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ナチオルド子爵令息の華麗なる転落④
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―――オズワルド・モリスは、滅多に動揺しない。
貴族社会程ではないが、市長という立場も権力である以上油断が出来ない。
ほんの一瞬の感情のブレで、足元をすくわれることだってあるのだ。
かといって貴族のように感情を隠していては市民からの支持は得ない。
だからこそオズワルドは普段はにこやかに、それでいて冷静に振る舞っていた。
「ジェ、ジェームズ様!?」
………のだが、流石にこれは驚いた。
典型的な貴族の坊ちゃんと思っていた親族が、たまたま用事があって立ち寄ったギルドに居たのだから。
しかもこの坊ちゃん、大暴走を起こして両親や王都騎士団から内々で捜索されている筈だ。
「あ。オズワルド、兄、さま」
「うわっ。えっらい懐かしい呼び方を………一体どうしてこんな所に………」
「どうしてって………」
珍しく慌てるオズワルドととは対照的に、ジェームズの態度はひどくあっさりとしたものだった。
もう長い年数会ってないオズワルドだったが、それでも分かる。
様子がおかしい。
幼い子供が拗ねて涙を耐えているようにも見えて、オズワルドは取り敢えずギルドマスターに頼んで一室借りることにした。
従者のマイケルが怪訝な顔をしたが、多少話す時間はあるだろう。
オズワルドはそう判断して、ジェームズの背に手を添えてエスコートをした。
昔はいつも、そうしていたから。
そうして入った一室で事情を詳しく聞けば、思わず頭を抱えたくなるような内容だった。
どうしてこの子はこう、後ろ向きに思い切りが良いのだ。
昔からどうにも、自分は何にも出来ない奴なんだという考えが抜けない。
脳みそと心の深い場所に突き刺さって、抜けないのだろう。
「一応伝えておきますけどね、勘当はされてません。貴方のご家族や騎士団の方々は必死に探してますよ。」
「………何で。」
「なんでも何もないでしょう。心配なんですよ。」
可愛がられていた。
たとえそれが望むモノではなかったとしても。
こうして行方を晦ませばすぐに捜索してしまう程には。
………まぁ、正直な話、急展開過ぎて自死するんじゃないかと思われているのだとは思う。
「何がしたいのかが、分からない。」
ポツリと、ジェームズはそう言った。
その瞳は迷子の子供のような表情で、オズワルドは思わず手を伸ばした。
ジェームズは叱られると思ったのかびくりと身を竦ませるものだから、本当に不器用で、いつまで経っても大きくならない子供だとオズワルドは思った。
筋肉がつきにくく、騎士だったというのに華奢な身体をしているからますます子供のように思えてしまうのかもしれない。
幼い頃、嗚咽を堪えて静かに泣いていた姿と重なり、たまらない気持ちでオズワルドはジェームズの隣に座ると強く抱きしめた。
「………貴方がウィルにしたことを、私は知ってます。あの子は、私が管轄する村の子供なので。」
「うん。」
「ウィルがどう思っているかは分かりませんが、そこに関しては私は許しません。怒ってます。」
「………うん。」
「ですが、そんな風に追い詰められるまで貴方を放置していた自分自身にも、怒ってます。」
平民だから貴族だからと、先に距離を取ったのはオズワルドの方だ。
ジェームズはオズワルドが褒めてくれたあの日から、オズワルドは味方かもしれないと思っていたからそれはそれでショックだった。
忘れようとしてしまう程に悲しかった。
でも馬車の中でふと思い出してしまう程には、オズワルドの存在は大きかった。
「ずっと頑張ってたんですよね。やり方は間違えてしまってますが、それでも、今日までよく頑張りました。」
頭を撫でながらオズワルドがそう言えば、ジェームズはひっと小さくしゃくりあげた。
ぎゅうと、オズワルドの背に腕を回しシャツを強く握るジェームズは、それでも唇を噛み締めた。
はくはくと苦しそうな呼吸をするけども、慟哭はしない。
嗚咽もあげない。
なんて不器用で切ない、救助要請だろうか。
「一度休憩しましょう。もう一度頑張っても良いし、ずっと休んでいても良い。」
甘やかしていると言われても、構わない。
だって昔から、この不器用な生き物が可愛くて仕方ないのだから。
貴族社会程ではないが、市長という立場も権力である以上油断が出来ない。
ほんの一瞬の感情のブレで、足元をすくわれることだってあるのだ。
かといって貴族のように感情を隠していては市民からの支持は得ない。
だからこそオズワルドは普段はにこやかに、それでいて冷静に振る舞っていた。
「ジェ、ジェームズ様!?」
………のだが、流石にこれは驚いた。
典型的な貴族の坊ちゃんと思っていた親族が、たまたま用事があって立ち寄ったギルドに居たのだから。
しかもこの坊ちゃん、大暴走を起こして両親や王都騎士団から内々で捜索されている筈だ。
「あ。オズワルド、兄、さま」
「うわっ。えっらい懐かしい呼び方を………一体どうしてこんな所に………」
「どうしてって………」
珍しく慌てるオズワルドととは対照的に、ジェームズの態度はひどくあっさりとしたものだった。
もう長い年数会ってないオズワルドだったが、それでも分かる。
様子がおかしい。
幼い子供が拗ねて涙を耐えているようにも見えて、オズワルドは取り敢えずギルドマスターに頼んで一室借りることにした。
従者のマイケルが怪訝な顔をしたが、多少話す時間はあるだろう。
オズワルドはそう判断して、ジェームズの背に手を添えてエスコートをした。
昔はいつも、そうしていたから。
そうして入った一室で事情を詳しく聞けば、思わず頭を抱えたくなるような内容だった。
どうしてこの子はこう、後ろ向きに思い切りが良いのだ。
昔からどうにも、自分は何にも出来ない奴なんだという考えが抜けない。
脳みそと心の深い場所に突き刺さって、抜けないのだろう。
「一応伝えておきますけどね、勘当はされてません。貴方のご家族や騎士団の方々は必死に探してますよ。」
「………何で。」
「なんでも何もないでしょう。心配なんですよ。」
可愛がられていた。
たとえそれが望むモノではなかったとしても。
こうして行方を晦ませばすぐに捜索してしまう程には。
………まぁ、正直な話、急展開過ぎて自死するんじゃないかと思われているのだとは思う。
「何がしたいのかが、分からない。」
ポツリと、ジェームズはそう言った。
その瞳は迷子の子供のような表情で、オズワルドは思わず手を伸ばした。
ジェームズは叱られると思ったのかびくりと身を竦ませるものだから、本当に不器用で、いつまで経っても大きくならない子供だとオズワルドは思った。
筋肉がつきにくく、騎士だったというのに華奢な身体をしているからますます子供のように思えてしまうのかもしれない。
幼い頃、嗚咽を堪えて静かに泣いていた姿と重なり、たまらない気持ちでオズワルドはジェームズの隣に座ると強く抱きしめた。
「………貴方がウィルにしたことを、私は知ってます。あの子は、私が管轄する村の子供なので。」
「うん。」
「ウィルがどう思っているかは分かりませんが、そこに関しては私は許しません。怒ってます。」
「………うん。」
「ですが、そんな風に追い詰められるまで貴方を放置していた自分自身にも、怒ってます。」
平民だから貴族だからと、先に距離を取ったのはオズワルドの方だ。
ジェームズはオズワルドが褒めてくれたあの日から、オズワルドは味方かもしれないと思っていたからそれはそれでショックだった。
忘れようとしてしまう程に悲しかった。
でも馬車の中でふと思い出してしまう程には、オズワルドの存在は大きかった。
「ずっと頑張ってたんですよね。やり方は間違えてしまってますが、それでも、今日までよく頑張りました。」
頭を撫でながらオズワルドがそう言えば、ジェームズはひっと小さくしゃくりあげた。
ぎゅうと、オズワルドの背に腕を回しシャツを強く握るジェームズは、それでも唇を噛み締めた。
はくはくと苦しそうな呼吸をするけども、慟哭はしない。
嗚咽もあげない。
なんて不器用で切ない、救助要請だろうか。
「一度休憩しましょう。もう一度頑張っても良いし、ずっと休んでいても良い。」
甘やかしていると言われても、構わない。
だって昔から、この不器用な生き物が可愛くて仕方ないのだから。
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