人参のグラッセを一個

かかし

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あと一週間は様子見で、でも特に激しい痛み等がなければ通院の必要無し。
激しい運動や無茶だけはしないようにと、東さんは何故か渡邊さんに釘を刺すようにそう言った。
でも適度な運動は大切だから、散歩程度は構わないよと。
それならばと俺達はお言葉に甘えて言ったん家に帰ったあと、近所のスーパーまで歩いて買物へ向かった。

「デートだ!」

渡邊さんはキャッキャっと喜んだけれど、これもデートと言えるのだろうか。
でも手を繋いで一緒に歩いて買い物して。
向かう先がショッピングモールかスーパーかの違いかと考えれば、これも立派なデートなのかもしれない。

「今日何がいいです?」

料理は得意じゃないけど、嫌いじゃない。
美味しくもなく不味くもない料理を、渡邊さんは嬉しい嬉しいと喜んでくれるから。
作れば作るほど、俺は幸せになる。

「ハンバーグ!目玉焼き乗せてね!ハートの!」
「無理。」

目玉焼き乗せのハンバーグ位ならいくらでも作ってあげるけど、流石にハートの形の目玉焼きは無理だ。
そういうのを簡単に作れるフライパンがあるらしいけど、綺麗な形のまま盛り付けできる自信が無い。

「ねぇねぇ、ちぃちゃん。」
「はい?」
「ずっと俺の傍に居てね。置いて行かないでね。」

置いて行かないで。
渡邊さんはいつもその言葉を口にする。
なんで誤解を招くようなことをと思っていたけれど、もしかしたら渡邊さんは本当にそう思っていたのかもしれない。
渡邊さんの中でずっと、俺は渡邊さんの家に居るべき存在で、だから渡邊さんを守るためとはいえ頑なに実家に帰ったり学校へ行ったりする俺は、渡邊さんを置いて行っているように感じていたのかもしれない。

「置いて行きませんよ、もう。」

大丈夫だという気持ちを込めて、握る手に力を込める。
男同士であるとか、歳の差だとか。
世間はきっと俺達を歓迎も祝福もしてくれないだろう。
それでも良いんだ。
オーナーや東さんや、ピーチって人。
例え少ない人数でも、祝福してくれる人が居るのだから。

「ちぃちゃん、愛してるよ。」

ふわふわニコニコ、渡邊さんが笑う。
俺はこの笑顔が大好きだ。
ちょっと傷んでいる金髪も、ピアス開けまくってる耳も、チラチラとタトゥーが見えてる逞しい腕も、俺の事ちぃちゃんって呼ぶ低い声も、全部好き。

「俺も、あ、あい、愛してます、よ。愛永さん。」

しっかりと渡邊さんの………愛永さんの顔を見て告げる。
それは依存だと、きっと世間は言うだろう。
そんなものは恋でも愛でもないのだと。
けれども俺はこれ以上の恋も愛も知らないし、きっと愛永さんだってそうだ。
だから俺らの世界の中で価値観の一致したこの感情は、確かに恋であり愛なんだ。

「ちぃちゃん。」
「はい」
「今晩一緒にお風呂入ろう。」

ガッシリと俺の両手を握りしめながら、めちゃくちゃ真剣な顔でそう言うものだから思わず笑ってしまう。
こういう時はプロポーズじゃないの?と思うし、でもそんな所が愛永さんらしいと思ってしまう。
天然さんな所もある愛永さんだから、もしかしたらこれがプロポーズの言葉なのかもしれない。

「人参のグラッセ、ちゃん、と、と全部食べたらね。」

だから俺は、いつもの言葉を返す事にした。
ハンバーグの日に必ず現れる、付け合せのグラッセ。
うぇぇぇと嘆きながらしょぼくれる愛永さんのお皿に、いつものように乗せるのだ。
いつもと違う、一個だけの人参のグラッセを。
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