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第九章 仕切り直し

36本目

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 農園に入ったわたしはさっそくお菓子職人さん達がいる建物に入っていった。ここではわたしが作る素材に関しては使い放題で、いかにお菓子を美味しく作るかを試行錯誤して貰っている施設なの。
 一般的なお菓子職人さん達は通常のお仕事の合間に自分オリジナルのお菓子を作る訳だけど使える材料や時間などに制限がある。

 でもここではわたしが出資者スポンサーとなって日夜美味しいスィーツを作るだけに集中出来る環境を作っているのだ。

 お給料も食事も出るし、もちろん根を詰めないように休日も入れている。あ、この世界で休日がある仕事なんて殆ど無いんだって。前世から考えるとあり得ないよね?

「こんにちわビーンさん、良い感じのは出来ましたか?」

「あ、これはお嬢様!? この素材は凄いです!! 言われたとおりに作った物も十分美味しいのですが、配合や時間を変えるとまた味が違って奥深い……こんなとんでもなく極上の素材を贅沢に使って試行錯誤出来るなんて、ここは最高の職場ですよ!!」

 コンテストで出会ったビーンさんはコンテストに出るために無断欠勤しちゃったみたい。そもそも仲の悪い料理人に啖呵を切って出てきちゃったせいで、プライドもあって職場に戻り辛くて、わたしのスカウトに喜んで応じてくれたのだ。
 あ、元の職場にはちゃんと退職を願い出たみたいなので悪い事は無いよ?

 さすがに雇い主となったわたしには出会った頃と違って丁寧な口調で接してくれるようになった。他の人の目もあるのでそのままにしてもらっているの。

「お菓子を馬鹿にする元同僚さんを見返すために頑張りましょうね」

「はい、もちろんですお嬢様、それではさっそく試食をお願いします。まず甘いヤツから……この5つが特に良い出来だと思います」

 ビーンさんが5つの白い小皿を出してくると、その上にはいくつかの焦げ茶色の何かが載っかっていた。

 そう、甘いお菓子と言えばまずナンバーワンに上がる『チョコレート』 (異論は認めます)
 お菓子職人も夢中にさせるその素材のポテンシャルは計り知れないのです!!

「それじゃあ、さっそく試してみますね」

 わたしはそのうち一つを口に入れると……スッととろける甘さに僅かな苦み。しつこくない甘さはついついふたつ目みっつ目を口に入れてしまいそうなほどの魔力を感じちゃう。

「美味しいですね、わたしが教えたものよりずっと美味しくなっています。さすが本物のお菓子職人さんですね」

「ありがとうございます、ですが、これだけの環境を与えられて結果を出せない筈がありませんよ」

 謙遜するビーンさ。でも、実際にわたしなんて何回も作り方を変えて美味しくするなんて無理だよ。
 わたしは素材を用意するのが精一杯なので今後もよろしくお願いしますね。

 カカオの樹は本来は熱い所で育つ植物で、実を付ける確率がとても低いから、沢山育てて収穫するんだけど、わたしは例の如くギフトジョブの力で大量に収穫している。

 しかもカカオの実カカオポッドから豆を収穫して発酵、乾燥までを一気にショートカットしているので時間いらずなのです。
 本当は焙煎の工程も飛ばせるんだけど、ここは職人さんに色々試行錯誤して美味しくなる工程を研究して貰っているんだ。

 こうやって、ある程度は時間を短縮した状態の豆を色々な方法でチョコレートにして貰っているので、豆から作るよりは楽になっている……はずだよ。

 今、作ってもらっているのは3種類。そのまま食べても美味しい物で、子供も喜ぶ甘いのと、大人も喜ぶ甘さ控えめのもの……そして他のスィーツに利用出来る調理用のチョコレートだ。

「わたしは2番、4番、5番がいいかな?」

「私は2番、3番、4番ですね」

「俺は1番、2番、5番だな」

「僕は1番、2番、5番が良いかと」

「俺は2番が良いと思っていました……これは全員一致で2番でしょうかね?」

 ビーンさんも美味しいと思っているものを決めていたみたい。
 焙煎の条件を教えて貰えれば、カカオリカーやココアバターの状態まで一気にショートカット出来るようになるので、更なる時間短縮が可能だよ!



 ……良い感じだね、この調子で一番美味しいものをどんどん作っていくんだから!!
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