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ナチオルド子爵令息の華麗なる転落③
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騎士団の退団。
妻との離縁と財産の譲渡。
大きな動きを始めたし、なんならこのまま家を出ようと思ったジェームズは、そのままの勢いで両親に話をしにいった。
当然、驚愕を通り越して怒られたけれども、不思議と気持ちは凪いでいた。
「勘当してください。俺はもう戻りません。」
だからだろうか。
退団した時以上に自然と、その言葉が出て来た。
可愛がられていたのは、十分すぎる程分かっている。
でももう駄目だ。
ジェームズは本当に欲しかったモノが、見えてしまったのだから。
「今、この瞬間。ジェームズ・ナチオルドは死にました。」
頭を下げて、ジェームズはそう言った。
そして困惑している父と泣き崩れる母の呼びかける声を背中で聞きながら、ジェームズはさっさと子爵邸を去った。
後悔なんて、何も無かった。
両親を捨てた訳ではない。
ただ、これも一つ、両親の幸せを願ってのことだった。
優秀な子供だけ、居れば良いだろう。
結婚生活も上手くいかない、子宝にも恵まれない、才能もない、問題ばかり起こす。
そんな子供は、要らない筈だ。
行く当てなんてどこにもない。
ただ適当に寄った停留所で、適当な乗合馬車に乗る。
終着の停留所がどこかなんて分からない。
騎士見習い時代に着ていたボロの服一着と、必要最低限の荷物だけ持って窓際の隅の席に座った。
ぐんぐんと変わる景色をぼんやりと眺めながら、ジェームズは考える。
認めて欲しかった。
犬猫のように可愛がって欲しかった訳じゃない。
ただ、自分の頑張りを見て欲しかった。
結果が伴ってないじゃないかと言われればその通りだけど、でも、やろうとしていたことは見て欲しかった。
がんばれという言葉が辛かった。
期待しているという言葉が嫌いだった。
まだ頑張らないといけないのか。
これだけ頑張ってるのに、まだ期待に応えられないのか。
そう思うとなんだか出口の見えない迷路の中に閉じ込められたみたいで苦しかった。
『頑張りましたね、ジェームズ様。もう少し、やってみますか?』
ふと、ジェームズは幼い頃よく遊んでいた遠縁の子供を思い出した。
兄と同じ年だというその子供は平民だけど頭も良く剣術も優れていて、最初の頃はジェームズはあまり好きじゃなかった。
監視のつもりなのか何なのか、兄達じゃなくてジェームズにばかり絡んできたから。
でもある日、その子供は剣術の稽古をしていたジェームズに目線を合わせるとそう言ってくれたのだ。
兄のようにうまくいかなかったのに。
馬鹿にするなと思ってジェームズが半ば叫ぶようにそう言ったのに、その子供は平然と言ったのだ。
『ジェームズ様はジェームズ様でしょう?やれること、得意なことも人それぞれなんです。私にはジェームズ様ほどの手先の器用さはないですもん。』
出来る人が出来ることをやるのが一番ですよと、そう言って頭を撫でてくれた。
子供扱いするなと振り払いたかったけど、ジェームズはぐずぐずと泣いてしまうだけに終わった。
嬉しかったのだ。
嗚咽が漏れないように我慢しながらも涙を流すジェームズを、彼は優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。
『一旦、休憩しましょうか。落ち着いたら続けても良いし、止めても良い。頑張ったんだから、休んで良いんですよ。』
ぼんやりと、あの温かさを思い出す。
あの人は、自分を覚えているだろうか。
あの日のように頑張ったねと認めてくれるだろうか、抱き締めてくれるだろうか。
そうは思うけれど、そんな訳ないなと自嘲する。
子供だったから、得ることが出来た温もりだ。
妻との離縁と財産の譲渡。
大きな動きを始めたし、なんならこのまま家を出ようと思ったジェームズは、そのままの勢いで両親に話をしにいった。
当然、驚愕を通り越して怒られたけれども、不思議と気持ちは凪いでいた。
「勘当してください。俺はもう戻りません。」
だからだろうか。
退団した時以上に自然と、その言葉が出て来た。
可愛がられていたのは、十分すぎる程分かっている。
でももう駄目だ。
ジェームズは本当に欲しかったモノが、見えてしまったのだから。
「今、この瞬間。ジェームズ・ナチオルドは死にました。」
頭を下げて、ジェームズはそう言った。
そして困惑している父と泣き崩れる母の呼びかける声を背中で聞きながら、ジェームズはさっさと子爵邸を去った。
後悔なんて、何も無かった。
両親を捨てた訳ではない。
ただ、これも一つ、両親の幸せを願ってのことだった。
優秀な子供だけ、居れば良いだろう。
結婚生活も上手くいかない、子宝にも恵まれない、才能もない、問題ばかり起こす。
そんな子供は、要らない筈だ。
行く当てなんてどこにもない。
ただ適当に寄った停留所で、適当な乗合馬車に乗る。
終着の停留所がどこかなんて分からない。
騎士見習い時代に着ていたボロの服一着と、必要最低限の荷物だけ持って窓際の隅の席に座った。
ぐんぐんと変わる景色をぼんやりと眺めながら、ジェームズは考える。
認めて欲しかった。
犬猫のように可愛がって欲しかった訳じゃない。
ただ、自分の頑張りを見て欲しかった。
結果が伴ってないじゃないかと言われればその通りだけど、でも、やろうとしていたことは見て欲しかった。
がんばれという言葉が辛かった。
期待しているという言葉が嫌いだった。
まだ頑張らないといけないのか。
これだけ頑張ってるのに、まだ期待に応えられないのか。
そう思うとなんだか出口の見えない迷路の中に閉じ込められたみたいで苦しかった。
『頑張りましたね、ジェームズ様。もう少し、やってみますか?』
ふと、ジェームズは幼い頃よく遊んでいた遠縁の子供を思い出した。
兄と同じ年だというその子供は平民だけど頭も良く剣術も優れていて、最初の頃はジェームズはあまり好きじゃなかった。
監視のつもりなのか何なのか、兄達じゃなくてジェームズにばかり絡んできたから。
でもある日、その子供は剣術の稽古をしていたジェームズに目線を合わせるとそう言ってくれたのだ。
兄のようにうまくいかなかったのに。
馬鹿にするなと思ってジェームズが半ば叫ぶようにそう言ったのに、その子供は平然と言ったのだ。
『ジェームズ様はジェームズ様でしょう?やれること、得意なことも人それぞれなんです。私にはジェームズ様ほどの手先の器用さはないですもん。』
出来る人が出来ることをやるのが一番ですよと、そう言って頭を撫でてくれた。
子供扱いするなと振り払いたかったけど、ジェームズはぐずぐずと泣いてしまうだけに終わった。
嬉しかったのだ。
嗚咽が漏れないように我慢しながらも涙を流すジェームズを、彼は優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。
『一旦、休憩しましょうか。落ち着いたら続けても良いし、止めても良い。頑張ったんだから、休んで良いんですよ。』
ぼんやりと、あの温かさを思い出す。
あの人は、自分を覚えているだろうか。
あの日のように頑張ったねと認めてくれるだろうか、抱き締めてくれるだろうか。
そうは思うけれど、そんな訳ないなと自嘲する。
子供だったから、得ることが出来た温もりだ。
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