こう見えても実は俺、異世界で生まれたスーパーハイブリッドなんです。【序章編】【高校生編】

若松利怜

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高校生編

 第6話 イントゥリーグ(陰謀)

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 男性五名が負傷した事件の翌日、悠斗が教室へ入ると待ちかねた様に鈴木が駆け寄って来た。


「霧島ー! お母さんどうだった⁉」

「俺の母さん? 何が?」


 何の事かと思わず立ち止まると、ガシッと鈴木に腕を掴まれる。


「おいおいー!」

「なっ、何だよ!」

GWゴールデンウィークだよ! 訊いてくれたんだろ⁉」

「あ、ああ! その事か! まあ、言ったけど」


 昨日の今日でもこいつの事を忘れていた。

 後ろを付いて来ていた悠菜は俺を追い抜き、鞄を自分の机に置くとこちらを振り返った。

 悠菜を目で追っていた俺も、何だそんな事かと自分の席へ向かうが、鈴木は俺の腕を掴んだまま後をついて来る。

 いい加減腕を放して貰わないと周りの視線が集まりそうだ。

 先日こいつのせいでキモいとか言われたばかりだし。


「その手を放せよ……」

「でっ⁉」

「な、何っ⁉」

「妹は⁉ 来れそうかっ⁉」

「ああ、その話か。来るってよ」


 こいつは完全に妹を狙っているのか。


「おおー! そうか、そうか!」

「あ、もしかしたら妹の友達も来るかも知れない」

「そうなのかっ⁉ どんな子? 可愛い?」

「は? まあ、大人しくて良い子だよ?」

「て、芸能人では誰に似てる⁉」

(あ、待てよ?)


 このまま妹の友達をターゲットにしてくれたらいいんじゃね?

 杉本さん……下の名前は、佳苗ちゃんだったかな?

 ごめんよーっ!


「その子さ、結構礼儀正しくて、可愛い方じゃないかな?」

「おお! そうかっ⁉ マジだよなっ⁉」

「マジっすよ旦那!」

「おおーっ! 頼むぞ越後屋!」


 誰が越後屋だよ……。


「まあ、その子も親に聞いてみるとか言ってたけどな」

「そうか……なあ、来れるかな⁉ 来れるよな⁉」

「俺は知らねーよ、その子の親まで知らないし」

「そんな事言わないで何とかしろよ~」

「俺に何とかしろって言ってもしょうがないだろ。あ、その子の交通費とかお前が出せよ? まだ中学生だしな」

「あ、ああ、勿論っ! その子の分は何とかする!」


 だが、ふと昨日の帰りに悠菜が言っていた言葉を思い出して、ハッと鈴木の顔を見た。

 こいつが何かを企んでると言う事だ。


「おっ? 何かいい案、思いついたのかっ⁉」

「あ、いや……そうじゃない」

「何だよっ! 意味ありげに見やがってー! 兎に角頼むぞ⁉」


 鈴木が自分の席へ戻って行くのを見届けると、俺は後ろの席に座る悠菜を見た。

 彼女は相変わらずの無表情で俺を見ている。


「あいつ、まだ何か企んでる?」


 そう訊くと悠菜は小さく頷く。


「何だか分かる?」


 そう訊いてみるが、今度は小さく首を横に振った。


「そうか……」


 あいつが何を企んでるのかは分からないが、俺達に危害を加えようとしてるとは思えない。

 ただ単に妹を狙っている事なのだろうか。

 だがしかし、そうだとしたら悠菜は『愛美が狙われている』と、俺にそう言う筈だ。

 そうなるとさっぱり何を企んでいるのか分からない。


  ♢


 放課後になって、俺と悠菜は愛美と待ち合わせた駅へ向かった。

 だが、駅の改札口で待ち合わせした筈の二人の姿が見えない。

 時間を確認したが既に二人は待っている筈の時間だった。

 あいつ、何処に居るんだ?

 すると悠菜がスッと駅の外を指差した。


「交番前に居る」

「あ、そうなの?」


 なるほどね、交番前なら安心か。

 改札口って言うのは、意外と不特定の人間にも目立ってしまう。

 改札口で待った経験ない?

 出て来る人や入る人と結構目が合うんだよね~。

 悠菜の助言だろうが、交番前なら案外目立たないかも知れない。

 一般的に警官をジロジロと見る人は、心理的に考えても多くない筈だ。

 駅の南口を出てすぐに交番が見えたが、既にそこに二人の姿が確認出来た。

 愛美は交番前に立つ警官と楽しそうに話している様だ。

 昔から愛美はああやって、誰とでも気兼ねなく接してしまう。

 悠菜と愛美を連れて三人で商店街へ買い物へ行くと、大抵八百屋や酒屋の主人に声を掛けられるのよ。

 コミュニケーション能力って奴が異常に高いのかも知れない。



 その後、予定通り愛美の友達である杉本を自宅前まで送り届け、悠菜と自宅前で分れた後、帰宅した俺は少し母さんの様子に違和感を感じていた。


 愛美が二階の自分の部屋へ上がるのを待って、そっと母さんに訊いてみた。


「母さん、何かあった?」

「え? どうして?」


 台所で夕飯の支度をしていた母さんが、その手を止めてこちらに振り返った。

 何かあったのかと訊いては見たが、母さんが明らかに悩んでいるとか、思い詰めている様だとかを感じている訳では無い。

 だから、逆にどうしてと訊かれても、ただ何となく違和感を感じただけで、これと言って確証がある訳では無いのだ。


「いや、何か今朝と違うなーって」

「そう? 別に……でも、隠す事じゃ無いかな……」

「ん?」


 一度は受け流そうとした母さんは、何か意を決した様に俺に向き直った。


「実はね、お父さんが転勤になるの」

「え、転勤? 何処へ?」

「それがね……海外なのよ」

「は? 父さんの会社って海外にもあったの⁉」


 父さんの務める会社はそこまで大きくは無いと思っていた。

 海外にもあるとは思ってもみなかったのだ。

 取引先には海外支社のある会社もあるだろうが……。


「んーそれがね、今の会社を辞めて違う会社へ勤める事になるの」

「なっ、何でっ⁉ 海外の会社へ転職って事⁉」

「あ、今すぐにじゃ無いのよ? 来年の話なんだけどね」


 予想だにしない話に動揺してしまった。

 あの父さんが海外に独りで行くとは考え難い。

 勿論母さんも一緒に行く事になるだろうな。


「来年か……でも、そりゃまた大胆な決断したね、父さん」

「うん……」

「で、母さんも一緒に行くって事だよね?」

「ええ。お母さんも沙織さんと相談してね、その方が良いと思って決めたのよ」

「そうなんだ……まあ、母さん達が決めたのなら俺には異論は無いよ」


 これまでずっと家族四人……いや、沙織さんと悠菜も家族の様なものだし……物心ものごころついた頃から家族六人か……。

 これまでずっと父さんと母さんが一緒に居てくれたが、まあ仕方ない。

 父さんにもやりたい事があるんだろう。

 でも、あれだけ愛美を溺愛している父さんが、来年は高校へ上がるあいつを残して行く決心をした訳で……。

 それはそれでよっぽどの事だと思えた。

 母さんだってそうだろう。

 俺に対してもそうだが、愛美を本当に愛していると感じている。

 俺達兄妹を残してって言っても、沙織さんと悠菜が居れば手放しで安心している感があるんだけどね。

 ふとそう思って母さんを見ると、ずっと俺を見ていたのか母さんと目が合った。


「ありがとう悠斗……あなたは本当に良い子ね」

「な、何だよ急に。そんな言い方されると怖いってば」

「ふふっ」


 急に言われて照れ臭くなる。


「まあ、愛美も来年は高校だし大丈夫じゃ無いかな」

愛美あのこは、あなたと悠菜ちゃんが居れば大丈夫でしょ」


 母さんは間髪入れずにそう言った。

 明らかに今は愛美を心配している様には感じない。

 俺を信頼してくれているのだろうか。

 いや、悠菜を信頼しているんだろうな。

 愛美は悠菜の事を本当の姉として接しているし、母さんと父さんの悠菜に対する絶対的ともいえる信頼感は形容し難い。

 俺と同い年の悠菜に対してまるで先輩と言うか上席や目上、父さんに至っては上司や年長者に接して居るかの様な態度でもある。

 子供の頃からそんなだったから、俺としても悠菜は両親よりもしっかりしている者だと認識してしまっている。


「まあ、悠菜が居れば愛美あいつは平気だろうね」


 俺の本音である。

 間違いなく俺にとっても悠菜の存在は誰よりも大きい。

 だが、母さんは呆れた表情で俺を見つめた。


「問題はお父さんよ」

「あーそう言う事か。結構駄々こねた?」

「もう大変だった!」

「だよね……お疲れ様。しかしまあ、どうして海外の会社へ……」


 尚の事、父さんの海外への決断が大それた様にも思える。

 来年という事は愛美が高校に進学してからという事なのだろうが、やはり解せない。

 そうまでして海外でやりたい事があるって事?

 ずっと一緒に暮らしていても、俺は父さんの事を何も分かって無かったのだ。

 そう思うと、申し訳ない気持ちと寂しい気持ちが入り混じった様な気分になった。


「ねえ、悠斗」


 不意に母さんは真剣な表情で俺を見つめた。


「ん? な、何?」

「そうなったら、お兄ちゃん、愛美の事は頼むわね」

「あ、ああ、分かってるよ。悠菜も居るしね」

「ええ。悠菜ちゃんもあなたと一緒に居てくれるし、愛美の事も全部沙織さんに頼んであるからね?」

「て、もうそこまで話してあるの⁉」


 早すぎる準備に驚いた。

 もしかしたらずっと前から決まってたりしたのかな?


「だって、こういう事は早い方が良いじゃない」

「まあ、そうだろうけど……」

「私達が海外へ行ってる間は、沙織さんがこの家に来てくれる事になってるからね?」

「そうなんだ……分かった。でも、来年だろー?」

「まあね~」


 この家に沙織さんが来る事は珍しくも無いが、子供二人を残して海外へ行く両親を、沙織さんはどう感じているのだろうかと少し気になった。

 いくら仲の良い知り合いだと言え、実際沙織さんに甘えすぎて無い?

 俺の初恋は現在も進行形だしさ。

 もしも両親と沙織さんが険悪な関係にでもなったら、めっちゃ気まずいんですけど!

 その時、二階から愛美が降りて来た。


「あ、お兄ちゃん! GWゴールデンウィークね、佳苗も一緒に行けるってー」

「あらそ?」

「で、何しに行くんだっけ? お祭りだっけ?」

「え? あーそうだっけ?」

「何よ、知らないの? 伊豆だよね?」

「あ、そそ、伊豆って言ってた」

「何があるんだろうね、来週じゃ海水浴には早すぎるし……」


 あいつは俺に付き合ってくれと言っていたが、何処に連れて行こうとしているんだろう。

 確か、親戚の祭りだっけか?

 それに、人数が多ければ楽しいと言ってた気がする。


「てかGWって来週か! そう言えば、何処に泊まるかも聞いてないぞ⁉」

「何でそんなに無計画なのよ……」

「んー、今日学校であいつに訊かれたんだけどなー」

「何処に泊まるかって?」

「あ、いや、お前が来られるかって」

「はあ? どうしてあたしなの?」

「さ、さあ、知らないけど……でも、お前の友達も来るかもって言ったら、あいつテンション上げてたぞ?」

「はあ? 何それ……変な事企んでない?」

「え?」


 不意にビクッと反応してしまった。

 悠菜が感じていた何かを企んでると言う事を、この愛美も感じたという事か?


「企むって⁉ 変な事ってどんな事っ⁉」

「何がよ。知らないけど、変じゃん」

「ど、何処が変?」

「分かんないけど、何と無く」


 何それ、女の感って奴ですか?


「あいつ、多ければ多い程楽しいから良いとか、そんな事を言ってた気がする」

「ふーん。それであたしも来れるか気になってるの?」

「そうかも……」

「で、佳苗も来るかもって聞いてテンション上がったとか?」

「在り得る……」

「でも、何処に泊まるか分かんないと、佳苗のお母さんに言えないよ」

「そーだよなー。宿泊費は鈴木持ちだって言ってたけどさー」

「鈴木さんが宿泊代出してくれるの⁉」

「ああ、そう言ってた」

「私達と佳苗も入れて四人だよ? 幾ら位かかるの?」

「それは泊まる所によるだろー」


 俺と悠菜、愛美とその友達で四人か。

 沙織さんは誘えば来てくれる様な気がするが、鈴木のお父さんの実家だもんなー。

 誘って良いものなの?

 誘うって言っても、行き場所は鈴木のお父さんの実家だし、それに悠菜が懸念している鈴木の企みってのも気になるしなー。

 愛美とその友達が俺達と同行する事を、携帯から鈴木とのチャットメールに書き込むと、すぐに返信が来た。


≪おおー!
 じゃあ、お前と悠菜さんと、お前の妹とその友達だな?
 合計四人か≫

≪ああ、そうなる。
 ところで、宿泊先は何処だ?
 愛美の友達で杉本さんて言うんだけど、
 その子に宿泊先の連絡先伝えたいんだけどさ≫

≪あ、そうだよなー
 家の人に教えておかないとって事だな。
 分かった!
 後で宿泊先の連絡先をお前にメールして置くよ≫

≪それとだ、その子の交通費お前が出せよ? ≫

≪勿論! 責任もって払うから安心してくれ≫

≪オッケーよろしくな。
 あ、それと、そっちで祭りがあるんだっけ?≫

≪祭り? そっちって、何処で? ≫

≪お前、親戚に誘われてんだろ? ≫

≪親戚? ≫

≪おいおい、どうして俺はお前に誘われてるんだ? ≫

≪あー! そうそう! 親戚っちの祭りみたいなもんだ! ≫

≪そうか、分かった≫


 チャットを終えて携帯を置いた俺はソファーに深く座りなおした。

 やっぱり怪しいじゃん⁉

 最初に話を聞いた時は、親戚の祭りに誘われてるから、俺にそれを付き合えと言って来た。

 それはチャットメールのログを遡って確かめたから間違いない。

 だが、たった今のチャットで鈴木は祭りみたいなもんだと言っている。

 祭りだったら祭りだという筈だ。

 祭りみたいな物って事は、実際には祭りではない事を意味しない?

 少なくともあいつはそれを祭りだと思っていないか、一般的には祭りと呼ばれる事では無い可能性が出て来た。

 しかも、愛美の友達の交通費はあいつが払うと言っている点だ。

 何の躊躇も無く自分が払うと快諾した。

 ここから伊豆へ行くともなるとそれなりに料金もかかるし、学生の小遣いでは賄いきれない筈だ。

 ちなみに、俺の一か月の小遣いは七千円で、それとは別に携帯代は上限が三千円である。

 この金額は愛美も同じなのだが、この三千円という上限を超えた場合、翌月の小遣いから天引きされる約束となっている。

 愛美の一か月の小遣いは分からないが、俺が中三の時は五千円だったからその位だと思う。

 愛美の友達の杉本さんだって、その位のお小遣いじゃない?

 俺達に付き合わせてしまって、彼女の小遣いを使い切らせる訳にはいかないよね?

 だが、俺にとっても今回の交通費は大きな出費にならないだろうか。

 兄として、愛美の分も少しは負担しなければいけないとも思える。

 気になって台所を覗き込むと、愛美と母さんが夕食の支度を終えた所だった。


「お父さんは少し遅くなるから、夕飯はお先に三人で戴きましょ」

「そっかーじゃあ、お兄ちゃん食べよー」


 二人はダイニングテーブルに着きながらそう言った。


「ああ、分かった」


 俺も椅子に腰かけ、頂きますと手を合わせる。

 すると、それを見た二人も手を合わせ、三人で夕飯を食べ始めた。
 

「ねえ母さん、伊豆迄の交通費って幾ら位かな?」

「あ、鈴木君のお父さんのご実家?」

「うん、泊まる所は後で住所をメールするらしいんだけどね」

「んー伊豆だとそんなに遠くは無いけど、場所にもよるわよね~」

「だよねぇ……電車とバスの乗り換えかなー」

「車でなら伊豆をぐるっと一周しても三、四時間位かな?」

「そうなの?」


 案外距離的には近い様だが、電車やバスの乗り換えなどしていたら、恐らく二時間以上かかるのかも知れない。


「でも、交通費だけじゃないでしょ? ホテル代や食事代も……」

「あ、宿泊代と食事代は鈴木が負担するらしい」

「えー? そう言う訳にはいかないでしょ? うん、駄目よー」

「でも、交通費だけで良いって言うんだよね、あいつ」

「そうなの? 悠菜ちゃんは?」

「え? 悠菜? あいつも行くでしょ」

「そうじゃ無くて、何か言って無いの? どうやって行くとか」

「いいや、何にも」

「あら、そう? でも、悠菜ちゃんと一緒なら大丈夫よね」

「そう?」

「うん、悠菜ちゃんに任せておきなさい。間違い無いから」


 悠菜に丸投げってのも少し気になるが、何も分からない俺じゃどうしようもない。


「そうだよな……あいつに任せちゃうか」

「そうだよ、お姉ちゃんが一緒なら大丈夫だよー」


 俺と母さんのやり取りには入って来なかった愛美だったが、話の終わり際にそう言って、大きめのエビフライに齧り付いた。


   ♢


 ここは霧島家の真裏に位置する影浦邸。

 その敷地は三方が一般道路に面しており、四方はぐるりと高い生垣で囲まれている。

 そして広い敷地の南側、真裏にあたる中程に霧島家が位置している訳だが、高い生垣に遮られて見る事は出来ない。

 そして、昼間に悠斗の母、啓子がここへ来てJIAの職員四名と会っていた。

 その事後報告は沙織から悠菜に済んでいたが、更に追加の報告事項もあった。

 それは、この先に起きると予想される事態に備えて、来年にも霧島夫妻を海外へ避難させると言う事だった。

 これには悠菜も想定外の事案ではあったが、内容を聞けば沙織の考えは肯定出来るものだった。

 悠菜自身、悠斗の保護任務は全力で行いたい。

 それこそミスがあってはならないのだ。

 沙織にしても霧島夫妻を保護する等という、新たな仕事を増やすことは出来ないし、それこそエランドールの保守義務違反になりかねない。

 地球人の保護は地球人に任せる方が良い。

 エランドール的には、愛美を護るだけでも精一杯の譲歩なのだ。

 そして、悠菜からも沙織に幾つかの報告があった。

 それらを淡々と述べると、沙織はうんうんと目を輝かせて聞き入っていた。


「そう言う訳で、来週の連休に伊豆へ行く事になった」

「そうなのね~じゃあ、大きめの車と運転手さんが必要なのね~?」

「電車とバスを乗り継いで行くよりも都合が良い」

「愛美ちゃんとお友達もご一緒ですものね~私も行きたいけど~」


 そう言う沙織が両手を合わせて悠菜を見ているが、敢えてスルーしているのか要点を優先して報告しているのかは不明だ。


「それと、悠斗の友人で鈴木という人物が何かを企んでいる」

「あらあら~何でしょうね~」


 そう言うが沙織は何も緊張感を見せていない。


「企みの内容が想定出来ない」

「ん~悠斗くんはどう言ってるの?」

「悠斗も予想出来ていない」

「そっか~じゃあ、大した事じゃ無いのかな~」

「……」


 沙織からそう言われると、悠菜自身もそうなのかも知れないと思えてしまった。

 こちらの世界へ来てからというもの、これまで悠斗を保護しながら観察していて分かった事もある。

 一つは悠斗が幼い頃は、かなり危機察知能力に長けていたという事だ。

 今となってはその能力はかなり抑えている様にも感じてはいるが、幼少の頃は悠斗自身の危機察知だけで無く、愛美や両親にもそれらを発揮していた。

 故に啓子の病気が一時的にではあるが、あの時に治ったとも考えている程だ。


「伊豆か~皆と一緒に行きたいな~」


 沙織がそう言いだした。


「それと、最低でも運転手含めて五名と、相応の荷物が積める程の車両が良い」


 やはりスルーしているのか悠菜は要点を述べ始めた。


「うん~そう言う事ならメアリーさんに相談しましょう~」


 悠菜にスルーされても動じる事も無く沙織はそう言う。


「JIAには適した車両があると想定出来る」

「そうね~私も乗れるかしら~」

「霧島夫妻が海外へ避難する迄は、こちらの保護が必要と思われる」

「来週でも駄目かしら~」

「来月末には危険な状態と想定してる」

「じゃあ、来週なら平気~?」

「イレギュラーが無ければ」

「あ~ダメって事ね~ざんね~ん」


 悠菜が想定している危険な状態というのが、早ければ来月と彼女は予想している様である。

 そしてその予想より、もっと早くに危険な状態が来るという事を懸念してのことだろう。

 悠菜はこうして万全の対策を常に考えているのだ。

 よって、沙織にしても二人を避難させる前に、危険な状態にさせる訳にはいかないと判断した様だ。

 では、二人がどうしてここまで霧島夫妻の危機を懸念しているのか。

 それは、日本諜報特務庁(JIA)を事実的に掌握しようと沙織が決定したからだ。

 JIAは秘密裏に存在しており、その存在は勿論一般には知られては居ない。

 そしてその実態が明るみになる事は、今後も決してないであろう。

 何故ならば、JIAの実態がメディアやネットに晒されようものなら、JIAによって懸念材料のその根本ソースから抹消されてきたからだ。

 こうして、秘密裏であるが故に実態も明らかにされぬまま、いつしか今のJIAそのものは法制に囚われない組織となってしまった。

 発足当初からJIAには人道的な考えが根本にあるが、今では少数の財閥に都合よく私物化されている事も事実である。

 いつしか組織を維持する為の莫大な資金は、巨大な財閥とは言えそれら全てを補いきれず、海外の麻薬組織等の反社会組織からもかなり強引に流させ始めた。

 言うなれば、こうして明るい社会がある反面、その影も色濃く出来てしまうという事であろうか。

 しかし、こうして秩序を無視してでも自分達の都合よく動かせる秘密組織は、現在の日本政治のフィクサー達や財閥達にとって、無くてはならない組織となっている。


「日本におけるJIAでの主な筆頭者は、今も変わりなく西園寺グループ」

「そのようね~」

「今回の事案もJIA職員四名と、西園寺会長とその夫人の耳に入れただけに留められたのは好機」

「そうね~逆にJIAの筆頭者が西園寺さんだと言うのが良かったのよね~」

「ある意味、この国は運が良い」

「そうなる~? 実はこの世界が強運なのかも~?」

 沙織がそう言うと、不意に悠菜はハッとした表情で彼女を見た。

 悠菜が感じたこの国が運が良いというのは、今は沙織が掌握した新JIAを、霧島夫妻が筆頭者となって管理する事になれば、彼らは私物化する事無く運営するだろうと思えるからだ。

 そうなると、主要各国の人々も一目置いている、日本人特有の良い部分を根底に、秘密裏とは言え悪の組織に成り下がる事も無い。

 それどころか、日本国の安全は沙織ルーナの力によって保護される事になるだろうと悠菜は感じとれた。

 だが、沙織が言うこの世界が強運だというその意味は、悠菜の考えた想定を大きく上回る事だろう。

 恐らく、日本に関係する各国やそれ以外の国々に対しても、沙織ルーナがバックに就いている新JIAともなれば、その影響力は大きく変わって来る。

 これからも全て秘密裏に新JIAの任務は遂行されるだろう。

 そして、これからの新JIAの存在意味は悠斗の安全確保と監査義務となる。

 そうなると、悠斗だけでなく愛美やその家族は勿論、その友人や知り合い等、連鎖的に新JIAの保護対象は多くなる。

 これが沙織と悠菜にとっては好都合なのだ。

 自分達二人は保護観察対象は基本、悠斗一人となっているからだ。

 エランドールの規律により、この世界に干渉する事が基本的に出来ないからである。

 だが、秘密裏に行動する事の出来る組織が手に入るのであれば、いつまでもこちらの世界に居る訳にはいかない二人にとっては好都合である。

 自分達がエランドールへ帰った後、新JIAが悠斗だけで無く、彼に関係するその世界をそれなりに護り続けるだろう。

 だが、それは全て悠斗がそう感じたのであればの話ではあるが……。

 悠斗がもしもこの世界の征服を望んでしまえば、霧島夫妻と新JIAはどうなるであろうか。

 悠斗が成人して自分達がエランドールに戻った後であれば、そこは沙織と悠菜の管轄を外れた世界だ。

 勿論そんな事を万が一にも悠斗が考えるとは二人は考えていないが、全てにおいて想定して対策しておくのが悠菜の職務でもあるのだ。


「あの子はとても優しい子ですよ~」


 悠菜の事を思ってか、沙織が彼女にそう言葉をかけると悠菜は軽く頷いた。


「うん」


 軽く頷いた後、沙織を見つめて小さくそう言った。


「ユーナちゃんのご先祖様がいらしたこの世界は、必ずや護られる事でしょう~」


 沙織はニコッと悠菜に微笑みかけた。


(この方はやはり私の想定を遥かに超越した世界を見ている)


 悠菜ユーナは改めて沙織ルーナの偉大さを実感していた。


「そうそう、西園寺さんとの交渉は私が行いますよ~」

「分かった」

「でも、ついて来るんでしょ~?」


 悠菜は黙って頷く。


「じゃ、行きましょうか~」


 沙織がそう言うと悠菜は頷いてからスッと立ち上がった。
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ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
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「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
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伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

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