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序章
第肆話 ― 存在する条理 ―
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そして私は、スクルドから渡された黒い鞄を肩から斜めに掛けながら、祭壇の上に蠢く靄を見据えた。
(急がないと!)
今度は躊躇いも無く、グッと靄に顔を入れると、そこはさっき見たあの景色だった。
踏切があり、音も無く、誰も居ない世界。
(違う!)
さっきとは違い、あのセピア色の世界だ。
しかも、線路脇に人が歩いているではないか。
その人だけはセピア色では無く、普通に見えるから逆に違和感がある。
(あの人か!)
咄嗟に私は身を乗り出し、靄の中へ入り込んだ。
そして辺りを見回す。
あの人の他に動くものは何も無い様だ。
(若い男の人か?)
よく見ると高校生位の様だ。
この子が死んでしまったという事だろうか。
(何という事だ……こんなに若いのに)
どうして死んでしまったのか分からないが、何とも言えない切なさが込み上げてくる。
「おい、君!」
そんな事を思いながら声をかけた為か、思わず怒鳴ってしまっていた。
勿論、その男の子に怒りなどあるはずもない。
その子の運命に納得がいかないのだ。
「うわっ!」
その男の子は驚いた様子で、ハッとこちらを振り返った。
目が合うと、やはり高校生位の男の子だ。
ふと自分の息子が高校生の頃を思い出していた。
(あ……圭吾に似てる?)
息子の事を思い出したからなのか、その子が自分自身の子供の頃にも似ている様にも思えた。
しかし、この子は死んでしまったというのか。
何があったのか分からないが、こんな若さで死んではいけない。
そう思うと、怒りにも似たどうしようもない感情が、更にグッと込み上げ胸が熱くなる。
「君、どうしたのっ!」
「え? あ、すみません!」
また口調が強くなってしまった。
そしてその問いに、反射的にその子は謝って来た。
この子が私に謝る事など無い。
死んでしまったのは、全て運命だったのかもしれない。
しかし、私はまだこの運命には納得できないでいた。
「いや、どうしたんだって、聞いてるんだよっ!」
いけない。
まだその運命に納得のいかない思いのまま、その子に向かって強い口調で聞いてしまった。
その声も息子の声とそっくりに聞こえた。
高校生位だとはいえ、まだ子供だと言うのに、この子は死んでしまったのだろうか。
「はい! すぐ出ます! ごめんなさい!」
(え? 出るって? ここからこの子は出られると言うのか?)
その声が少し圭吾に似ている様に感じたが、その返答に思わず呆気にとられてしまった。
この子は無音のセピア色のこの世界から、自力で帰られると言うのか。
既に男の子は線路脇から、道路のある方へ歩いて行こうとしている。
ここで見失う訳には行けない。
死んでしまってここに居る訳じゃ無いって事なのか⁉
尋ねたい事があるのだ。
どの様にして彼はここへ来たのか。
そして、どの様にして彼は帰ろうとしているのか。
私は慌てて引き留めようと声を掛ける。
「そうじゃないよ! どうやってここへ来たんだって聞いてるんだよっ!」
すると、その子は立ち止まり、観念したように答えた。
「すみません、駅のホームから飛び降りました」
(え……?)
やはり声が圭吾にそっくりだった。
しかし、この子は何を言ってるんだろう。
ここには誰も居ないのに、駅のホームから飛び降りたという。
(飛び込み自殺⁉)
それにしては何処も怪我をしていない。
やっぱり死んでしまっているのか?
同時に頭のどこかで、この状況が過去にもあったかのような気持ちにもなって来た。
これがデジャブと言うものなのか、本当に過去の自分の経験として思えて来ていた。
≪おっちゃーん! 分かるかー? それがあっちの子や! 遭難者って奴や! あの機械の出番やでー! ≫
(え? 遭難者?)
急にスクルドの声が聞こえた。
だが、耳に聞こえた訳ではない様だ。
頭の中に直接聞こえて来た様な感じだった。
だが、そうか、これがここに居たかの様なってことか。
「あ――そうだったのか、あっちの子か。そりゃすまなかったね」
男の子を刺激しない様にそう言うと、手探りで鞄の中のあの機械を探す。
(よし、これだ)
≪ちゃーんと出っ張り戻して、狙い定めてポチッっとな、やでー? ≫
また頭の中に直接スクルドの声が響いたが、何となく緊張感が薄らぐのを感じた。
スクルドは時々、懐かしく感じる事を言う。
こんな時なのにそんな事を思うなんてと、つい苦笑いになってしまった。
「君、大丈夫だからこっちきなさい」
私は出来る限り優しく声を掛けた。
そろそろとその男の子は近付いてくる。
(このつまみを回して、近づいたらこのスイッチだな)
≪ちゃーんと狙いを定めなあかんよー? ≫
スクルドのその声に、若干緊張しながら機械を構えると、ジッと男の子に狙いを定める。
男の子が近づいて来る度に、その子が本当に息子じゃないかと思えた。
それほどまでにそっくりだったのだ。
(圭吾……)
そして、男の子が三メートル程の所まで来た時だった。
≪あっ! つまみ戻し過ぎてへんか⁉ ≫
(あっ!)
突然、頭の中に響いて聴こえたスクルドの声に、私は思わず反射的に機械のスイッチを押してしまった。
その瞬間、目の前の男の子はフッと音も無く消えてしまった。
私は目の前が真っ白になった。
いや、実際には目の前の世界はセピア色なのだが、大変な事をしてしまったと頭がパニックを起こしたのだ。
「あ、あ、スクルドさん! どうしましょう‼」
セピア色の無音の世界のその場所で、私はただただオロオロと天を見上げた。
≪あー押してもうた? まあ、しゃーないわな。これが因果って奴やろ戻ってええよー? ≫
戻るったって、どうしたらいいか分からず、まだただオロオロしていた。
≪鞄の中に棒があるやろー? ≫
(ぼ、棒?)
言われてみれば、先程鞄の中から機械を取り出す時に、それらしき棒状の物が手に触れていた。
「はい、ありましたが。あの、あの子大丈夫でしょうか?」
≪んー大丈夫やろ? まずは戻ってきいやー≫
「は、はい! ありました。これですね?」
私はセピア色の空を見上げ、その棒を高く上げた。
が、こちらからはスクルドは見えない。
≪そうやーそれや! それ振ってみー? ≫
(これを振る? こうかな?)
私はその棒を左右に振ってみた。
だがしかし、何も起こらない。
≪あかん、そーやない。もっと気持ちを込めてやね、こう! やで? ≫
(こう、やで?)
そう言われてもさっぱりわからない。
≪ま、ええわ。ちょっと待っとき≫
そう言われて棒を振るのを止めると、突然目の前に現れたスクルドに腕を掴まれた。
ピシッと頭に何か響いた感じに驚いて一瞬だけ目を瞑《つぶ》ったが、すぐにその目を開いた時には目の前にあの祭壇が見えた。
「おっちゃん、おつかれさんな~」
スクルドが靄の中を覗き込みながらそう言った。
しかし、酷い失敗をしたと思い、私は戸惑っていた。
「スクルドさん! あの子はどうなりましたかっ⁉」
心配で仕方なかった。
私のせいでとんでもないことになっていないか。
「あーそれやねんけどなー。実は厄介やねん」
「ど、どう厄介なのですか⁉」
「あいつが狭間におらん事には、うちらなーんも出来ひんねん」
靄から頭を出すと、スクルドはその頭を掻きながら言う。
「うちが出来るのは、次元の狭間に迷い込んだモノを整理するんや」
「あ、はい」
「姉ちゃん達なら探せるかも知れへんけど、今はおらんしな~」
「そうなんですか……」
「これ見る限りじゃ、少し戻しすぎたようやわ~」
私の使った機械を見ながら、スクルドは困った表情をしている。
「戻しすぎた? どういう事でしょう」
「えとな~? あの子の世界よりも、少し前の世界へ行ってもーたんや」
私はその答えを理解するのには、少し時間が掛かった。
「過去へ行ってしまったと言う事ですか?」
「そうや~? せやなーあそこの世界で五十年くらいやろか」
「五、五十年も⁉」
「やってもーたー! やろ?」
五十年と聞かされてようやく事の重大さに気付いた。
やはり大変な事をしてしまっていたのだ。
ぶわっと嫌な汗が全身に噴き出るのを感じた。
「ど、どうしましょう! 私のせいで大変な事に!」
こういう場合、一体どうなるんだろう。
あの子の生まれる前に違いない。
しかも、五十年前となれば、あの子の両親でさえ生まれて居ないかもしれない。
いや、例え両親が生まれていたとしても問題はそこではない。
あの子が生まれる前の世界に、あの子が存在してしまっている。
もう、ややこしくなってしまった。
「ス、スクルドさん! ど、どうしましょう⁉」
私は、すがる様にスクルドに問いかけるしかなかった。
「ん~よっしゃ! 先輩に任せとき! 何とかしてやるさかい」
そう言うと、スクルドは笑顔でこちらを見る。
今は、その笑顔にとても救われる思いだった。
心の底からスクルドを頼れる存在だと、改めて感じた瞬間だった。
「まあ、こうなったのもうちの責任やしな」
そう言うと、スクルドは手に扇子の様な物を持った。
そして、それをバッと開くとパタパタ仰ぎだした。
「スクルドさん、それは?」
「これかー? これ、知らへんの?」
「は、はい!」
「扇子ちゅーもんやで? なーんも知らんのやね」
スクルドが呆れ顔でこちらを見る。
いや、扇子は知ってるが、何かをする道具に違いない筈だ。
スクルドがパタパタと扇子を仰いでいるのを、これから何をするのだろうと期待して見ていた。
だが、暫く見ていたが特に変化はない。
「あ、あの……スクルドさん?」
「ん? 何やの?」
「何かするのでは?」
「今は待つんや……」
「え……?」
てっきりスクルドの手にした扇子が、何かをする道具かと信じ込んでいた私は、呆気にとられて彼女を見てしまった。
ただ扇子で仰いでいるだけだったのだ。
『ジリリリリリリ――』
急にけたたましく、あの音が辺りに響き渡った。
「おっ! 歪《ひずみ》や!」
「わっ!」
「あ、あれは……あいつや!」
「え?」
ベルの音と共に、靄を覗き込んだスクルドが声を上げるが、一体何を見たんだろうか。
スクルドには珍しく、かなり興奮している様に感じた。
「どうかしたのですか?」
「あれは漂泊者や!」
「漂泊者?」
「見てみ! えらい珍しいんやで!」
私もスクルドの横から、蠢く靄に顔を突っ込んだ。
「あっ!」
真っ先に私の目にとまったのは、ピンク色をした髪の毛の少女だった。
周りはセピア色の世界ではあっても、その彼女の髪だけはビビッドなピンク色をしていたのだ。
そして、さっきあの高校生がいた場所とは全くの別世界だった。
やはり随分と過去の様だ。
(あのピンクの髪……)
どこかであのピンク色の髪を、前に見た事があるように思えた。
随分と昔だと思う。
「あのピンク色の髪の毛をした女の子……」
「ああ、あれが漂泊者や! 滅多にみられへんで? 伝説にも成っとる位やしな!」
興奮気味にスクルドが言うと、下に見えるピンク髪の少女がこちらを、ふと見上げた様に見えた。
「やばい、あいつ行ってまうやん! 話あんねんけどな……」
「あっ……」
スクルドが身を乗り出した時、ピンク髪の少女はこちらを見上げたまま、フッと消えてしまった。
「あちゃー間に合わへんかったかー」
「消えちゃいましたね……」
「まあ、しゃーなしやな。あ、まてよ? あいつが歪を作ってくれたんやろか……」
ピンク髪の少女が消えたセピア色の世界に、少年だけがただ一人ふらふらと歩いていた。
「あ、この事は、ルーナには内緒やで? ここで待っとき、ええな?」
そう言うか否や、スクルドはそのままその世界へ飛び入ってしまった。
「あ、スクルドさん!」
咄嗟に彼女を呼んだが既に姿は見えない。
責任を感じていた私は意を決して靄に入り込む。
するとやはりそこは見渡す限りセピア色になっていた。
そして目の前にあの子が倒れているが、他に人影は見当たらない。
「あちゃ、こいつ、もう寝とるわ! あ、何やおっちゃん、ついて来たんか?」
「すみません! 私の責任ですしっ!」
スクルドはきょとんとした目で私を見たが、すぐに笑顔になった。
「ほな、ちょっと離れといてや~」
「は、はい!」
そう言うとスクルドは、何やらぶつぶつ言いながら扇子を大きく仰ぎだした。
と、同時にキリキリと頭の中に音が響く。
そして目の前の全ての景色が、セピア色のままぐるぐると流れている。
それはまるでこの世界全体が、ビデオ画像として早送りされているかの様に感じた。
(あの扇子だ! こんな事が出来るのか!)
「よっしゃ、この辺りやな。あ、何か変な感じするわ……待てよ? だったら絶対こっちがええやん! あーだけど、爺さんにまた小言いわれるやんな。ま、やってもうたらこっちのもんや」
そんな事をブツブツと言いながら、スクルドは扇子をパタパタ仰ぐ。
流れるセピア色の景色がゆっくり止まる。
「よっしゃ、ここや! 後はこうやってこうや!」
ピタッと扇子を止めると、パシャっと閉じた。
「さて、おっちゃん帰ろか~?」
「え?」
そう言って私の手を掴むと、ピシッと頭に響いたと同時に、急にクラっと軽い眩暈《めまい》がした。
気付くと私は祭壇の前に立っている。
スクルドは扇子でパタパタと自分を仰いでいた。
「ええかー? くれぐれもルーナには内緒やで? お……ルーナにはゆーな! これええやん!」
「え?」
私にはスクルドが何を言っているのかは、この時はまだ理解出来なかった。
「ああー。ユーナってお目付け役がルーナにおんねん。だから、ルーナにユーナ!」
「は、はあ……」
「何や! リアクション薄っ!」
「す、すみません!」
「まあ、兎に角ええな⁉」
「あ、はい!」
私は目の前で何が起きているのか、そしてスクルドが何をしたのかも、何のリアクションが薄かったのかも分からないまま、その時はただただ何度も頷いた。
♢
「さてと、おっちゃん。鞄はそこへ入れといてな?」
スクルドが指を指した方には、何やら見慣れたロッカーがある。
会社の更衣室などでよく見る普通のロッカーだ。
「あ、はい」
私は斜めに掛けた鞄を首から外すと、ガチャっとロッカーを開け、その中へ入れた。
まるで会社のロッカーへ荷物を入れている様な、そんな感覚を思い出していた。
「おっちゃん、これ見てみ~?」
さっきとは違った祭壇が少し離れた所にあり、スクルドはその靄の中へ顔を突っ込んでいる。
私も顔を入れてみると、あの男の子が電車内で立っていた。
セピア色の世界ではない。
どうやら無事に帰ったらしい。
「あ、あの子……戻れたんですね!」
その二人を見ながら、自分の若い頃を思い出した。
悠子と最初に出会ったのも電車の中だった。
揺れる電車にふらついた悠子が、自分にぶつかって来たのが最初の出会いだった。
そんな事を思い出していた。
「うち、狭間に迷い込む一年前に戻してもーた、いひひ」
そう言って、スクルドは楽しそうに笑っている。
「え? 一年前?」
「こんなん、爺さん達にばれたら、そらえらいこっちゃやでー?」
とか言いながらも、スクルドのその表情はニヤニヤと嬉しそうに見える。
(お爺さんが居るのか? しかも、爺さん達って……お婆さんも居るのか?)
どうしてスクルドが一年前に戻したのかは、この時の私には分からなかった。
ただ、一年前と言う言葉だけが何故か何か引っかかっていた。
「しかし、ルーナとユーナが二人揃って留守ちゅーことは、絶対にルーナが無理言って留守にしとるんやで。で、ユーナが付き添って行ったちゅー訳や」
腕組みをしたスクルドが難し気な表情で言う。
「そうなんですか?」
「そうや~? ユーナは爺さん達からルーナの監視を命じられてるんやで。インスペクターや」
「いんすぺくたー?」
「そうや? 監視員や。あ、さっきうちが、ルーナにユーナちゅーたやろ? あれ、ホンマ上手い事言うたと思わへん⁉」
「え? え、ええ」
そう言えば、バタバタした状況でスクルドが言っていた気もする。
「実は、ああ見えてルーナはホンマ、危ない奴なんやで?」
「え? 危ない?」
あの神々しく女神様の様な人が、危ない奴とはとても理解出来ない。
どう考えてもスクルドの方が、大雑把で怪しく思える。
「いや、ホンマに。天然ちゅーか、アホ、ちゅーか」
天然と言うワードが出て来た事で、自分が少し勘違いをしている事を感じ始めた。
「あ、危なっかしいと言う事ですか?」
「そうやでー? 何しでかすか、全く想像つかへんねん」
そう言って、スクルドは訝《いぶか》し気な表情をしているが、私にしてみれば、これまでの彼女の行動の方が、想像も出来ない事ばかりであった。
スクルドに自分は死んでいると言われた。
だが、こうして呼吸もしているし、生きているとしか思えない。
「あの、スクルドさん。ここは一体何処なんでしょうか?」
「え? ここかー? 何処って、ノルンの神殿やゆーたやろ?」
「そ、そうですけど」
「おっちゃんこそ、これまで何処におったんやー?」
スクルドは何処から出したのか、何やら裂きイカの様な物を口に運び、その歯で噛み千切ると、私の返答を待っている様だ。
だが私は、スクルドの口にしたものが気になり、思わず訊いてしまった。
「あの、スクルドさん、それ……何食べてるんですか?」
「あ、これか? チータラやで? あ、食うか~?」
(え? チータラって、あのチーズ鱈?)
スクルドは何気なく手にしていたそれを、スッと私に差し出して来た。
それをまじまじと見つめる。
裂きイカに見えていたのは、これだったのか。
「何や、見た事あらへんの? 案外うまいで~? 食うてみ!」
「あ、はい……」
手にしてみると、自分の良く知っているチーズ鱈だった。
どうしてこんなものがここにあるのか疑問に思う。
「あ、スクルドさん、これどうしたんですかっ⁉」
「何や自分、えらい興奮してからに」
「い、いえ、向こうの世界にもこれがあったんですよ!」
「まあ、そんなに珍しいものちゃうしな~何処にでもあるんちゃうん?」
「え……えーっ⁉」
「何や、そんな驚く事かいな。けったいなやっちゃな~」
「そ、そういうものですか?」
「そらそーや、どこぞのゴルファーの姉ちゃんも好きやいっとったで?」
「ご、ゴルファー⁉ 姉ちゃん⁉」
やはりこの子は何言ってるか理解に苦しむ。
「それよりも、おっちゃんは何処に居たんやって聞いてんねや!」
「あ、そうでした! 私は、家で息子達と一緒に寝ていたのですが、気づいたらあそこに、セピア色の世界に居ました! 私は死んだのですよね⁉」
「ああーそうやったな。あそこは次元の狭間やで? いつまでもおったらあかんとこや」
「次元の? 狭間……ですか?」
「そうや。まあ、難しい事はうちにもわからへんねん。あはははー!」
そう言って、スクルドは大声で笑い出したが、すぐに真顔になりジッと私を見つめた。
「おっちゃん、気になるわな……残して来たその息子達っての」
「え、ええ」
「おっちゃんの子供ちゅー事やろ?」
「え、ええ」
「子供はん、一人で生きてけるんか?」
「あ、子供と言いましても、息子は三十《さんじゅう》で……」
「は⁉ 息子が三十も⁉」
「あ、いえいえ歳がですよ~そいつに最近子供も出来まして」
「えっ⁉ おっちゃんの子供の子供かいな!」
スクルドはびっくりした様子で食い付いて来た。
「しかし、さんじゅうって! 子供、多過ぎやろ! おっちゃん、スゲーな!」
「え? あ、三十《さんじゅう》は歳《とし》です!」
「とし? なんやねん、それ」
(え? 歳《とし》が分からないのか?)
「え? あの、スクルドさんは何歳《なんさい》ですか?」
「は? なんさい? んーその言葉わからんわ~」
「えと、スクルドさんはお幾つですか?」
「おいくつ? って、エリアか? あ、レベルはこう見えて結構上の方やで?」
(すっとぼけてるのか?)
暫く考えてしまったが、どうも歳の事が分からないらしい。
そう言えば、ここは地球上ではない筈だ。
それならば、一年の概念も当てはまらないという事でもある。
故に、何歳とかいう概念も変わって来る筈だ。
しかも、相手は年頃の娘さんだしここは話を変えよう。
「あの、スクルドさん。死んだら何処へ行くんですか?」
「は?」
スクルドは一瞬呆れ顔でこちらを見たが、私の真顔を見ると仕方ないと言う表情で答え始めた。
「はぁ~そんなん知らんわ! 死ぬって言っても色々あんねん」
「え、でも、私はあっちで死んだからこっちへ来たんでしょ?」
「いやいや、ちゃうねん。おっちゃんは、たまたまあっちから抜けて来ちゃった訳や。死んだから来たんちゃうで? そんなんやったら、ここ、死んだ奴で溢れてまうやんけ!」
「あ、そうか……」
「そやでー? おっちゃんの場合、かなり特異体質だったんやろな~」
「た、体質ですか?!」
(特異体質って……本当に、そう言う類であろうか)
「或いは……加護」
「加護?」
「んーあり得へんかな~」
自分には思い当たる節も無く、深く考え込んでしまう。
向こうの世界で死んだ私は、何らかのはずみでセピア色の世界、あの時空の狭間へ居たという事だ。
先に死んだ悠子はこっちには来ていない。
それはスクルドが知らないと言っていた。
では、どうして私だけがこっちへ来たのだろうか。
やっぱり、その理由など考えても分からなかった。
「ま、死んだら何処へ行くかとか、そんなん考えてもしゃーないやん」
「え、ええ……まあ、そうですよね」
「それよりも、残された人を考えとった方が、なんぼか良いんちゃうん?」
「あ……」
確かにそうだ。
生きている時はただ漠然と、死んだ悠子が居なくなった寂しさを感じていた。
死んだ悠子が何処へ行ったのか等、考えてもいなかったのかも知れない。
ましてや、自分が死んだら何処へ行くか等、考えても仕方の無い事だ。
それは、只々、『無』であろう。
だが今は、あっちで死んだと言われても、今はこうして生きている。
向こうの世界では自分は死んだ事になっていても、こっちで私は生きている訳だ。
そうなると、向こうに居る息子やその嫁と、孫も気になって仕方がない。
「おっちゃん、うちには偉そうな事わからへんけどな。おっちゃんが、今ここに居《お》るちゅー事が、大事なんとちゃうん?」
「今、ここにいる……」
私は何故此処に居るのか。
「エランドールに限らへん。世界は無限にあるんやで? ここにおっちゃんがおる。そこで、おっちゃんが何をするか、ちゅーこっちゃ」
「自分が何をするか……ですね」
「そうや! ま、今はこうして立派な時空管理局員やけどな!」
そうだったな。
私はスクルドに助けられ、ここで仕事を貰った。
言わばここで生きる目的を与えてくれた。
今はそれに応えたい。
「スクルドさん! 私、やります! 時空管理局!」
「お? な、何や自分、突然……」
「私に出来る事、何でもやりますから!」
「お、おう! 先ずはその無精髭、剃らへんか?」
「え? 髭?」
「後でうちの姉さん達紹介せなあかんやろ?」
「あ、そうですね……」
そう言われて自分の顎を触って見ると、口周りから頬にかけて少し伸びた髭が、ぷつぷつと手のひらに当たる。
(ああ、髭、伸びてるんだな……)
元々髭が濃い方では無かったが、二日に一回は電気シェーバーで剃っていた。
こっちでもそんな生活となるのだろうか。
「そしたら、おっちゃんの部屋も用意せなあかんな! ほな、こっちきいや」
「あ、はい!」
神殿の奥には幾つかの小部屋があり、その一つを私に貸してくれるらしい。
「ここなら祭壇にもすぐ行けるやろ?」
「ええ、そうですね! ありがとうございます」
「あっちの部屋には同僚がおんねんよ~」
「同僚ですか?」
「この神殿はうちの他に二人おってな、三人で交代勤務してんねや」
「そうでしたか!」
「ウルドとヴェルダンディ言うんやけど、二人とも一応うちの姉さんや」
「三人姉妹でしたか⁉」
「んー三姉妹ではあらへんよ?」
「へ?」
「他にも姉妹《きょうだい》ぎょうさんおるんやで? ま、この神殿は三人で受け持ってるけどな~しかも、うちが責任者や!」
そんな話をしている内に、少し記憶に引っかかるものがあった。
ウルドとヴェルダンディそして、スクルドというこの子と神殿の名前がノルン……。
何かの神話でそんな名前があったと思う。
「あの、スクルドさん! もしかして……女神様ですか?」
「は、はぁー? 女神様って、何やの! あっ……口説いてんの?」
スクルドは驚いた様な表情で私を見たが、すぐに照れた様な仕草をした。
それが今の子っぽくて可愛く見えてしまった。
「い、いえ、何だか神話に出てくる名前と同じだなーって……」
「お? 神話? そーなんや? おっちゃん、その神話っての聞かせてくれへんか?」
「あ、あんまり詳しくないんです、名前を知ってる程度で……」
「なんや、そうなんや……。でも、うちらの名前出てくるんやろ? 意外やわ~」
神話の詳しい内容は分からないが、確かに名前には覚えがあった。
そんな神話に出てくる彼女達と私が、この世界で同じ仕事をしていく事になろうとは、生きている時は全く予想もしていなかった。
それどころか、まだ自分が死んでいるとは到底思えなかった。
「あの、スクルドさん……」
「ほぇ? 何やの、しょぼんとしてー」
「私、どうして死んだのにここに居るんでしょうか?」
「あーおっちゃんの居た世界では死んでもうたねー」
「ええ……」
「あっちで何かあったん?」
スクルドが寂しげな表情で聞いてくれた。
だが、事故とか病気とかでは無く普通に生活をしていたつもりだ。
「あ、いえ、普通に寝て起きたらあそこに居ました」
「あそこ? あー歪ん中かー」
「ええ」
「せやな~おっちゃんがどうして歪に入り込んだのかは分からんけど、普通は死んでもあそこには行かれへんで?」
「そうなんですか?」
「そらそうやでっ⁉ さっきも言うたやん? これまでも死んだ人なんか幾らでもおるやん? その度にあそこに行かれたらうちらお手上げやんか」
彼女は呆れた表情でそう言った。
死んだら行く場所では無いという事は先程聞いてはいたが、死んでしまった人の数人が稀に行く場所という感覚ではあったのだ。
だが、それも彼女に否定されてしまった。
「そ、そうですよね……」
「せやろ~? 仮に死んだら行く世界があったとしてもあそこは別物や」
「死んだら行く世界……」
「そんな所があるとは思えないけどな~」
「そうなんですか?」
「分からへんけど、うちはそう思う」
「そうですか……」
死んだら行く世界。
例えば黄泉の世界というのがあると、これまでは漠然と思っていた。
だがスクルドは否定的だった。
「おっちゃんの世界では魂って言うやろ?」
「はい」
「その世界はあるで」
「そうなんですか⁉ 魂の世界ですか⁉」
「そらあるやろ、魂があんねんから」
「あ、はい……そうですよね」
魂の世界と黄泉の世界の違いがよく理解出来ない。
「まあ、一つ言えるのは、存在しているモノ全てに意味があるつー事やな」
「全てに意味がある……」
「そうや~? せやから何か意味あって、おっちゃんはここにおるちゅーこっちゃ」
「ここに居る意味……」
そうなると、さっきスクルドにやると自分から言った時空管理局の仕事。
それを全うするのが自分の存在意味にも思えて来た。
意味も無くセピア色の世界へ迷い込んだ訳では無いとスクルドに言われた。
迷い込んだその理由は分からないが、居るという事実を認識した今は迷う必要も無い筈だ。
「スクルドさんっ! 改めて宜しくお願いしますっ!」
「なっ、何やっ!」
「ここで一緒に働かせて下さい!」
「あー、うん。それはさっきやったくだりだよね?」
「ええっ! ですので、改めてよろしくお願いします!」
「あ、はい……何やの」
若干怯んだ様子を見せたスクルドだったが、手にしたチータラを口にするとフッと微笑んだ。
その横顔に少し女神の面影を見た気がした。
(急がないと!)
今度は躊躇いも無く、グッと靄に顔を入れると、そこはさっき見たあの景色だった。
踏切があり、音も無く、誰も居ない世界。
(違う!)
さっきとは違い、あのセピア色の世界だ。
しかも、線路脇に人が歩いているではないか。
その人だけはセピア色では無く、普通に見えるから逆に違和感がある。
(あの人か!)
咄嗟に私は身を乗り出し、靄の中へ入り込んだ。
そして辺りを見回す。
あの人の他に動くものは何も無い様だ。
(若い男の人か?)
よく見ると高校生位の様だ。
この子が死んでしまったという事だろうか。
(何という事だ……こんなに若いのに)
どうして死んでしまったのか分からないが、何とも言えない切なさが込み上げてくる。
「おい、君!」
そんな事を思いながら声をかけた為か、思わず怒鳴ってしまっていた。
勿論、その男の子に怒りなどあるはずもない。
その子の運命に納得がいかないのだ。
「うわっ!」
その男の子は驚いた様子で、ハッとこちらを振り返った。
目が合うと、やはり高校生位の男の子だ。
ふと自分の息子が高校生の頃を思い出していた。
(あ……圭吾に似てる?)
息子の事を思い出したからなのか、その子が自分自身の子供の頃にも似ている様にも思えた。
しかし、この子は死んでしまったというのか。
何があったのか分からないが、こんな若さで死んではいけない。
そう思うと、怒りにも似たどうしようもない感情が、更にグッと込み上げ胸が熱くなる。
「君、どうしたのっ!」
「え? あ、すみません!」
また口調が強くなってしまった。
そしてその問いに、反射的にその子は謝って来た。
この子が私に謝る事など無い。
死んでしまったのは、全て運命だったのかもしれない。
しかし、私はまだこの運命には納得できないでいた。
「いや、どうしたんだって、聞いてるんだよっ!」
いけない。
まだその運命に納得のいかない思いのまま、その子に向かって強い口調で聞いてしまった。
その声も息子の声とそっくりに聞こえた。
高校生位だとはいえ、まだ子供だと言うのに、この子は死んでしまったのだろうか。
「はい! すぐ出ます! ごめんなさい!」
(え? 出るって? ここからこの子は出られると言うのか?)
その声が少し圭吾に似ている様に感じたが、その返答に思わず呆気にとられてしまった。
この子は無音のセピア色のこの世界から、自力で帰られると言うのか。
既に男の子は線路脇から、道路のある方へ歩いて行こうとしている。
ここで見失う訳には行けない。
死んでしまってここに居る訳じゃ無いって事なのか⁉
尋ねたい事があるのだ。
どの様にして彼はここへ来たのか。
そして、どの様にして彼は帰ろうとしているのか。
私は慌てて引き留めようと声を掛ける。
「そうじゃないよ! どうやってここへ来たんだって聞いてるんだよっ!」
すると、その子は立ち止まり、観念したように答えた。
「すみません、駅のホームから飛び降りました」
(え……?)
やはり声が圭吾にそっくりだった。
しかし、この子は何を言ってるんだろう。
ここには誰も居ないのに、駅のホームから飛び降りたという。
(飛び込み自殺⁉)
それにしては何処も怪我をしていない。
やっぱり死んでしまっているのか?
同時に頭のどこかで、この状況が過去にもあったかのような気持ちにもなって来た。
これがデジャブと言うものなのか、本当に過去の自分の経験として思えて来ていた。
≪おっちゃーん! 分かるかー? それがあっちの子や! 遭難者って奴や! あの機械の出番やでー! ≫
(え? 遭難者?)
急にスクルドの声が聞こえた。
だが、耳に聞こえた訳ではない様だ。
頭の中に直接聞こえて来た様な感じだった。
だが、そうか、これがここに居たかの様なってことか。
「あ――そうだったのか、あっちの子か。そりゃすまなかったね」
男の子を刺激しない様にそう言うと、手探りで鞄の中のあの機械を探す。
(よし、これだ)
≪ちゃーんと出っ張り戻して、狙い定めてポチッっとな、やでー? ≫
また頭の中に直接スクルドの声が響いたが、何となく緊張感が薄らぐのを感じた。
スクルドは時々、懐かしく感じる事を言う。
こんな時なのにそんな事を思うなんてと、つい苦笑いになってしまった。
「君、大丈夫だからこっちきなさい」
私は出来る限り優しく声を掛けた。
そろそろとその男の子は近付いてくる。
(このつまみを回して、近づいたらこのスイッチだな)
≪ちゃーんと狙いを定めなあかんよー? ≫
スクルドのその声に、若干緊張しながら機械を構えると、ジッと男の子に狙いを定める。
男の子が近づいて来る度に、その子が本当に息子じゃないかと思えた。
それほどまでにそっくりだったのだ。
(圭吾……)
そして、男の子が三メートル程の所まで来た時だった。
≪あっ! つまみ戻し過ぎてへんか⁉ ≫
(あっ!)
突然、頭の中に響いて聴こえたスクルドの声に、私は思わず反射的に機械のスイッチを押してしまった。
その瞬間、目の前の男の子はフッと音も無く消えてしまった。
私は目の前が真っ白になった。
いや、実際には目の前の世界はセピア色なのだが、大変な事をしてしまったと頭がパニックを起こしたのだ。
「あ、あ、スクルドさん! どうしましょう‼」
セピア色の無音の世界のその場所で、私はただただオロオロと天を見上げた。
≪あー押してもうた? まあ、しゃーないわな。これが因果って奴やろ戻ってええよー? ≫
戻るったって、どうしたらいいか分からず、まだただオロオロしていた。
≪鞄の中に棒があるやろー? ≫
(ぼ、棒?)
言われてみれば、先程鞄の中から機械を取り出す時に、それらしき棒状の物が手に触れていた。
「はい、ありましたが。あの、あの子大丈夫でしょうか?」
≪んー大丈夫やろ? まずは戻ってきいやー≫
「は、はい! ありました。これですね?」
私はセピア色の空を見上げ、その棒を高く上げた。
が、こちらからはスクルドは見えない。
≪そうやーそれや! それ振ってみー? ≫
(これを振る? こうかな?)
私はその棒を左右に振ってみた。
だがしかし、何も起こらない。
≪あかん、そーやない。もっと気持ちを込めてやね、こう! やで? ≫
(こう、やで?)
そう言われてもさっぱりわからない。
≪ま、ええわ。ちょっと待っとき≫
そう言われて棒を振るのを止めると、突然目の前に現れたスクルドに腕を掴まれた。
ピシッと頭に何か響いた感じに驚いて一瞬だけ目を瞑《つぶ》ったが、すぐにその目を開いた時には目の前にあの祭壇が見えた。
「おっちゃん、おつかれさんな~」
スクルドが靄の中を覗き込みながらそう言った。
しかし、酷い失敗をしたと思い、私は戸惑っていた。
「スクルドさん! あの子はどうなりましたかっ⁉」
心配で仕方なかった。
私のせいでとんでもないことになっていないか。
「あーそれやねんけどなー。実は厄介やねん」
「ど、どう厄介なのですか⁉」
「あいつが狭間におらん事には、うちらなーんも出来ひんねん」
靄から頭を出すと、スクルドはその頭を掻きながら言う。
「うちが出来るのは、次元の狭間に迷い込んだモノを整理するんや」
「あ、はい」
「姉ちゃん達なら探せるかも知れへんけど、今はおらんしな~」
「そうなんですか……」
「これ見る限りじゃ、少し戻しすぎたようやわ~」
私の使った機械を見ながら、スクルドは困った表情をしている。
「戻しすぎた? どういう事でしょう」
「えとな~? あの子の世界よりも、少し前の世界へ行ってもーたんや」
私はその答えを理解するのには、少し時間が掛かった。
「過去へ行ってしまったと言う事ですか?」
「そうや~? せやなーあそこの世界で五十年くらいやろか」
「五、五十年も⁉」
「やってもーたー! やろ?」
五十年と聞かされてようやく事の重大さに気付いた。
やはり大変な事をしてしまっていたのだ。
ぶわっと嫌な汗が全身に噴き出るのを感じた。
「ど、どうしましょう! 私のせいで大変な事に!」
こういう場合、一体どうなるんだろう。
あの子の生まれる前に違いない。
しかも、五十年前となれば、あの子の両親でさえ生まれて居ないかもしれない。
いや、例え両親が生まれていたとしても問題はそこではない。
あの子が生まれる前の世界に、あの子が存在してしまっている。
もう、ややこしくなってしまった。
「ス、スクルドさん! ど、どうしましょう⁉」
私は、すがる様にスクルドに問いかけるしかなかった。
「ん~よっしゃ! 先輩に任せとき! 何とかしてやるさかい」
そう言うと、スクルドは笑顔でこちらを見る。
今は、その笑顔にとても救われる思いだった。
心の底からスクルドを頼れる存在だと、改めて感じた瞬間だった。
「まあ、こうなったのもうちの責任やしな」
そう言うと、スクルドは手に扇子の様な物を持った。
そして、それをバッと開くとパタパタ仰ぎだした。
「スクルドさん、それは?」
「これかー? これ、知らへんの?」
「は、はい!」
「扇子ちゅーもんやで? なーんも知らんのやね」
スクルドが呆れ顔でこちらを見る。
いや、扇子は知ってるが、何かをする道具に違いない筈だ。
スクルドがパタパタと扇子を仰いでいるのを、これから何をするのだろうと期待して見ていた。
だが、暫く見ていたが特に変化はない。
「あ、あの……スクルドさん?」
「ん? 何やの?」
「何かするのでは?」
「今は待つんや……」
「え……?」
てっきりスクルドの手にした扇子が、何かをする道具かと信じ込んでいた私は、呆気にとられて彼女を見てしまった。
ただ扇子で仰いでいるだけだったのだ。
『ジリリリリリリ――』
急にけたたましく、あの音が辺りに響き渡った。
「おっ! 歪《ひずみ》や!」
「わっ!」
「あ、あれは……あいつや!」
「え?」
ベルの音と共に、靄を覗き込んだスクルドが声を上げるが、一体何を見たんだろうか。
スクルドには珍しく、かなり興奮している様に感じた。
「どうかしたのですか?」
「あれは漂泊者や!」
「漂泊者?」
「見てみ! えらい珍しいんやで!」
私もスクルドの横から、蠢く靄に顔を突っ込んだ。
「あっ!」
真っ先に私の目にとまったのは、ピンク色をした髪の毛の少女だった。
周りはセピア色の世界ではあっても、その彼女の髪だけはビビッドなピンク色をしていたのだ。
そして、さっきあの高校生がいた場所とは全くの別世界だった。
やはり随分と過去の様だ。
(あのピンクの髪……)
どこかであのピンク色の髪を、前に見た事があるように思えた。
随分と昔だと思う。
「あのピンク色の髪の毛をした女の子……」
「ああ、あれが漂泊者や! 滅多にみられへんで? 伝説にも成っとる位やしな!」
興奮気味にスクルドが言うと、下に見えるピンク髪の少女がこちらを、ふと見上げた様に見えた。
「やばい、あいつ行ってまうやん! 話あんねんけどな……」
「あっ……」
スクルドが身を乗り出した時、ピンク髪の少女はこちらを見上げたまま、フッと消えてしまった。
「あちゃー間に合わへんかったかー」
「消えちゃいましたね……」
「まあ、しゃーなしやな。あ、まてよ? あいつが歪を作ってくれたんやろか……」
ピンク髪の少女が消えたセピア色の世界に、少年だけがただ一人ふらふらと歩いていた。
「あ、この事は、ルーナには内緒やで? ここで待っとき、ええな?」
そう言うか否や、スクルドはそのままその世界へ飛び入ってしまった。
「あ、スクルドさん!」
咄嗟に彼女を呼んだが既に姿は見えない。
責任を感じていた私は意を決して靄に入り込む。
するとやはりそこは見渡す限りセピア色になっていた。
そして目の前にあの子が倒れているが、他に人影は見当たらない。
「あちゃ、こいつ、もう寝とるわ! あ、何やおっちゃん、ついて来たんか?」
「すみません! 私の責任ですしっ!」
スクルドはきょとんとした目で私を見たが、すぐに笑顔になった。
「ほな、ちょっと離れといてや~」
「は、はい!」
そう言うとスクルドは、何やらぶつぶつ言いながら扇子を大きく仰ぎだした。
と、同時にキリキリと頭の中に音が響く。
そして目の前の全ての景色が、セピア色のままぐるぐると流れている。
それはまるでこの世界全体が、ビデオ画像として早送りされているかの様に感じた。
(あの扇子だ! こんな事が出来るのか!)
「よっしゃ、この辺りやな。あ、何か変な感じするわ……待てよ? だったら絶対こっちがええやん! あーだけど、爺さんにまた小言いわれるやんな。ま、やってもうたらこっちのもんや」
そんな事をブツブツと言いながら、スクルドは扇子をパタパタ仰ぐ。
流れるセピア色の景色がゆっくり止まる。
「よっしゃ、ここや! 後はこうやってこうや!」
ピタッと扇子を止めると、パシャっと閉じた。
「さて、おっちゃん帰ろか~?」
「え?」
そう言って私の手を掴むと、ピシッと頭に響いたと同時に、急にクラっと軽い眩暈《めまい》がした。
気付くと私は祭壇の前に立っている。
スクルドは扇子でパタパタと自分を仰いでいた。
「ええかー? くれぐれもルーナには内緒やで? お……ルーナにはゆーな! これええやん!」
「え?」
私にはスクルドが何を言っているのかは、この時はまだ理解出来なかった。
「ああー。ユーナってお目付け役がルーナにおんねん。だから、ルーナにユーナ!」
「は、はあ……」
「何や! リアクション薄っ!」
「す、すみません!」
「まあ、兎に角ええな⁉」
「あ、はい!」
私は目の前で何が起きているのか、そしてスクルドが何をしたのかも、何のリアクションが薄かったのかも分からないまま、その時はただただ何度も頷いた。
♢
「さてと、おっちゃん。鞄はそこへ入れといてな?」
スクルドが指を指した方には、何やら見慣れたロッカーがある。
会社の更衣室などでよく見る普通のロッカーだ。
「あ、はい」
私は斜めに掛けた鞄を首から外すと、ガチャっとロッカーを開け、その中へ入れた。
まるで会社のロッカーへ荷物を入れている様な、そんな感覚を思い出していた。
「おっちゃん、これ見てみ~?」
さっきとは違った祭壇が少し離れた所にあり、スクルドはその靄の中へ顔を突っ込んでいる。
私も顔を入れてみると、あの男の子が電車内で立っていた。
セピア色の世界ではない。
どうやら無事に帰ったらしい。
「あ、あの子……戻れたんですね!」
その二人を見ながら、自分の若い頃を思い出した。
悠子と最初に出会ったのも電車の中だった。
揺れる電車にふらついた悠子が、自分にぶつかって来たのが最初の出会いだった。
そんな事を思い出していた。
「うち、狭間に迷い込む一年前に戻してもーた、いひひ」
そう言って、スクルドは楽しそうに笑っている。
「え? 一年前?」
「こんなん、爺さん達にばれたら、そらえらいこっちゃやでー?」
とか言いながらも、スクルドのその表情はニヤニヤと嬉しそうに見える。
(お爺さんが居るのか? しかも、爺さん達って……お婆さんも居るのか?)
どうしてスクルドが一年前に戻したのかは、この時の私には分からなかった。
ただ、一年前と言う言葉だけが何故か何か引っかかっていた。
「しかし、ルーナとユーナが二人揃って留守ちゅーことは、絶対にルーナが無理言って留守にしとるんやで。で、ユーナが付き添って行ったちゅー訳や」
腕組みをしたスクルドが難し気な表情で言う。
「そうなんですか?」
「そうや~? ユーナは爺さん達からルーナの監視を命じられてるんやで。インスペクターや」
「いんすぺくたー?」
「そうや? 監視員や。あ、さっきうちが、ルーナにユーナちゅーたやろ? あれ、ホンマ上手い事言うたと思わへん⁉」
「え? え、ええ」
そう言えば、バタバタした状況でスクルドが言っていた気もする。
「実は、ああ見えてルーナはホンマ、危ない奴なんやで?」
「え? 危ない?」
あの神々しく女神様の様な人が、危ない奴とはとても理解出来ない。
どう考えてもスクルドの方が、大雑把で怪しく思える。
「いや、ホンマに。天然ちゅーか、アホ、ちゅーか」
天然と言うワードが出て来た事で、自分が少し勘違いをしている事を感じ始めた。
「あ、危なっかしいと言う事ですか?」
「そうやでー? 何しでかすか、全く想像つかへんねん」
そう言って、スクルドは訝《いぶか》し気な表情をしているが、私にしてみれば、これまでの彼女の行動の方が、想像も出来ない事ばかりであった。
スクルドに自分は死んでいると言われた。
だが、こうして呼吸もしているし、生きているとしか思えない。
「あの、スクルドさん。ここは一体何処なんでしょうか?」
「え? ここかー? 何処って、ノルンの神殿やゆーたやろ?」
「そ、そうですけど」
「おっちゃんこそ、これまで何処におったんやー?」
スクルドは何処から出したのか、何やら裂きイカの様な物を口に運び、その歯で噛み千切ると、私の返答を待っている様だ。
だが私は、スクルドの口にしたものが気になり、思わず訊いてしまった。
「あの、スクルドさん、それ……何食べてるんですか?」
「あ、これか? チータラやで? あ、食うか~?」
(え? チータラって、あのチーズ鱈?)
スクルドは何気なく手にしていたそれを、スッと私に差し出して来た。
それをまじまじと見つめる。
裂きイカに見えていたのは、これだったのか。
「何や、見た事あらへんの? 案外うまいで~? 食うてみ!」
「あ、はい……」
手にしてみると、自分の良く知っているチーズ鱈だった。
どうしてこんなものがここにあるのか疑問に思う。
「あ、スクルドさん、これどうしたんですかっ⁉」
「何や自分、えらい興奮してからに」
「い、いえ、向こうの世界にもこれがあったんですよ!」
「まあ、そんなに珍しいものちゃうしな~何処にでもあるんちゃうん?」
「え……えーっ⁉」
「何や、そんな驚く事かいな。けったいなやっちゃな~」
「そ、そういうものですか?」
「そらそーや、どこぞのゴルファーの姉ちゃんも好きやいっとったで?」
「ご、ゴルファー⁉ 姉ちゃん⁉」
やはりこの子は何言ってるか理解に苦しむ。
「それよりも、おっちゃんは何処に居たんやって聞いてんねや!」
「あ、そうでした! 私は、家で息子達と一緒に寝ていたのですが、気づいたらあそこに、セピア色の世界に居ました! 私は死んだのですよね⁉」
「ああーそうやったな。あそこは次元の狭間やで? いつまでもおったらあかんとこや」
「次元の? 狭間……ですか?」
「そうや。まあ、難しい事はうちにもわからへんねん。あはははー!」
そう言って、スクルドは大声で笑い出したが、すぐに真顔になりジッと私を見つめた。
「おっちゃん、気になるわな……残して来たその息子達っての」
「え、ええ」
「おっちゃんの子供ちゅー事やろ?」
「え、ええ」
「子供はん、一人で生きてけるんか?」
「あ、子供と言いましても、息子は三十《さんじゅう》で……」
「は⁉ 息子が三十も⁉」
「あ、いえいえ歳がですよ~そいつに最近子供も出来まして」
「えっ⁉ おっちゃんの子供の子供かいな!」
スクルドはびっくりした様子で食い付いて来た。
「しかし、さんじゅうって! 子供、多過ぎやろ! おっちゃん、スゲーな!」
「え? あ、三十《さんじゅう》は歳《とし》です!」
「とし? なんやねん、それ」
(え? 歳《とし》が分からないのか?)
「え? あの、スクルドさんは何歳《なんさい》ですか?」
「は? なんさい? んーその言葉わからんわ~」
「えと、スクルドさんはお幾つですか?」
「おいくつ? って、エリアか? あ、レベルはこう見えて結構上の方やで?」
(すっとぼけてるのか?)
暫く考えてしまったが、どうも歳の事が分からないらしい。
そう言えば、ここは地球上ではない筈だ。
それならば、一年の概念も当てはまらないという事でもある。
故に、何歳とかいう概念も変わって来る筈だ。
しかも、相手は年頃の娘さんだしここは話を変えよう。
「あの、スクルドさん。死んだら何処へ行くんですか?」
「は?」
スクルドは一瞬呆れ顔でこちらを見たが、私の真顔を見ると仕方ないと言う表情で答え始めた。
「はぁ~そんなん知らんわ! 死ぬって言っても色々あんねん」
「え、でも、私はあっちで死んだからこっちへ来たんでしょ?」
「いやいや、ちゃうねん。おっちゃんは、たまたまあっちから抜けて来ちゃった訳や。死んだから来たんちゃうで? そんなんやったら、ここ、死んだ奴で溢れてまうやんけ!」
「あ、そうか……」
「そやでー? おっちゃんの場合、かなり特異体質だったんやろな~」
「た、体質ですか?!」
(特異体質って……本当に、そう言う類であろうか)
「或いは……加護」
「加護?」
「んーあり得へんかな~」
自分には思い当たる節も無く、深く考え込んでしまう。
向こうの世界で死んだ私は、何らかのはずみでセピア色の世界、あの時空の狭間へ居たという事だ。
先に死んだ悠子はこっちには来ていない。
それはスクルドが知らないと言っていた。
では、どうして私だけがこっちへ来たのだろうか。
やっぱり、その理由など考えても分からなかった。
「ま、死んだら何処へ行くかとか、そんなん考えてもしゃーないやん」
「え、ええ……まあ、そうですよね」
「それよりも、残された人を考えとった方が、なんぼか良いんちゃうん?」
「あ……」
確かにそうだ。
生きている時はただ漠然と、死んだ悠子が居なくなった寂しさを感じていた。
死んだ悠子が何処へ行ったのか等、考えてもいなかったのかも知れない。
ましてや、自分が死んだら何処へ行くか等、考えても仕方の無い事だ。
それは、只々、『無』であろう。
だが今は、あっちで死んだと言われても、今はこうして生きている。
向こうの世界では自分は死んだ事になっていても、こっちで私は生きている訳だ。
そうなると、向こうに居る息子やその嫁と、孫も気になって仕方がない。
「おっちゃん、うちには偉そうな事わからへんけどな。おっちゃんが、今ここに居《お》るちゅー事が、大事なんとちゃうん?」
「今、ここにいる……」
私は何故此処に居るのか。
「エランドールに限らへん。世界は無限にあるんやで? ここにおっちゃんがおる。そこで、おっちゃんが何をするか、ちゅーこっちゃ」
「自分が何をするか……ですね」
「そうや! ま、今はこうして立派な時空管理局員やけどな!」
そうだったな。
私はスクルドに助けられ、ここで仕事を貰った。
言わばここで生きる目的を与えてくれた。
今はそれに応えたい。
「スクルドさん! 私、やります! 時空管理局!」
「お? な、何や自分、突然……」
「私に出来る事、何でもやりますから!」
「お、おう! 先ずはその無精髭、剃らへんか?」
「え? 髭?」
「後でうちの姉さん達紹介せなあかんやろ?」
「あ、そうですね……」
そう言われて自分の顎を触って見ると、口周りから頬にかけて少し伸びた髭が、ぷつぷつと手のひらに当たる。
(ああ、髭、伸びてるんだな……)
元々髭が濃い方では無かったが、二日に一回は電気シェーバーで剃っていた。
こっちでもそんな生活となるのだろうか。
「そしたら、おっちゃんの部屋も用意せなあかんな! ほな、こっちきいや」
「あ、はい!」
神殿の奥には幾つかの小部屋があり、その一つを私に貸してくれるらしい。
「ここなら祭壇にもすぐ行けるやろ?」
「ええ、そうですね! ありがとうございます」
「あっちの部屋には同僚がおんねんよ~」
「同僚ですか?」
「この神殿はうちの他に二人おってな、三人で交代勤務してんねや」
「そうでしたか!」
「ウルドとヴェルダンディ言うんやけど、二人とも一応うちの姉さんや」
「三人姉妹でしたか⁉」
「んー三姉妹ではあらへんよ?」
「へ?」
「他にも姉妹《きょうだい》ぎょうさんおるんやで? ま、この神殿は三人で受け持ってるけどな~しかも、うちが責任者や!」
そんな話をしている内に、少し記憶に引っかかるものがあった。
ウルドとヴェルダンディそして、スクルドというこの子と神殿の名前がノルン……。
何かの神話でそんな名前があったと思う。
「あの、スクルドさん! もしかして……女神様ですか?」
「は、はぁー? 女神様って、何やの! あっ……口説いてんの?」
スクルドは驚いた様な表情で私を見たが、すぐに照れた様な仕草をした。
それが今の子っぽくて可愛く見えてしまった。
「い、いえ、何だか神話に出てくる名前と同じだなーって……」
「お? 神話? そーなんや? おっちゃん、その神話っての聞かせてくれへんか?」
「あ、あんまり詳しくないんです、名前を知ってる程度で……」
「なんや、そうなんや……。でも、うちらの名前出てくるんやろ? 意外やわ~」
神話の詳しい内容は分からないが、確かに名前には覚えがあった。
そんな神話に出てくる彼女達と私が、この世界で同じ仕事をしていく事になろうとは、生きている時は全く予想もしていなかった。
それどころか、まだ自分が死んでいるとは到底思えなかった。
「あの、スクルドさん……」
「ほぇ? 何やの、しょぼんとしてー」
「私、どうして死んだのにここに居るんでしょうか?」
「あーおっちゃんの居た世界では死んでもうたねー」
「ええ……」
「あっちで何かあったん?」
スクルドが寂しげな表情で聞いてくれた。
だが、事故とか病気とかでは無く普通に生活をしていたつもりだ。
「あ、いえ、普通に寝て起きたらあそこに居ました」
「あそこ? あー歪ん中かー」
「ええ」
「せやな~おっちゃんがどうして歪に入り込んだのかは分からんけど、普通は死んでもあそこには行かれへんで?」
「そうなんですか?」
「そらそうやでっ⁉ さっきも言うたやん? これまでも死んだ人なんか幾らでもおるやん? その度にあそこに行かれたらうちらお手上げやんか」
彼女は呆れた表情でそう言った。
死んだら行く場所では無いという事は先程聞いてはいたが、死んでしまった人の数人が稀に行く場所という感覚ではあったのだ。
だが、それも彼女に否定されてしまった。
「そ、そうですよね……」
「せやろ~? 仮に死んだら行く世界があったとしてもあそこは別物や」
「死んだら行く世界……」
「そんな所があるとは思えないけどな~」
「そうなんですか?」
「分からへんけど、うちはそう思う」
「そうですか……」
死んだら行く世界。
例えば黄泉の世界というのがあると、これまでは漠然と思っていた。
だがスクルドは否定的だった。
「おっちゃんの世界では魂って言うやろ?」
「はい」
「その世界はあるで」
「そうなんですか⁉ 魂の世界ですか⁉」
「そらあるやろ、魂があんねんから」
「あ、はい……そうですよね」
魂の世界と黄泉の世界の違いがよく理解出来ない。
「まあ、一つ言えるのは、存在しているモノ全てに意味があるつー事やな」
「全てに意味がある……」
「そうや~? せやから何か意味あって、おっちゃんはここにおるちゅーこっちゃ」
「ここに居る意味……」
そうなると、さっきスクルドにやると自分から言った時空管理局の仕事。
それを全うするのが自分の存在意味にも思えて来た。
意味も無くセピア色の世界へ迷い込んだ訳では無いとスクルドに言われた。
迷い込んだその理由は分からないが、居るという事実を認識した今は迷う必要も無い筈だ。
「スクルドさんっ! 改めて宜しくお願いしますっ!」
「なっ、何やっ!」
「ここで一緒に働かせて下さい!」
「あー、うん。それはさっきやったくだりだよね?」
「ええっ! ですので、改めてよろしくお願いします!」
「あ、はい……何やの」
若干怯んだ様子を見せたスクルドだったが、手にしたチータラを口にするとフッと微笑んだ。
その横顔に少し女神の面影を見た気がした。
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敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
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