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第一章 覚醒
第37話 #サードキス #離別
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俺の良く知っているステータスだ。
上方からこちらへ凄い勢いで向かって来ている。
セレスか⁉
だが、その力をセーブしている様だ。
そして、どたどたと彼女が大声と共に入って来た。
「あああああー! すまんっ! 私は何て事をしてしまった⁉」
バスローブを羽織っているだけで、上半身は大きな生乳が見え隠れしている。
下には黒い透けた下着が見えていた。
「セレスっ⁉」
その姿に驚いた俺は声を上げた。
「ああ、ハルト!」
「前っ! 胸が見えてるってば!」
「あ、ああ、すまん! 私、どうしてたっ⁉ マナミに何かしたかっ⁉」
ああ、全く記憶無いのね?
「セリカちゃん、コーラ飲んじゃったの~もう、大変だったんだから~」
沙織さんが愛美を抱きながらセリカにそう言うと、彼女はその場で突然土下座をした。
「この通りだ! 許してくれっ! そんなに泣いているなんてっ! この通りだー!」
頭をリビングの床へ擦り付けて居る。
あ、もしかして勘違いしてる?
やはりセレスは、愛美が号泣し他の皆も泣いて居るのは、自分のせいだと思ったらしい。
「あ、ち違うのセレス! これは、セレスのせいじゃないの!」
愛美が慌てて涙声で訴える。
「え? では、どうして? あ、イーリスか⁉」
「何でだよっ!」
イーリスは意表をつかれた様子で驚き、セレスに詰め寄る。
「で、ではどうして? あ、ハルトが何かしたとか?」
正座しながら俺を見上げた。
俺かよっ!
「なっ! してない、してない!」
そうして暫く正座をしていたが、セレスは状況が掴めていない。
すると、愛美が急に笑い出した。
「全くも~! セレスー!」
すると、蜜柑も涙ながらに笑い出した。
「セレスさん、グッドタイミングです!」
「沙織お姉ちゃんと悠菜お姉ちゃんとのお別れだって言うのに、セレスとイーリスの大騒ぎを思い出しちゃったじゃん!」
「あれは酷かったですよー!」
「ね~? 未来さん?」
その様子を見た五十嵐さんも泣いてはいたが、急に笑いだしてそう言った。
「うんうん、酷かったですよ~?」
「ええ、本当に激闘乱舞って感じ!」
「え? 大騒ぎ? 私が?」
セレスは呆気にとられた表情で皆を見上げた。
「そうなのか? あたし全然覚えてないけど?」
イーリスはキョトンとして、そう言う皆を見上げている。
「そんな事があったのですか?」
西園寺さんも彼女達を驚いて見ている。
やっぱり西園寺さん、全然気づいてないのか。
さっきまでのシュンとした空気は、セレスの出現で一気に明るくなった。
「てか、別れ? さてはハルトの覚醒が済んだって事ですか⁉」
そう言うとセレスは立ち上がって、俺と沙織さんを交互に見る。
そうか、この人も分かってたんだな。
「セレス、待たせて悪かった。もう大丈夫だ――と、思う」
俺はセレスにそう言うが、少し不安なのは隠せないでいた。
「そうか、そうか!」
「うん……」
「いつでも私の力が欲しい時は呼んでくれ!」
「あ、ありがと?」
って、どうやって呼べばいいんだか?
「で、ハルト、恵与はされたのか⁉」
「けいよ? なにそれ」
「まだなのか⁉ では私から! ルーナ、いいですよね⁉」
そう言うと、沙織さんへ振り返った。
「ええ。セリカちゃんがそう言うなら~」
「そうか⁉ ハルト、ちょっといいか?」
そう言うと、俺の両手を握った。
え?
ま、また?
先程の悠菜と同様に、何やら祝詞を唱える。
すると、セレスの身体が黄金色に光りだした。
いや、黒と金のツートンだ。
マーブル模様の光のオーラが、セレスに纏わりついている。
眩いばかりの黄金の光と漆黒の影の中で、セレスの開けた胸へ俺の手は導かれ、また鼓動が早くなる。
やっぱ、これかよ!
しかも今度は生ですよっ!
その胸は悠菜よりも大きく、弾力感を感じると更に鼓動が早くなる。
≪フリサフィサイフォス≫
その言葉の意味を頭では無く感覚として理解した。
だが、新たなスキルが俺の中に構築されたのがハッキリと分かった。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃんっ! 触り過ぎっ!」
愛美が叫んだ時、俺の手はセレスから解放されたが、いつの間にか腕輪が付いていた。
「これで汝は我を召喚する恩恵を得た」
「へ?」
「この力を欲した時、遠慮なく使ってくれ!」
召喚ったって、どう呼べばいいのよ?
そう言ったセレスは、両手で力強く俺の顔を引き寄せると、思い切りその唇を重ねた。
そして、そのセレスの舌が別の生き物の様に、俺の舌に絡みついている。
――っ⁉
同時に俺の中で何かが変化した。
例えるならかなりな量のアップデートをしている感じ。
「お、おにいちゃんっ!」
いや、俺じゃない!
これは奪われてるよな⁉
どう見てもっ⁉
「あ、ながーい……」
五十嵐さんが呆気にとられてそう言う。
「も、もう、だめーっ!」
そう、愛美が叫びながら俺をセレスから引きはがした。
「さあさあ、そろそろ行かないと~元老院さん達に小言を言われちゃう~ユーナちゃんが~」
ユーナが言われるのか?
俺は悠菜を見た。
「ごめんな、悠菜。今まで待たせちゃって」
悠菜は黙って俺を見つめていたが、ゆっくり首を横に振る。
「私は悠斗と愛美と居て楽しかった。そして、これからも二人をずっと愛してる」
その途端、愛美が悠菜に抱きつき、また泣き始めた。
「蜜柑、愛美をこれからもよろしくね」
「は、はい!」
その様子を沙織さんは優しい表情で見ていたが、ふとイーリスに目をやる。
「イーリス、後は宜しくお願いしますね? 今の悠斗くんには貴女が必要なの」
珍しく沙織さんが真剣な眼差しになり、近づくとイーリスの手を握った。
「な、なんだよ、改まって言われると気持ち悪いじゃんか! 分かってるってば!」
照れ臭そうにイーリスはその手を振り払おうとしたが、グッと沙織さんに掴まれて放す事が出来ない。
「本当に……本当に、悠斗くんを宜しくね?」
沙織さんは笑顔になってそう言うが、目は笑っていない様だ。
「わ、わかった! 分かったってばぁ~!」
「約束ですよ?」
「もう……あたしがルナの女神に逆らえる筈ないじゃん……」
そう言うとイーリスは観念した様に、手を握られたまま項垂れる。
え?
女神って言った?
「それは言い伝えですよ~? とにかく、悠斗くんを頼みましたからね?」
「もう、わかったってば……もう行っていいからさぁ」
そう言って、まるで駄々っ子の様に沙織さんの手を振りほどいた。
その様子を困惑した表情でセレスが見ていたが、こちらに気付き笑顔になる。
「では、マナミもハルトも元気でな!」
「では、皆さんもごきげんよう~」
「きっとまた会おう!」
沙織さんとセレスは笑顔でこちらを見まわすと、ダイニングから出て行った。
「二階の部屋から帰るから見送りはいい。ではまたいつか」
悠菜もそう言って、愛美に抱きつかれたまま俺達を見回す。
「悠菜ちゃん、元気でね!」
五十嵐さんが悠菜に言うと、愛美はゆっくり悠菜から離れる。
「ずっとお姉ちゃん待ってるからね! あたし、いつもお姉ちゃんの事忘れないからね!」
俺はそう言う愛美を後ろから抱くと、もう行けと悠菜に頷く。
悠菜は軽く頷き、ダイニングを出て行った。
「お姉ちゃーんっ! あたし、ずっと大好きだからねーっ!」
その愛美の声に返事は無く、部屋には愛美の鳴き声だけが聞こえていた。
「皆さん、行ってしまいましたね」
西園寺さんがポツンとそう言った。
俺はぽっかりと心に大きな穴が空いた様な感じに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「霧島君、別れとは辛いものです。気持ちはお察しします」
西園寺さんが俺を見てそう言うと、更に続けた。
「沙織さんにしてもセレスさんにしても、勿論悠菜さんにしても、皆さんと同じ位に寂しいお別れだと思います。ですが、きっと皆さんを想ってのお別れだとも感じました」
そう言って西園寺さんが笑顔で俺を見ている。
そうだよな。
沙織さんも悠菜も今まで俺の傍にずっといてくれたんだ。
「そうだね。愛美も、もう泣くなよ。帰った三人が辛くなるぞ?」
俺がそう言うと、愛美はピタッと泣きやめて呼吸を整えている。
「う、うん。そうだよね……分かった」
そう言うが、まだ呼吸が治らない。
時折しゃっくりの様に、ヒクヒクとその身を震わせていた。
「やっと行ったかー心配性だなールーナは」
イーリスがそう言いながら椅子に腰かけた。
「そう言えば、さっき変な事言って無かった? 女神とか」
さっき確かにイーリスが沙織さんに言っていた。
「んー? そう? 覚えてないや~それより、ご飯はー?」
このやろー絶対誤魔化してるだろ!
「あ、はいはい! イルちゃんこれ食べてね?」
「おおー! いただきまーす!」
そう言われると、イーリスは勧められたお好み焼きを食べ始めた。
「わっ! これ美味しいぞ! お前らも食えよー」
西園寺さんと五十嵐さんにそう言って、イーリスは夢中で食べている。
お前が仕切るなよ……。
「あ、二人も良かったら食べて?」
仕方なく俺も席に着き、二人に勧めた。
「あ、うん。ありがと」
五十嵐さんはそう言って座ったが、西園寺さんは何かを思い出した様に俺を見た。
「あの、さっきはあんな空気で言いそびれてましたけど……」
「ん? なに? どうしたの?」
「悠菜さん達、お引越しでしょう?」
「ええ、まあ」
「上のお部屋からどうやってお出かけを?」
「あ……」
しまった。
すっかり流れのままにスルーしてしまった。
愛美も気が付いた様に、目が泳ぎ始めた。
「あ、あれー? タクシーでも呼んでたかなー?」
おいおい、タクシーって……。
二階の部屋に横付けするかっ⁉
「もしかして……」
「あ……」
五十嵐さんは思いついた様な表情となって、西園寺さんと顔を見合わせた。
だが俺と愛美は言い訳も見つからず、完全にフリーズしていた。
「上って事はヘリポートがあるんですね?」
「へ?」
西園寺さんが五十嵐さんの表情を見て、思いついた様にそう言った。
「でしたら、今度からは自宅からこちらへ直接来られますね!」
まてまて、友香さんち、ヘリポートあるんですかーっ⁉
「いいな~霧島くんちも友香ちゃんちも、ヘリコプターあって~」
五十嵐さんが羨ましそうにそう言った。
いやいや、無いってば!
「あ、お、おほほほー! たまたまヘリコプターがあったみたいけど、沙織さんが乗って行っちゃったしね~もう無いのよね~」
愛美……お前、キャラ変わってるよ?
「そうでしたか~まあ、急なお出掛けでしたし……無事に新居に着けばいいですねぇ」
「そうですね! へ、ヘリコプターは揺れますからね!」
お前、ヘリ乗った事ないでしょ?
俺も無いけど。
「ねえ、霧島君! ここの温泉のお礼なのですけれど……」
「ああ、そんなの良いよ~気にしないで、いつでもおいで」
「そうじゃないの、お手伝いさんに来て貰ってもいいかしら?」
へ?
お手伝いさん?
「いやいや、そんなの俺には無理だよ!」
どう考えてもお手伝いさんを雇うなんて、今の俺には無理だった。
「お給金はこちらでお支払いしますから、どうでしょう?」
「いや、そう言って貰ってもなあ、そんな柄でもないしさ」
西園寺さんは暫く考えていたが、何かを思いついた様だ。
「それでは、私がこちらの温泉に入れて戴いた時だけ、それではどうでしょう?」
なるほど、そう来たか。
「友香さんが来た時にだけね?」
「ええ、こちらへお世話になっている時だけ」
「分かった。俺もそうして貰えると助かるよ」
「いえいえ、こちらこそ助かります!」
「いや、俺こそありがとう」
「ここの温泉は何処の温泉よりも気に入ってしまいました!」
そんなにここの温泉がいいの?
一安心した様に西園寺さんが席に腰掛ける。
「でも、そんなにここの温泉が好きなの?」
「ええ、とっても!」
「そうなの? 友香さんなら色々な温泉知っていそうなのに」
「とんでもない! こちらの温泉は特別な何かを感じます!」
そういうものか?
温泉に特別な何かなんて感じます?
「友香ちゃんがここまで言うのは珍しいかも……」
五十嵐さんが少し驚いた表情でそう言うと、西園寺さんは深く頷いた。
「ええ。ここは特別ですね」
「へ~まあ、気が向いたらいつでも来てよ。な、愛美」
「うん、お姉ちゃんが二人も居なくなって寂しいからね、みかんもそうじゃない?」
「うん!」
愛美が苦笑いでそう言うと、蜜柑は寂しさを奮い立たせるかの様に元気に返事をした。
「き、気持ち悪い……」
「きゃーっ! イーリス! どうしたの⁉」
「食べ過ぎた――」
「やだっ! しっかり! みかん、何かお薬!」
「ら、らじゃ!」
蜜柑が急いで救急箱を取りに行く。
「すぐ横になって、こっちへ!」
「し、しむ――」
イーリスは愛美に抱きかかえられ、リビングへ連れて行かれて出て行くと、その後を五十嵐さんと西園寺さんもついて行った。
「ここへ寝かせて、愛美ちゃん!」
「大丈夫⁉ どうしてそんなに食べちゃったの⁉」
はぁ、こんなんでここは大丈夫か?
沙織さんと悠菜の居ない我が家に、早速不安を感じる俺だった。
上方からこちらへ凄い勢いで向かって来ている。
セレスか⁉
だが、その力をセーブしている様だ。
そして、どたどたと彼女が大声と共に入って来た。
「あああああー! すまんっ! 私は何て事をしてしまった⁉」
バスローブを羽織っているだけで、上半身は大きな生乳が見え隠れしている。
下には黒い透けた下着が見えていた。
「セレスっ⁉」
その姿に驚いた俺は声を上げた。
「ああ、ハルト!」
「前っ! 胸が見えてるってば!」
「あ、ああ、すまん! 私、どうしてたっ⁉ マナミに何かしたかっ⁉」
ああ、全く記憶無いのね?
「セリカちゃん、コーラ飲んじゃったの~もう、大変だったんだから~」
沙織さんが愛美を抱きながらセリカにそう言うと、彼女はその場で突然土下座をした。
「この通りだ! 許してくれっ! そんなに泣いているなんてっ! この通りだー!」
頭をリビングの床へ擦り付けて居る。
あ、もしかして勘違いしてる?
やはりセレスは、愛美が号泣し他の皆も泣いて居るのは、自分のせいだと思ったらしい。
「あ、ち違うのセレス! これは、セレスのせいじゃないの!」
愛美が慌てて涙声で訴える。
「え? では、どうして? あ、イーリスか⁉」
「何でだよっ!」
イーリスは意表をつかれた様子で驚き、セレスに詰め寄る。
「で、ではどうして? あ、ハルトが何かしたとか?」
正座しながら俺を見上げた。
俺かよっ!
「なっ! してない、してない!」
そうして暫く正座をしていたが、セレスは状況が掴めていない。
すると、愛美が急に笑い出した。
「全くも~! セレスー!」
すると、蜜柑も涙ながらに笑い出した。
「セレスさん、グッドタイミングです!」
「沙織お姉ちゃんと悠菜お姉ちゃんとのお別れだって言うのに、セレスとイーリスの大騒ぎを思い出しちゃったじゃん!」
「あれは酷かったですよー!」
「ね~? 未来さん?」
その様子を見た五十嵐さんも泣いてはいたが、急に笑いだしてそう言った。
「うんうん、酷かったですよ~?」
「ええ、本当に激闘乱舞って感じ!」
「え? 大騒ぎ? 私が?」
セレスは呆気にとられた表情で皆を見上げた。
「そうなのか? あたし全然覚えてないけど?」
イーリスはキョトンとして、そう言う皆を見上げている。
「そんな事があったのですか?」
西園寺さんも彼女達を驚いて見ている。
やっぱり西園寺さん、全然気づいてないのか。
さっきまでのシュンとした空気は、セレスの出現で一気に明るくなった。
「てか、別れ? さてはハルトの覚醒が済んだって事ですか⁉」
そう言うとセレスは立ち上がって、俺と沙織さんを交互に見る。
そうか、この人も分かってたんだな。
「セレス、待たせて悪かった。もう大丈夫だ――と、思う」
俺はセレスにそう言うが、少し不安なのは隠せないでいた。
「そうか、そうか!」
「うん……」
「いつでも私の力が欲しい時は呼んでくれ!」
「あ、ありがと?」
って、どうやって呼べばいいんだか?
「で、ハルト、恵与はされたのか⁉」
「けいよ? なにそれ」
「まだなのか⁉ では私から! ルーナ、いいですよね⁉」
そう言うと、沙織さんへ振り返った。
「ええ。セリカちゃんがそう言うなら~」
「そうか⁉ ハルト、ちょっといいか?」
そう言うと、俺の両手を握った。
え?
ま、また?
先程の悠菜と同様に、何やら祝詞を唱える。
すると、セレスの身体が黄金色に光りだした。
いや、黒と金のツートンだ。
マーブル模様の光のオーラが、セレスに纏わりついている。
眩いばかりの黄金の光と漆黒の影の中で、セレスの開けた胸へ俺の手は導かれ、また鼓動が早くなる。
やっぱ、これかよ!
しかも今度は生ですよっ!
その胸は悠菜よりも大きく、弾力感を感じると更に鼓動が早くなる。
≪フリサフィサイフォス≫
その言葉の意味を頭では無く感覚として理解した。
だが、新たなスキルが俺の中に構築されたのがハッキリと分かった。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃんっ! 触り過ぎっ!」
愛美が叫んだ時、俺の手はセレスから解放されたが、いつの間にか腕輪が付いていた。
「これで汝は我を召喚する恩恵を得た」
「へ?」
「この力を欲した時、遠慮なく使ってくれ!」
召喚ったって、どう呼べばいいのよ?
そう言ったセレスは、両手で力強く俺の顔を引き寄せると、思い切りその唇を重ねた。
そして、そのセレスの舌が別の生き物の様に、俺の舌に絡みついている。
――っ⁉
同時に俺の中で何かが変化した。
例えるならかなりな量のアップデートをしている感じ。
「お、おにいちゃんっ!」
いや、俺じゃない!
これは奪われてるよな⁉
どう見てもっ⁉
「あ、ながーい……」
五十嵐さんが呆気にとられてそう言う。
「も、もう、だめーっ!」
そう、愛美が叫びながら俺をセレスから引きはがした。
「さあさあ、そろそろ行かないと~元老院さん達に小言を言われちゃう~ユーナちゃんが~」
ユーナが言われるのか?
俺は悠菜を見た。
「ごめんな、悠菜。今まで待たせちゃって」
悠菜は黙って俺を見つめていたが、ゆっくり首を横に振る。
「私は悠斗と愛美と居て楽しかった。そして、これからも二人をずっと愛してる」
その途端、愛美が悠菜に抱きつき、また泣き始めた。
「蜜柑、愛美をこれからもよろしくね」
「は、はい!」
その様子を沙織さんは優しい表情で見ていたが、ふとイーリスに目をやる。
「イーリス、後は宜しくお願いしますね? 今の悠斗くんには貴女が必要なの」
珍しく沙織さんが真剣な眼差しになり、近づくとイーリスの手を握った。
「な、なんだよ、改まって言われると気持ち悪いじゃんか! 分かってるってば!」
照れ臭そうにイーリスはその手を振り払おうとしたが、グッと沙織さんに掴まれて放す事が出来ない。
「本当に……本当に、悠斗くんを宜しくね?」
沙織さんは笑顔になってそう言うが、目は笑っていない様だ。
「わ、わかった! 分かったってばぁ~!」
「約束ですよ?」
「もう……あたしがルナの女神に逆らえる筈ないじゃん……」
そう言うとイーリスは観念した様に、手を握られたまま項垂れる。
え?
女神って言った?
「それは言い伝えですよ~? とにかく、悠斗くんを頼みましたからね?」
「もう、わかったってば……もう行っていいからさぁ」
そう言って、まるで駄々っ子の様に沙織さんの手を振りほどいた。
その様子を困惑した表情でセレスが見ていたが、こちらに気付き笑顔になる。
「では、マナミもハルトも元気でな!」
「では、皆さんもごきげんよう~」
「きっとまた会おう!」
沙織さんとセレスは笑顔でこちらを見まわすと、ダイニングから出て行った。
「二階の部屋から帰るから見送りはいい。ではまたいつか」
悠菜もそう言って、愛美に抱きつかれたまま俺達を見回す。
「悠菜ちゃん、元気でね!」
五十嵐さんが悠菜に言うと、愛美はゆっくり悠菜から離れる。
「ずっとお姉ちゃん待ってるからね! あたし、いつもお姉ちゃんの事忘れないからね!」
俺はそう言う愛美を後ろから抱くと、もう行けと悠菜に頷く。
悠菜は軽く頷き、ダイニングを出て行った。
「お姉ちゃーんっ! あたし、ずっと大好きだからねーっ!」
その愛美の声に返事は無く、部屋には愛美の鳴き声だけが聞こえていた。
「皆さん、行ってしまいましたね」
西園寺さんがポツンとそう言った。
俺はぽっかりと心に大きな穴が空いた様な感じに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「霧島君、別れとは辛いものです。気持ちはお察しします」
西園寺さんが俺を見てそう言うと、更に続けた。
「沙織さんにしてもセレスさんにしても、勿論悠菜さんにしても、皆さんと同じ位に寂しいお別れだと思います。ですが、きっと皆さんを想ってのお別れだとも感じました」
そう言って西園寺さんが笑顔で俺を見ている。
そうだよな。
沙織さんも悠菜も今まで俺の傍にずっといてくれたんだ。
「そうだね。愛美も、もう泣くなよ。帰った三人が辛くなるぞ?」
俺がそう言うと、愛美はピタッと泣きやめて呼吸を整えている。
「う、うん。そうだよね……分かった」
そう言うが、まだ呼吸が治らない。
時折しゃっくりの様に、ヒクヒクとその身を震わせていた。
「やっと行ったかー心配性だなールーナは」
イーリスがそう言いながら椅子に腰かけた。
「そう言えば、さっき変な事言って無かった? 女神とか」
さっき確かにイーリスが沙織さんに言っていた。
「んー? そう? 覚えてないや~それより、ご飯はー?」
このやろー絶対誤魔化してるだろ!
「あ、はいはい! イルちゃんこれ食べてね?」
「おおー! いただきまーす!」
そう言われると、イーリスは勧められたお好み焼きを食べ始めた。
「わっ! これ美味しいぞ! お前らも食えよー」
西園寺さんと五十嵐さんにそう言って、イーリスは夢中で食べている。
お前が仕切るなよ……。
「あ、二人も良かったら食べて?」
仕方なく俺も席に着き、二人に勧めた。
「あ、うん。ありがと」
五十嵐さんはそう言って座ったが、西園寺さんは何かを思い出した様に俺を見た。
「あの、さっきはあんな空気で言いそびれてましたけど……」
「ん? なに? どうしたの?」
「悠菜さん達、お引越しでしょう?」
「ええ、まあ」
「上のお部屋からどうやってお出かけを?」
「あ……」
しまった。
すっかり流れのままにスルーしてしまった。
愛美も気が付いた様に、目が泳ぎ始めた。
「あ、あれー? タクシーでも呼んでたかなー?」
おいおい、タクシーって……。
二階の部屋に横付けするかっ⁉
「もしかして……」
「あ……」
五十嵐さんは思いついた様な表情となって、西園寺さんと顔を見合わせた。
だが俺と愛美は言い訳も見つからず、完全にフリーズしていた。
「上って事はヘリポートがあるんですね?」
「へ?」
西園寺さんが五十嵐さんの表情を見て、思いついた様にそう言った。
「でしたら、今度からは自宅からこちらへ直接来られますね!」
まてまて、友香さんち、ヘリポートあるんですかーっ⁉
「いいな~霧島くんちも友香ちゃんちも、ヘリコプターあって~」
五十嵐さんが羨ましそうにそう言った。
いやいや、無いってば!
「あ、お、おほほほー! たまたまヘリコプターがあったみたいけど、沙織さんが乗って行っちゃったしね~もう無いのよね~」
愛美……お前、キャラ変わってるよ?
「そうでしたか~まあ、急なお出掛けでしたし……無事に新居に着けばいいですねぇ」
「そうですね! へ、ヘリコプターは揺れますからね!」
お前、ヘリ乗った事ないでしょ?
俺も無いけど。
「ねえ、霧島君! ここの温泉のお礼なのですけれど……」
「ああ、そんなの良いよ~気にしないで、いつでもおいで」
「そうじゃないの、お手伝いさんに来て貰ってもいいかしら?」
へ?
お手伝いさん?
「いやいや、そんなの俺には無理だよ!」
どう考えてもお手伝いさんを雇うなんて、今の俺には無理だった。
「お給金はこちらでお支払いしますから、どうでしょう?」
「いや、そう言って貰ってもなあ、そんな柄でもないしさ」
西園寺さんは暫く考えていたが、何かを思いついた様だ。
「それでは、私がこちらの温泉に入れて戴いた時だけ、それではどうでしょう?」
なるほど、そう来たか。
「友香さんが来た時にだけね?」
「ええ、こちらへお世話になっている時だけ」
「分かった。俺もそうして貰えると助かるよ」
「いえいえ、こちらこそ助かります!」
「いや、俺こそありがとう」
「ここの温泉は何処の温泉よりも気に入ってしまいました!」
そんなにここの温泉がいいの?
一安心した様に西園寺さんが席に腰掛ける。
「でも、そんなにここの温泉が好きなの?」
「ええ、とっても!」
「そうなの? 友香さんなら色々な温泉知っていそうなのに」
「とんでもない! こちらの温泉は特別な何かを感じます!」
そういうものか?
温泉に特別な何かなんて感じます?
「友香ちゃんがここまで言うのは珍しいかも……」
五十嵐さんが少し驚いた表情でそう言うと、西園寺さんは深く頷いた。
「ええ。ここは特別ですね」
「へ~まあ、気が向いたらいつでも来てよ。な、愛美」
「うん、お姉ちゃんが二人も居なくなって寂しいからね、みかんもそうじゃない?」
「うん!」
愛美が苦笑いでそう言うと、蜜柑は寂しさを奮い立たせるかの様に元気に返事をした。
「き、気持ち悪い……」
「きゃーっ! イーリス! どうしたの⁉」
「食べ過ぎた――」
「やだっ! しっかり! みかん、何かお薬!」
「ら、らじゃ!」
蜜柑が急いで救急箱を取りに行く。
「すぐ横になって、こっちへ!」
「し、しむ――」
イーリスは愛美に抱きかかえられ、リビングへ連れて行かれて出て行くと、その後を五十嵐さんと西園寺さんもついて行った。
「ここへ寝かせて、愛美ちゃん!」
「大丈夫⁉ どうしてそんなに食べちゃったの⁉」
はぁ、こんなんでここは大丈夫か?
沙織さんと悠菜の居ない我が家に、早速不安を感じる俺だった。
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