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エクスプローラーズ

1-18「うそ、完璧な不意打ちだったのに!? あなたは何者よ!」

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※アイシャの視点となります
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 あたしの仕事は順調だった。

 その後、1ヶ月で3個のダンジョンを見つけて、そのうち2個の調査を終えている。ちゃんと休養も取ってショッピングしたり、向こうでも有名だったスポットで観光したりと充実した日々を送っていた。

 学校でも友達は出来たけれど、あくまで表向きの付き合いで放課後に遊びに行ったりはしていない。放課後は学校のライブラリーを利用している。狭い建物に本がギュウギュウに詰まっていて驚いたけれど、しっかりと整理されていて目的の本を探すのは楽だった。

 昔は日本語が苦手だったけれど、スレイヤーズとしてレベルが上がると、一緒に知力も上がるようで、理解が早くてすぐに読む事が出来た。

 今日も調べ物をして時間を過ごしている……もう、うるさいわね。ここの生徒は、せっかくこんなにも素晴らしい施設があるのに、それをあまり有効利用せずにお喋りスポットとして利用している事が多い。日本人なのに壁に貼ってある『図書館では声を出さないよう気をつけましょう』って字が読めないのかしら? まぁいいわ、今日はこのくらいにして未探索のダンジョンの調査に出かけましょう。



 その夜、ダンジョンの探索を終えたあたしは帰路についていた。夜になってしまうなんて、思ったよりも時間が掛かってしまったわ。

 今回のダンジョンはボスフロアが存在したので、能力が許す限りの威力調査となった。フロアに入ると、何故か気配を隠していようがボスは侵入者を発見するので、これまでたくさんの斥候や密偵のジョブが命を落としていた。でもあたしは祖父直伝の戦法がある。

 開幕に【煙玉】を使って視界を隠し、すぐさま【ハイド】【ティプタプ】【スメルコントロール】の隠密の御三家とも言えるスキルと魔法を使用すると【シャドウデコイ】で囮を置く。それにつられたボスの後ろから【バックアタック】を仕掛ける。B2くらいまでは、余程相性の悪い相手でなければ、それで押し通せるけれど、さすがにB3になってくると、敵の体力は高くなり、長期戦となってしまった。致命的なダメージは受けなかったが、消耗品を多く使ってしまったのは痛かったわ。

 何にせよ調査の役割は十分に果たせていると思うので、名声もしっかりと積み上がったに違いが無いわ。



 もう周りは真っ暗で、早く帰りたいのは山々だけれど、念の為、表通りを歩かずに、目立たないよう静かな住宅街を歩いている。……ふと何か気になる物を見かけた。

 一般的な家だけれども、奥に日本の歴史を感じさせるような建物が見えるわ。時代劇でよく見るKURAね? ……ちょっと、気になるわね。

 そう思うとあたしはウェストポーチから【ダンジョンレーダー】を取り出すとスイッチを押した。あ! ダンジョンだ!! しかもあのKURAからだわ。さすがあたしのシックスセンスはたいした物ね、いつもこのセンスのおかげでピンチを抜け出せたり、チャンスをゲットしたりしてきたものね。

 突然のダンジョン発見にあたしのテンションは大きく上がった。でも民家にダンジョンが現れるなんて、住人にもしもの事があったら大変ね、ここは何にも置いて、早めに調査するべきだわ。

 あたしはそう判断するとスキルを使う。肩の高さほどの塀を跳び越えると庭に侵入した。すると家の2階の窓が開く音がした。

「……!?」

 あたしは咄嗟に死角になる位置へ移動して息を潜める。周りに聞こえる虫の鳴き声よりも、鼓動の方が大きく聞こえる気がした。ここは引くべきだとセンスがささやく。ただの偶然だと思ったけれども、あたしは自分のセンスに従ってその場を離れる事にした。

 今日は既に一つのダンジョン調査を終えている、コンディションも完璧といえる程では無い。ここは明日もう一度調査に来よう。……そう心に決めた。



 再び次の日の夜、昨日よりも少し遅い時間帯なのだけれど、2階の明かりは点いている。昨日はたまたまだと思うけれど、今日はより警戒して行くわ。

 そう決心するとスキルを使って庭に侵入する。KURAの前に立つと特に鍵は掛かっていないようで扉は開いた。もちろん指紋を残すようなヘマはしないわ。グリップ力と防御力を兼ね備えたグローブを装備している。扉を閉めると暗視スキルを使った。倉庫内を見回そうとした途端に……誰かがこちらに近づいている!?

 咄嗟に近くにある大きめの家具……何の家具かは分からないけれど……の後ろに隠れ隠密スキルを使った。

 しばらく扉の前で止まっていたようだけれど、開けて入ってきた……逆光でよく見えないわね。暗視のスキルはある程度の明るさがあると逆に効果がイマイチなのよね。

 侵入者は奥に消えていった……どうする? 追うべき? それとも離れるべきかしら?


 センスに従っていったんKURAを出る事にした。そのままKURAの屋根に上がると再び気配を消す。

 侵入者は迷わずダンジョンに入っていった。あたし以外に未発見ダンジョンを調査しているスレイヤーズについては聞いていない。でも今日はギルドには寄っていないから絶対ではない。あたしが戦っても敵わないような、例えばCランク以上のスレイヤーズが動いているのならば嫌でも噂が出てくるわ……そして、そんな噂は聞いていない。

 フリーランサー、あるいは他勢力の同業者でも、良くてあたしと同ランクまでの可能性ならありえるわね……そうね、後者だわ、あたしのセンスがそう囁いている。その線で行きましょう。

 フリーランサーならば何も考えずにダンジョンに入っている可能性もあるから、住人と鉢合わせして変なトラブルがあるとマズいわ。

 同業者だとしたら、住人の危険を考えて迅速にダンジョン攻略を出来る人材を送ってくれるのならば、そこに任せても良いけれど、あたしの知る限りでは、そんなギルドはウチ以外無いだろう。最悪ギルド同士の関係が悪化しようが、ここは譲るべきではないわ。

 心は決まったわ、このまま待ち伏せして不意打ちをする。完全に気配を消して、頭上からの不意打ちを躱すなんて、あたしだって無理だ。【バックアタック】【アジャストメント】のスキルでうまくダメージを調節、気を失わせてから、持ち物から身元を調べる……こんな所かしら?

 あたしは作戦を決めると、戦う決意をする。不意打ちなら同ランクだろうと、たとえCランク成り立てくらいの相手なら倒せるはずよ。絶対に負けない。侵入者がいつ出てくるか分からないが、あたしは意地でも出てくるのを待つつもりだ。

 あたしの決意とは裏腹に、すぐにKURAの中に気配を感じる……もう出てきたのね。早くKURAから出てきなさい……そしてその顔を拝んであげるわ。

 侵入者がKURAから出るまでの時間を長く感じる。そして頭が見えた瞬間にあたしはそれに飛びかかった!! 武器は【金剛石のナイフ】堅さならピカイチの武器よ。

 本来あたしのレベルでは使用不可能で、使いこなせないはずなのだけれど、ある裏技で使っているので、あたしにはレベル不相応の攻撃力がある。そんじょそこらの武器ならば破壊してしまうだろう。取った!! 勝利を確信したあたしは信じられない物を見た。

 KURAから出た相手はボーッとしていたかと思ったら、突然こちらに振り返り、いつの間に手にした長剣であたしのナイフを撃ち払ったのだ! 勢いで間合いが離れた。

「うそ、完璧な不意打ちだったのに!? あなたは何者よ!」

 思わず口に出る、相手の剣は金剛石より硬いとは思えないけれど、刃毀れ一つしていない、余程うまく攻撃を往なしたのだろう……これは最悪の可能性が出た。フリーランサーであたしより強い相手だ。

「……通りすがりの探索者だ」



 ……その男は静かに返事をした。一見普通の男子高校生くらいの年齢、凜々しい眉毛に少しワイルドな目つき、ちょっといいかも? いや、でも、その格好はまるで「ちょっとコンビニにスィーツ買ってくるわ」とでも言えてしまうような、地味なTシャツにGパン、靴は……なんで学校の上履きを履いているのよ!! ってツッコミを入れたくなるような格好をしていた。

 でも、だからこそ、そんな格好でダンジョンに入るなんて、絶対に只者では無い。この後、戦いであたしは負けるかもしれないけれど、少しの可能性にかけて情報を集めないと!?

「同業者って訳ね、でもここはあたしが先に目をつけていた場所よ……後から来て横取りなんてずいぶんじゃない?」

 とりあえず、フリーランサー相手にダンジョン所有権なんて無いけれど、それなら何か違うリアクションをするのじゃ無いか? それにしても表情が読めない、何を考えているの?

「……目をつけたと言うだけなら簡単だ、昨日今日の発見で所有権を主張されてもな? 俺は大分前からここの探索を開始している」

「えっ? そうなの!? ……くっ、確かにあたしが見つけたのは昨日よ」

 しまった、思わず答えてしまった……でも確かにギルドに報告していなければ、ギルド管理のダンジョンというわけでも無いから、相手の行動を制限できるわけでは無いわ。

「それに、このダンジョンは俺が消滅させた」

「え? うそ!? こんな短期間に!?」

 その男は信じられない事を言った。だけれどあたしのセンスが囁くので、思わずポーチから【ダンジョンレーダー】を取り出して確認してみると……

「確かに反応が消えている」


 ……一体、何が起こっているというの? あたしは夢でも見ている気分になった。



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