スライム牧場番外編

かかし

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ナチオルド子爵令息の華麗なる転落②

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「そういう訳だから。」
「え?ええ?お、お待ち下さい!」

なんだかんだ定時まで居させられ、仕方ないので素直に居るついでに退団届を出して帰ったジェームズ。
少しだけ寄り道をして、屋敷に着いて開口一番に経緯を淡々と話してから困惑する妻を放置して部屋へと戻った。
やりたいことという訳ではないが、やろうと思うことは出来た。
それに付随してやるべきことが出来たので、ジェームズは忙しい。
退職金だけはありがたく全額持って行くにしても、それ以外の資産は全て妻名義にしなくてはいけない。
もしも子供ができたらと未練がましく貯めていた今の貯金も、妻にあげよう。
きっと2人はすぐに結婚するだろうから、金は必要だろう。
珍しく善意100%。
空回ってる感は、否めないけれど。

「ジェームズ様、私は………!」
「ああ、丁度良かった。サインを。」

寄り道して集めてたった今書き上げた書類を、ジェームズは妻に渡す。
離縁の届け出から始まる、数々の書類。
唖然とする妻に、ジェームズはフッと笑った。
いつもの小馬鹿にしたような笑みではない。
多分、ナチオルド子爵ですら見たことないだろう、柔らかな微笑みだった。

「これが俺に出来る、最大限の謝罪と祝福だ。」

―――もしも。もしも、この笑顔を早く見れていたら。
妻は一瞬だけそう思い、そっと目を伏せた。
思ったところで、詮無きことだ。
だって、見ただけで分かるのだ。
この笑顔を出来ない理由は、今日の今日まで悲劇のヒロインぶっていた自分にもあるのだと。

「………ありがとう、ございます………」

だから彼女は震える声でそう言うと、書類の束を受け取った。
それはもう、彼女がサインをすればいつでも提出出来る状態だった。
皺がつかないように大切に持ちながら、考える。
正直な話、自分はずっと被害者だと思っていた。
けれども自分は、加害者でもあるのかもしれない。
だって、知っていたのだ。
彼も彼なりに、幸せな家庭というものに憧れていたことを。
己を優先してその憧れを壊してしまったのは、自分だ。
いくら彼の言動に傷付いたとはいえ、彼だって自分の言動に傷付いていた。
お互いが加害者で、お互いが被害者だった。

「貴方様が今後歩まれる路の先にも、幸せが訪れますように。」

ジェームズが謝罪を言葉にしなかったので、妻も謝罪を言葉にはしなかった。
けれども最後の最後で幸せを願ってくれたジェームズに倣って、ジェームズ自身の幸せを祈った。
言葉だけではあるけれど、それが彼女に出来る、精一杯の誠意だった。
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