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エクスプローラーズ

1-19「え? 斥候女って、どういう意味?」

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※アイシャの視点となります
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 あたしが信じられないような事態に直面して戸惑っていると……

「……どうせなら中を見て確認してみたらどうだ?」

 どうでもよさそうな口調で手に持っていた剣をどこかに消した……消した!? 今のはまさか!?

「えっ、空間魔法!? ……分かったわ、どうやらあなたの方が、上級のスレイヤーズみたいね」

 私は完全に敗北を悟った、きっと彼はさっきの攻撃の事も、目の前にあったダンジョンも大したことでは無いと考えているのだろう。こんなに簡単にダンジョンを消す事ができるなんて……あたしの生殺与奪なんか、簡単に握る事が出来るから、警戒する必要も無いのだ。

「さあな……」

 物静かに語る。そうね、せっかくだから確認して見ましょうかしら? お言葉に甘えて暗視スキルを使いながら、KURAの奥へ向かうと、ダンジョンらしきものは何も発見できなかった。レーダーで確認していたのに、驚きを隠せない。KURAから出ると、先ほどと一歩も違えない場所に彼は立っていた。

「確かに消えているわ……ダンジョンを消滅できるなんて、世界でもトップクラスよ?」

 すこしでも彼の事を知りたいと思って、問いかけてみるけれど……

「……きっと他より階層の浅い、ダンジョンだったのだろう」

 なんて、返ってきたのはつれない答えだ。これがジャパニーズ謙虚というのね。

「そう、初めて会った同業者に、与える情報なんて無いって訳ね。当然ね」

 あたしだって同じ立場なら簡単に情報を与えないもの、むしろこの状況を楽しんでしまいましょう。他に何か聞いてみたい事あったっけ? ダンジョンを消せる人なんて、あたしは祖父以外に会った事が無いわ、えーと……そうだ!

「もしかして、ダンジョンを消滅させた時に、発現するエナジーを手に入れたって訳?」

 たしか、ダンジョンを消すと強力なエナジーを手に入れて、大いなる力を行使できるとか? 90歳を超えてもスレイヤーズとして活動していた祖父は、そのエナジーを使って、若返ったからだと聞いた事があるわ。

「……見せる必要があるのか?」

 相変わらず返ってきた答えは素っ気ない。とりつく島も無いわ。それにしても私なんでこんなに一生懸命なのかしら? でも、あまりしつこいと嫌われてしまいそう……ここら辺が潮時かしら?

「つれないのね……わかったわ、大人しく引き上げるわよ」

 私は肩をすくめてみせると、彼の隣を歩いて通り過ぎる、でもこのままは寂しいから、有名探偵に肖って、去り際に自己紹介でもしてみましょうか?

「あたしはアイシャ、斥候のジョブよ……最近、日本のダンジョン発現数が上がっているから、ギルドの命令でこっちに来たの……貴方とはいつか一緒に仕事をしたいわね」

「ナタクとでも呼べ……戦士のジョブだ……次に会う保証は無いがな」

 クールに答える彼……ナタク。日本人に見えるけれど本名では無いわよね。空間魔法を使っているのに戦士、でも彼の剣技は確かに戦士のそれだわ……一体いくつ秘密を持っているの?

 ギルドであったチャラい戦士とは大違いね。いいわ、今日の所はそれで我慢してあげるわ。

「最後まで秘密主義なのね……戦士が魔法を使えるなんて聞いた事無いわよ。それに名前もナタク? コードネームかしら? でも良い響きね、気に入ったわ……じゃあね」

 最初、彼と対峙していた時は、死の覚悟に近い感情を抱いていたのに、今は打って変わってご機嫌だわ。気配を消して彼を追いかけていきたいけれど、もしもバレて嫌われるのは絶対に嫌だから、大人しくまっすぐ帰るわ……じゃあね、ナタク。

 あたしはご機嫌のまま、ギルドで昨日のダンジョン探索の報告書を提出して、そのままホームに帰ってゆっくり休んだ。



 次の日、しつこく言い寄ってくる隣のクラスメイトから逃げて、図書室で次のダンジョンがありそうなスポットを調べる事にした。相変わらず本を読む生徒より、お喋りをしている生徒の方が多いとは嘆かわしいわね。

「……これは拙者の右手が疼く展開に、なりそうでござるな!!」

 さっきまで申し訳程度に、こそこそ声で喋っていた……中央から離れた窓際の席で話している男女……女子の方が大きな声で喋っている。相手の男子が慌てて止めている。

 二人はカップルなのかしら? 二人ともぽっちゃりしていて、ちょっと可愛いわね、ポチャップルね。

 再び郷土資料に目を戻したのだけれど、ポチャップルは何だかオーバーヒートして、内容は良く聞こえないものの、周りよりも明らかに声が大きい。1年生みたいだけれど、ここは先輩として注意しないといけないかしら?

「ちょっと、図書館では静かにしてよ、ゆっくり読書をできないでしょ」

 少し厳しめの声で注意すると、男の子が……

「あ、金髪斥候女だお……はっ!?」

「え? 斥候女って、どういう意味?」

 聞き捨てならない言葉を吐いた。思わず聞き返したけれども、頭は混乱していた……が、すぐに集中のスキルで思考を巡らせる……あたしと斥候という言葉を結びつけられる物は学校には何も無いはずだ。

 この学校にギルドの構成員は何人かいるが、あたしが斥候だと知っている人間はギルド上層部と、名前は忘れたけれどチャラい戦士。チャラい戦士があたしの情報をただの高校生に伝えるのも考えにくい。腐ってもEランクになれる人間がする事では無い。

 とにかくこの子からしっかり事情を聞いておかなきゃね。

 「き、今日の美術の時間に見た石膏のモチーフに似ていたんだお、騒いでごめんなさいだお」

 うまい説明をしたと言う顔が丸わかりだが、全然うまく説明できていないわよ。

「白い石膏像で金髪なのはおかしいでしょ」

「はっ、しまったんだお!」

 その子は慌てて焦りだした……なんか変な言葉遣いね?でもそれはこの際置いておいて、間を置かずに問い詰めないと。

 「ねぇ、斥候ってどういうこと? 何を知っているの?」

「し、しらないんだお、学園のカースト最下位にいる僕が、金髪の美人と人生の道が交わる事は一生無いんだお」

 おかしな事を言ってごまかそうとしているのかしら、そうはいかないわ!

「あなた……」

 キーンコーンカーンコーン……

「真田殿、昼休みが終わるでござる、早く教室に戻らねば」

 会話に参加してこなかった女の子が、こちらも変な言葉遣いで割り込こんだ。これってNINJA? それともSAMURAI?

「そ、そうなんだお、今日一番の楽しみな保健体育の授業があるんだお!! それでは失礼するお」

「ちょ、ちょっと……」

 二人はぽっちゃりとした体格とは裏腹に、素早い動きで図書館を出て行ってしまった。教室や廊下で走ったら駄目じゃない!! じゃなくて逃げられた!!

 でも、斥候のジョブを持つあたしはある程度の距離なら追跡を出来るスキルを持っているわ。既に二人のマーカーが頭の中に存在している。密偵の方がより大人数で長い距離を調べられるのだけれど、学校内ならあたしの能力でも十分ね。……逃がさないわよ!!



 放課後、女の子の方を先に補足したのだけれど、なんだかこちらに気付いている? まさか無いわよね? たまに何かを確認するように止まったり戻ったりを繰り返している。あたしは警戒してその度に【ハイド】のスキルで気配を消した。

 しばらくすると校舎の外れ……確か特殊教室棟の方かしら? で男の子と合流したようだ。どうしようかしら、近づいても大丈夫か、万が一こちらを察知できるのなら逃げられそう? そうなったら力業で追いかけて、その勢いでの対応になってしまうわね。

 まだ、本当に偶然という可能性があるうちは、強引な接触は避けた方が良いわ。とりあえず二人が下校する時にそうね……男の子の方を尾行してみて、身元の方を確認しておこうかしら? 住んでいる場所からギルドで確認は出来ると思うし。


 なんて思っていたのだけれど、二人は校外に出ても別れる事が無かった、もう、あたしは真剣なのに、むこうはお気楽に放課後デートなんて何だか腹が立つわね。

 でも街に出たのなら、あたしの方が有利なはずよ。もしも場所を察知できるスキルを持つのなら、この人混みで、あたし自身を認識できないはず。逆にあたしの方は人混みの中でもあなた達を補足できるのよ。斥候の力をなめないでよね!


 二人は駅に向かって歩いていると、今時珍しい物理的な……巨大な電子ペーパーで出来た……掲示板に何かを書き込んでいる。書き終えると二人は満足そうに駅ビルの方へ歩き出していく。駅ビル内なら多少距離があっても追う事は出来るだろう。あたしはセンスに従って掲示板を見に行く事にした。そこには……

『XYZ プライムスクェアビル5F 唯一のカッフェで待つ スレイヤーズの斥候さんへ』

 やってくれるわね、あたしが追いかけてきている事を承知で……これを見る事前提で誘ってきたわね。一見ただのいたずら書きにしか見えない内容を堂々と書き込んで行くなんて。いいわ、誘いに乗ってあげる、ポチャップルちゃん達!! ……でも最初のアルファベットの意味が分からないわ。あとスクウェアビルよ。


 そしてあたしは、駅ビルの5Fにエスカレーターで登ってゆき、案内MAPを見てカフェらしい場所を発見、さっそく店に入った。……さぁ、いよいよご対面ね。


「お帰りなさいませ、お嬢様☆」



 ……え?



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