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後編
誰も見ないで、誰も触れないで
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「ハロー、ハロー。メールだよ。」
「ああ、ありがとう。ヘクター。」
「いいえー。ちゃんと読んであげてね!」
返事の手紙は指示通り、移動教室の隙を狙ってルイの使っている席の中に入れた。
そうして翌日か翌々日には、あの兎の獣人………ヘクターがどこからともなく現れて私に手紙を渡し去って行くので、その返信をまた書いて………。
ヘクターを挟んで行われる、夢にまで見たルイとの手紙のやり取り。
ルイが書いた文字をなぞる度に、こんなにも幸せになれるのか。
たくさんの好きを教えてくれる。
たくさんの好きを覚えてくれる。
匿名ではあるけれど、【ドミニク・カタルシス】ではないけれど。
それでもずっとずっと、やりたかったのはこれなんだと実感する。
思えばあの雌との手紙のやり取りは、当たり障りのないことばかり書いていた。
下手なことを書いてバレる訳にはいかなかったからだろう。
所謂【愛の言葉】というものは多々あったけれど、こうした些細な、それでも尊くなるような文字達はなかった。
明らかに、ルイらしからぬ手紙。
その事実に気付いていて、けれどもその事実こそ認めたくなかった。
そうして目を逸らした結果が、ルイの死だ。
忘れるなと、以前の私が私の首を締めてくる。
調子に乗るなと。
お前がルイを殺したんだと、私が囁く声が聞こえる。
それでも俺は―――
「なんだか最近、機嫌が良いな。」
沈みそうになる思考が、その声を切欠に浮上する。
目の前にはニヤニヤと楽しそうに笑う、従兄弟。
以前の私が噛み殺した命。
ルイの家族を殺したという恨みはあるが、それでも、心の底から憎むことが出来ない親友。
以前もそうだった。
私とルイが結婚するまでは、レオは普通に気の良い友人だったのだ。
「………ずっと欲しかった物が手に入ったからな。」
「そうか!何だ、何を得たんだ?」
ワクワクという擬音が付きそうな勢いで身を乗り出したレオを鼻で笑い、向かい側に座る。
レオはライオンの獣人のクセに、警戒心よりも好奇心が強い。
しかもそれがレオ自身の基準で楽しそうなモノだった場合、ますます興味を抱く。
正直、親戚じゃなければ厄介でしかない相手だ。
「内緒。良いモノは独占したい性質だからな。」
取り敢えずそう本音を言って誤魔化しておく。
良いモノは独占したい。
俺だけのモノにしたい。
誰も見ないで、誰も触れないで。
そう出来たのであらば、どれだけ幸せなことか。
けれどそんな欲望は、抱くことすら烏滸がましい。
勿論、口に出すことなんて以ての外だ。
「ちぇっ!だがまぁ、その気持ちも分からんでもないからなぁ………。」
「意外だな。お前はどちらかと言えば、見せびらかす性質だろう?」
「うーん………」
いつもいつも、レオは楽しいモノや良いモノがあると見せびらかしてきた。
否、見せびらかすと言うよりは、共有したがると言った方が正しいか。
自分が楽しいと感じたモノ、良いと感じたモノに対して共感して欲しいと思うのだろう。
何でもかんでもこれを見ろあれを見ろと言っていた。
あの も れ を―――
「ただ最近、いっそ大切にしまった方が壊れずに済むのではないかと思ってな。」
「ふはっ、なんだそれは。らしくない呟きだな。」
本当にらしくない言葉だったので、思わず笑ってしまう。
大切に、はまだ分かる。
だがしまっていた方が壊さないという弱気な発言は、本当にらしくない。
いつだってレオは、見せびらかしながらもしっかり守っていたじゃないか。
「俺だって、間違えて壊してしまったモノもあるさ。」
私がそう言えば、レオは寂しそうに笑った。
その言葉に、表情に。
私は何も言えなくなってしまう。
もしかして、レオも以前の記憶があるのか?
しかしそれならば、いつまでも反逆者になった私を手元に置く意味が分からない。
「………それは、何なんだ?」
声は震えていないだろうか。
怪しまれてはいないだろうか。
目を反らしたいけれど、反らすことは許されない。
それは強迫観念でしかないのだけれど、反らしてはいけないということは確かなことのように思えた。
「………ナイショ」
人差し指を唇に当てて、レオが笑う。
その顔を見て何故だろうか。
ヘクターに似ていると、ぼんやりとそう思った。
嗚呼、でもそうだ。
だって 、 オの だ 。
「ああ、ありがとう。ヘクター。」
「いいえー。ちゃんと読んであげてね!」
返事の手紙は指示通り、移動教室の隙を狙ってルイの使っている席の中に入れた。
そうして翌日か翌々日には、あの兎の獣人………ヘクターがどこからともなく現れて私に手紙を渡し去って行くので、その返信をまた書いて………。
ヘクターを挟んで行われる、夢にまで見たルイとの手紙のやり取り。
ルイが書いた文字をなぞる度に、こんなにも幸せになれるのか。
たくさんの好きを教えてくれる。
たくさんの好きを覚えてくれる。
匿名ではあるけれど、【ドミニク・カタルシス】ではないけれど。
それでもずっとずっと、やりたかったのはこれなんだと実感する。
思えばあの雌との手紙のやり取りは、当たり障りのないことばかり書いていた。
下手なことを書いてバレる訳にはいかなかったからだろう。
所謂【愛の言葉】というものは多々あったけれど、こうした些細な、それでも尊くなるような文字達はなかった。
明らかに、ルイらしからぬ手紙。
その事実に気付いていて、けれどもその事実こそ認めたくなかった。
そうして目を逸らした結果が、ルイの死だ。
忘れるなと、以前の私が私の首を締めてくる。
調子に乗るなと。
お前がルイを殺したんだと、私が囁く声が聞こえる。
それでも俺は―――
「なんだか最近、機嫌が良いな。」
沈みそうになる思考が、その声を切欠に浮上する。
目の前にはニヤニヤと楽しそうに笑う、従兄弟。
以前の私が噛み殺した命。
ルイの家族を殺したという恨みはあるが、それでも、心の底から憎むことが出来ない親友。
以前もそうだった。
私とルイが結婚するまでは、レオは普通に気の良い友人だったのだ。
「………ずっと欲しかった物が手に入ったからな。」
「そうか!何だ、何を得たんだ?」
ワクワクという擬音が付きそうな勢いで身を乗り出したレオを鼻で笑い、向かい側に座る。
レオはライオンの獣人のクセに、警戒心よりも好奇心が強い。
しかもそれがレオ自身の基準で楽しそうなモノだった場合、ますます興味を抱く。
正直、親戚じゃなければ厄介でしかない相手だ。
「内緒。良いモノは独占したい性質だからな。」
取り敢えずそう本音を言って誤魔化しておく。
良いモノは独占したい。
俺だけのモノにしたい。
誰も見ないで、誰も触れないで。
そう出来たのであらば、どれだけ幸せなことか。
けれどそんな欲望は、抱くことすら烏滸がましい。
勿論、口に出すことなんて以ての外だ。
「ちぇっ!だがまぁ、その気持ちも分からんでもないからなぁ………。」
「意外だな。お前はどちらかと言えば、見せびらかす性質だろう?」
「うーん………」
いつもいつも、レオは楽しいモノや良いモノがあると見せびらかしてきた。
否、見せびらかすと言うよりは、共有したがると言った方が正しいか。
自分が楽しいと感じたモノ、良いと感じたモノに対して共感して欲しいと思うのだろう。
何でもかんでもこれを見ろあれを見ろと言っていた。
あの も れ を―――
「ただ最近、いっそ大切にしまった方が壊れずに済むのではないかと思ってな。」
「ふはっ、なんだそれは。らしくない呟きだな。」
本当にらしくない言葉だったので、思わず笑ってしまう。
大切に、はまだ分かる。
だがしまっていた方が壊さないという弱気な発言は、本当にらしくない。
いつだってレオは、見せびらかしながらもしっかり守っていたじゃないか。
「俺だって、間違えて壊してしまったモノもあるさ。」
私がそう言えば、レオは寂しそうに笑った。
その言葉に、表情に。
私は何も言えなくなってしまう。
もしかして、レオも以前の記憶があるのか?
しかしそれならば、いつまでも反逆者になった私を手元に置く意味が分からない。
「………それは、何なんだ?」
声は震えていないだろうか。
怪しまれてはいないだろうか。
目を反らしたいけれど、反らすことは許されない。
それは強迫観念でしかないのだけれど、反らしてはいけないということは確かなことのように思えた。
「………ナイショ」
人差し指を唇に当てて、レオが笑う。
その顔を見て何故だろうか。
ヘクターに似ていると、ぼんやりとそう思った。
嗚呼、でもそうだ。
だって 、 オの だ 。
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