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第二章 抗戦

第44話 #スクルド #ウルド

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 突然目の前の空間に現れた、透明なグニャッとしたもの。

 そこから確かに声が聞こえたのだ。

「いやー! ホンマ、びっくりやわ~こんなレアキャラ見っけるとは!」

 歪んだ空間からそう言いながら、赤い髪の女の子が顔を出した。

「う、うわっ!」
「くそーハルトのせいだからな!」
「え? 何で?」
「何でもクソも無いわ! お前が急に守護を試そうとしたからだぞ!」
「ん? こっちのあんさんは、イーリスはんの……これか?」

 そう言って、赤い髪の女の子は小指を立てた。
 
 いや、それやるならここは親指でしょ?

「ば、ばっかじゃねーの⁉ そんな訳ねーし!」
「あ、慌ててるー」
「あ、慌ててねーし!」

 イーリスが赤い髪の女の子とじゃれ合っているが、いつまでも状況が掴めそうも無い。

「あのーお嬢様は、どちらの方でしょう?」
「あーこりゃ、失敬! うちはスクルド。時空管理局のもんや!」
「時空管理局? あ、ヴェルダンディさんの?」
「おー! 兄さん、うちの姉貴の知り合いやったんか⁉」

 そう言いながらスクルドは、その目を輝かせて俺に寄って来た。

「い、いや、知り合いってまあ、一度お会いしまして……」
「何や、そやったんかぁ~一度会ったんか~で、どや? 姉貴、いい女やろ?」
「え、えっ⁉ そ、そりゃ、綺麗な人でしたけど、そんな……」
「あー、ええねん、ええねん! みなまでゆーな! そんな無粋な事言わへんて~」
「え、いえ、本当に何も……」
「で、イーリスはん、ここで何やってんの~?」

 そう言うと、スクルドは悪戯っ子の様な表情で、今度はイーリスに詰め寄った。

「な、何って……あれだよ、特訓! そう、特訓だよ!」
「特訓やて?」
「こいつに戦いの特訓しないといけないんだよ!」
「なしてー?」
「そ、それは……ルーナ、そう! ルーナにどうしてもって頼まれたんだよ!」
「え? ルーナ?」
「うんうん! なっ? ハルト!」
「あ? ああ」
「って、ホンマかっ⁉」

 そう言うとスクルドは、また目を輝かせて俺に訊いてきた。

「え? ええ、まあ。別れ際、イーリスに宜しく頼みますとは言ってたな」
「ホンマかいなっ! ルーナ、ここにおったんか⁉ で、今は何処におるん⁉」

 驚いた様子で今度は俺に詰め寄る。

「あ、もう帰ったよ。エランドールへ」
「あちゃ~入れ違いか~」

 スクルドはがっくりと肩を落として、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。

「あ……思い出した。イーリス! あんさん、次元狭間にこっちの人連れておったやろ?」

 スクルドは急に立ち上がると、イーリスを指差した。

「あ……まあな」
「うちがちゃんと送り届けたからええけどな、あまり巻き込んだらあかんやないか~」
「あーそれは……ごめんよ」
「まあ、すぐに気づいたからええけどな、危ないとこやったで?」

 スクルドは腰に手を当てると、やれやれといった表情でイーリスを見た。

「ああ、悪かったよ。てか、そっちも知らない人いたよな?」
「ん? 知らない人? 何処に?」
「あんたの横に、知らない男」
「えっ⁉ 男? あーっ! せやせや! 新人の局員やで!」
「新人? そんな事あるんだ? ずっと三人でやってたじゃん」
「ま、まあ、最近は色々仕事も増えてやな……って、あんたみたいなのが仕事増やしてんやないか!」
「うっ……ごめんよぉ」
「何や、ごめんて! えらい素直になってからに……。まあ、ええわ。それより、新人紹介しとこかー?」

 そう言ってスクルドは殆ど一方的に話している。

 何だか関西弁って圧倒されるよね?

「おーい、おっちゃーん! 顔出せへんかー?」

 スクルドは歪んだ空間へ声を掛けた。

≪あ、はい! 何でしょう! ≫

「レアキャラ見せとくわ! もう二度と見れへんかも知れへんし!」

≪あ、はい! ≫

 そう言って顔を出したのは、そこらに居る、ごく普通のおじさんだった。

「こ、こんにちわ。初めまして」
「え……」

 どう見ても普通のおじさん。

 だが、よくよく見ると、俺の父さんに何だか似ている。

「あの、初めまして。新人の局員をやらせて頂いてます」
「あ、そ、そうですか。それはどーも」

 何だか妙に低姿勢な人で、つい釣られて深々と頭を下げてしまった。

「あ、悠斗です。霧島悠斗、大学一年です」
「えっ? きりしま?」

 急におじさんは驚いた様子で俺を見つめた。

「な、なにか?」
「お、お父さんは……名前は……?」
「あ、圭吾ですけど? 今は海外へ行ってますが……」
「なっ⁉ けいご⁉」
「お母さんの名前は⁉」
「え、啓子ですけど……」
「けいこ……そんな偶然……」

 おじさんは更に驚いた様子で、その場で固まってしまった。

「何や、おっちゃん知っとるんか?」
「いや、そんな筈は……だけど、名前は間違いない……」

 スクルドが不思議そうにおじさんの顔を覗き込む。

「て、あんた、泣いてんのんか⁉ ど、どないしたん⁉」
「あ、いえ……こんな事って……でも、こんなに大きくなっているなんて……」

 おじさんは顔をくしゃくしゃにして、鼻水を垂らしながら泣いていた。

 ひょっとしたらこのおじさん、父さんの良く知る、いや、血縁関係があるのかも知れない。

 脳内に表示されたこの人のログが、初めての人とは違っているのだ。

 いつ会ったのかは不明だが、確かに俺はこの人と会っている。

「も、もしかしたら、父さんの……?」

 そう言うと、おじさんは涙をとめども無く流しながらも、俺の顔を見てうんうんと頷く。

「ああ……でもついこの間生まれたばかりな……」
「え? 誰がです?」
「君だよ……悠斗……君」
「え? 俺? えーっ⁉」
「お爺ちゃんだよ……間違いない……」
「え? 父さんの?」
「い、いやいや、君のお爺ちゃんだよぉぉぉ」
「え……俺の?」

 そう言うと、更に声を出してその人は泣き出してしまった。

 そして、そのまま崩れる様にその場に座り込む。

 てか、俺に肉親であるお爺ちゃんが居るとは思わなかった。

 それもその筈、俺は異世界で生まれたんだからな。

 爺ちゃんが居る訳無い。

 いや、待てよ?

 俺の爺ちゃんって、父さんの父さんって事か!

 俺は意識して脳内のステータス情報を見た。

 霧島圭一……。

 やはりこの人は父さんの父親だ。

 だが、人間では無い。

 その魂は元は人間だったが、今は思念体から間に合わせの様な身体を使用している。

 遺伝子情報や染色体情報が、地球の人間のものとは大きく違っているのだ。

「って、ホンマかいな! 凄い偶然もあるんやな! うち、こんなんよー知らんわ!」
「この人、ハルトのお爺さん?」
「俺は会った事無い筈だけど……いや、一度人間だった時に逢ってますね? でも、父さんに良く似てる」
「兄ちゃんとは似てへんな~母ちゃん似か?」
「あ、俺は父さんとは似てる筈無いんだよ」
「え? なんでや?」
「ああ、俺はエランドールで産まれたんだ」
「な、何やてっ! ホンマかっ!」
「うわっ! あ、ああ、沙織さんからそう聞いてる」

 スクルドはガバッと俺に近寄って来るが、傍で座り込んでいたおじさんも俺を見上げると弱々しく口を開いた。

「え……?」

 スクルドは俺の両肩をガシッと掴んでいたが、急にハッとした表情をした。

「つーか沙織さんって? 誰やそれ」
「ああ、ルーナさんだよ」
「なっ……ホンマかいな……」

 座り込んでいたおじさんが、困惑した表情で俺に訊いてきた。

「ど、どう言う事だ……?」
「ああ、二つ下の妹が居るんですけど、そっちは父さんたちの本当の子供で、俺は異世界から連れて来られたんです」
「妹……そうだったのか」
「な、何か、すみません」

 何だか、喜ばせて嘘だと騙した様な、感激させてから叩き落したような、そんな気持ちになって思わず謝ってしまう。

 静岡の方言では、これをくれだましと言うらしい。

 兎に角、本当の孫だと思わせておいて、実は異世界の人間だった訳だからな。

 申し訳ない。

「いや、その妹さんは知らなかったが、生まれたばかりの君とは会っているんだよ」
「やっぱりそうなんですか?」
「ああ、君のお母さんが抱いて、私に会わせてくれたんだ。君が生まれてすぐにね」
「と、言う事は、沙織さんが俺を連れて来て直ぐって事ですね」
「ああ、そう言えばあの時、もう一人女の子を連れて来て居たが……」
「え? あ、もしかしたら、それ悠菜かな⁉」
「名前は憶えていないが、大人しい不思議な女の子だった」
「そうでしたか。その子も実は異世界の人なんです」
「そ、そうだったのか……」
「小さな子供の姿になって、ずっと俺を護ってくれていたんです」
「な……そんなことが……それにしても、俺が死んでからもうそんなに経っていたのか……」

 その時の俺は、イーリスとスクルドの存在を忘れておじさんと話し込んでいた。

 いや、おじさんは無いだろう。

 俺のお爺さんにあたる人だ。

「あの~お二人さん? ちょっとええかー?」
「あ、はい」
「まあ、積もる話もあるんやろうけどなー」

 そう言って、スクルドは俺と彼の間に割って入って来た。

「そうだな、早めに軟弱ハルトを鍛えなきゃだな!」

 イーリスも腕を組んで頷いている。

「いやいや、そうやない! ここやとええ加減、姉さんたちが感づくで?」
「うっ……ヴェルは良いとして、ウルドか?」
「そうや~? ウルド姉さんに知れたら、えらいこっちゃやで?」
「それはヤバいな……」

 イーリスとスクルドが妙に深刻な表情で向かい合っている。

 やはりこの二人に神妙な顔は似合わない。

 それだけでも何だか嫌な予感がしてきた。

 まさにその時だった。

『だ~れに知られたらヤバいの~?』

 急に歪んだ空間から声がしたのだ。

 俺達は一斉にその声のした方へ振り向いた。

 と、同時にイーリスが叫び声をあげる。

「ぎゃああああああー!」
「あちゃ~! ちゃうねん、ちゃうねん! これはイルはんがやな!」

 スクルドも慌ててイーリスの後ろへ隠れながらそう言った。

『イルはん~? 誰とこんな歪に……て、えっ⁉ イーリス⁉』
「あ、あたしじゃないじゃん! こ、こいつじゃん!」

 イーリスは俺を指差すと、背中でスクルドを押しながら後ずさる。

 が、二人は足を縺らせてしまい、折り重なる様にその場に倒れ込んでしまった。

 そしてそのまま、二人は歪んだ空間を凝視していた。

 その歪んだ空間からゆっくりと姿を現したのは、綺麗に日焼けした肌を露わにした女の人だった。

 まるで水着の様な服を着ている。

 あれ、服じゃ無いだろ?

 飾り物を外したサンバのお姉様ですか?

「あら! 本当にイーリスじゃない! こんな所で何してるの⁉」
「な、何にもしてないよ! ホントだからな!」
「ふ~ん、で、この子がヴェルダンディが話してた子かな?」

 そう言うと、その女の人は顎に手を当て、ゆっくりと俺に歩み寄って来る。 

「え? ヴェル姉さんから⁉」

 イーリスの背中に隠れたスクルドがそう聞くと、自慢げな表情でスクルドの方を振り返る。

「そりゃそーよー? あの子は何でもあたしには話してくれるからね~」

 そう言うと、ウルドは自慢げにスクルドを見下ろした。

「な、何言うてんの! うちにかてヴェル姉さんは何でも話してくれるんやで⁉」
「あら、そーおー?」

 イーリスに抱きついて床に座ったまま、スクルドはウルドに食いつくようにそう言うが、ウルドの貫禄勝ちの様に見える。

「そ、そやで! 何やの一体! どうして出て来たんや!」
「どうしてって、あたしは非番だからね~何しようと自由でしょ~?」
「うぅ……ウルドのアホー!」

 まさに姉妹喧嘩だな。

 俺は愛美と喧嘩になった事無いけど、これはこれで何か羨ましい。

 こう見えて実は仲が良いんだろうな、きっと。

「で? あんた達、何してたの?」
「う、ウルドに関係ないやん!」
「そりゃ、そうでしょうけど~? さっきその子を鍛えるとか言って無かった~?」
「きいてたんか⁉ てか、どうして非番のウルドが神殿に来てんのや!」
「そりゃ、ルーナがあんたを探してたから、わざわざ呼びに来てやったんじゃない~そしたら、あんたの大声が歪から聞こえたから覗いてみただけ~」
「う……ルーナが探してたん? そらすぐ戻らんと……」
「でしょ~? 早く行った方がいいんじゃな~い?」
「せ、せやな……じゃ、イーリス、うちら行くわ……おっちゃん、話は又時間作るさかい、堪忍な?」
「え、ええ。すみません」
「あ、ハルトはんも、よろしゅうな! ほな、急ぐでおっちゃん!」

 そう言うと、スクルドはおじさんの手を引くと、そのまま歪に飛び込んだ。

 するとその後、歪んだ空間はフッと音も無く消えてしまった。

「さーてと。あんた、イーリスを召喚して何しようっての?」
 
 ウルドは腕を組んで俺に近寄って来る。
「しょ、召喚って……」
「ヴェルダンディから聞いてるわよー? あんたが召喚したって」
「あ、あの……ですね。異星人の襲来に備えて……」
「はぁ? 異星人の襲来?」
「ええ、まあ」
「ここに? そんなのどうこう出来る訳無いじゃない」
「え、ええ、まあ、そう思います……けど、何とかしなくちゃダメなんです」
「何とかって……はぁ~イーリスも飽きれた奴に巻き込まれてるんだね~」
「まあな」
「で、その為に鍛えるとか言ってる訳~?」
「ああ」

 そう返事をすると、イーリスはバツが悪そうにそっぽを向いた。

 その様子を見ていたウルドは、今度は俺に向かって指を指した。

「元老院の話だと、あんたがエランドールに来るとか言ってたけど?」
「あ、それは出来ないんです。ここの皆を残してエランドールには行けないって言うか、行きたくなくて……」
「ふ~ん。あ、育てて貰った恩とか義理とか?」
「勿論それもありますけど、家族だけじゃ無くて、知り合った人や、知らない人でも何と無く……」

 すると、ウルドはやれやれと言った表情で手を振った。

「無理無理~あのさぁ~ここは何度もこう言う事があったんだよ?」
「え? ここで?」
「そうよ~? そうして何度もここは滅亡したの。あー何度目かなこれで……」

 そう言いながら指を折って数え始めた。

「そ、そうなんですか……」
「大体にして、ここはまだまだ未発達でしょうに。戦える訳無いじゃない」
「それでも……」
「無駄死によ? 跡形も無く消えるわよ?」
「え……」
「あんたみたいなのがこぶし上げて、どうにか出来るって思う訳?」
「でも……俺だけが助かるのは嫌だ……」

 確かに戦える術は無い。

 それでも皆を放って置けない。

「へ~。変わってるね、あんた」
「そ、そうですか? でも、ここの人達皆を置いて行けないってか、この先に起きる事を知っておきながら、放って置けないでしょ……」
「ふーん」

 そう言うとウルドは、俺の足元から頭の先までまじまじと眺めた。

「で、イーリスに次元操作させて、その隙に叩こうとしてる訳?」
「あ……そう言う事か……」
「はぁ? あんた、何も考えも無しにイーリス召喚したの?」
「ウルド、こいつは鈍感なんだよ」

 呆れるウルドに、当たり前を諭すようにイーリスがそう言い放った。

「つくづく貧乏くじを引いたもんだね、イーリスも」
「そう言うなよ……」
「これまでイーリスって、誰かに召喚された事ってあったの?」
「ない」
「でしょうね~あたしだって聞いた事もないもの」
「でもウルド、あたしはハルトを助けたいんだよ」
「へー! イーリスってそう言う所もあるんだ⁉」
「なっ! 違うっ! 一風呂一飯のだなっ!」
「ふーん。あたし何だか思い違いをしてたみたいね」

 驚いた表情でイーリスを見たが、すぐに俺の方を向き直る。

「何だかあたしも興味が出て来た……」
「そ、そう?」
「漂泊者にこれだけ言わせるんだからね。それに、ヴェルダンディーといいスクルドといい、何だか皆あんた寄りじゃない?」
「そ、そうかな?」
「それに……それ、よく見たらルーナの加護じゃない? そんなの初めて見たよ」

 ウルドは俺のネックレスを指差しながらそう言った。

「あ、これね……うん、ルーナさんに付けて貰った」

 俺は首から下げたネックレスを持って見せた。

「は? あたしが言ったのはそれじゃないんだけどな」
「え?」
「だから、言ったじゃん。ハルトは鈍感だって」
「そっか~」

 え?

 やっぱ加護って、この首輪じゃないの?

「やれやれ……こりゃ、一から教えないと……」
「そうなんだよ」
「あーははは! 大変だ~」

 呆れた感じでイーリスにそう言うウルドだったが、何だか少し楽しそうに笑った。

「でも、ここじゃ何かと具合が悪くない?」

 そう言ってウルドが辺りを見廻すと、イーリスも頷いて同意した。

「そりゃ、ここじゃマズいでしょーハルトが行き成り試そうとするから、仕方なくここに居るんだってば」
「ふーん。で、何処で特訓するつもりー?」
「そうだな~あたしは何処でもいいけど、ハルトがな~」

 そう言ってイーリスは腕を組んで考え込んだ。

「じゃあさ、ここはお姉さんに任せなさいよ! いい所案内してあげるから!」
「えーっ⁉ ウルドがーっ⁉ 大丈夫かなぁ……」
「何よそれー! スクルド何かよりずっと頼りになるわよ⁉」

 そう言ってウルドはイーリスに詰め寄った。

「まあ、ここみたいな時空歪じゃ無ければ、取り敢えずはいいけどさ」
「そうよ~ここじゃその内、エランドールに特定されるかもよ~?」
「そ、そうだよな! すぐ移動しないと!」

 イーリスにとってはスクルドを介して、エランドールに居場所が特定されるのは、かなり都合が悪い様だ。

「んじゃ、決定ね? 陣を描くからちょっと待ってよー?」

 ウルドはそう言って、床に幾つも不可解な図形を描き始めた。

 何だか沙織さんの部屋にあった奴みたいよ?

 それを線で繋ぎ始めると、辺りの雰囲気が変わり始める。

「これでよし! さー行くわよー? こっち来て、お坊ちゃん!」
「え? あ、はい!」

 そう言われて俺がその陣の端まで来ると、ウルドが俺の手を引っ張る。

 その途端、俺の脳内にあるウルドのステータス情報に、幾つかの項目が上書きされた。

 ひょっとしたら、接触する事によって更に詳しくステータスが読み取れるのかも?

「こっちだってば! ちゃんと入らなきゃ弾かれるでしょ?!」
「あーハルト、今はウルドに従った方が良いぞー」

 そう言いながら、イーリスも陣の真ん中に入り込んだ。

「よーし、レッツゴー!」

 次の瞬間、グワンと耳鳴りがして、俺は思わず目を強く瞑ってしまった。

 同時に平衡感覚を失い、自分の足元にある筈の床の感触が消えた。

 ハッと目を開けると、グニャっとした空間の中に俺は浮かんでいる。

 俺の手を握っていたウルドを見た時、フッと新鮮な空気が顔に当たるのを感じた。

「さー着いたわよ! ここでどう?」
「ここかー」

 ウルドが自信満々に言う。

 しかし、見回してみても薄暗くて、俺には周りが良く見えない。

 だが、イーリスにはここが何処なのか見当がついた様だ。

「だけど、ウルド。ここって、疑似冥界じゃん?」
「そうよー? あそこじゃ何かと面倒じゃないのー?」
「まあ、そりゃそうだろうけど……」

 そう言ってイーリスが頭を掻いた。

 だが、疑似冥界と確かに言っていた。

 冥界って⁉

 何それーっ⁉
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