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第七章 アーリャ十歳になりました

27本目

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 この高級ブドウで貴族社会の美食ブームに殴り込むのも悪くは無いけれど、そのまま出すのも芸が無いよね?
 まぁ、ある程度の需要は見込めるからそれもやるけど、やはりここはスィーツでしょう?

 わたしが今見上げているのは砂糖楓と呼ばれる木だ。そう、いわゆるメープルシロップが作れる楓の木なの。この木の樹液から出るメープルウォーターを煮詰めると現代世界でもお馴染みのシロップが出来上がるのです。

 本来は砂糖楓から取れる量や、そもそも樹液が取れる季節シーズンなど色々な制約があるからこそシロップは高いんだけど、わたしの優秀チートジョブである『木』なら……目の前の楓の木に蛇口が生えてくると、そこからトローリと既にシロップ状態の樹液が落ちてくる……あっという間に沢山のシロップが手に入るんだよ!!

 それを木製の桶に溜まったそれをペロリとなめる……

「あまぁーーーーーいっっ!!」

 ……大・成・功!!

「狡いぞアーリャ、俺にも味見させろ!!」

「僕もアーリャの頑張りの成果を確認するのもやぶさかではありません」

 二人は甘いシロップに夢中で、もはや木に生えている蛇口にツッコミすら無いよ。お子様は仕方がないよね?

「これは甘いですね……病み付きになりそうです」

「あぁ……お嬢の専属になれて良かった……」

 ……大人でも甘い物が好きな人は好きだよね?


 他にも色々農園では育てているので、今回の目的に必要な物は揃ったはず……今わたしが目指しているのは王都で開催される『美食の祭典・甘味部門』だ。

 審査には王族が来るという話を入手している……もちろん今回も第二王子様まーくんが来てくれるか分からないけれど、王族に私の存在をアピールする事は出来ると思うんだよ。
 幸いにして心強い後ろ盾もあるから、生半可な貴族からの妨害も受ける可能性は低い……はず。

 もちろん今までも様々なイベントにチャレンジしていたけど、残念ながら殆ど空振りに終わっていたの……でも今度こそは行ける気がするよ。
 人目を気にせずやりたい放題の農園も上手く稼働出来るし、ここからがわたしの本領発揮だからね!!

 それじゃあ今日の所は必要な物を持ち帰る事にしましょう!


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 問題は、前世の私が特別にお料理が得意というわけでは無かった事……作り方とかは一応覚えてはいるけれど、それを上手く作れるかは別問題。
 うちのお店でも料理人を雇っているけど、貴族に振る舞う洗練された料理となると難しいと思う。
 でもそこはお偉い貴族様にコネがあるわたしなら問題は無い……持つべき物は偉いお友達だよ。

 ……と言う事で、今日はドロシーお嬢様がお料理の講師の方を寄越してくれるみたいなんだけど一体どんな人が来るんだろう?

 前世はともかく、この世界だと料理人はまず男性が多い……料理の世界は女性はキッチンに入るべからず!! なんて事は無いだろうけど……

「お嬢、来ましたよ」

「あ、うん、行くね」

 どんな人だろう? 出来れば優しくて穏やかな落ち着いた大人な人が良いな。


「なんだその不本意そうな顔は」

 目の前にいる執事服の男性の方こそが不機嫌そうな声を出す……数分前にわたしが願ったのと真逆の人来ちゃった!!

「い、いえ……なんで陰険執事が? チェンジお願いしますまさかドロシー様専属の方が来られるなんて

「なんだその建前だけど本音は違うような喋り方は?」

「気のせいでしてよオホホホホ」

 出会ったときには既に成人していて、わたしやドロシーお嬢様よりも年上の執事のクライフ。
 うちの従業員の間ではあの冷たい目がクールで格好いいと評判なのだが、最悪の出会いを経ているわたしにとってはただ冷たいだけの陰険執事だ。

 うう~いやだ、またクライフから厳しい指導を受けるのか……一応、マリナが一緒に習うという事で、少しは容赦してくれると良いな。
 クライフはシャイなので初対面の人の前だとあまり自分を出さない。

「それじゃクライフさん、キッチンへ案内します」

「……頼む」

 ほら、シャイだ……この感じを最初からわたしに出して欲しかったよ本当に。

「なにニヤニヤしてるんだ」

「いいえ、していません」

 あ、機嫌が悪くなった……まずいよ、虐められる予感。



 ……これは何としてでも早く理想のスィーツを完成させないと!!
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