狼のもの。
 対する俺には傷の一つも存在しない。
 だが、この程度は当たり前だ。
 こいつら程度では俺の理想ゆめを阻む障害にはなり得ない。
 故に、

「そこを退けッ!! 邪魔するものは切って捨てるッ!!」


 それ故に俺は直進する。
 迫りくる必殺の一撃。
 その全てに対し、絶殺をもって迎え撃つ。
 右から迫る三つの爪撃を黒剣の一振りにより魔狼の腕ごと裁断し、
 左から迫る四組の鋭牙を左の白剣の一振りで魔狼の頭蓋を切り飛ばす。


『これは……ヴァン、あなたはいったい……』
『師匠……すげぇ……』
『あんなに沢山のブラックヴォルフなのに……』
『相手にすらなってないなんて……』


 その姿、正に一騎当千。
 いくら魔狼が群れを成し、束になってかかろうとも、今の俺にその爪牙は掠ることすらありはしない。
 これが凶悪に対し、逃避を選択したものと、打倒を選択した者の差だ。
 そうだ。問題などない。これならいける。上体は万全だ。
 この調子なら殺戮鬼デス・オーグすらも討ち果すのはそう難しい事じゃない。
 いける。そう確信し、悪鬼を再び見据え直した……その直後だった。


「~~~~ッ!?」
 

―――背筋を異様な悪寒が駆け抜けた。

 脳裏に過るは数瞬後、自らが意識の外から訪れた拳により挽肉ミンチにされる光景。
 このまま進めば不可避の死が訪れる。されど後退は許されない。
 後ろに下がればその瞬間、隙だらけの俺は魔狼の餌食になる。
 考えている時間などなかった。
 気が付けば、俺は全力で自分に前方にその身を投げ出し、地面すれすれの距離を滑空していた。

 
『ヴァンッ!! 危ないッ!!』
『師匠ッ!!』
『先生ッ!!』
『ヴァン君ッ!!』


 そんな焦燥の籠った叫びが背後から聞こえてきた直後、俺の頭上の僅か数センチ上。
 つい一瞬前まで俺の頭があったその場所を死が通過する。
 その正体は無造作に繰り出された殺戮鬼デス・オーグの右拳。
 まるで迫る小虫を払うかのように繰り出されたその拳はそのまま俺が疾駆していればいたであろう位置に着弾。着弾点の周囲に居た魔狼を一瞬にして肉塊すら残らず消し飛ばした。

 俺は投げ出したその身を即座に立て直すと、状況を把握する。
 どうやら魔狼の群れはなんとか突破できたらしく、周囲にその姿は見当たらない。
 常であれば背後から追ってくるのであろうが、今はその心配も無いだろう。
 理由は偏に眼前の悪鬼にある。
 今の一撃、もしも俺の飛び込むのが一瞬でも遅れていれば、その時点で俺は死んでいた。
 だが、最も怖ろしいのはそこではない。何より怖ろしいのは恐らく、今の一撃ですら殺戮鬼デス・オーグという化物のその本領。その内の氷山の一角でしかないということだ。
 そんな一撃ですら十近い魔狼を死骸も残さず消し飛ばすほどの威力。


「なんて奴だ……っ」


―――底が見えない。俺が奴に勝てる光景ビジョンが思い浮かばない。

 それ程の巨悪。それ程の絶望。あれに立ち向かうという選択そのものが間違いだったのではないか?
 そんな疑問が頭を過る。
 だが、そんな思考を続ける猶予すら存在しない。


「―――ッ!?」


 再び俺の背筋を悪寒が駆ける。
 一撃で払えぬならば二撃目を打つのみとばかりに、先の一撃よりも力の籠った殺戮鬼デス・オーグの左拳が俺を襲う。
 受ければ死は免れない。
 俺は即座に思考を切り上げ、全力で右へ横っ飛び。
 そのまま転がるように体勢を立て直すと、殺戮鬼デス・オーグの死角に回り込むように駆け出す。
 直後、右拳が地に着弾。
 先程よりも力の込められたその拳は軽々と地を削り、巨大なクレーターを作り出した。

―――甘かった。見通しが甘すぎた。

 なんだあれは、無茶苦茶だ。あんな化物には前世でも相対した記憶がない。
 否。恐らく会っていたとしても、俺は迷わず逃走を選択したはずだ。
 それ程の規格外。それほどの凶悪。
 今でこそ前世で培った第六感により、すんでのところで回避が成功しているが、こんなのはそう長くはもたない。
 一撃でも回避し損ない、直撃してしまえば、その瞬間。俺の命は跡形も無く消し飛ぶ。
 いや、直撃などせずとも、掠るだけでも致命的だ。
 それだけでも俺の生命活動を終了させるには十分すぎる。


「おいおい……いくら何でも規格外すぎないか……ッ!?」


 直後、再び迫りくる死の悪寒。
 悪寒の元凶は背後。
 地を穿ったそのままの勢いで、薙ぎ払うかのように振るわれた左腕がおよそその巨腕からは想像し得ない速度で持って、地表の全てを粉砕しながら迫ってくる。
 もはや、奴の通りし後に森の面影は存在しない。
 残るのは奴の思いのままに蹂躙され、荒れ果てた大地のみ。
 しかしてそれは点ではなく、面による攻撃。
 受ければ致命。されど、前後左右、そのどこにも逃げ場など存在しない。
 故に、俺の取り得る選択肢は一つしかない。


「クソッたれがッ!!」


 両足に力を、魔力を収束。比喩ではなく全霊でもって地を蹴り飛ばす。 
 直後、地表を蹴り砕き俺の体は空中へと弾きだされる。
 その僅か下方を暴虐が通り過ぎていく。
 正に間一髪。これ以上無い正確な回避。だというのに、

―――俺の背中を滝のように流れるこの冷や汗は一体なんだッ!?


「ッ!? しまった、これは……誘導されたッ!?」


 そう、今の一撃ですらただの誘い。
 奴の本命は空中にて身動きの取れなくなった俺だ。
 ふと、殺戮鬼デス・オーグの方へ視線を向ける。
 奴の顔はしてやったりとでも言うかのような、悍ましい笑みを浮かべ、ぐにゃりと歪んでいた。


『ヴァンッ!! いやあぁぁあああ!!』


 母さんの悲鳴と共に死が迫る。
 空中にて無防備になった俺を目がけ、再び奴の右拳が俺を目がけ寸分の狂い無く繰り出される。
 未だその拳との距離は遠い。されど、わかる。わかってしまう。
 これはこれまでの一撃とは一線を画すものだ。
 奴は本気で俺を消滅させに来ている。
 肉片も、血の一滴すら残さず、俺を消し飛ばす。それができる威力の拳をこちらに放ってきている。
 だが、俺の体が空中にある以上、俺に取りうる手段はない。
 回避はできない。俺に待ち受けるは無抵抗に奴の拳を受け入れ、存在を消滅させられる未来だけ。

―――とでも思って・・・・・・いるのなら・・・・・、遠慮なくそこにつけ入らせてもらうとしようか。


「行くぞ化物、眼に物を見せてやろう」


 俺は全身を流れる魔力の幾分かを先程と同じく足に集中。
 そしてそのまま放出するや否や、すかさずその魔力を蹴り抜くことで、空中を駆ける・・・・・・!
 後は繰り返し。
 放出、蹴り抜く。放出、蹴り抜く。放出、蹴り抜く。
 その過程を繰り返すことで、俺は空中を自由自在に駆け巡り、暴虐の訪れる範囲から脱出。殺戮鬼デス・オーグの必殺の一撃を回避して見せた。


『そ、そんなまさか……』
『マジかよ師匠……すごすぎんだろ……』
『空を走ってる、ですって……?』
『す、凄すぎるよヴァン先生……いったいどんなレベルで放出魔力を制御したらあんなことできるの……?』


 ちらりと、俺の行動に驚愕を浮かべる母さんと弟子達の顔が見える。
 母さんはしっかりとブラックヴォルフを食い止めてくれているらしく、未だ茫然と俺の戦いを見守る彼らに危険が及んでいる様子はない。これなら、俺は遠慮なく目の前の悪鬼に集中できる。
 空を駆ける。
 起こしているのは大きな現象だが、やっていることは大したことじゃない。
 なにしろ、やっていること自体はエリスの行っていた魔力放出と大差ない。
 むしろ俺の方が純粋な魔力回路ではない以上、出力は俺の方が低いくらいだ。
 故に、行っていることは単純。
 ただ最低限の魔力を足元から出力、強度、形状を調整しながら放出、それが霧散するよりも前に、即座にそれを蹴り抜くことで、自身の足場としているというだけの事。
 
 だが、俺がこんな曲芸じみた技を披露して攻撃を回避したのは何も見せびらかすためではない。
 

「さぁ、こっからが俺の手番ターンだぞ? 殺戮鬼デス・オーグ!」


 宣言と共に、俺は空中を蹴り出し、反転。
 攻撃直後、無造作に伸びきった殺戮鬼デス・オーグの右腕に直地すると同時に、駆ける。
 狙うは一点、人体であれば頸動脈が存在するであろう首元。
 そこを切り裂かれれば奴とて無事ではすまぬ筈。
 腕を伝って接近してくる俺の存在に気づき、慌てて腕を引き戻し、俺を振り落とそうと奴が動き始めたがもう遅い。この距離からなら振り落とされるよりも俺の一撃が奴の首筋を切り裂く方が早い!!


「はぁぁあああああ―――ッ!!」


 揺れる腕の上を駆け抜けながら、狙いとする奴の首元を見据えて駆ける。
 同時に、思う。
 ≪陰陽剣≫は確かに類稀なる名剣。
 されど、今この場にて奴の樹齢千年の大樹にも匹敵する首元を切り裂かんとするにはいささか刀身リーチが足りない。
 故に、なら、必要なのは手数ではなく、豪撃だ。
 奴の首を一撃にて切り裂ける圧倒的な威力と、圧倒的な刀身リーチをもった武器がいる。
 ならば、想像しろ。
 自身の記憶、その渦中からこの場にて最も最適な武器の記憶を呼び覚ませ。


「―――Access」
≪―――接続≫


 大丈夫、俺はその武器を知っている。
 銘はない。それは一撃の威力を突き詰めすぎたが故に、誰も満足に扱うことのできなかったじゃじゃ馬だ。
 何せでかい。そしてそれ故にとんでもなく重い。いくら強くとも、まともに持ち歩くことも叶わないのでは実用性は無いに等しい。
 されど、記憶武装メモリーアサルトにより、一度記憶してしまえば武器の出し入れが自由自在な俺ならば、魔術を用いて常人の身体能力を凌駕できる俺にならば、その武器を扱うことはそう難しくない。
 その武器の名は―――


「―――Buster-blade,Generate」
≪―――剛大剣、生成≫


 俺は腕を駆け抜けた勢いを殺さぬように、奴の首元へと切りかかる。
 その時には既に俺の両手にあった≪陰陽剣≫は共に消え、引き換えに刀身が3メートルはあろうかという武骨な大剣が俺の両手に収まっていた。


「これでぇぇぇどうだぁぁあああああ―――ッ!!」


 軌道は完璧。
 武器を振り抜く手ごたえも完璧。
 これ以上ないタイミング、これ以上ない精度でもって繰り出された一撃は殺戮鬼デス・オーグの首元を正確に捉え、


―――しかし、あっさりとその表皮に弾かれた。


「―――なっ!?」


 否、弾かれただけならまだわかる。理解はできずとも納得はできる。
 だが、現実は更に絶望的だ。
 我が渾身をもって、最適の武器により繰り出された一撃は殺戮鬼デス・オーグの首筋に僅かな傷を残したのみ。
 加えて、この一撃を繰り出した剛大剣バスターブレイドは激突の瞬間、“バキンッ”という音共に、その刀身の半ばから先を喪失していたのだから。


「ばかなッ!? 剛大剣バスターブレイドが折れただとッ!? 奴の表皮はいったいどれほどの硬度を持っていると……いや、なるほど。そういうことかッ」


 瞬間、理解した。
 奴を初めて目と鼻の先、この距離まで接近して観察することで初めて気づいた。
 魔力だ。奴は自らが内に内包する膨大な魔力をその表皮から僅かに放出し続けることで、常に魔力の鎧を身に纏っているのだ。
 その上、微量とはいえ奴の魔力は高密度、そこに恐らく元来の表皮の硬度が加わり、常軌を逸した強度を保っている。
 ならば、この結果は道理。いくら魔術により強度や切れ味に多少の手を加えているとはいえ所詮は鉄の剣。奴の表皮を突破し得る筈がない。
 この瞬間、決定的な機会チャンスは致命的な危機ピンチへと変貌した。
 首筋を狩り損ね、致命的な隙をさらした俺に向けて、殺戮鬼デス・オーグが僅かに反転しながら繰り出した右の裏拳が弧を描くように迫ってくる。


「~~~~~~ッ」


 まともに受ければ死、あるのみ。
 されど、先程とは異なり今度こそ避けることは叶わない。
 それ程に致命的なタイミング。
 故に俺は防ぎにかかる。
 剛大剣バスターブレイドは既に半ばから先が消失したことで武器としての形状を保てなくなり、消えかけている。
 だがそれでも、この瞬間。この一瞬。我が身を守る盾としての役目なら十全にこなせる。
 あとは自らの技量のみ。
 正面からぶつかっても死の運命からは逃れられない。
 故に、俺は刀身の折れた剛大剣バスターブレイドを攻撃の方向を逸らすように傾斜させ、迫る拳に向けて振り抜く。と、同時に全力で空中を蹴り抜くことで衝突の反動に逆らわぬように自ら背後へと飛び退る。

 結果、殺戮鬼デス・オーグの腕は僅かに上方に逸れ、俺自身は砲弾のように後方へ吹き飛び、その先の木々をなぎ倒しながら地に激突した。


「かはッ―――」


 ここまでした。ここまで手を尽くして尚、重症は避けられなかった。
 臓腑を駆け巡る重鈍な衝撃に思わず口から声にならない声が漏れる。
 


『ヴァンッ!!』
『師匠ッ!!』
『先生ッ!!』
『ヴァン君ッ!!』


 弟子達があまりの状況に声を上げる。
 その声に、俺はなんとか立ち上がり、再び奴を戦意をもって相貌に収めることで答えた。
 なんとか行動不能に陥ることは避けれた。
 だが、自らの呼吸音に明らかな違和感を感じる。
 どうやら今の衝撃で肋骨が何本か逝ったらしい。
 肺腑を抉るような鈍い痛みが動くたびに俺を襲う。 
 それでも、動けないというほどじゃない。
 俺はまだ……戦えるッ!!


「かはッ……かはッ……」


 俺は喀血しながらも殺戮鬼デス・オーグを視界に捉え、方策を思考する。
 
 どうする?
 奴の表皮の固さはダイヤモンドに匹敵する。否、下手すればそれ以上の可能性すらある。
 剛大剣バスターブレイドによる斬撃ですら通らないのであれば、最早線による攻撃は不可能に近い。
 しかし、面単位での攻撃は試すまでも無く無意味。線に集約させても切り裂けなかったのだ。面に力を分散させてしまっては通用などするはずも無い。
 ならば、俺の取り得る手段は一つ。
 線では無理。面は論外。となれば、残された手段は点での攻撃を置いて他に無い。


「とはいえだ。無暗な点での攻撃では通じまい。恐らく、高威力を内包した最善手を最も効果的な一点に集約させねば意味はないだろうな」


 そう、どこでもいいわけではない。渾身ならいいわけでもない。
 全身全霊を効果的な一点に集約させて初めて奴に攻撃と呼べる代物が通用する。
 だから、考えろ。効果的な一点とはどこだ?
 奴の見えざる鎧の強度、その源泉は表皮から放たれる魔力にある。
 ならば、狙うべきはその表皮が存在しない場所。
 つまり―――


「眼球か……」


 その一点のみだ。
 表皮でおおわれていない場所などそこを置いて他に無い。
 方策は決まった後は実行するだけ。
 

「■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」


 “方策は決まったか?”とでも言うかのように、およそ言葉にすらなっていない。悍ましい咆哮を上げる。
 それは未だ奴の状態がほぼ無傷に近いことを意味していた。


「やかましいな。先は失態を見せてしまったが、次はこうはいかないぞ。
 今度こそ、その舐め腐った面を吠え面に変えてやろう。
―――行くぞ、第二ラウンドだ」

 
 俺は意を決すると、力強く地を蹴りだした。

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