突撃!門工サバゲー部!~ウクライナを救った6人のミリオタの物語 第1章「国内大会編」~

たぬ吉R&D&P

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第1章

1-34「冷凍庫」

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「冷凍庫」
 第一回戦のMVPを取った零は一躍、「サバゲー界」のアイドルとなった。門工ホームページのメールには多数のファンメールが届いた、零宛てが7割、残り3割は彗星宛てで、可偉瑠あてのものが数通だった。予選で一緒だった、ユーチューバーが1回戦後にインタビューをしてその動画を当日中にアップしていたので、学校中にもサバゲー部と零の名前は広がっていた。

 面白くない顔をして、疾風と屠龍が零に聞いた。
「零ちゃん、まさか俺らを放って、ミーハーなファンと付き合ったりせえへんよな?」
「仮に、ファンの中に習志野空挺隊のやつとか居ったら、どないすんの?」
 零は少し困った顔をして答えた。
「何言ってるんですか。そこまで私、軽くないですよ!見損なわないでくださいよ!なんだかんだでこのサバゲー部で3月半、一緒に過ごしてるんですからそんな一見さんと付き合ったりしませんよ!」

 彗星が、ノートパソコンを叩きながら、
「ちょっとちょっと零ちゃん、これ見て!はやくはやくー!」
と零を呼び寄せた。疾風と屠龍の恨めしそうで絡みつくような視線から逃げるように彗星の後ろに回り込んでモニターを覗き込んだ。
「きゃー、これなんだべなー!素敵すぎてよだれが出てしまうべー!あー、モニター越しじゃ触れないのが残念だけろー!
 彗星先輩、これなんだべか?」
「あぁ、これ?零ちゃん宛てのファンレターに添付されていた自己PR動画みたいやで!現役プロレスラーのサバゲーマーで25歳で彼女募集中やて!なかなかイケメンやん!会って話がしたいって書いてるで!」
「いやいや、彗星先輩、顔なんかどうでもいいんだべ!要は、この腹筋さ触ったときにどうピクピクするかとか指で押し込んだ時にどう押し返すかとか、ぺろぺろしたときに「はふんっ」ってかわいい声出してくれるかが男の人の価値の全てだべ!
 あー、この人大阪の人なんだべか?一回会って「さわさわ」、「すりすり」するのはありだべかなー!」
「ふーん、顔は関係ないってとこが、零ちゃんらしいな。疾風部長、屠龍副長もしっかりせんと零ちゃんを「トンビ」にさらわれてしまうで!1回戦は何の活躍も無しやってんから、2回戦はしっかりしたってや!」
彗星が疾風と屠龍にきつめの言葉をかけると、二人はうな垂れて何も言えなくなってしまった。

 そこに、隼と紫電が飛びこんできた。
「おーい、紫電の知り合いの肉屋のプレハブ冷凍庫に入らせてもらえれることになったで!今から耐寒装備と銃持って体験しに行くで!急いで用意せえよ!」
 みんなそそくさとバッグに隼が用意した電熱服やバイクの冬用の電熱グローブの改造グラブを詰め込み、肉屋にむかった。

 20坪ほどのプレハブ冷凍庫に入る前に入念に手と靴を消毒した。
肉屋の主人のアドバイスで靴は片足はコンバットブーツ、片足は倉庫で使用しているスノーブーツを試すことになった。肉屋の主人の話では
「冷凍庫の中はマイナス28度。30分もおると思考力が落ちてくる。必ず二人以上で行動すること。30分以上は滞在しないこと。あと、素手で絶対金属部分を触らん事。引っ付いてとれへんようになってしまうからな。そないなったら10分で凍傷にかかるから気をつけてくれな。
銃の試射後は必ず弾は拾って持ち帰ること。まあ、事前に川西君から2重にした60リットルのごみ袋に入れた段ボールと発泡スチロールに銃口差し込んで撃つって聞いてるからまあ、その点は心配いらんかな。」
と注意を受け、6人は揃って冷凍庫に入った。
 入ると同時にゴーグルが真っ白に曇った。ものの1分で紫電の髭と彗星のまつげが凍った。5分でコンバットブーツの足先の感覚がなくなってきた。鼻の穴の奥が痛み出した。
 歯の根が合わず、銃を構えても照準できない。全員、10分持たずに冷凍庫を飛び出した。
 
 「やっぱりあかんやろ!マイナス25度以下で作業しようと思ったら、まずは装備や。川西君、みんなを連れておいで。うちの作業服貸してあげるわ。」
と肉屋の主人が声をかけると、作業ヤードを出て行った。
 更衣室でスマホ用のリチウムイオンバッテリーを内ポケットに入れた電熱ベストと薄めのダウンジャケットに雪山登山用のジャンバーを貸してくれた。スノーブーツの中に入れる「ホッカイロ」も6人分出してくれた。電熱グラブもクラブで自分たちで用意したものとは別物のごつさだった。
 装備を入れ替えての耐寒テストと試射は予定通り30分かけて実施できた。ウエアについては「肉屋仕様」をベースに再検討することになった。銃は予想通り、5分もするとガスガンは全滅、15分で電動ガンは弾が飛ばなくなり、最終的にエアコッキングガンしか作動しないことが分かった。
 (あー、こんなに「凍(しば)れる」体験を大阪でできるとは思わなかったべ!ちょっと青森が懐かしくなってしまったべな。お母さん元気にしてるだべかな・・・)零は、故郷の母のことを思い出した。
 横にいた「飛燕」は寒さを感じないのか、ポロシャツ姿で「この環境は「ヘイヘ」はんの独断場になるか知れへんな!零ちゃん、使えるライフル用意しときや!」とアドバイスしてくれた。
 
 更衣室を出ると肉屋が喫茶コーナーにつれて行ってくれた。7月にもかかわらず、温かい飲み物がありがたかった。肉屋の話によると装備品は一人当たり15万ほどかかるということで、皆があきらめかけたとき、
 「おじさん、今日はありがとうございましたー!すっごくいい経験させてもらっちゃたんでお礼のハグー!」
と彗星が肉屋の顔をノーブラTシャツの胸に押し付けギューッと抱きしめ、肉屋の顔に胸を「すりすり」した。
 1分後、大会の日が倉庫の休みと重なっていたこともあり、門工サバゲー部は6着の装備を無料で借りられることが決まった。建前としては背中に肉屋の会社名が入っていて宣伝になるからと言うものであった。
 しかし、真っ赤になって用品の貸出しを承認した肉屋の垂れ下がった眦(まなじり)と伸びきった鼻の下を見て(グッジョブ!彗星!おっぱい万歳!)5人は思った。


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