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第一章 覚醒

第14話 #噴水のある部屋 #セレス再来

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「腹減った……」

 そうつぶやいた時、丁度悠菜がリビングへ入って来た所だった。

 飲み物を持って来てくれた様だ。

「はい」

 悠菜は飲み物の入ったグラスを俺に手渡すと、またそのままキッチンへ消えた。

「あ、ありがと」

 礼を言いながらグラスを見ると、程よく冷えたお茶だった。

 それを一気に飲み干した時、リビングへ入って来た愛美と沙織さんが、そのままダイニングキッチンへ向かっていく所だった。

「ねえねえ、沙織さーん! あたし、滅茶苦茶お腹空いたよ~」
「はいはーい! もうご飯の支度は出来てるわよ~? それとも先に、お部屋見てみるー? 愛美ちゃん専用のお部屋だよ~?」
「えー⁉ いーの? やったー! 沙織さん、ありがとー! 先にあたし部屋見た-い! どんなのどんなのー⁉」
「あ、みかんちゃんのお部屋もお引越しする~? 愛美ちゃんの傍がいいでしょう?」
「え⁉ 良いの⁉ 沙織さんありがとうございますっ!」
「うんうん~愛美ちゃんと悠斗くんと一緒の階にしよっか~」
「はいっ! 直ぐに部屋の荷物纏めて来る!」

 そんな会話がダイニングから聞こえる。

 そう言えば、俺の部屋も用意してくれてあるんだっけな。

 ソファーから身を起こし立ち上がってキッチンへ向かうと、丁度キッチンから出て来た愛美と鉢合わせた。

「あ、お兄ちゃん、一緒に部屋を見に行こーよ!」
「あ、そうだな。俺も見てみたい」

 愛美は俺の手をとり玄関ホールへ向かう。
 
 こっちなのか?

 俺の部屋ってどこだろう。

 愛美に連れられて、玄関ホールから階段を登る。

「こっちこっち、この階段も広くなーい?」
「だよな、広いよな」
「この裏にエレベーターもあるけど、階段でいいよね~」
「え、エレベーター⁉」

 やはりこの家は俺の良識を逸脱している。

 二人並んでも余裕の広さの階段を、俺と愛美は並んで上がって行く。

 そして二階のホールに着いたが、そのまま三階へ上がる。

「三階か?」
「うん、三階だよー」

 三階のホールを突き抜け、更に長い廊下を歩く。
 
 やっぱり、広いなこの家。

 あちこちに部屋の扉や、廊下にも窓がある。

 幾つかの窓は外が見えるが、中には室内の見える窓もあった。

愛美おまえ、場所分かってるの?」

 愛美に手を引かれて連れて来られている俺は、いよいよ気になって聞いてみた。

「うん、一度見てるよ? 荷物はまだ無かったけどね~それに、部屋の場所はあたしが決めたんだもん」
愛美おまえが決めたのかよ!」

 まあ、女同士っていいよな。

 自由に出入り出来てさ。

 やっぱり男の俺は、沙織さんには少し遠慮しちゃうし。

「ここだよー? お兄ちゃんは、そっち、あたしの隣」

 そう言って、愛美はかなり大きめの扉の前で立ち止まった。

 しかもこの扉、両開きである。

 こんな扉の先は普通、パーティー会場とかのホールだろ。

 その扉を開けると、やはりかなり広めの室内だ。

 かなりって言うより、滅茶苦茶広い。

 実家の俺の部屋の十倍はある。

「凄いな、高級ホテルのスウィートルームかよ!」

 入った事は無いけど。

「うわー! 素敵ー! 嬉しー!」

 愛美が飛び込んで行った。

 その後を若干怯みながら俺も入ってみると、観葉植物やら大きな本棚、そしてかなり大きな窓が目立つ。

 全体的に柔らかなクリーム色で統一されている。

 高い天井にはファンがゆっくり回っている。

 そして天井まである大きな窓に、これまた大きなカーテンが掛かっている。

 まるで映画館のスクリーン幕並みだな。
 
 ちょ、馬鹿でかいベッドがあるぞ?

 そのベッドは俺が普段寝ているベッドを、縦横に幾つか並べた大きさだ。

「お前これ、絶対沙織さんにおねだりしたろ!」 
  
 広いベッドにダイブしていた愛美に向かって言い放つ。

「えへへ~だって、沙織さん、何でもリクエストしてって言うからー」

 そう言って、ベッドの上で飛び跳ねているが、向こうには大会社の社長机みたいなセットがある。

 あの椅子なんて、もろ社長椅子だろ!

 リクライニングしたらベッド代わりにそのまま寝られそうだ。

「お兄ちゃんの部屋も見に行こうよ!」

 愛美はそう言って、ベッドから飛び降りて部屋を出た。

 俺はその後をついて行く。

 まあ、この部屋は愛美こいつがリクエストしたんだし、あんなゴージャスなのは期待していない。

 同じような扉を開けると、その広さに絶句した。

 やはり大きな室内に大きなベッド。

 そして大きな窓がある。

 しかも、どう考えても広すぎる。

「うわー! こっちもすごーい! あっ! あはははー!」

 めっちゃ笑ってるな愛美こいつ

 何を見つけてそんなに大笑いしてるんだか分らんが、基本的に愛美の部屋と創りは似ているかな。

 色は薄い茶色で統一してあるのか。

 落ち着く色あいだな。

 大きな違いは……ああ、あそこに噴水がある。

「げっ! 噴水かよ! 部屋の中に噴水って!」

 こ、ここは、どこかの高級ホテルのロビーですか?

「なにこれー! ウケるー! 噴水だってー! あははは!」

 愛美のツボの様だ。

 まだ笑っている。

 噴水の下には水草と、金魚も泳いでるし。

 これは沙織さんの悪い冗談だろうな。

 いや、待てよ?

 天然の加湿器とか言うのかも。

 沙織さんあのひと、かなり天然だから、真面目に考えて置いたのかも知れない。

 こっちの壁には、畳一畳程の大きな絵画が掛かっている。

 見ると、青々とした草原に、真っ白な神殿が描かれていた。

 そして、大きな木とその下に広がる泉。

 これは……。

「綺麗な絵だね」

 いつの間にか横で、愛美が並んで見ていた。

「ああ、そうだな」

 そう、沙織さんに連れて行かれたあの場所。

 異世界エランドールだ。

 あの時、あの泉に手を入れた瞬間、俺の何かが目を覚ました。

「あそこで俺が生まれたんだよ」
「え? えーっ⁉ そうなのーっ⁉」
「ああ、沙織さんに連れて行って貰った場所だ」
「へ~! すっごく素敵な所だね⁉」
「ああ……」

 俺は暫くその絵を眺めていた。

『二人とも、お部屋は気に入ってくれましたぁ~?』

 その時、すぐ近くから沙織さんの声がした。

 まるで目の前に居る様に聞こえたのだ。

「あれー? 沙織さんの声が聞こえるー!」

 愛美がそう言って、楽しそうに辺りを見回した。

『近くの壁か柱で、色が違う所わかるー? それに触れながら話すと、こっちに聞こえますよ~?』

 見回すと、所々に色の違うタイルの様な、シールの様な所があった。

「これかな?」

 俺と愛美はそれを触って話してみる。

「聞こえる?」
『うんうん~それですよ~そろそろご飯にしましょ~』

 凄い仕組みだなこれ。

「はーい! 今降りますねー!」

 愛美がそう言って、こっちを見る。

「ねね、お兄ちゃん、今夜から楽しみだね、噴水! あはははー!」

 そう言いながら部屋を出て行く。

 愛美あいつ絶対愉しんでやがる。

 俺は愛美の後を追いながらそう思った。

 一階へ降りると、そこにセレスティアの姿を見つけた。

 彼女は俺と目が合うと近寄って来る。

「ハルト殿、それにマナミ殿も! 先日はご馳走様でした」

 そう言って、深々と頭を下げた。

「セレスティアさん! こんばんわー!」
「あーいえいえ。てかさ、セレスティアさん、その殿ってのやめようよ」

 どうも調子が狂う。

 前に立っている愛美も、うんうんと頷いている。

「悠斗って、呼び捨てでいいってば」

 そう言うと、セレスティアは腰に手をやりながら答えた。

「では、ハルト。私の事も、セレスと呼んでくださいね?」

 まあ、悠菜もそう呼んでいたっけな。

「うん、わかったよセレス」
「あたしの事も、愛美! で、いいからね?」

 そう言って、愛美がセレスに人差し指を立てて見せた。

 どこかで見た覚えのあるポーズだな。

 そんな事を思っていると、キッチンの方から沙織さんが呼んだ。

「降りて来たぁー? ご飯にしましょー?」
「はーい! 沙織さん、お部屋ありがとー! 凄く嬉しい!」
「あら~気に入ってくれたあ~? 悠斗くんもどお~?」

 俺も椅子に座りながら答えようとして、愛美に先を越された。

「お兄ちゃんの部屋の加湿器、あれ最高ー! めっちゃウケるー! あははは!」

 まさか、愛美のリクエストだったのか!

「加湿器は、あれでよかったの~? テレビでもっと良さそうなの売ってたけど?」
「いいえ沙織さん、加湿器は天然が一番なの! ぷぷっ!」

 沙織さんが俺に聞くが、愛美が妨害しやがった。

 やっぱり愛美こいつの入れ知恵か。

 まだ肩を震わせて笑ってるし。

「さ、食べちゃいましょー? セリカも、そこ座ってね?」
「ここですね?」
「じゃ、あたしはここにしよっかな~お兄ちゃんはここね!」
「あ、はい」

 沙織さんはキッチンからそう言って、ワゴンを押しながらダイニングへ出て来る。

 そして、広いダイニングテーブルに料理を置き始めた。

「あ、みかんちゃんはお部屋のお引越しですって~」
「そうなんだ?」
「ええ~先に食べて~って」
「了解です」

 改めて思うが、ここのダイニングは広いわ。

 テーブルだけでも畳にしたら、何枚分だ……四、六枚?

 まあ、どこもかしこもうちの数倍の広さがあるし。

 気付くと広いテーブルの上は、瞬く間に色々な料理でいっぱいになっていた。

 中には、見慣れないフルーツや料理もある。

「いただきまーす! ねね、これなぁに?」

 愛美が指さすその先には、平べったい桃の様なフルーツがある。

蟠桃ばんとうと呼ばれる、桃の一種」

 そう説明したのは悠菜だった。

 いつの間にか、悠菜もキッチンからダイニングへ来ていた。

 つーか、桃の仲間なのか、これ。

 ドーナツみたいな形の桃だ。

「じゃさ、これはー? パプリカじゃないみたいけど」

 愛美が手にレッドパプリカの様な物を持って聞く。

 俺も手に持ってみると、身がぎっしり詰まっている。

「レンブと言うフルーツ」

 淡々と悠菜が答える。

「あ、それはエランドールにもありますね」

 セレスがそう言って、別の果物を持った。

「でも、これは何ですか?」

 て、それは大きめのブドウでは?

「え? それ、ブドウじゃないの?」

 愛美がそう言って、驚いた顔でセレスを見ている。

 俺もそれは少し驚いた。

 だが、異世界に無くても不思議じゃないかもな。

「ブドウより粒がかなり大きいですね」

 珍しそうに見ているセレスに悠菜が答えた。

「ナガノパープルと言うらしい」

 愛美が一粒取り、口へそれを放り込む。

「あ、今まで食べていたのと全然違う! おいしー!」

 だからセレスには、あの大きさの粒は初見だったのか。

 品種改良の賜物だろうしな、あの大きさは。

 お腹も空いていたこともあり、俺と愛美は普段よりかなり多めに食べてしまった。

「やばーい! 食べ過ぎちゃったー」

 そう言って、愛美は恨めしそうに沙織さんを見た。

 どれだけ食べてもこの人は、体型が全く変わらないからな。

「大丈夫よーまだまだ、愛美ちゃんは成長してるんだから~」

 そう言って沙織さんが愛美を慰めるが、気休めにしか聞こえていないだろう。

 遅くなった夕食も終わり、俺たちは揃って広いリビングへ移動した。

 ソファーに皆座って一息つくと、沙織さんが話し出した。

「セリカちゃん、支度はどうですかあ~?」

 そう言われて、セレスは沙織さんを見て答える。

「それが……明日、ルーナに同行して頂きたいのですが」
「あ~やっぱり?」
「ええ」

 沙織さんとセレスが深刻そうに話している。

 何か問題があったようだ。

「あ、悠斗くん、明日は土曜日だから大学行かないよね?」

 そうだ、明日は休みだ。

 それで沙織さんが今日にしたんだな、きっと。

「うん、明日も明後日も休みだよ?」

 俺がそう答えると沙織さんは、両手をパンと合わせて言い放った。

「おっけ~! じゃあ、いずれにしても、決行は明後日にしましょう!」
「は~い!」

 間髪入れず、愛美がそれに合わせて返事をした。

 だが、愛美には何を決行するのかは分かっていない筈だ。

 少なくとも、俺にはさっぱり分からない。

「承知した」

 セレスがそう答えるが、この人は分かっていて当然だろう。

 この中で分かっていないのは、愛美と俺だけだ。

 まあ、俺に出来る事など何もないだろうな。

 これまで、異星人やら宇宙人やら見た事も無いのに。

 専門家のセレスが何とかしてくれるのであろう。

 だが、全て任せっきりってのも気が引けるな。

 今回の問題だって、俺のせいではないが、勿論セレスのせいでもない。

 ただ、運悪く遠い彼方の宇宙人が、地球で略奪しようと企んでいるだけだ。

 それなのに、セレスはこれだけ働いてくれている。

「セレス、ありがとう」

 俺はセレスに、どうしてもお礼を言わなければいけないと感じた。

「いえいえ、いいんですよ、ハルト。私はこんな日が来る事を、実はずっと待っていたのかも知れない」
「え? そうなの?」
「今までずっと、ルーナとユーナがあなたの傍にいて、私はエランドールで独り何も出来ずに、いつも歯がゆさだけを感じていました」

 そう言って、沙織さんと悠菜を見た。

 悠菜はいつも通りの無表情ではあるが、沙織さんは対照的に優しい笑顔で見つめている。

「悠斗くんにはセリカちゃんの染色体だって、ちゃんと入っているんですもの~」
「そ、そっか……」
「そして、やっとこの私にもハルトの役に立てる事が出来るかも知れない」

 そう言って、今度は俺と愛美を見た。

 こんな人が力になってくれるなんて、何と心強い事か。

 俺は何か、熱いものが込み上げてくる感じを覚えた。

「ありがとうございます……」

「うんうん~ありがとね~セリカちゃん。助かるわ~ほんとに」

 そう言って、沙織さんが手を合わせて微笑んだ。

「では、皆一緒に、お風呂に入りましょ~!」
「は~い!」
「え?」

 やはり間髪入れずに愛美が返事をして立ち上がる。

「いいですね! 久しぶりに入りますか!」

 な、なんだと⁉

 セレスもそう言って立ち上がると、無言のまま悠菜も立ち上がった。

(何この流れ……)

「ハルト、私が背中を流そう!」
「――っ!」

 セレスに背中を流して貰える⁉

 何と言うご褒美だ!

 下からセレスを見上げると、笑顔で手を差し伸べている。

 オッドアイと金色のメッシュ髪が綺麗だ。

 しかも、胸元には柔らかそうなふくらみが、その全容を想像させた。

「えー? お兄ちゃんも一緒に入るの⁉」
「ん? どうしたマナミ」
「 昔は一緒に入ってたけど、今はあたし恥ずかしいよっ!」

 愛美がそう言って、セレスに訴える。

「そうかー? マナミはお年頃って奴かな?」

 愛美に言われてその手を引っ込めたが、セレスはまるでそこらのおっさんみたいなセリフを言うんだな。

 勿論、俺だって男一人、女に混ざって入るのは恥ずかしい。

 第一、目のやり場にも困るだろう。

「お、俺は後で入るから、皆でどうぞ」
「じゃあね、お兄ちゃん、覗いちゃだめだよ?」
「の、覗かねーよ!」

(み、見たいけどさ!)

 この四人と入ったら、どうなんだ?

 愛美は別として、この三人は……ヤバい。

 ドキドキしてきた。

「お兄ちゃん、本当に覗いちゃだめだよ? フリじゃないからね?」

 愛美が、笑顔で俺を覗き込んで見ている。

「分かってるってば」

 当然、覗くような度胸は無い。

「あたし、みかん誘ってから行くー!」
「は~い」
「よーし、五人でゆっくり入りますか!」

 四人は賑やかにバスルームへ向かっていった。

 ここの風呂、きっと馬鹿でかいんだろうな。

 昨日の夜に、沙織さんが向こうにあるお風呂場に居たっけな。

 あの時も、沙織さんの生乳を見れたっけ!

 ああ、何て幸せな事なんだろう。

 一緒に入る度胸も無いけど……。

 そんな事を思いながら、リビングのソファーに深く座りなおした。
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