こう見えても実は俺、異世界で生まれたスーパーハイブリッドなんです。【序章編】【高校生編】

若松利怜

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高校生編

 第5話 リアル(現実)

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 どうして異世界で生まれた男の子を、わざわざこちらへ連れて来たのか。

 その疑問に沙織が答え始めた。


「それには事情があるのです~」

「どんな?」


 おっとりとした話し方の沙織に若干痺れを切らしたのか、グレイが間髪入れずに訊いた。


「裏にお住いの啓子さんご夫婦に、お子さんが授からなかったからなの~」

「え……? 裏って、霧島家?」

「ええ~」

(そんな理由で連れて来ただと?)


 グレイは呆気にとられて沙織を見たが、彼女のその表情は冗談ではなさそうだ。

 だが、それこそ冗談じゃない。

 この世界には子供が欲しくても出来ない夫婦はいくらでも居る。

 その度にこんな事があったら、この世界は大変な事になる。

 それに、調査書には娘も居ると記されていた。


「だが、男の子には妹が居るね?」

「ええ~悠斗くんは異世界から連れて来たのですけど、愛美ちゃんはこちらで生まれたんですよ~」

(な、何だこいつは……何言ってんだ?)


 裏に住んでいる夫婦に子供が出来ないからと言って、わざわざ異世界から子供を連れて来たという。

(だが、その後に子供が出来たって事なのか?)

 メアリーとケントは黙って話を聞いていたが、グレイは思い切り突っ込みたくなっていた。

 沙織の意図は分からないが、グレイに言わせればそんな間抜けな話を彼女はしている訳だ。

 それを彼等に話して信用するとでも思ってるのか、若しくは彼女には他に理由があるのではないかとグレイは思い始めていた。


「じゃあ、男の子を連れて来た後に女の子が生まれた訳か?」

「そうなんです~まさか子供が授かるとは思いませんでした~」

「おいおい、出来ない筈の子供が出来ちゃったって事か?」

「ええ、びっくりです~」

「びっくりですーって……」


 ため息交じりで頭を抱えるグレイだったが、メアリーとケントも呆気にとられて沙織の話を聞いていた。

 だが、そう話す沙織の表情は明るく、屈託のない笑顔だった。

 彼女が俺達をからかっているとは思えないが、その話はにわかには信じがたい。


「女の子が出来たからって、今更男の子を連れ帰る事は出来ないって事か……」


 グレイが皮肉交じりにそう言うと、笑顔のまま沙織が答えた。


「それはそうですよね~?」

「あ、ああ……(そりゃそうだろうよっ!)」


 あえてそう言ったのは、グレイの精一杯の皮肉だったのだ。

 例え飼っている犬猫であっても、新しい子犬を買ったから他所よそへやるとか、そうはいかないだろう。

 そんな事は当然である。

 そんな間抜けにも思える事実に対して、嫌味の一つでもかましてやりたかったのだ。


「あんたらは子供が出来ない夫婦に、そうやって子供を連れて来てるのか?」

「え~? まさかそんな事はしませんよ~?」

「おいおい、あんたが悠斗って子供を連れて来たんだろ?」

「悠斗くんは最初で最後の特例です~」

「どうして特例としてまで、悠斗を連れて来たんだ?」

「ん~啓子さんとの出会いがあったから……ですね~」

「は、はぁ~? 啓子さんって悠斗の母親だろ?」

「ええ~そうです~」


 グレイは完全に呆れ顔になっている。

 沙織の言う啓子とは何者だろうか。

 それがグレイの新たな疑問となったが、メアリーとそれは一致していた様だ。

 それはメアリーが尋ねた事で話が進んだ。


「ねえ、沙織さん。啓子さんってどんな方なのです?」

「啓子さんですか~? ん~今夜はもうこんな時間ですし~明日にでもお会いになりますか~?」


 沙織は壁に掛けられた時計を、チラッと目にしてからそう答えた。

 メアリーだけで無く、グレイとケントにしても、この夜更けに会わせろとは言える筈も無い。


「そうですね。明日にでも啓子さんに会わせて下さい」

「は~い」

「ちょっといいかい?」


 不意にそう言ってケントが手を上げた。


「あなた達が異世界人ってのは分かった。そして、ここに居なくてはいけない理由もね」

「はい~?」

「僕が知りたいのは、こうやって幾度となく来ているのか、って事です」


 メアリーとグレイにはまだまだ知りたい事はあるであろうが、勿論ケントにも知りたい事は沢山ある。

 だが、ケントには二人とは別の疑問があった。

 ケントが所属している国では、異星人と異世界の事項は、国家の極秘事項として取り扱われている。

 そして、他国にもその情報が存在していると、最悪の場合として想定していた。

 その異星人や異世界の技術が、自国よりも先に他国へ流出する事は、断固阻止しなければならないのだ。


「私達は今回が初めてです~」

「私達はって事は、他の仲間の誰か来ているのかも知れないと?」

「どうでしょう~エランドールでは、こちらとの接触は禁止事項とされていましたのでそれは無いかと~」

「禁止事項?」

「こちらでの一万年とか二万年前だとか聞いてますが、その頃は交流があった様ですよ~?」

「えっ⁉ 二万年前っ⁉」


 ケントは他の二人と共に絶句してしまった。

 この世界では現代人の歴史など、まだ数百年である。

 しかも、数百年とは言ってもその生活水準は低く、三百年前のある国では飢餓の為に人間を食した話まである。

 その国も今では先進国の一つになっている。

 この生活水準になってからの人類は、まだかれこれ数十年なのだ。

 それなのに、二万年も前に異世界の人々は、別次元であるこの地球に来ていたと言うのか?

 やはり高度な技術をもった異世界人だと、そう思わざるをえなかった。


「私の先祖はその頃の地球人」

「えっ⁉」


 ケントが声を上げて驚くと、同時に他の二人もユーナを見た。

 二万年前の地球人が異世界で存続していたとでも言うのだろうか。

 そう思うと、三人は銀髪のユーナを嘗め回すように見てしまっていた。


    ♢


 その後、ユーナから地球では伝説と呼ばれる大陸の存在や、その生活ぶりを聞かされた。

 アトランティスやムーという伝説の大陸が、今の地球に存在していないのは、エランドールと言う異世界へ、その大陸ごと移動した為だと言う内容もあった。

 エランドールの生活水準はかなり高く、意識レベルも今の現代人よりも遥かに高く思えた。


「な、何とも信じがたい話だが……」


 聞き入っていたグレイが重い口を開いた。


「まあ、それからはエランドールでは、地球との接触は禁止されていたので~」

「だが今回、貴女あんたの気まぐれで接触されたという訳か?」


 グレイがまた皮肉交じりにそう言った。


「え~気まぐれとか、ひど~い。ユーナちゃんとかセリカちゃんの種の存続が目的ですってば~」

「それは本当なんですね? さっきの話では名目とか建前とか……」


 メアリーはグレイの失礼さが気になり、フォローのつもりで聞き直した。


「本当ですよ~?」


 沙織はそう言っているが、口調がどうも怪しく感じた。

 何と言うか、おっとりとしていると言うか、たどたどしいとも感じる言い回し方である。


「あながち嘘ではない。アトラスの純潔種族は現存では三名となっている」

「えっ⁉ さ、三名って⁉」

「それじゃ、絶滅危惧種どころじゃないだろ!」


 ユーナの意外な言葉に、メアリーとグレイが声を上げた。

 かつて、日本のトキという鳥が、確認出来る個体が二羽だけになった事があった。

 保護の甲斐も空しく、日本固有のそれは絶滅した。

 しかしその後、中国の個体を譲り受け、日本での飼育と繁殖に成功している。

 それからは順調に日本産トキとして保護を続けてはいるが、純粋な日本産とは言えるのかどうか……。

 一度途絶えた血縁は再び繋ぐ事等は出来ないのだ。

 今でこそ専門の組織によってその個体数は増えているが、まだまだ絶滅の危機にある。

 が、絶滅させたその償いとしてきっと保護し続けるであろう。


「とは言っても遺伝子保存は勿論してますけどね~」


 沙織がそう言いながらティーカップに紅茶を注いだ。


「エランドールがある限り、アトラスに絶滅はない」


 すると、ユーナが呟くようにそう言った。


「でも……今、貴女がここに居るって事は……?」

「私にとって想定外の事が多い」

「と、いう事は?」

「私の危機も在り得る」


 ケントとグレイは顔を見合わせた。

 例え遺伝子保存をしているからと言っても、それはどうなんだ?

 二万年前の地球人の末裔が今は三名で、今まさにその血縁が途絶えるかも知れないという事だ。

 この事は種族とか云々を超えて、それを守らなければいけない事では無いのか。


「そんな危険を冒してまで地球に来て、その子を護っているのかっ⁉」

「それがルーナの意志」

「そ、そんな……」


 驚いた三人は同時に沙織を見た。

 ユーナの絶対的に洗脳されているかのような状態が、三人にはとても理解しがたいのだ。

 やはり、何か宗教的なモノで彼女を支配しているのだろうか。

 紅茶を飲みながらやり取りを聞いていた沙織が、持っていたカップをそっとソーサーに置いた。


「ん~ユーナちゃんは大丈夫~」

「え? どうして?」

「だって、強いもの~」

「え……」


 単純な回答に声を失ったが、確かに沙織の言葉に反論はない。

 調査報告書を見た限り、ユーナは一瞬で成人男性を倒すだけの力があるのだ。

 もしかしたら彼女にとって地球人は、ひ弱な下等種族であると認識しているのだろうか。

 だが、それでも宗教的な洗脳がユーナに働いていないとは限らない。

 沙織が何かしらの力で、このユーナをコントロールしているのだろうか。

 もしくは、異世界の得体の知れない技術なのかもしれない。


「沙織さん、ユーナさんはどうして貴女の意志の為に、こんな危険を冒しているの?」

「え~? ユーナちゃんが危険だとは思ってませんよ~?」

「でも、想定外の事も多いのでしょう?」

「ええ、それはそうですけど~」

「けど?」

「でもユーナちゃんに危険が迫ったら、私は全力で護りますから~」

「え? 貴女が……ですか?」

「ええ、勿論~」


 そう言う沙織をまじまじと見つめたが、これと言って普通の女性と変わりがない。

 見た目だけで言えば、それはユーナも同じではあるが、この女性もユーナ同様、戦闘力が高いという事なのだろうか。

 やはり、三人の想像を遥かに超えた者たちなのだろうか。


「ルーナと私は友だから」

「え?」


 ボソッとユーナが呟いた言葉を、自分だけの聞き間違いではなかろうかと、メアリーは何度も頭の中でリピートしてみる。


「そうなんですよ~ユーナちゃんとはお友達なんです~」

「お友達……って」


 やはり聞き間違いでは無かった。

 グレイもその言葉には、少なからず疑いを持っていた様に返した。


「私はルーナの監査役であり、今はハルトの保護観察も担っている。だが、それらはルーナと友だから成り立っている」


 その言葉に、三人は何か感慨深いものを感じていた。

 彼女の意味する友人と、地球人が使用する友人の意味合いが、若干、いや、かなり違う様にも思えた。

 本来、地球人が使う友人と言う意味に、そこまで深く意識が作用する事は少ないからだ。

 だが、目の前の異次元の少女と女性は、友人と言う事で絶対的な信頼感をお互いに抱いている。

 それは、親子や恋人の関係と酷似している様だった。

 ついさっきまで彼女に洗脳されていると考えてしまった、そんな自分が恥ずかしく思えた。


「あんた達と俺達では、友人と言う概念が違う様に思えるな……」


 グレイが独り言のようにそう言うと、ケントとメアリーも小さく頷いた。

 グレイは生まれてすぐに施設で育てられていた。

 日本の諜報部員は、大抵が施設出身者が多い。

 少なくとも、グレイの様に現場で活動をする者はそうだった。

 恐らくそれはメアリーやケントもそうであろう。

 未公認で、尚且つ秘密裏に行動する人間を採用する場合、その過去を偽装する必要があるのだ。

 それは勿論、作戦中に死亡したり敵に捕虜となった場合等、想定される全ての事から本部と諜報部員とを、いつでも都合良く切り離せると言う訳だ。

 故に、現場で活動する諜報部員の大抵は親を知らず、幼少期からの幼馴染などが極端に少ない。

 親と呼ぶ人が居たとしたら、それは上官であり彼らの教育者だろうか。

 そして作戦中だけでなく、それ以前の教育期間中に死亡リタイアする者も多い。

 だから、家族愛や兄弟愛と言うものは、若干の想像を加えて考えるしかない。

 実際の経験が無いからだ。

 或いは、本部の作成したシナリオ通りに演じる時などか……。


「そうね……まるで親子や家族、血縁関係が無いとしたら、恋人同士の様ね」

「ん~それは感じるかも知れませんね~」


 沙織は頬に手を当てて、幾らか思い当たる素振りを見せた。


「こちらでの十数年で友という意味合いに、かなり相違がある事は私も認識は出来ている」


 ユーナが冷めた紅茶を口にしながらそう言った時、グレイ達は少し気恥ずかしい思いがしていた。

 今の地球人ではそこまでの信頼関係を、友人だからとここまで築く事は稀であろう。


「あ~こんなにユーナちゃんを信じているのは、勿論それ相応の理由があってのものなのですよ~?」

「そう……。私がルーナと友となり、その信頼関係を構築出来た理由がある」

「あ……」


 沙織とユーナがそう話してくれた事で、三人の気恥ずかしさも少し紛れた。

 我々地球人でも友人との信頼関係は、それなりに時間がかかるが、それが無い訳では無い。

 きっと、ユーナと沙織ルーナには、それ相応の経緯を経て出来た、絆があるからなのであろう。


「こう見えて、ユーナちゃんとはお付き合いが永いからで~す」

「付き合いが永いって、見た感じまだ若そうだけど? 俺達よりは年下だろうよ」

「若いかどうかは置いておいて~グレイさんより年下ではないですよ~?」

「あ、そうなんです?」


 見た限りではかなり年下に感じていたグレイは、言いかけてしまったタメ口を反射的に敬語に切り替えていた。


「こちらの世界と私達の世界では、時間の概念がまるで違うのです~」

「ああ、やっぱりそうなるんだ」


 ケントが既知の知識で在るかのようにそう言った。

 地球の時間の概念と言うのは、太陽系がかなり関係したものだ。

 それ故に、我々が一時間や一年と呼んでいる時間は、恐らく地球上だけで通用するものであろう。


「時間の概念は、今のあなた達では……まだその理解は難しい」

「え? どういうこと?」

「過去も未来も同じ軸に存在している」

「は?」


 その後、ユーナから時間の概念について聞かされたが、三人はユーナの言葉を理解さえ出来なかった。

 どれも固定概念が邪魔をする為か、今一つ入って来なかったのだ。

 彼女の説明を要約すると、本来は現在・過去・未来が、同時に存在していると言うものだったのだ。

 その為、エランドールでは意図的に時間の流れを制御して生活しているという。

 話している事が分かりそうになっても、すぐに他の疑問が生じてしまい、結局理解出来ない。

 どうしても矛盾として感じてしまうのだ。

 三人には理解など出来なかったが、地球人である専門の学者であれば、それを理解出来るとでも言うのだろうか。


「ま、まあ、その辺りはいいや。俺には分からん」

「そうね……時間と言う基礎の部分が、その根底から覆ると……」


 グレイとメアリーが理解するのを諦めた様にそう話し始めた。


「ですよね~こればかりはどうしようも無いのでしょうね~」


 そう言うルーナは、ユーナが説明している時には思いついた様にダイニングへ行き、紅茶を淹れてリビングへ戻ったかと思えば、再度ダイニングへ向かい、今度はクッキーを持って来たりと、甲斐甲斐しくおもてなしを始めていた。

 だが結局は、彼女が話の中で言っていた様に、生きている基盤が根本的に違うのだろう。

 我々現代人は生まれてすぐに、時間の経過と共に生きている。

 そしてそれは、生きている間ずっとだ。

 いきなり時間の概念を無視するのにはかなり無理があるのだ。


「まあ、それこそがリアルに異次元世界って事なんだろうな」


 グレイが呟くようにそう言うと、メアリーとケントもそれには同意した様子に二人共深く頷いた。

 ユーナの話では、地球と同じ様な時間世界で存在している種族も多いという事と、その他に無数の異世界で存在する種も多いと言うのだ。

 宇宙人が居るとか居ないとか、そんな単純な話では無く、無数の次元世界が存在しているという話だった。

 今まで我々地球人が、宇宙人の存在を幾度となく議論していたが、そんな話が陳腐に感じてしまう。

 だが、そんな異星人も過去に地球に幾度となく飛来、若しくは次元の歪を利用して来ていると言うのだった。

 そして、これからも新たな異星人や異世界人が地球に来る可能性は、十分にあると言う。


 だが今回、ユーナとルーナはただ単純に、子供の出来ない夫婦に子供を授け、その子が無事に成人するまで保護観察するだけだと言う。

 エランドールでは地球との接触を禁止しており、悠斗が無事に成人したらすぐに帰ると言う。


「それよりも今回の事案だが、俺達三人はそれぞれ非公式とは言え、JIAを通して任務で来ているんだ。このまま報告書に書いたら大変な事になるな」

「そうですね……それらしい報告をしないと」


 グレイとメアリーが目を合わせた後、グレイは何気なくケントを見たのだが、その時の彼は慌てて深く頷いてみせた。


「それは……そうだね……」

「まだ、最低もう一人だけ、今話さなければいけない人がいる」

「え? だれ?」


 そう言うユーナを三人は驚いた表情で見る。


「あなた達と情報をやり取りしていた人」

「あ……イオ?」


 メアリーが隠す事無く思いついたその名を言うと、ユーナは小さく頷いた。

 どうしてイオの存在を把握しているのか疑問もあるが、その時のメアリーはその事自体に然程、重要性が無い事に思えた。

 それよりも、イオに何と説明したらよいかの方が問題だった。


「その人にも話さないと不都合な筈」

「確かに……」

「イオか……あいつ、この手の話が大好物だぜ? 大丈夫か?」

「三人には私が話すと言った」

「あ……そうだった」


 確かにユーナは先程、自分に言ったのだ。

と……。

 あの時は、メアリーも含めて三人と認識していたが、ユーナは既にイオの存在を感得かんとくしていたのだ。

 その時メアリーは、改めてユーナの能力に気付かされた。


「ただね、イオに連絡しようにも繋がらないんだよね、ここ」


 そう言ってケントは、手にしたタブレットをメアリーに見せた。

 すると、その様子を察した沙織が思いついた様に手を合わせる。


「あ~何て言うのかな~」

「保護監視設定」

「あ~それね~」


 ユーナに言われると、沙織が人差し指をピンと立てた。

 すると、メアリーは納得した様子で沙織に尋ねた。


「その技術もそちらのモノです?」

「そうなるのかな~」


 かなり高度な技術のセキュリティだろうとは思える。

 この建物が倉庫に見えた技術であっても、現代のホログラムではあそこまでリアルに投影など出来ない。

 その時だった。

 ユーナはおもむろに立ち上がると、リビングの壁際に歩いて行く。


「ここから通信して」

「え? わかった」


 ケントがタブレットを持ってユーナに付いて行くと、壁から幾つかのハーネスが出ており、お洒落なテーブルに繋がっていた。


「それ見せて」


 ユーナに言われるがままにタブレットを渡すと、彼女は手際よく端子を繋いだ。

 すると、タブレット画面にイオからのチャットが勢いよく流れ出した。


≪ここの食堂、改装工事だとかでやって無いのよ≫

≪グレイ、帰りに夜食買って来てくれる? ≫

≪ちょっと、あんた達、何処寄り道してんのよ! ≫

≪あのさあ~そう言うの良くないと思うな~≫

≪って、無視ですか! ≫

≪本気で怒るよっ! 馬鹿グレイ‼ ≫
      ・
      ・
      ・

「うわっ、イオが大変だ……」

「あーヤバいな」


 ケントがそう言ってグレイに画面を見せると、彼の表情が引きつる。


「貸して」


 ユーナがそのタブレットを受け取ると、素早くチャットしていく。

 その様子を黙って見ている三人ではあったが、その内容から察するに、ユーナはケントに成りすましてチャットしている。

 だが今の状況では、このまま彼女に任せた方が賢明だと思えた三人は、各々明日の確認をする。


「んじゃま、明日の午前九時にこちらへ来るって事で、本部へは七時半で良いかな?」

「そうだね」


 イオへの報告を終えたユーナは、タブレットをケントへ差し出しながら立ち上がった。


「これ」

「あ、代行ありがとう」

「明日、イオも連れて来て」

「え? イオもかい?」


 ユーナにそう言われたケントは伺う様にメアリーを見た。


「……分かったわ。イオも連れて来る」


 ちょっと考えたメアリーは、心を決めた様にそう言った。


「じゃあ、四人で来るんだな?」

「そうだね」

「では、沙織さん、今夜はこれで失礼しますね」

「あ~はいは~い」


 ソファーから腰を上げたメアリーが沙織へ挨拶をしたが、ユーナはそのままダイニングへ消えてしまった。


「わたしがお車までお送り致しますね~」

「すみません、沙織さん」


 そう言う沙織の後を三人が付いて行く。


「しかし広いな、ここ……」

「ああ」


 グレイが後を歩きながら辺りを見まわすと、ケントも深く頷いた。


「まるでホワイトハウスだ」

「て、ケントはホワイトハウスに入った事あるのか?」

「ああ、二回かな?」

「マジかよ! スゲーな、おい」


 グレイは皇居に入った事も無ければ、首相官邸すら入った事が無かったのだ。

 その辺りが、米国秘密諜報部と日本の秘密諜報部との差だろう。

 だがそれは、CIAよりもJIAの方が、完全な秘密裏の組織である証でもあった。


「では、明日の午前九時に伺います」

「ええ~お待ちしてますね~」


 こうして沙織の家を後にした三人は、先程の真実をそれぞれが思い起こしていた。

 当初は敵対国のアジトの疑いがあった訳だが、実際には異世界の人間が存在していたのだ。

 そのまま本部へ報告したらかなり問題になるが、明日会う事になった≪啓子≫の話を聞いてから、それらを判断するとの意見は三人一致していた。


   ♢   


 翌日――。

 午前九時少し前、四人を乗せた車は予定通り影浦邸へ到着し、その敷地へ乗り入れていた。


「うわっ! 本当に広いね! 何これ! ステルス⁉」


 イオが目を輝かせながら、急いで車を降ると辺りを見まわす。


「おいおい、子供じゃねーんだから、お前そんなにはしゃぐなよ」

「だって、凄い装置だよ⁉ まるで不可解!」

「確かに、この技術がテロ組織に渡ったら面倒な事になるね」


 そう言うと、ケントは明瞭に嫌な表情をした。


「まあな~その辺り、アメリカあっちは極端に嫌うよな~」


 そう言いながら、グレイはポケットの煙草を手探りで探す。

 が、その様子を一早く察したイオが彼に指を指して叫んだ。


「あ! こら、グレイ! ここで煙草吸ったらダメだよ!」

「あーそうか、すまん」


 そう言われて、グレイが胸ポケットの煙草を諦めた時、玄関から沙織が姿を現した。


「皆さん、いらっしゃ~い。あなたがイオさんね~? 宜しくね~」

「あ、イオです! 沙織さんですか?」

「ええ、沙織です~啓子さんもお待ちですよ~」

「そうですか、ではよろしくお願いします」


 沙織に促されるままに四人は屋敷へ入ると、そのままリビングへ案内された。

 そこには、既に一人の女性がこちらを向いて立っていたが、四人を確認するとすぐに頭を下げた。


「私が霧島啓子です」


 そう言って、再度お辞儀をした女性は、四人にはごく普通の地球人に思えた。


「メアリーです、今日はお呼び立てしてすみません」

「いえ、事情が事情なので……」


 そう言って、啓子は神妙な表情になった。

 四人の簡単な自己紹介が済むと、早速メアリーは本題に入る。


「あの、啓子さん。率直に伺います、貴女は地球人ですか?」

「え? ええ。ごく普通の……」

「では、どうして異世界の沙織さんと接点が生じたのですか?」

「あ、それは……以前、主人と旅行へ行った先で……」

「旅行? どちらへ?」

「あれは、高千穂へ行った時です」

「高千穂? 高千穂峡のある?」

「ええ、そうです」

「そこで、どの様に出会ったのですか?」

「子供の出来ない病だった私は、旅館の祠に手を合わせて居たんです」

「祠? どんな祠ですか?」

「普通の祠です。旅館の敷地内の……」

「あ~ちょっといいですか~?」


 そこまで黙っていた沙織が、急に手を上げて会話を遮った。


「その祠とか、あんまり意味無いと思いますよ~?」

「え? 何故です?」

「ん~私には関係無いですもの~私がそこへ行ったのは、啓子さんが居たからで~」

「啓子さんが居たから? どういう事です?」

「私が勝手に、啓子さんを覗き見してたからなんです~」

「え?」

「エランドールで~私は存在するモノ全てに、その祈りを捧げていたのですが~」

「祈りを捧げてた?」

「あるご夫婦に異世界の接触がある事に気付いて~その後、遺された父子の行く末を見守っていたのですが~」

「異世界の接触?」

「ええ~で、その子の奥さんが啓子さんだったのです~」

「遺された父と、その子の奥さん?」


 グレイは理解不能の表情で聞き返したが、メアリー達も例外では無かった。


「う~ん、説明って難しいですね~」

「あの頃の私は、毎日が辛くてただ祈っていました」


 そう言う啓子をメアリーは見る。


「そう言っても、祈ってるだけで異世界の人が来るなんて……」

「あ~ただね、啓子さんの辛さは、旦那様の辛さを察してのものだったの~」

「旦那さんの辛さ?」

「ええ、啓子さんは自分の不幸より、旦那さんの不幸を取り除いて欲しいと~そう願っていたの~」

「え? そうなの?」

「ええ、まあ……それが結局は、私の幸せにもなる事ですし……」


 更に、どうして沙織が啓子を気にして、異世界から覗き視る様になったかの経緯を話し始めた。

 それは以前に沙織が偶然見てしまった、この地球で出産時に命を落とした女性と、それを看取った夫と子供の話だった。

 初めの内は生まれたばかりの子供とその父親を視ていたが、その子供も健やかに成長し、彼の妻となったのが啓子だという事だった。

 それからは思い悩む啓子達夫婦を視ていたらしい。

 その時に啓子達夫婦のお互いを思い遣る気持ちに、沙織の心が動いたのだと言う。

 人は自分の不幸を嘆く事はあっても、人の不幸にどれだけの人が嘆くだろうか。

 自分自身が不幸で無ければ、人の不幸を悲しむ事はあるかも知れない。

 だが、自分が不幸であった場合、それを置いて人の不幸を嘆き悲しむ事等あるだろうか。

 まずは自分の不幸を嘆くだろう。

 そして、自分の方が不幸であると訴えるか、あるいは、自分より他人の不幸が勝っていると感じた場合は、それで自分を慰めたりするものだとメアリーには思えた。

 信じられないと言う表情のまま、メアリーは沙織と啓子に尋ねた。


「待って……その時の事を、詳しく話して……」


 霧島啓子はその当時の辛い想いなどを、ゆっくりとぽつぽつ語りだした。

 それを黙って話を聞いていたイオだったが、その目にうっすらと涙を浮かべていた。

 グレイはその様子に気付いたが、そこはそっとして置く事にした様だ。

 暫くメアリーと沙織達が話しているのを聞いていたが、大方一段落ついた所を見計らいグレイは手を上げた。


「まあ、その辺りの経緯は分かった」

「そうね」

「意外だったのは、啓子さんがごく普通の地球人だって事だ」

「ただ、不妊がすぐに治って妊娠してるんですよね?」

「ええ、悠斗を沙織さんに授けて戴いてから、半年経った頃……妊娠が分かったんです」

「何故か病気が見当たらないと?」

「あ、今は又再発してしまってますけど……」

「え? 今は不妊だと……?」

「はい……」

「そうでしたか……ごめんなさい」

「いいえ」

「でも、その娘さんを妊娠できたのは、沙織さんの技術では無いのですか?」

「いえいえ~私達は啓子さんに治療は施していません~」


 そう言うと、沙織は啓子を見て頷いた。


「理由は分からないが、一時的に治ったという訳か」

「そうなんですよ~」

「まあ、そりゃ嘘じゃないだろうな~第一、そこだけ嘘ついて隠す理由が無いもんな」


 グレイはそう言うと笑って見せたが、予想に反してケントのその表情は険しかった。

 だが、グレイには彼が何故、その様な険しい表情だったのかは、その時はまだ分からなかった。
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出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

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